オッサンは冒険者ギルドに行く
言いたいことも言えない小心者日本人のオッサンも無事に街に入ることが出来た。
割り込んできた冒険者の大男だが、衛兵の話だと彼は粗暴で度々面倒事を起こすことがある危険人物らしい。
やはり自分の危険察知能力は大したものだと変な自信を持つオッサンだった。
衛兵に冒険者ギルドの場所を聞き、ギルドに向かって今は街を歩いている。
町並みはテンプレ通り、中世ヨーロッパを思わせるレンガや石を組んで建てられた建物が多く、技術的なものなのか透明度の全くない窓ガラスや木枠を組んだだけの窓なんかが見える。
足元には石畳が轢かれては居るが、馬車の轍だろうか、その部分が窪んでいた。
道幅は広く、三車線道路並の広さがある。馬車の離合もスムーズに行われるだろう。
道を真っ直ぐ行った先には少し小高い丘になっていて、その丘の上に城のような屋敷が建てられている。多分アレがこの街を収めている領主か貴族の屋敷なのだろう。
そんななんの確証も情報もないまま好き勝手な事を考えながらオッサンは途中の屋台で購入した串肉を頬張りながら冒険者ギルドを目指す。
門と小高い丘との中間地点は広場になっていて、一層の賑わいを見せている。その賑わいを見せている場所に冒険者ギルドはあった。
盾に直剣を打ち付けたような看板が掲げられた建物。三階建の石造りの建物。中世ヨーロッパ風の町並みなのになぜかウェスタンドア。
オッサンは恐る恐るウェスタンドアを押し入る。
入って正面には受付カウンターが並び、右手の壁には掲示板があり、メモ用紙のようなものが貼り付けられ、左手は広めにスペースが取られて飲食が出来るようになってた。
オッサンが入った瞬間、左側から複数の視線が浴びせられた。オッサンは人の視線に敏感なのだ。
しかしここで怯んでも居られない。オッサンは勇気を振り絞って目の前のカウンターへ向けて歩き出す。
「いらっしゃいませ。冒険者ギルドへようこそ。ご依頼の申し込みですか?」
カウンターに座る見た目二十代半ば程の女性が見事な口上と共に光り輝くようなスマイルをオッサンに浴びせかける。
オッサンにはその笑顔が眩しすぎた。そしてさり気なくオッサンは依頼を申し込みに来た依頼者と思われていた。
「あ、あの、ぼ、冒険者になりたいんですが……」
オッサンは勇気を振り絞って要件を伝える。
世界展開しているハンバーガーショップで注文するときでもここまでスムーズに要件を言えたことが無かったオッサン。
オッサンの高レベルなステータスはオッサンに勇気を与えたのか?いや、違う。たまたまだ。
「え……?冒険者登録ですが……?」
「……はい」
「過去に傭兵とかなされていたのですか?」
「……いいえ」
「本気ですか?」
「……はい」
「では、こちらの登録用紙にご記入をお願いします。代筆は必要ですか?」
「……大丈夫です」
受付嬢はプロであった。見るからに怪しい、使えなさそうなオッサンにも普段と変わらない対応をみせた。
ちなみに、オッサンがここに来るまでに町中を歩いて見ていた限り、この世界で使用されていた言語は何故か日本語だった。
オッサンが記入するように渡された用紙も日本語で書かれていたので大丈夫だろうとオッサンは日本語で登録用紙の項目を埋めていった。
記入するのは名前、年齢、出身地、得意武器、魔法の有無である。但し書きがあり、記入したくない場合は空白でもOKらしい。最悪、名前だけで登録出来るようだ。
オッサンは名前と年齢だけ記入し、あとは空白で提出した。
「得意武器や魔法の有無は空白ですがよろしいですか?こちらが記入されていると優先的に依頼をお願いしたり出来ますが?」
「……大丈夫です」
「わかりました。それではこれで登録処理を行います。登録証を作成するのに少々お時間がかかりますので、その間に当ギルドの説明をさせていただきます」
「……はい……お願いします」
受付嬢の説明を要約すると、
冒険者はランクと呼ばれるもので区別される。
最初はランクGから始まり、F、E、D、C、B、A、S、SS、SSSとランクが上がっていく。
冒険者は依頼を成功させる度にギルドポイントが授与されポイントが一定数超えるとランクアップとなる。
但し、Dランクからはギルドポイント以外にもランクアップの為の試験が必要になる。
現状、最高ランクはSが数人でそれ以上の冒険者は存在しない。
受付嬢は細やかに説明をしてくれたのだが、オッサンは気付かれないように受付嬢の胸をチラチラと見ていた。女性はその手の視線には非常に敏感な事も知らずに。