ミナの背中
「おはよっ」
「ん、おはよ」
「どうしたの、テンション低くね」
「あんま寝てなくてね」
「夜更かしはお肌の敵だよっ」
登校中、いつものテンションでミナが近寄ってくる。
「まだ水は弾くから大丈夫だ」
一通りの流れに満足したのか、ニィと笑い俺の前を器用に後ろ歩きしていたのをクルリと向きを変えた。
寝れてないのはミナ、お前のせいだよ。
そんな事は口が裂けても言えない。裂けたら痛くて言えないだろうし。
……もし水が弾かなくなってもこうして会話していられるのだろうか。
そんな事を思ったら急にミナの背中が小さく見えた。
たとえ、見えるのが背中でもいい。
声が聞こえる距離にいるのだろうか。ふと昨日のミナの一言が脳裏に蘇る。
「ねぇ、なんで人っていきてるの」
正直、なんでいきてるのかなんて分からない。
俺はそれよりミナの俺に対して答が聞きたい。
そう、自分に都合のいい答が……
「たのむ、宿題見せてください」
俺が教室の席に着くなり頭を下げているこの男子は同じクラスメイトのカズ。
中学からの付き合いで、結構正反対なタイプなのに不思議と馬が合う。
「ダメだ」
と言いつつも、俺は宿題を見せる準備をしている。
野球部のカズは部活が無くても自主練をする熱い奴だ。
今はテスト期間中だから昨日も部活は無いはず。 おおかた自主練して帰ったら寝てたというとこだろ。
「昨日も練習して帰ったら即落ちしちゃって」
何度となく聞いた台詞を聞き終える前に宿題を渡した。
「ほい」
「ありがたき幸せ〜」
もう一度頭を下げて宿題を受け取り、窓際の俺の席から反対の廊下側の一番前の席に飛び込んだ。
宿題の事はとりあえず置いといて、一つの事に熱心に取り組めるカズを俺は尊敬している。
カズの背中は不思議と大きく見える。
あ〜なりたいと秘かに憧れてたり。
だから、そんな奴から頼られたら断れない自分がいる。
教室の騒がしさがピークに達したとこで、クラス全員分と同じくらい騒がしい担任が来た。
「はい、おはよう」
「みんな、もうすぐ夏休みだけど忘れてないか」 「そう、期末試験だ」
「だか」…………
長いので要約すると勉強も頑張れとの事。
夏のセミの鳴き声とこの先生のテンションがセットになるときが今から怖い。
何か黒板に書いているこの先生の背中は女性だけど何か圧倒してくるものがある。
二年からの担任だがイマイチ慣れない。
この先生は、もう水は弾かないのかな………
いや、弾き飛ばすだろうな。