オッサンは採取依頼を受ける
受付嬢であるユキミ25歳独身は内心戸惑っていた。
冒険者になろうとするものは自分の力に過剰な自信を持つ粗暴な者が多い。
もしくは農村の出で、自らの食い扶持を稼ぐために出てきた年若いもの。
過去に傭兵等の荒事を生業とするもケガ等の理由で引退し、それでも生きて行くために細々と依頼を受けるもの。
目の前の人は全て当てはまらなかった。
見るからにオッサン。
どこかオドオドしていて、今までよく生きてこれたなと逆に感心するほどの弱さが見える。
身なりは悪くなく、どこにでもある服を着ているのでお金に困っている風でもなさそうだ。
黒い髪と黒い瞳、すこしダラシない身体つき。
身体は少々太いが荒事に向きそうにないか細さが見れた。
そのくせさっきから私の胸をチラチラ、チラチラ、チラチラと……あ、また見やがった……
オッサンは気が付かなかった。知らぬ間に受付嬢のヘイト値グングン上がっていることに。
オッサンの登録証が無事に発行され、オッサンは冒険者になった。それと同時に受付嬢は視姦から開放された。
「さっそく何か依頼を受けられますか?」
本当であればこのオッサンから一秒でも早く開放されたい受付嬢であったが、彼女はプロであった。
「……あ、あの、薬草の採取とか……あ、ありますか?」
「薬草採取ですか?ありますよ。こちらは常時依頼ですので特別依頼を受けなくても大丈夫です」
「……は、はい」
「もう、あなたも冒険者ギルドの一員ですので言わせて貰いますが、もう少しテンポよく会話出来ませんか?」
普段からハキハキと物を喋る彼女にはオッサンの吃りが我慢できなかったらしい。いつでも持つものは持たないものの気持ちが分からないものだ。
「……は、はい。努力します」
オッサン得意のセリフである。学生時代から自身に足りていないものが多すぎたために現状をスルーするために使い始めた言葉の一つである。ちなみに今まで本当に努力した事はない。政治家か。
「はぁ、もういいです。薬草は十束単位で受け付けてますから、気を付けて行ってきてください」
「……あ、ありがとうございました」
ペコリと小さく頭を下げてオッサンはギルドを後にした。
ちなみに、飲食スペースに居た冒険者達はオッサンの余りの弱々しさに通過儀礼である先輩冒険者が新人にイチャモン付けて可愛がるというテンプレを行う踏ん切りが付かないでいたのは内緒の話である。