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約束

 夜が更け、交代で見張りをする兵士の他は疲れた体を休ませていた。レンブランは兵士たちの様子を診回ると同時にアクセルを呼びに行った。

「アクセル、入るぞ」

レンブランは返事を待たずにテントの入り口を開けた。すると、アクセルは戻ってきた鳥にエサを与えていた。

「アクセル、カイが待っている。そろそろ宿のほうへ行ってくれないか?」

「わかりました」

アクセルは鳥かごを持つと、テントを出て行った。疑いの眼差しでレンブランが鳥かごを見ていることに気づくと、アクセルは笑みを浮かべた。

「かわいいでしょう。カイ様にも見せてあげようと思いまして」

レンブランはため息をつきながら、頭を掻いた。

「俺は診回りをしてから部屋に戻る」

レンブランはアクセルが腰に携えている剣を没収すると、その場を立ち去った。

 宿ではカイに呼ばれたラウルが、カイと共に部屋で休みをとっていた。

 部屋の扉をノックする音が聞こえた。カイは念のために剣をとり、扉の前へと向かった。

「アクセルか?」

「はい」

カイが尋ねると、アクセルは静かに返事した。カイは剣を下ろし、扉を開けると部屋へと招き入れた。

 カイの視線は鳥かごへと向いていた。すると、アクセルは鳥かごを目の高さまで持ち上げた。

「かわいいでしょう」

カイは鼻で笑うと、うなずいてみせた。

「約束どおり、なぜ内通行為を行ったかを説明してもらおうか?」

カイが尋ねると、ラウルは体を起こしアクセルに椅子を差し出した。アクセルは椅子に座ると、一息つき、事のあらましを説明し始めた。

「……一年前、隊に入隊して五年が過ぎたころ、両親と妹の家族三人が革命軍側の知り合いによって人質とされました。彼らは、私の配属された班の情報を提供すれば家族を優遇して扱う、提供しなければ殺すと脅してきました」

