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戦いの果てに

 五年後、植民地の者たちが自由を求めて蜂起した。王国は話し合いによる解決を望み、何度もその場を設けたが、植民地側は話し合いに応じようとしなかった。

 国王軍はやむを得ず彼らを迎え撃つためにコンサークル高原へ赴いていた。

「国王、いかがなさいましょう。一気に叩き伏せますか?」

戦争を体験するために同行したユリウスは、レンブランの横に立った。

 レンブランは空を仰ぐと、深く息をした。

(ラウル、また争いだ)

医務室でラウルと交わした最後の言葉を思い出した。


『我々は何のために戦った?』

ラウルは小さく何度も首を横に振った。

『戦いの果てに何を得る?』

ラウルはあごを震わせると、力一杯声を上げた。

『しゃべらなくていい』

レンブランはラウルの横で膝をつくと、強く手を握った。

『平和を得たか? 戦争さえ起こらなければ、元々脅かされることはないものだろう。我々は多くを殺さずに済んだ。多くもまた、殺されずに済んだ。遺族や多くを想う人たちを悲しませることもなかった。愚老の至福を肥やす道具として、命を奪い合ったのだ』

ラウルは歯を噛み鳴らした。

『……そこから得たものは哀しみだけだ。哀しみを得るために、多くを失くした』

ラウルは血を吐くと、脱力した。

 シスターは苦しむ息子を見て涙を流した。

『ラウル、ラウル』

レンブランは必死に体を揺すった。力の入らないラウルは為すがまま揺れ動いた。

『戦争を起こしてはならない。頼んだぞ、レンブラン。もう悲劇はたくさんだ』

『ああ、わかった』

目を閉じたまま、かすれた声で言うラウルにレンブランはしっかりと答えた。その言葉を聞いたラウルは深くうなずき、目を閉じた。


「武器を捨てろ」

「え?」

ユリウスは自分の耳を疑った。

「再度和解を申し出る。全員武器を捨てろ」

レンブランは兵士たちに聞こえるよう大声を上げると、自ら武具を捨てた。

「なぜ? 圧倒的有利ではないですか?」

ユリウスは納得いかない顔で尋ねた。

「彼らにも大切な人がいることを忘れるな。避けられる戦いは避けるべきだ」

レンブランは悲しい表情で静かに言うと、一人で歩き始めた。

「こちらのほうが圧倒的有利であることは彼らも分かっているだろう」

ユリウスは相変わらず納得のいかない顔をしていたが、国王の意志に従うことにした。

「我々もお供します」

ユリウスを始めとする国王軍はレンブランの後に続いて歩き始めた。レンブランは振り返り優しく微笑むと、力強く歩を進めた。

 国王軍が武具を捨てはじめ、植民地側の人間は戸惑いを浮かべた。

「酋長、どういうことでしょう? 罠でしょうか?」

「わからん。しばらく様子を見よう」

酋長は腕を組み、レンブランを睨み付けた。

「今一度和解を提案したい?」

レンブランは大きく声を上げた。

「おめでたい奴だ。あの男、戦争というものを知らないのでしょう」

酋長の横で男は鼻で笑った。そして、後ろにいる弓兵の一人にこっそり合図を出した。

 弓兵は弓を高々に掲げると、矢を放った。

 矢はレンブランめがけて弧を描いて飛んでいった。そして、レンブランの頬を掠めた。

 国王軍は一瞬ざわついたが、レンブランが物怖じせずに歩んでいくのを見て、落ち着きを取り戻した。

「勝手な真似をするな」

酋長は指示を出した男の頬を殴ると、男を睨み付けた。

「あの男が戦争を知らない? ばか者が。あの男は過の戦争を終幕に導いた男の右腕だ」

酋長は振り返ると、持っている武具を捨ててみせた。

「和解を申し受ける。皆、武具を捨てよ」

酋長の言葉を聞き、兵士たちは武具を捨てた。そして、多くの者は安堵の表情を浮かべた。

 酋長は皆が武具を捨て終わったのを確認すると、レンブランのほうへ歩いていった。

「酋長がこちらへ来ますよ」

「ああ。和解を受け入れてくれるようだな」

レンブランは穏やかに微笑んで酋長を迎え入れた。

「まず、先程の非礼を詫びたい」

「構わないさ」

レンブランはすぐに返答した。

「今まで拒み続けた和解をなぜ受け入れる気になったんだ?」

ユリウスが尋ねると、酋長はうつむいた。

「この戦、初めから勝てるものとは思っていなかった。村の者のために少しでも良い条件を提示するため、最後まで抵抗させて頂いたのだ。しかし、これ以上の抵抗は無意味。無駄に犠牲者を増やすだけだ」

「賢明な判断だ。我々も争いは望まない」

レンブランは酋長の顔を上げた。

 レンブランは酋長の話を聞いた。その上で、周辺植民地との差が出ない範囲で彼らの希望を受け入れた。そして、最後に今後は初めから話し合いによる解決を望み、二度戦争を起こさないことを誓わせた。


 レンブラン国王によって無事和解案が成立した。それを祝い、コンサークル高原には墓石の中心に平和記念碑が建てられた。そこには大勢の人が訪れ、墓石へ花を添えると同時に祈りを捧げた。

「パパ。ここに僕と同じ名前が彫ってあるよ」

一人の子供は一つの墓石に駆け寄ると、その文字を指でなぞった。

「ああ。そこにはパパの親友が眠っているんだ。君の名前も彼の名前を取って付けたんだよ。私の知る中で最も勇敢な名前だ、カイ」

ひしゃげたロケットを胸に下げた男は足を引きずりながら歩み寄った。

「ラウル、肩に掴まって」

「ああ。ありがとう、ユウ」

二人は一歩一歩しっかりと歩み寄った。カイはその姿を見ると、二人に駆け寄ってラウルにしがみついた。

 三人は墓石の前に膝をつくと、手を合わせた。

(遅くなってすまない。やっと花を添えられるようになったよ)

ラウルは花を添えると、穏やかな表情を浮かべた。

(……しかし、多くの犠牲の中で俺一人幸せになっていいのかな?)

ラウルは目を閉じると、心の中で問いかけた。すると、前触れなくロケットの蓋が開いた。

 写真の中のカイが笑顔で答えてくれた気がして、ラウルもまた優しく笑顔を浮かべた。

(ありがとう、カイ)

ラウルの穏やかな顔を見て、二人もつられて微笑んだ。

 ラウルは自分のロケットを墓石に掛けた。

「じゃあ、もう行くよ。また来るから」

ラウルはユウの肩に掴まりながらゆっくりと立ち上がった。

 それから三人は他の墓石にも花を添え、手を合わせて回った。

「私はこれからも大勢を殺めたことを悔いながら生きてゆくだろう。償いの道を探しながら生きてゆく」

ラウルは遠くを見つめた。

「つらい思いも多くさせるだろう。 ……こんな私を支えてくれるか?」

ラウルは不安気な表情でユウの顔を窺った。すると、ユウはニッコリと微笑んだ。

「もちろんです」

ユウの言葉を聞くと、ラウルは穏やかな表情を浮かべた。

「もう一人、会いに行くべき人がいるんだ」

ラウルは子供を抱えると、ユウの肩に手をかけた。すると、ユウは小さくうなずいた。

(ジェルド、私はジーク国王の想いを遂げることができただろうか?)

ラウルは空を見上げ、物思いにふけった。

「さぁ、行きましょうか?」

「……ああ」

 雲ひとつない青空の下、三人は寄り添いながら歩き始めた。


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