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終結

 レンブランたちがコンサークル高原に到着すると、そこには膝をついて、呆然としているラウルの姿があった。

「生存者の確認を頼みます」

レンブランはサジェスに指示を出すと、ラウルのもとへと駆けていった。

「よし、生存者の確認だ。革命軍の兵士の生き残りがいたら生きたまま捕らえろ」

サジェスは兵士たちに指示を出すと、レンブランに続いてラウルのもとへと駆けていった。

 二人がラウルのもとに到着すると、ラウルはゆっくりと立ち上がった。

「遅れてすまない。ラウルの予想通りフォヤーズ村で奇襲にあった。こちらの方が来てくれなかったら、間違えなくやられていただろう」

レンブランは手のひらでサジェスを指した。

「サジェス殿、援軍感謝する」

ラウルは穏やかな表情で礼を述べた。しかし、その言葉には覇気が感じられなかった。

「……遅かったようですね」

ラウルは落ち着き払った顔をして首を横に振った。

「サジェス殿は村へ戻り、全兵を連れて直接革命軍の本拠地シタデルへ、レンブランは今いる兵士を呼び集めて俺と一緒にシタデルに攻め込む」

ラウルは現状にはまったく触れず、二人に指示を出した。

「随分急だな。それより、現状を報告したい」

「報告は後にしてくれ」

「……ならば、せめてこの状況の説明をしてくれないか? カイはどうした? アクセルは? 二人はどこにいる?」

レンブランが尋ねると、ラウルは覇気のない顔を向けた。

「二人とも死んだ」

ラウルはアクセルの倒れている場所と爆発跡を指差した。

「それだけか? そんな説明で納得できるか?」

ラウルの説明に苛立ったレンブランはラウル胸ぐらを掴み上げた。しかし、ラウルはあくまで冷静にレンブランの手を振り払うと、サジェスに指示を出した。

「サジェス殿、悪いが先に兵士を集めてくれないか?」

「……わかりました」

サジェスは何も問うことなく、すぐさま馬に乗り、駆けていった。

「どういうことだ?」

レンブランは再度ラウルの胸ぐらを掴み、怒鳴りつけた。すると、先ほどまでの冷静さを一変させ、ラウルは歯を噛み鳴らした。

「アクセルは俺をかばって撃たれた。カイは俺が殺した。カイの持っている手榴弾を撃ち抜いて被爆させた。 ……これが聞けて満足か? お前に俺の気持ちがわかるか?」

ラウルは怒鳴るように言った。

「……」

レンブランは言葉を失った。

 レンブランはようやく言葉をしぼり出した

「親友を跡形も失くしてまで生き残りたいのか?」

レンブランが口にした言葉はラウルの逆鱗に触れた。

「お前に何がわかる?」

ラウルはレンブランの胸ぐらを掴むと、その場に押し倒し、続けた。

「数年前にあった程度のお前に、共に育ってきた俺とカイの何がわかる? この腕の焼印を見ろ。カイとの約束の証だ。苦しみと悲しみ、覚悟を背負う誓いの証だ」

 ラウルがどれ程の覚悟で引き金を引いたのか、そのラウルの目からようやく察することができた。どれ程の苦しみと悲しみを背負ったかも理解できた。

レンブランはもはや何も言い返すことができなかった。ラウルもまた、自分の行為の重さを再認識し、言葉を失くした。

 

 サジェスは兵士たちを呼び集めると、ラウルのもとへと駆けていった。そして、ラウルがレンブランを押し倒しているのを見つけると、二人を引き離し、レンブランを起こした。

「敵意を向ける相手が違うのではないですか? 二人が冷静さを失うようなら、ここからは私が指揮を執らせていただきます」

サジェスの発言で、落ち着きを取り戻したラウルは、深く深呼吸をした。

「すまない。もう大丈夫だ」

ラウルは体についた土を払うと、兵士たちのほうへ振り向いた。

「革命軍はフォヤーズ村とこちらへの出兵でかなり手薄になっていると思われる。この機会を生かし、革命軍の本拠地シタデルへ総攻撃をかける。これが最後の戦だと考えてもらって良いだろう」

