好敵手登場
「だいたい、先生もなんで許可だしてんだよ」
「それでなんでスタートの合図出すのが俺なんだよ、ミナ」
「ん、いや〜」
「先生に、偽乳の話をしたら一発オッケーだったよ」
「あと、主催はソラって事だから」
「脅迫じゃないか、それ」
「って俺が主催かよ」
「早く始めようぜ〜」
佐藤の奴が煽ってきた。
なんか変に盛り上がってきた。
女子一番人気のカズと男子から地味に人気があり、水着姿でぐぐっと株が上がったユリカとの対決。
ほんと男って……
肝心の二人は……カズとユリカの目つきがやばい。話しかける雰囲気じゃないな。
「よーい、スタート」
二人が一斉に飛び込む。 ユリカの飛び込みが普段のユリカからは想像がつかないほど力強いもので観客もざわつく。
さあ、先手は どちらが……
どっちもまだ浮かんでこない。
なんなんだよお前ら。
また観客がざわつく。
二人とも浮かんできた。
カズだっ。カズが腕一本分リードしている。女子の高い声が響く。
ユリカも離されずに食らい付いている。言うだけの事はある。
そして二人ともほぼ同時にターン。
残り四分の三を過ぎたところでカズが遅れだす。スタミナが切れたか。
っっ。
いやカズが遅れてるんじゃない。
まさか……
ユリカがスピードを上げている。 体力を温存していたというのか。
女子の高い声が消え、男子の変声期特有の中途半端な声がでかくなる。
残り四分の一。さすがにきついのかユリカもリズムが崩れる。
カズも負けじと追いすがる。
やばいっ、微妙な勝負だ。しっかり判定しないと。
歓声が静まる。観客からはどっちが勝ったかは分からない。
泳ぎ終えた二人も判断できないみたいで俺を見つめている。
「どっちだよー、ソラ」
佐藤がまたしても煽る。
待てよ、溜めてるんだよ。
「勝者、ユリカっ」
うおおっっっ
男子の歓声が一斉にあがる。
女子からは落胆の声が漏れる。
当の二人は硬い握手を交わし、互いを褒め称えていた。
「いや〜、速いなユリカ」
「完敗だよ」
「カズ君も速いね、もっと楽勝かと思ってた」
「まだまだ鍛えなおさないと」
「あっ、俺呼び捨てしちゃってた」
「ごめんな」
すると、スイマーユリカから少女ユリカに顔が戻り顔を赤らめる。
「え、あっ」
「いや、別に呼び捨てでも良いよ」
「そうか、じゃあこれからはユリカって呼ぶよ」 「ユリカもカズって呼んで良いよ」
「えっ」
「あっ、うん」
「それじゃあ、カズ、って呼ぶね」
そう言ってユリカははずかしさのあまり、また潜っていってしまった。
ユリカは勝利以上のものを手に入れたようだ。
「な〜に、黙って解説してんのよ」
「あんたもちょっとは泳げる様になりなさいよ」
ってミナ。
押すな、押すなよ。
「あ〜れ〜」
俺はミナのお約束の行動によって、今日初めてのダイブをしたのだった。
「……じゃないと一緒に海でデートできないじゃない」
ミナが何か言っていたが、聞き取る余裕もなく俺は手足を器用にじたばたさせ沈んでいく……
……ところをカズに助けられたのだった。
俺も惚れていいかな、カズ。