アクセルは鳥かごに目を遣った。

「伝達に鳥を使ったのは、私の村ではしばし急用の際には伝達鳥を用いて伝達する風習があるからです」

「なぜ、俺やレンブランに相談しなかった?」

カイは落ち着いた口調で尋ねた。

「相談したら家族を救えましたか? 従うしかなかった」

アクセルは声を大にして言うと、そのままうつむいた。それに反応して鳥かごの中で鳥が羽をばたつかせた。

 静かに見ていたラウルは冷静に尋ねた。

「家族はまだ人質に?」

「はい」

「彼らとの接触は一切事切れたのか?」

その問いの後にしばらく沈黙が続いた。アクセルは革命軍に就くべきか国王軍に就くべきか考えていた。

 アクセルはカイとラウルの顔をじっと見ると、決心したように話し始めた。

「いえ、国王軍によるフォヤーズ村侵攻が成された場合、三日後の晩にコンサークル高原に来るよう言われています」

「伝達鳥を使えば高原に来る相手の人数、人物を特定できるか?」

ラウルが尋ねると、アクセルは小さくうなずいた。

「ええ」

アクセルの言葉を聞くと、ラウルは策を練りだした。

「では、家族を人質とした知り合いと今後の状況を話すため革命軍の策士の二名は来るように手紙を書き、この場で伝達鳥を飛ばしてもらおう」

「家族を救ってくれるのですか?」

アクセルはすがるようにラウルを見た。

「善処する」

「……わかりました」

アクセルは答えて、さっそく手紙を書き始めた。

「どうするつもりだ?」

カイはラウルに尋ねた。

「小隊を率いて革命軍を討ち、アクセルの知り合いと策士は捕虜とする。そして、知り合いからは家族の状況を聞きだし、策士からは革命軍の軍事状況を聞きだす。」

「小隊では返り討ちにされる可能性があるのではないか?」

「いや、こちらに気づかれないよう、相手は小隊以下、数名程度で来るだろう」

一通り終えると、アクセルはペンを置いた。

「手紙ができました」

アクセルはラウルに手紙を渡した。


『われわれ国王軍は革命軍を殲滅し、フォヤーズ村に侵攻した。

なので、約束どおり三日後、例の場所で落ち合いましょう。

その場で国王軍の今後の計画を伝えます。

                            アクセル』


ラウルは手紙の内容を確認すると、アクセルに返した。

「では、伝達してくれ」

アクセルは伝達鳥の足に手紙を付けると、窓から伝達鳥を飛ばした。空を舞うことがうれしいのか、伝達鳥はピィーと数回鳴いて大空を駆け回り、暗闇の中へと消えていった。

「さて、そろそろ休ませてもらうよ。今日は格別疲れた」

ラウルはゆっくりと立ち上がった。

「ああ、すまなかった。アクセルは俺の部屋に居てもらうことにする。それと、この件は俺からレンブランに伝えよう」

「ああ、よろしく頼む」

ラウルは返事をすると、静かに部屋を後にした。


 二日後、兵士たちは束の間の休息を楽しみつつ、最後になるであろう次の戦の準備をしていた。村人たちも抵抗の意思は見えず、中には兵士と笑いあう者たちの姿もあった。

 ラウルはクリスの墓へ赴き、手を合わせた。そして、クリスの母親に詫びた。

「あなたが頭を下げるのは、あの子の家族だからですか? 大勢殺めたうちの一人なのでしょう? あの子を殺めたことを悔いるなら、あなたが殺めたすべての人たちについても悔いるべきです」

母親の言葉はラウルの心に突き刺さった。

 ラウルは何も言えず、うつむいたまま家を出て行った。クリスの妹はその後姿を涙目で睨み付けていた。

 日が傾き始めた夕刻、レンブランが昨夜同様に兵士たちの様子を診回る中、カイの部屋に伝達鳥が戻ってきた。部屋にいたラウルはアクセルの肩に止まった伝達鳥から手紙を取り、読み上げた。

「陽が沈むまでにカイ一人を連れ、コンサークル高原に来い。適わぬときは家族が死ぬことになるだろう。策士ムース」 

アクセルは窓から夕陽を見つめ、有余がないことを悟った。

「すみません。俺、行きます。カイ様は来ないでください」

「ま、待て」

アクセルは静止しようとするカイの手を払いのけて部屋を飛び出した。

 カイは慌てて後を追おうとしたがラウルは腕を掴んで止めた。

「待て。敵は大勢で来ているかもしれない。小隊以上の人数で編成し直す」

「全軍で総攻撃を賭ければいいだろう」

ラウルは何度も首を横に振った。

「すぐには無理だ。今の兵士たちのモチベーションと装備ではろくな戦いはできない。それに、おそらくあいつらの狙いはこの村を奪い返し、我々を革命軍の本拠地と挟み撃ちにすることだ。コンサークル高原に出向いている奴らは囮かもしれない」

「この村が欲しければくれてやればいい。全軍でやつらを倒して、そのモチベーションで本拠地を落とせば、この戦いを終わらせることだってできるだろう」

カイはラウルの手を振り払い、続けて言った。

「俺には、いや、俺たちには両親も兄弟もいない。家族を失うかもしれないアクセルの気持ち、その苦しみをお前だって嫌というほどわかっているだろう」

カイの言葉を聞き、ラウルは表情を曇らせた。

「この村が奪還されれば、国王軍の兵士は皆殺されるだろう。この村に住む者も殺されるかもしれない。この村に住むすべての家族、もちろんクリスの家族もだ」

返す言葉が見つからなかったのか、カイは押し黙った。

「……それでも俺はアクセルを追う。ラウルはこの村を守り、この村に危害がないと判断できしだい、兵士たちを連れて救援に来てくれ。それまでは、必ず生き残ってみせる」

カイは決心してラウルの目をまっすぐ見た。そして、防具一式と剣、万一の時のためにとっておいた手榴弾、使い慣れない銃を一つずつ手にすると、部屋を駆け出て馬に乗った。そして、間髪いれずに駆けて行った。