ラウルの顔を見て、任せても大丈夫であると判断したサジェスはさっそく馬に乗った。

「では、至急村に戻り、兵士たちを連れてまいります」

サジェスは馬の腹を蹴ると駆け出していった。

「策は? シタデルの門を開かせないことには総攻撃は叶わないぞ」

レンブランが尋ねると、ラウルは自分が殺めた革命軍の兵士を指差した。

「そこに革命軍の防具がある。数人があれを着て本拠地内に入り、門を確保する。後は突撃するのみだ。相手はこの戦いでかなりの戦力を失ったはず。今なら正面から戦える」

「わかった。状況変化に対応できるよう、俺は門の確保に回る。それと、さっきは……」

レンブランが言い切る前にラウルは軽く手を挙げ、発言を遮った。

「それでは、門の確保はお前が指揮してくれ」

ラウルはレンブランの肩を叩くと、優しく微笑んだ。

「皆、突撃準備をしてくれ。そこの者たちは申し訳ないが革命軍の防具に着替えてくれ」

レンブランは十数名の兵士たちに指示を出した。

 高原は静けさを取り戻し、優しい月明かりの下、静かに準備がされていった。

「先に行く」

「気をつけろ。手薄になっているとはいえ、敵の本拠地だからな」

兵士たちが着替え終わると、ラウルと会話を交わし、レンブランは兵士たちを率いて馬を走らせた。

 レンブランたちの姿が見えなくなると、ラウルは集めた兵士のほうへ振り返った。

「我々も門が開き次第突撃できるように周辺まで行くぞ。馬は足音で気づかれる可能性があるため、走ってゆく。途中からは歩くことになるが、ハンドシグナルで指示を出す。注意を怠るな。万一、途中で革命軍に出会ったら、騒がれる前に殺せ」

ラウルは指示を出すと、兵士たちの準備が整うのを待った。

「行くぞ」

兵士たちの準備が整うと、号令を出し駆けていった。


「兵士たちが戻ってきました」

革命軍の本拠地シタデルの門が開かれ、兵士たちは中へと歩いていった。

「フォヤーズ村は失敗したと聞くから、あれは高原のほうの兵士たちだな」

「おそらく。しかし、百名の兵士を派遣して生き残ったのが十名程度か。ムース様やダーチェの姿もなし」

ボロボロの防具を着た兵士たちは温かく迎え入れられた。そして、一人の男が兵士たちに歩み寄った。

「カイは討てたか?」

男が尋ねると、一人の兵士が前に出た。

「はい」

兵士はうつむきながら答えると、男は肩を叩いた。

「よくやった。ムースの死は痛手だが、あの化け物さえいなければフォヤーズ村の奪還も何とかなるだろう」

男は高らかに笑いながら去っていった。

「何とかなるなんて、いい加減な考えで国王軍が撃てるか」

レンブランは兜を取ると、今すぐにでも斬りかかりたい衝動を必死に抑えながら、男の背中をいつまでも睨み付けた。

「ラウルたちもそこまで来ているはずだ。今より門の確保に向かう」

男の姿が見えなくなると、レンブランは小声で兵士たちに指示を出した。

 

