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灰色の空  作者: 灰色の猫
12/51

鳴き始めた蝉


「夏休みの注意ですが………」

「であるからして………」

「夜遅くの外出は…………」

「髪は染めてもいいけど、将来禿げま…………」


 今日の担任はいつにも増してテンション高いな。

 あ〜。外から聴こえるセミの鳴き声と相まって、お互いを呼び合ってるみたいだ。


 早く終わらないかな。





「それじゃあ、始業式も皆が揃うように」


「解散っっ」


 解散って、なんか古いな。


 色んな意味での開放感からか、教室がどっと盛り上がる。



 さっそく遊びにいく約束をしている者、先生の忠告をすぐに無視するように髪を染める話をしている女子、休みに補習があるからか余計に沈んでいる男子。

 皆、思い思いの夏を始めるようだ。




「ソラ、休みの予定は決まってるのか」

 カズが話し掛けてくる。どうやら今日は部活もないようだ。


「う〜ん、決まってるっていえば決まってるし、決まってないといえば決まってない」



「どっちだよ、そりゃあ」

「決まってないなら野球部の試合観に来ないか」


「試合かぁ」



「そうだ、ユリカも来てよ、試合」


「えっ、し、試合」


 急に話を振られて慌てるユリカ。


「勉強のお礼も兼ねたいから試しに来てみてよ」 「感動させてあげるから」

 凄い自信だな、カズ。

「う、うん」

「それじゃあ観に行ってみる」


「お、ありがとう」

「可愛い女の子が来てくれたら、部の連中も張りきるから助かるよ」


「か、かわいいって」


 ユリカは前半の台詞しか聞こえてないな。夏なのに、そんな照れて大丈夫か。


「それじゃあね、カズ君」

「水泳の罰ゲームの、事なんだけど」


「お、罰ゲーム、決まったの」


 なぜかカズがワクワクしてる。あんまり負けた事がないからかな。楽しそうだ。


「うん」

「七月末にある近くの神社の夏祭り、一緒に行って、欲しいなと思ったり、思わなかったり」


「いいね、夏祭り」

「よし、行こうぜ」


 カズも最後まで話聞いてないな。


「でも、罰ゲームがそれで良いのか」



「うん、これで良いの」「いや、これが良いの」「そうか、それなら喜んで」

「あと、ちょっと待って」


 おもむろにカズが紙とペンを取り出す。


「これ、うちの電話番号」

「とりあえず、試合は来週の土曜にあるから前の日にでも電話ちょうだい」


「あ、ありがとう」

「そしたら、一応あたしの番号も教えとくね」


 無事に番号交換を済ませ、なんか流れで二人は一緒に帰って行った。



 カズはまだまだ異性とどうこうっていう感じではないけど、水泳の一件以来、ユリカを特別視するようになっている。悔しいのもあるとは思う。


 でも、カズは努力する大変さを知っているから、ユリカの凄さを肌で知って見方を変えたのだろう。


 なんだかんだ良い感じだな、あの二人は。そして、取り残された俺。


いい加減、帰るか。


教室を出ようとしたら、ミナと出くわした。



「あり、ミナどこ行ってたの」

「ちょっと職員室にね」

「ソラ、待って」

「一緒に帰ろう」


「ああ、良いよ」



校舎の廊下から外を眺めながらミナを待つ。

この景色ともしばらくお別れか。

二年の教室がある二階は既にひと気が無く、いつもとは違った雰囲気がある。


相変わらずセミの声は聞こえるが、人間代表の担任がいなくなったので心地よいBGMに変わっている。



「お待たせ」

「さあ、行こう」


「おう」




「ソラぁ」

「ん、どした」


「デートの件、忘れてないよね」

「も、もちろん」



「八月の頭に行かないか、で、デート」

まだこの単語に慣れない。


「いつでも良いよ」

「行き先は決まってるんだけど、ちょっと準備があってね」


「なに、準備って」

「期待していいの」


 口が滑ったか。なんか思った以上に目が輝いている。


「ま、まあ期待してて」

 なんで俺は気持ちとは反対の事を……

 まあ、いいか。


 おかげで覚悟は決まった。


「それと、デートの件とは別になんだけど」

「夏祭り、行かないか」

「どしたどした」

「今日のソラはいつになく積極的だねぇ」


「いや、俺も行きたくなってな」


「仕方ない」

「付き合ってあげるよ」

「あ、ありがとう」




「あ、たまに家に行くかも」

「それじゃあね」


 そう言って俺はミナと別れた。





 よし、とりあえず今日中に宿題は終わらせるか。

 ジンジャーエールを飲んで気合いを入れた俺は机に向かった。



 ん、俺達って付き合ってないんだよな。


 なんかデート、デートって。




 顔が熱くなるのを感じる。ユリカの心配をしている場合ではないな。





 もう一杯ジンジャーエール飲んで仕切りなおそう。

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