 ラウルはカイを止めようと慌てて自分の部屋で防具一式と剣、銃を一丁持ち、部屋を出た。

 宿の入り口にはレンブランが戻ってきていた。

「どうしたんだ、ラウル。先ほどカイも慌てた様子で出てきたが」

慌てて出てきたラウルを見てレンブランは尋ねた。ラウルは事のあらましをレンブランに説明した。

「俺はカイを追う。レンブランはこのために編成した小隊に腕の立つ数人を加えてすぐにコンサークル高原へ送ってくれ」

ラウルはとっさに指示を出した。

「俺はどうすればいい?」

「革命軍が攻めてくる可能性がある。兵士たちに戦闘の準備をさせ、革命軍が攻めてくる気配がなければ、念のためさらに小隊を編成して送ってくれ。先日援軍は手配したが期待するな」

ラウルは加えて指示を出すと馬に乗り、カイの後を追った。

 レンブランはまず見張り台に行き、見張りの兵士に非常事態鐘令を鳴らすよう指示を出した。

 兵士たちが見張り台の下に集まると、レンブランは大まかに事のあらましを説明した。そして、数名の兵士の名を呼び上げた。

「……以上の者はクールガンを筆頭に小隊を組み、直ちに装備を整え、コンサークル高原へと向かえ。着いたらそこにラウルとカイがいる。彼らの指示に従うように。後の者も至急装備を整え、戦闘準備を始めてくれ」

レンブランの指示を聞いた兵士たちは、目を丸くして呆けていた。そんな中、一人の兵士が口を開いた。

「どういうことか、もっと詳しく説明していただけませんか?」

「今は一刻の時間も惜しい。説明は後でする。クールガンたちは革命軍の奇襲に遭う可能性があるから十分周囲に注意を払うように。残る者も革命軍が攻め入る恐れがあるため、直ちに準備をしろ。以上」

レンブランは指示を出し終えると、自分も戦闘の準備を整えるため、足早に宿へと戻っていった。兵士たちもようやく状況を把握したのか、慌てて自分たちの寝床へと戻り、支度を行った。

 十数分後、支度を終えたレンブランが見張り台へと戻ってくると、クールガンが馬に乗って戻ってきた。

「どうしたクールガン?」

レンブランは焦り口調で尋ねた。

「コンサークル高原へ行く途中に多くの革命軍の姿を確認しました。もはや小隊編成ではコンサークル高原へ行けません」

クールガンは険しい顔をして答えた。次の瞬間、見張り台の上にいる兵士が声を上げた。

「レンブラン様、すごい数の革命軍が攻めてきます」

レンブランは慌てて見張り台の上に登り、あたりを見渡した。すると、出入り口を塞ぐかのように革命軍が押し寄せてきていた。

「我々は、どうすればいいですか?」

クールガンが心配そうに尋ねると、レンブランは自分を落ち着かせるために一呼吸置いた。

「高原に行くのは後だ。小隊には革命軍を討つのに手を尽くすよう伝えてくれ。また、兵士たちにすぐ配置に就くよう伝えてくれ」

レンブランは指示を出すと、自らの手で鐘令を鳴らした。

(ラウル、カイ、少し堪えてくれ。すぐに援軍を向かわすからな)