ラウルたちは、門の見える茂みに身を潜めていた。

「遅いですね。何かあったのでしょうか?」

ラウルの傍らにいる兵士がラウルの顔を窺いながら尋ねた。しかし、ラウルはただ黙って門を睨み付けていた。

「ラウル様?」

「黙ってみていろ」

ラウルは怒り口調で兵士に言い放った。兵士は忽ち恐縮してしまい、脅えた表情で門を見つめた。

 それから一刻が経ち、兵士の集中力も散漫になり始める頃、急にラウルが立ち上がった。

「動くぞ。皆、準備しろ」

ラウルが口を開くと、兵士たちは動揺しながらも立ち上がった。

 兵士たちが気を引き締めると、同時に門が開いた。

「行くぞ」

ラウルは剣を抜くと、先陣を切って走っていった。

「あ、後に続け」

ラウルの傍らにいた兵士が声を上げると、兵士たちは一斉に剣を抜いた。

「オー」

兵士たちは雄叫びのような声を上げると、ラウルの後に続いた。

「敵襲だ。鐘令を鳴らせ」

門の前に立っていた見張りの兵士が声を上げたが、レンブランたちによって見張り台は占拠されていた。

 ラウルたちは門の前にいる兵士を斬り伏せると門を潜った。そして、革命軍との最後の戦が始まった。各々の想いが剣に込められ、時にそれは火花と散った。

 人数では圧倒的に国王軍有利であったが、階層建てになっている砦の上からの銃撃で砦の中に入ることはできずにいた。

「ラウル」

レンブランが前方で声を上げると、ラウルは敵を斬り払いながらレンブランのもとへと向かった。

「レンブラン、無事だったか?」

「ああ。それより、どうする? このままではいずれ形勢は逆転するぞ」

二人が話をしていると、ラウルの頬を銃弾が掠めた。二人は一旦瓦礫の中に身を潜めた。

「奴ら、貴重な火薬をここぞとばかりに使ってきている」

「確かにあの銃撃は厄介だ。 ……馬を入り口に突っ込ませよう」

ラウルが銃声で響き渡る中、大声でレンブランに言うと辺りを見渡し、馬を探した。しかし、敵と交戦しながらの作業は思う以上に捗らず、戦況は次第に悪化していった。

 刻々と時間が過ぎてゆき、無理に砦へ侵入しようとした兵士の屍が二人の目の前に増え続けていった。

「一旦退避しろ」

ラウルが必死に声を上げるが、うなり声や剣が交わる音、銃声に阻まれ、兵士たちの耳には届かなかった。そして、一人、また一人と若い命が消えていった。

「くそ」

ラウルが思わずと飛び出そうとすると、

「止せ、ラウル」

レンブランは必死にラウルを地面へ抑えつけた。

「放せ、レンブラン。このままでは皆が死んでしまう」

「それはお前が飛び込んでも同じことだ。それより打開策を練るべきだろう」

ラウルは何一つ言い返せず、唇を噛み締めた。

 レンブランがラウルの肩を起こすと同時に、爆弾が破裂するような大きな衝撃音が鳴り響いた。

「何の音だ」

ラウルが起き上がり、辺りを見回すと、馬が砦の入り口を突き破っていた。

「失礼。遅くなってしまいました」

サジェスは馬に乗ってラウルたちの横に着けた。

「ありがとう。助かったよ」

ラウルは安堵の表情を浮かべると、レンブランに手を差し伸ばし、引き起こした。

「ああ。これでようやく敵を討てる」

レンブランはゆっくりと立ち上がると、腰周りの土を払った。そして、三人は開いた砦の入り口を睨み付けた。

「さぁ、ケリを付けにいこうか」

ラウルは静かに言うと、砦に向かって駆け出した。

「皆、ラウルに続け」

レンブランは慌てて兵士たちに指示を出すと、ラウルの後について砦の中へと入っていった。


 ラウル先導のもと、兵士たちは一斉に砦内へと攻め込んだ。

「上へは行かせるな。狙撃隊、撃て」

「ラウル様を守れ」

