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灰色の空  作者: 灰色の猫
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期末テスト 一時間目



 次の日、教室に着くと俺の後ろの席で見慣れない組み合わせの男女がいた。




 なんだ、カズとユリカか。

 どうやら朝のこの時間まで勉強に充てているらしい。


 まあ、カズにとっては死活問題だからな。


 にしてもスイッチが入るとここまでなのか。


 驚きとちょっとの寂しさがいりまじりながら、俺は二人に挨拶をする。


「おはよう」

「ソラか、おはよう」

「ソラ君おはよう」


 ゴシップ好きな生徒はカズとユリカの組み合わせに驚き、聞き耳を立てているが。

 当の本人達は、ユリカはまだまだ緊張していて、カズに至っては必死にユリカの教えを聞き逃すまいとしている。



 まあ、大丈夫だろう。男の勘って奴かな。俺も昨日の夜はテスト勉強よりも、ミナの笑顔を見るためにどうしたら良いか時間を割いてしまい、人の心配をしてるところじゃなかった。



 急いで、教科書にチェックしたとこを確認し直して、対策を立てる。



 今日の問題は国語だな。ミナに教えてもらったポイントを思い出す。


 だぁあ、駄目だ。



 ミナしか思い出せない。



 ごめんなさい、ミナ。



 相変わらずテンションの高い担任が来てしまった。


そして俺のテンションはさらに下がってしまった。



 カズが何故か自信満々に俺に親指を立ててきた。


 ベタな行為だが、お前がやると絵になるな。


 後ろでユリカの小さな笑い声が聞こえてきた。


 負けてられないと思って、俺も反対側のミナに目を向ける。



 集中力を高めるためなのか目を閉じて瞑想している。



 あぁ、俺だけが空回りしている。







「どうだった、ソラ」


 今日の日程が終わりカズが話し掛けてきた。手応えが良かったのか、テンションが高い。


「まあ、ぼちぼちだよ」

 思った程悪くはないが、七割いくかどうかといったところだ。

「今日の放課後もユリカに教わるんだが、一緒にどう」

 と誘われたが、ユリカが眼でアピールしている。

 これはどっちだ、と悩んでいるとミナが来て

「ごめん、今日はソラ貸して」と言ってきた。


 俺はいったいなんなんだ、と思いながらちょっと嬉しかったり。



 ユリカが今にも泣きそうな顔をしているが、嬉しさ半分戸惑い半分といったところだろう。


「そっか、じゃあ今日は図書室に行かないか、ユリカちゃん」

 カズがすぐにユリカに提案をしている。時間がもったいないのだろう。

 ユリカが返事もしないまま、ユリカを連れ出してしまった。


 ユリカよ、惚れたお前が悪いよ。




 教室で嵐の様な別れを済ませると俺たちは校門に向かった。



「今日の国語、感情を表現する問題で時間使ったでしょ」


 ミナの言葉にどきりとして、冷静に疑問を投げ返した。


「どうして、分かるの」「苦手そうだと思ったし、暇だからソラを見たらめっちゃ悩んでてね」


 ソラを見たらという言葉にまたどきりとして。

「まあね」

「俺も小説読まないとな、ミナみたいに」


 違う、分からなかったのではない。


 主人公の恋人への想いを言葉に表せという問題だったが、自分の気持ちも入ってしまい、何度も書き直したのだ。


 大きなタイムロスになってしまった。



 その後、ぎりぎりで全問をやり終え見直しする時間がなかった。



 漢字とか微妙だったな。

 見直しするつもりで書いてたから凡ミスが多いかも。



「ところで、俺を借りるって言ってたけど」


「ん、特にノープラン」

「なんだよ、ノープランかよ」「だったら帰って勉強したいんだが」


「んーと、それじゃあちょっと付いてきて」


「えー」

「どこに行くの」


「内緒」


 ニシシと笑いながらミナは足早に校門へと向かっていった。


 なんなんだよ、と思いながらも興奮を抑えながら彼女の背中を追いかけた。






「こっちって海じゃないのか」


 学校を出てしばらく歩いていると潮の香りがしてきた。


「そーだよ」

「前から来たくてね」


「なにもこんな時に来なくても」


「こんな時だから来たかったの」


 お世辞にも綺麗な砂浜ではないから、夏のピーク時でもひと気は少ない。

 ちょっと時間を掛ければ、隣町に綺麗な砂浜があるから皆そっちに流れる。 おもむろにミナは靴を脱ぎ靴下も脱いでいく。


「おい、ガラスとか気をつけろよ」


 綺麗な砂浜ではないから、それなりにゴミが目立つ。


「大丈夫、歩き回るわけじゃないから」


 そう言うと、彼女は砂浜の上に立ち目を閉じた。



 たまに見る彼女の癖だ。


 そしてそれを黙って見るのは俺の癖だ。



 邪魔したくないし、何故かこの空間が心地良い。



「ふぅ」


 気が済んだのか、ミナは目を開け靴下を履き帰り仕度をする。

 制服の時に立ったまま靴下を履こうとする様は妙に色っぽい。


 当然、俺は堪えきれずに海に視線を流した。



 ここの海はいつ来ても変わらないな。


 珍しく黄昏ていると


「ソラっ」ミナの声に反応して振りかえる。





 そこには笑顔のミナがいた。

 声がしたからいるのは当然だ。


 だけど笑顔の理由が分からない。


 笑顔は見たかったけど、俺は何もしていない。


 なんか不完全燃焼だ。


 結果は求めていたものなのに、過程がなにもない。


 俺が戸惑っているのを見てミナはさらにニシシと笑う。



「夏休みさぁ」



 波の音と、俺の鼓動の音が偶然にも一致する。



「夏休みがどうした」


 この台詞が精一杯だった。




「デートしよっ」


「えっっ」


「嫌なの」


「嫌じゃないけど」


「じゃないけど」

「今までも二人だけで、出かける事はあったしなんか改めて言われると」

「言われると」


「照れる」


「じゃあ、やめる」



「やめないっっ」


 思わず、自分の想像以上の声が出てた。

 それを見たミナが、腹を抱えて笑う。なんか余計恥ずかしくなってきた。

 もう、いいや。勢いに任せて口を動かした。


「俺もミナとデートに行きたい」

「いや、行かせてください」


 何故か頭を下げて俺が頼む形になっている。なんか流れが変わっているけど、気にしない。



 返事がないので頭をちょっと上げてミナを見る。


「よろしい」 笑顔で一言。


 なんかほっとした。

途端に力が抜け、砂浜の上にへたりこむ。



「ちょっと大丈夫」

 ミナが慌てて駆け寄り、手を差し出す。



 その手を握り、勢いをつけて立ち上がる。


 ミナの手は線が細くてちょっと冷たかった。でも今はそれが心地良かった。


「あ、ありがと」

 砂を払いながらお礼を言うと、ミナはすでに戻ろうとしていた。



「デートプラン、考えておいてね」


 そう言うと、いつもの様に背中が小さくなっていく。




 俺は不思議といつもの不安は感じずに、ゆっくりとミナを追いかけていた。

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