 カイは、コンサークル高原でアクセルに追いついた。日の沈んだ高原は静まり返り、月明かりが優しく二人を照らしていた。

「なぜ、来たのですか?」

アクセルが困惑した表情を浮かべて尋ねた。

「皆が生きて終戦を迎えるためだ。ラウルと小隊が来るまで生き抜くぞ」

カイは覚悟を決めたかのように顔を強張らせた。そして、馬から降りると、手綱を放して馬を逃がした。

 しばらく、二人が高原の中央でたたずんだ。すると、遠目に影が見え始めた。

「ご苦労だった、アクセル」

一人の男を筆頭に数名の兵士が姿を現した。

「あいつがお前の知り合いか?」

カイがアクセルに尋ねると、アクセルはうなずいた。

「はい。名はダーチェといいます」

アクセルは声を張り上げ、ダーチェに語りかけた。

「家族は無事なのだろうな」

「残念だが、貴様の家族は国王軍側に内通しようとしていたため、反逆罪で処刑済みだ」

ダーチェの言葉に愕然とし、アクセルは地面に膝を付けた。それを見ていたカイが声を上げた。

「それはいつの話だ?」

「人質としてすぐだな。まぁ、気にすることでもないだろう。二人とも今から逝くのだから」

カイがダーチェを睨みつけ、剣を抜こうとしたとき、ラウルが馬に乗って駆けて来た。

「村はどうした?」

カイが尋ねると、ラウルは気難しい顔をした。

「レンブランに指示を出してきた」

ラウルは馬から降りると、アクセルを横目で見た。

「家族は……」

「ああ。だが、敵はあれだけ。策士こそいないようだが、仇を討って村へ戻ろう」

「策士なら来ているさ。周りをよく見ろ」

ラウルの言葉を聞き、カイはゆっくりと周りを見渡した。すると、兵士があたりを取り囲んでいることに気づいた。

「やはり、多勢か」

ラウル革命軍の兵士を睨み付けるように周りを見回した。

「無論だ」

ダーチェは得意気な顔をした。

 ダーチェの隣に一人の男が姿を現した。

「ムース様、いかがなさいますか?」

ダーチェはムースに尋ねた。

「作戦通りだ」

ムースは冷淡に答えると兵士たちに突撃の指示を出した。革命軍の兵士たちはラウルたちの逃げ場を塞ぐように四方から徐々に範囲を狭めて突撃してきた。

「来るぞ。話も後悔も後にしよう」

カイは剣を抜いた。

「レンブランは必ず来てくれる。それまで生き抜くんだ」

ラウルもまた馬から降りると、剣を抜いた。

「ダーチェは俺が殺ります」

アクセルは立ち上がると、剣を抜き、鬼のような形相でダーチェを睨み付けた。

 三人は背を合わせ、四方からやって来る革命軍との戦いに備えた。

 革命軍がラウルたちのもとへ到達すると、静かな高原が激戦地と化した。地鳴りのような足音や唸り声が轟き、剣が交わると火花が散った。

 三人は革命軍の圧力に押し潰されそうになりながらも必死に堪えた。

「この隊形では潰される。もう少し敵数を減らしたら、隙をみて三方向に散るぞ」

ラウルは目前の敵を斬り払うと、二人に目を配った。

「わかった。死ぬなよ」

カイもまた目前の敵を斬り払うと険しい顔つきで答えた。

 それからしばらく同様の隊形で戦いが続いた。ラウルとアクセルは数箇所に傷を負っていたが、致命傷となるようなものは一つもなかった。恐ろしいことにカイは、無傷で革命軍の兵士を斬り捨てていった。

 革命軍の兵士たちは、堪らず後退した。

 革命軍の一人の銃士が銃を構え、カイに向けた。

「散るぞ」

ラウルはそれを見つけると、慌てて指示を出した。

 三人は革命軍たちを斬り払いながら、僅かな隙間をくぐり抜け、三方向に散らばった。

 銃士は自軍の兵士が邪魔で、カイに照準を合わせられずにいた。

 ラウルは兵士たちの横を抜けると持ち合わせていた銃を手に取った。そして、革命軍の銃士に照準を合わせ、引き金を引いた。弾は兵士たちの間を縫って、銃士のこめかみを打ち抜いた。

 ラウルはすぐさま銃から剣に持ち替え、さらに距離をとるために走っていった。

 三人は一定の距離を開け、剣を構えた。

 次の瞬間、ラウルは自らの目を疑った。革命軍も三方向に散らばり、三人を追ったが、ほとんどはカイのほうへ向かっており、ラウルとアクセルのほうには僅かな兵士しか向かってきていなかった。