革命軍の一斉射撃にも怯まず、多くの兵士たちがラウルたちを庇い倒れていった。

「医療班、負傷者の手当てを頼む。残りの者は俺の後に続け」

ラウルは声を上げると、目前の敵を斬り払いながら上を目指した。

 最上階に到着した。革命軍の長ジェルドがいると思われる部屋の前にはクリスと同じ黒の鎧を纏い、大剣を携えた兵士が二人立っていた。

「ラウル殿とレンブラン殿は中へ。ここは我々が引き受けます」

サジェスが後方で耳打ちするかのように小さくに言うと、ラウルは兵士二人をじっと観察した。

「こいつら、かなり強いぞ」

ラウルは肩越しに小声で答えた。

「わかっています。しかし、我々の目的はジェルドを倒し、この戦いを終わらせること。そして、それはあなたがすべきことです。彼もそれを望んでいるでしょう」

サジェスの言葉を聞くと、ラウルはロケットを強く握り締めた。

「……わかった。ここはお任せしよう」

ラウルは剣を納めると、一歩下がり、サジェスに指揮を任せた。

 サジェスは剣を掲げると、突撃の合図を出そうと口を開いた。しかし、その瞬間相手の兵士が声を上げた。

「中央にいる男、お前がラウルだな。ジェルド様がお前だけは通せとおっしゃった。入るがいい」

兵士たちは横に動くと、ジェルドの部屋への道を空けてみせた。

「罠でしょうか」

「……かも知れない」

ラウルはサジェスの肩に手を置くと、押しのけるようにして前へと出て行った。

「しかし、ここは行かせてもらおう。終幕を心待ちにしている者のために」

落ち着いた口調とは裏腹に鬼のような形相のラウルを見て、一同は言葉を失った。

「わかった。我々もすぐに駆けつける」

レンブランはラウルの背中をゆっくりと押し出すと、顔を向けるラウルに強い眼で小さくうなずいた。

(カイ、もうすぐ終わる。終わらせてみせる)

ラウルもまた強い眼でうなずき皆に応えると、ゆっくりと歩き始めた。そして、敵の兵士に目もくれず、部屋の扉を開けた。

 扉が閉まると同時に、部屋の外では地鳴りのような足音が響き渡った。しかし、ラウルは振り返ることなく、広場のような大きな部屋を中央へと歩いていった。

 ラウルが部屋の中央まで来ると、正面の椅子に腰掛け、あごひげを生やした、顔には傷を幾つも刻んだ男がゆっくりと立ち上がった。

「汝がラウルか? こんな若造に我らの想いが崩されようとはな」

「何が我らの想いだ、ジェルド。お前が戦を始めたことで、どれだけの人が命を落としたと思っている? どれだけの人が奪わなくてもいい命を奪ってしまったと思う? どれだけの人が……」

ラウルの脳裏には自分が殺めた人やそのために不幸を背負った人など多くの人の苦難の表情が浮かんだ。

「若造が知った口を利くな!」

ジェルドはラウルのもとに歩み寄りながら、言葉を続けた。

「国王を殺したのは我の指示ではない。あれは国王軍、元老の仕業よ」

「馬鹿をいうな」

その言葉を聞くなり、ラウルは声を上げた。

「聞け。我と国王ジークは元より親友だった。革命軍の創成もジークの案だ」

ジェルドはラウルを押さえ付けるように強い口調で言い放った。

「何を言っているんだ?」

ラウルは眉間にしわを寄せた。

「ジークが国王になったとき、他にも複数の国王候補がいた。その者たちが反ジーク派を唱え、元老を設立させた。奴らは汚いやり方で支持者を募り、裏では悪事を働き、権力を拡大していった。そして、ジーク暗殺が幾度となく試みられた」

ジェルドはラウルの目の前まで歩み寄ると、ラウルの辺りを回り始めた。

「我はジークの側近となり、身の護衛を願い出た。しかし、ジークは元老側に一人の同士がいることを理由に、未熟であった我を危険から遠ざけた。そして、奴は一つだけ願いを口にした」

