オッサンはゲームの世界に転移した
オッサンは途方に暮れていた。
頬を撫でる風。見渡すかぎりの大平原。
確か、数分前の自分は風呂から上がってビール片手に長年楽しんでいるゲームを起動させ、Enterボタンを軽やかにイイ音を出して押した所までは覚えている。
オッサンは考えた。
Enterボタンを押すと同時にどこかの組織の暗殺者的な奴らの襲撃に会い、麻酔銃か睡眠薬的なもので眠らされ、拉致されサバンナ的な大平原に置き去りにされたのではないか?と。
ただ、オッサンはどこにでもいるリストラから派遣社員にジョブチェンジした普通の、いや普通以下のオッサンなのでどこかの組織に狙われるような人間ではないのでオッサンの考察は成り立たない。
オッサンは考えた。
Enterボタンを押すと同時にゲームの世界に転移したのではないかと。
いやいや、それは無いなとオッサンは頭を振って否定したが、実はそれが正解だった事をオッサンは数分後に知ることになる。
……数分後……
「マジか……」
オッサンはその場にしゃがみこんで項垂れる。深夜のコンビニで屯しているヤンキーか。
オッサンの足元には秋葉原近辺やイベント会場で見かけられる豪華すぎる装飾がなされた剣やソフトボール程の大きさの水晶が嵌めこまれた杖や日本で持ち歩こうものなら国家権力に銃刀法違反で速攻でお世話になるようなアイテムが散乱していた。
何処からこれらのアイテムを出したのか?オッサンの普段は出す穴から?違う。ネット小説やラノベの世界によくある謎の理論で現実世界では不可能な技能、アイテムボックスからだ。ちなみにオッサンが足元の散乱させたアイテムはほんの一部。まだまだアイテムボックスには各種回復ポーション、各種素材、武器や防具、レアアイテムがコレでもかと入ったままだ。ドラ○もんか。
オッサン項垂れているのはそれだけじゃない。
オッサンがこの世界に転移する前に長年楽しんでいるゲーム。
FINAL QUEST
このゲームはPCを使ったMMORPGで非常に自由度が高く、キャラクターの基本レベル、行動を行うことで得られるスキルレベルがあった。
もちろん、戦闘の際にはアクション的な要素も含まれ、プレイヤーの技量によっては低レベルでも高レベルを倒すことが可能であった。
閑話休題。
オッサンは長年自分が育てて来たキャラクターになっていた。
その判断は高レベルになりすぎてなかなか上がらないから全ての数値を暗記していたオッサンが自身のステータス画面を確認して判断したことだ。ちなみに派遣社員をしている時にはそこまでの記憶力は発揮されなかった。
オッサンはカンストまでは行かなくても上位に数えられる高レベルプレイヤーだった。
色んな寄り道をして全てとまでは行かないがそれに近い数のスキルを所持している。
攻撃、回復、補助、ネタ、あらゆる属性の魔法を覚えている。
アイテムボックスの中にはオッサンが溜め込んできたアイテム(ガラクタ)が山ほどある。
高レベルになれば使い切ろうにも使い切れないほどの通貨が溜まっていく。
オッサンは息を大きく吸い込み、ゆっくりと吐き出した。
「どうしよう」
たぶん、どうとでもなる。