「カイさえ倒せれば、後は残りで畳み掛けられる。兵士を順等に割り振って追えば、中途半端な結末を迎えかねんからな」

ムースは薄ら笑みを浮かべた。

「邪魔だ」

ラウルは怒鳴り声を上げ、革命軍の兵士を斬り払いながら、カイのもとへ駆け出した。しかし、兵士たちの予想以上の抵抗にあい中々進めずにいた。

(やむを得ない。カイ少し待っていてくれ)

ラウルは先に兵士たちを斬り伏せることにした。

 アクセルは、兵士たちを斬り払いながらも照準をダーチェに合わせ、走っていった。


「出口を斬り開け」

レンブランは兵士たちに檄を飛ばすと、自らも剣を抜き、村の西側出入り口へと駆けていった。村では既にどの出入り口でも剣が交わり、金属音が響いていた。数では圧倒的に革命軍が優勢であり、村の入り口を抜けられるのも時間の問題のように思われた。

「援軍は間に合わないか」

レンブランは眉をひそめると、歯を食いしばった。しかし、何やら村の中から声が近づいてきた。

「村に入れるな」

フォヤーズ村の青年たちが農具を手に駆けてきた。

 咄嗟に剣を向けたレンブランの横を抜けると、フォヤーズ村の青年たちは革命軍の兵士たちに斬りかかった。

「どうして?」

レンブランが目を丸めている、一人の青年がレンブランのもとへとやって来た。

「長老が国王軍に付くほうが適策だと判断した。それだけだ」

 フォヤーズ村の青年たちの支援もあり、一時は革命軍の侵入を許すところであった入り口での攻防も体制を立て直すことができた。しかし、それでも尚革命軍側が優勢であった。

「援軍が来るはずだ。もう少し堪えろ」

レンブランは今一度兵士たちの士気を高めるべく、声を上げた。そして、再度先陣へ向かった。

 国王軍の防戦が続いた。多くの兵士が傷つき、レンブランの前で倒れていった。

(敵の数が多すぎる。何とかしないと、このままでは敗戦も時間の問題だ)