ジェルドはラウルの背に周ると、横目で窓の外に掛かっている革命軍の旗を見つめた。

「奴の願いは、革命軍を創成し、自分にもしものことがあった際、元老の悪制を壊すこと。 ……今がその時だったが、それをお前たちが壊してくれた」

ジェルドは悔しそうに静かに眼を閉じた。

ラウルはヴァーミアン砦で最後まで抵抗していた男の言葉を思い出した。

『私は知っている。国王暗殺は革命軍の仕業ではなく、げん……』

ラウルは何度も首を横に振った。

「馬鹿な。そんな話が信じられるか」

ジェルドの方を向いたラウルは声を震わせていた。

「……心当たりがあるようだな。ならば他言は無用。信じるかどうかはお前の心次第だが、これが真実。 ……さて、決着をつけよう」

ジェルドもまたラウルの方へと振り返ると、二人は向き合った。そして、ジェルドは腰に携えた剣をゆっくりと引き抜いた。

「その話をするのは私が初めてか?」

「ああ」

「革命軍の仲間には話しただろう?」

「いちいち下の者に話す必要があると思うか?」

ラウルはあからさまに動揺していた。この話が真実ならば、革命軍は国のために蜂起していたことになり、ラウルは自分と志を同じとする者たちを殺めていたこととなる。

(で、でっちあげに決まっている。こいつを殺せばすべてが終わるんだ。何を迷う?)

 革命軍の壊滅は確実となった今、自分一人を動揺させてもジェルドの拘束は免れない。その上、元老のせいにするのはジェルドにとって意味を成さない。ラウルは躊躇いを浮かべ、剣を抜かずにいた。すると、ジェルドはラウルを睨み付けた。

「さぁ、剣を抜け」

ラウルはやむを得なし剣を抜いた。しかし、いつまでも構えられずにいた。

「大人しく拘束されてくれないか? 事実を調査する。それまでは如何なる手を使ってもお前を処刑させるようなことはさせない」

一歩後退したラウルを見て、ジェルドは深いため息をついた。

「こんな生温い小僧に我らの想いを砕かれたと考えると虫唾が走る。言い飽きたが、我の話したことは真実。しかし、貴様の言うとおり戦争を引き起こし、多勢を殺めたのも真実。」

ジェルドは険しい表情で言い放つと、けん制するように剣を振り落した。ラウルは腰に携えていた剣を抜き、ジェルドの剣を弾いた。

「しかし……」

「もう、しゃべってくれるな。どの道、革命軍は今日堕ちる。真実が知りたいのならば、この戦を終わらせてから知ればよい。そのためには我を討つ必要はあるがな」

ジェルドは大きく剣を振りかざすと、今度はラウルを目掛けて力一杯振り下ろした。ラウルは剣で受けたが、ジェルドのあまりの力に後方へ弾き飛ばされた。

「クッ……」

迷いのあるラウルは膝をつき立ち上がれずにいた。その様子を見ていたジェルドはあからさまに苛立ちを浮かべた。

 ジェルドは間合いを詰めると、ラウルの顔面を蹴り上げた。

「もうよい、大人しく逝ね。今一度戦争を起こし、今度こそ元老たちを殺めてみせる」

「また多くの犠牲者を出すつもりか? また、多くの者に仲間を殺させ合うのか?」

ラウルは口から流れた血を拭った。

「……仕方のないことだ」

「それはジーク様の望みか? ジーク様の望みは民の平和ではないのか?」

ラウルは必死に訴えかけた。

「小僧、綺麗事はたくさんだ。お主は民の平和を求め、何人の民を殺めた? 何人の仲間を犠牲にした? 仕方ないと自分に言い聞かせてきたのではないか?」

ジェルドはゆっくりとラウルに歩み寄ると、額に剣を突きつけた。何も考えられなくなったラウルはゆっくりと目を閉じると死を覚悟した。

 部屋の扉が開くと、レンブランを始めとする国王軍の兵士たちが部屋へとなだれ込んできた。レンブランは左肩から血を流し、残りの者も体中に傷を負っていた。

「ラウル、何をやっている」

レンブランはジェルドの前にひざまづき、目を伏せるラウルに向かって怒鳴り声を上げた。

「この者は真実を知り、心が折れた。後は死に逝くだけだ」

ジェルドが語ると、兵士たちは一斉に武器を構えた。

「どうやら、我の命運も尽きたようだな。これからは元老による独裁が始まるだろう。己の私欲を肥やすためにこれまで以上に民が苦しむ時代が訪れる。ジークの望みも叶わず、多くの民は無駄死にだ」

