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オッサンは安全第一が好きだ

 場所は変わらず大平原。オッサンは項垂れたままだ。

 人間、困難な状況に陥った時に、状況を打破するために動き出す人間と思考停止する人間に別れる。もちろんオッサンは後者(・・)だ。

 だが、このままで状況が変わらないことをオッサンは知っている。これでも世間一般からオッサンと呼ばれるお年頃。若造とは違うのだ。

 オッサンは歩き出す。ソフトボール程の水晶がはめられた杖が倒れた方向に。


 ゲームの世界では空腹というパラメーターがあり、この数値が下がると行動を起こすためのスタミナが減っていき、スタミナが尽きると行動にマイナス制限がかかる。

 要は走れなくなり、歩いても牛歩の如くゆっくりとしたスピードになってしまう。

 しかし、オッサンはゲーム時代に大量に大人買いした食料をアイテムボックスに常備していたのでそれらを使いながら変わらぬスピードで歩いていた。走れない訳ではない。あえて歩くのだ。

 それは何故か?歩けど歩けど変わらない景色に嫌気が刺したオッサンは走り始めたのだが、ゲーム時代に上げたステータスの恩恵でオッサンが思っていた以上のスピード、オッサンが処理しきれない程のスピードで走ることが出来たのだ。チョロっと出るほどに。何がとは言わないが残尿が気になるお年頃なのだ。


 車やバイクに乗っている時、一般道で出す六十キロと高速道路で出す六十キロは同じ速度だが体感が違う。場所は大平原。普通なら大丈夫だと思うが、オッサンの出した速度が違う。

 オッサンにスピードメーターなど付いていないので正確な速度は分からないが、オッサンの涙が耳の中に入ってくるほどの速度なので二百キロ以上は出ていただろう。

 法律上禁止されているが、高速道路を二百キロで走ったとすれば殆どの人が尻込みすることだろう。特にオッサンは運動が苦手で反射神経なにそれ?美味しいの?レベルだ。

 閑話休題


 安全第一。

 オッサンはこの言葉が大好きだ。どんな作業でも安全より優先される工程はない。

 だからオッサンは歩く。転んで怪我でもしたら一大事だ。オッサンには回復魔法や各種回復ポーションがあるのだが、オッサンは安全第一なのだ。痛いのは嫌なのだ。


 オッサンは歩きながら視界の端にうっすらと表示されるマップを見ていた。

 ゲーム時代から見慣れている表示だ。

 マップには敵勢を示す赤いマーカー、味方を示す青いマーカー、中立の黄色いマーカーがある。

 だが、オッサンの周りには赤いマーカーしかない。

 当然だ。ここは大平原。詳しい場所までは分からないがゲーム時代は城や街、村以外には魔物が徘徊している。

 そしてオッサンは歩みを止めた。



「どうしよう」



 普通に考えれば高レベルのオッサンはどうとでもなるのだが、オッサンは気が付かない。

 精神的に追いつめられた時、気を紛らわすためにポケットの中を弄ったり、身体を触ったりする癖がオッサンにはあった。

 そして少し冷静になったオッサンはアイテムボックスにこの状況を打破するアイテムを見つける。


 帰還スクロール


 広大なマップを持つFINAL QUESTの移動手段の一つである。いや、むしろ移動というよりは名前の通り、帰る為のアイテムであるが……

 エリア分けされているマップ内にある街へテレポートさせてくれる。

 起動には数秒かかるのと、戦闘中は使用できない制限はあるのだが、初期の段階から高レベルプレイヤーまで幅広い層がお世話になっているアイテムである。


 オッサンは見つけると同時に帰還スクロールを取り出す。

 アイコンでしか表示されなかったアイテムが質量を持ち、オッサンの両手に収まる。

 スクロールだけに巻物だ。


 使い方なんて分からなかったが、とりあえずスクロールを広げてみる。するとオッサンの足元に幾何学模様の魔法陣が金色に輝き始めた。


「おぉ!」


 初めて起動させるアイテム。しかも魔法陣。オッサンのテンションが上がり始める。いい年したオッサンが魔法陣でションテンがりあー状態だ。

 足元の魔法陣がゆっくりと回転を始め、徐々にスピードが上がっていく。

 テンションMAXのオッサンは別に言わなくてもいいセリフを叫んだ。



「帰還スクロォォォォォォル!!」



 そしてオッサンは光の粒子となってその場から消えた。

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