レンブランは歯を噛み鳴らすと、策を練るために現状把握に努めた。

 見張り台にいた兵士が慌てた様子で走ってきた。レンブランは一旦戦線から引いた。

「レンブラン様、援軍が見えました」

「どれ程の人数だ?」

レンブランは祈るように尋ねた。

「おそらく一軍すべてです」

レンブランは思わず笑みを溢し、こぶしを強く握った。

「よし。挟み撃ちにして一気に片をつけるぞ」

レンブランは剣を掲げ、またもや先陣へと向かっていった。

 目前の敵に気をとられていた革命軍は、後方から迫り来る敵に気づくことができず、板ばさみ状態となった。

「勝利は目前だ。押し切れ」

革命軍の指揮官が声を張り上げると、革命軍は必死の抵抗をみせた。しかし、戦況は瞬く間に逆転した。

「指揮官を狙え。早くこの戦いを終わらせるんだ」

レンブランはラウルたちのことが気にかかり、焦りを浮かべていた。

 援軍が到着しても予想以上に苦戦を強いられ、一刻ほど経過した。指揮官は剣を向けられると、潔く降伏した。

 援軍の策士は馬から降りると、レンブランに歩み寄った。

「σ班のサジェスです。ラウル殿の伝達を受け、支援に参りました。ラウル殿はどちらに?」

サジェスはレンブランに尋ねた。

「おそらくラウルは今、コンサークル高原で交戦中です。直ちにそちらへ向かって欲しい。クールガンはいるか?」

レンブランは辺りを見回した。すると、人ごみを掻き分けながらクールガンが顔を覗かせた。

「はい。ここです」

先陣から戻ってきたばかりのクールガンは疲れた顔をして答えた。

「俺は彼らと高原へ向かう。見張りを厳重に行い、兵士たちにはいつでも戦を行えるようにモチベーションを上げておくよう伝えてくれ」

「まだ、攻めてくる可能性があるということでしょうか?」

クールガンは表情を曇らせた。

「革命軍は今回の策にかなりの兵士を費やしたはずだ。これ以上攻め込んでくる可能性は低い。しかし、これを機に我々は一気に革命軍の本拠地シデタル攻め込むかもしれない」

レンブランは険しい表情で説明した。そして、近くにいたフォヤーズ村の青年を呼んだ。

「おかげで助かった。皆にありがとうと伝えておいてくれ」

レンブランは笑顔で言うと、早速馬に乗った。

「σ班は直ちにコンサークル高原へ向かう。戦闘準備をしておくように」

サジェスは兵士たちに指示を出すと、馬に乗りレンブランと共に駆けていった。


 カイは左腕を斬りつけられ、防戦一方になっていた。一方、ラウルはようやく革命軍の兵士を斬り倒した。すると、すぐさまカイのもとへと駆けていった。

 アクセルもまた、何とか革命軍の兵士を斬り倒した。そして、ラウルがカイのもとへ向かったことを確認するとダーチェのもとへと駆けていった。

「始末してきます」

ダーチェはムースに告げると、勢いよく駆け出した。そして、間もなく二人の剣は交わることとなった。

 先刻、革命軍の兵士に負わされた手傷を攻められ、アクセルは防戦を余儀なくされた。

「安心しな。家族同様、痛みを感じる前に殺してやる」

ダーチェは力の押し合いになっていた剣を引き、アクセルの体勢を崩した。すると、ダーチェはアクセルの咽喉元を目掛けて剣を振り抜いた。

 二人の間に突風が吹き抜けた。

 ダーチェの剣速は鈍り、アクセルは剣を受け止めるとダーチェの剣を後方へ弾き飛ばした。

「躊躇っている訳ではあるまいな」

アクセルが尋ねると、ダーチェは一瞬表情を曇らせた。

「お前は敵だ。躊躇う必要があるか?」

ダーチェはすぐさま殴りかかったが、アクセルは剣の柄でダーチェの胴を突いた。

「躊躇っているのか?」

ダーチェはその場に倒れこみながら、鼻で笑った。

「……安心ろ。痛みは感じさせない」

アクセルは剣を振りかざした。ダーチェは覚悟を決めたのか、目をつむった。

 アクセルが剣を振り下ろそうとした時、ムースが銃を構え、ラウルを狙い撃とうとしている様子が窺えた。

「ラウル」

アクセルの声と同時に、一発の銃声が鳴り響いた。

 ダーチェが目を開けると、目の前にアクセルの姿はなかった。

 ムースが構えた銃からは煙が上がっていた。

 ラウルもまた銃声を耳にし、立ち止まった。そして、銃声のしたほうへと振り向くと、そこには胸を押さえ、地面に膝をつくアクセルの姿があった。

「アクセル」

ラウルが大声を上げたその時、ムースが銃に弾を込めなおす様子が見えた。

 ラウルはすぐさま銃を構えた。ムースもほぼ同時に銃を構えた。そして、二発の銃声が響き渡った。ムースの銃弾はラウルの左肩をかすめた。一方、ラウルの銃弾はムースの額を打ち抜いていた。

 ダーチェはアクセルに弾かれた剣を拾うと、腹を押さえながらアクセルのもとへ向かった。ラウルは慌てて最後の銃弾を銃に込めると、銃をダーチェに向けた。

 アクセルの右手が動いた。ラウルはアクセルの想いを汲んで引き金を引くことを躊躇った。

「……すぐ楽にしてやる」

ダーチェはアクセルのもとへゆっくりと歩み寄ると、ダーチェは剣を振り上げた。しかし、一瞬の躊躇いを見せた。その瞬間、剣を持つアクセルの右手がダーチェの胸元へ伸びた。