 ラウルはカイの顔を思い浮かべた。そして、アクセルやクリス、その家族、犠牲になったさまざまな者たちの顔が思い浮かんでは消えていった。

(もう引き返せないのか? ……皆を無駄死にさせてはならない)

ラウルはゆっくりと目を開けるとジェルドの剣を払い、立ち上がった。

「ジーク様の想い、あなたの想い、皆の想いすべてを俺が引き受ける」

ラウルはジェルドの目を真っ直ぐ見ながら言うと、剣を構えた。

「……この戦争は間違えだったのかもしれないな。別の手段を考えるべきだったのかもしれぬ」

ジェルドはジークを想った。

「二度と弱音を吐くな。主が悔いても死んだものは蘇らん。己の正義を貫け。そして、民の平和を……」

「ああ」

ジェルドはラウルの力強い返事を聞くと、剣を床に突き刺し、両手を広げた。

 ラウルは構えた剣をジェルドの胸に突き刺した。ジェルドは抵抗することなく、死を受け入れた。

「元老ウォルスを疑え。奴は最後までジークと国王を争った男だ。元老長ジェスを信じろ。彼はジークの親友だった男だ。 ……息子はとんだ愚か者だがな」

ラウルは目に涙を溜めながら、ジェルドの言葉を聞いた。

「生温い男だ。しかし、これからの王国には必要なのかもしれん」

ジェルドは笑みを浮かべた。

「皆の想いを果たし、平和を取り戻したらこの地に報告へくる。だから、今は静かに眠ってくれ」

「ああ、酒を忘れるな。ジークと楽しみにして待っている」

息を引き取り、倒れこむジェルドをラウルは優しく抱きかかえ、その場へと寝かせた。

 外の争いも止み、途端に静けさが漂った。

「戦は終わった。この砦を焼き払おう」

ラウルは椅子の両脇に立ててある革命軍の旗を手に取ると、一つをジェルドの亡き骸に掛け、もう一つは自分の肩に掛けた。

「奴の首を持っていかないのですか?」

サジェスは納得のいかない表情でラウルの顔を覗き込んだ。

「ああ。彼には少し離れたところで、国の行く末を見守っていてもらいたい」

ラウルの顔があまりに悲しそうであったので、サジェスはそれ以上追求することはなかった。


 コンサークル高原に戻るとラウルはカイの亡き骸をその場に弔った。そして、燃え崩れるシタデルを悲哀の表情で見つめた。

「戦は終わったよ、カイ。 ……とりあえず、終わった」

ラウルはカイの剣をその場に突き刺した。そして、爆発でひしゃげたカイのロケットを新しい鎖に繋げて首からぶら下げた。

「ラウル、敵兵を含む犠牲者すべての弔いが終わった」

レンブランは後方からゆっくりとラウルに近づくと優しく声を掛けた。

「カイ、もう行くよ。まだやらなくてはいけないことがあるんだ」

ラウルは革命軍の旗を強く握り締めた。

「我々も手伝いますよ」

サジェスの声に耳を傾けると、ラウルは後ろを振り向いた。すると、ラウルの後ろには兵士たちが整列していた。

「ああ、よろしく頼む。皆、忘れないで欲しい。我々の勝利は多くの犠牲と哀しみを生み出した。我々はその者たちのためにも多くの平和を作り出す義務があることを。我々の戦いはまだ終わっていない。皆で力を合わせて平和を築き上げよう」

話を聞いた兵士たちは手を高々と挙げた。

 ラウルはひどく疲れた顔をしていたが、精一杯笑顔を作った。

 兵士たちを引き連れてラウルはその場を立ち去った。

「また、来るよ」

(ああ、待っている)

カイの声が聞こえた気がして、ラウルは振り返った。

 赤く染まる空を後方にして、ラウルたちはゆっくりと歩き始めた。

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