「もう、終わりにしよう」

ダーチェの胸からは血が流れ落ちた。

 アクセルが剣を静かに抜くと、ダーチェも膝をつきアクセルへもたれ掛かった。

「俺がしたこと、許されるとは思っていない。 ……仕方がなかったんだ。お前の家族を捕らえないと俺の家族が……」

ダーチェは涙を流し、言葉を詰まらせた。

「すまなかった。辛い思いをさせたな」

アクセルは哀れむようにダーチェに話しかけた。アクセルとダーチェは互いにもたれかかりながら、息を引き取った。

 カイは未だ防戦を強いられていた。そして、ついに四方から同時に突きつけられた剣の一つがカイの左腹部を貫いた。カイは目を見開くと、口から血が流れ落ちた。

 ラウルは慌てて銃を向け、カイに剣を突き刺した兵士を撃ち抜こうとした。

「小ざかしい」

その兵士を含めたカイの周辺を囲む兵士たちはカイによって瞬く間に斬り伏せられた。次の瞬間、斬り伏せられた兵士たちの後方から、またしても四方から同時に剣が突き刺された。今度は二本の剣がカイの胴を貫いた。

 カイは何とか踏み止まると、その兵士たちを斬り伏せた。

「化け物か、こいつ」

兵士たちがたじろぐと、カイは態勢を立て直し、ラウルのほうに顔を向けた。そして、自らの腰に携えている手榴弾へと目をやった。ラウルはそれが何を意味しているか瞬時に理解した。

「かかれ」

接近戦を指示していると思われる兵士のかけ声でまたしても四方から剣が伸びた。その攻撃で両手両足を貫かれたカイは剣を落とした。これを機に止めをさそう歩み寄る兵士たちをカイは鋭い眼光で睨みつけた。

 兵士たちは思わず足を竦ませた。

 カイは今一度ラウルのほうへ顔を向けた。ラウルは戸惑い、首を横に振った。すると、カイは腕に付けられた十字架の焼印をラウルに見えるように掲げた。

 

『俺たちはいよいよ明日、軍に入隊することになる。万一、戦場で俺が敵の手に落ちそうになった時には、その手で俺を殺してくれ、ラウル』

『……わかった。でも、逆の立場になった時にも同様に俺を殺してくれよ、カイ』


 夕陽が照りつける、あの丘の上の約束が走馬灯のようにラウルの頭を駆け巡った。

「け、剣を投げつけろ」

兵士の指示で周囲の兵士たちは剣を持ち替えた。カイは両足に刺さった剣を抜き捨てると、足を引きずりながら兵士たちのほうへ歩み寄った。

「こいつ、まだ動くのか?」

兵士たちは恐怖に身を震わせた。カイは首に掛けていた、旅立ちの日にシスターからもらったロケットを右手に巻きつけると、ラウルのほうを向き、優しく微笑んだ。

 まるで、時が止まったかのように、二人の間を静かで穏やかな空間が包んだ。

「わかった。わかったよ、カイ」

覚悟を決めたのか、ラウルもまた首に掛けていたロケットを外すと、右手に巻きつけた。そして、カイの腰に携えてある手榴弾に照準を合わせた。

「ありがとう」

カイは小声でそう言うと、微笑を浮かべたまま静かに目を閉じた。

「すまない」

二人はほぼ同時に言うと、ひと筋の涙を流した。そして、ラウルはゆっくりと引き金を引いた。

 銃弾は兵士たちの間を縫ってカイのもとへ到達した。打ち抜かれた手榴弾は爆発を引き起こした。

「な、何が……」

 後方にいた革命軍の兵士たちは一命を取り留めたが、状況を把握する前に歩み寄るラウルに止めを刺された。

「降伏する。だから、助けてくれ」

逃げ惑う兵士に対しても執拗に追いかけ、必ずその息の根を止めた。そして、ラウルは革命軍の兵士を一人残らず殺して回った。

 ラウルは何かを踏んだことに気がつくと足元を見た。そこには鎖の部分が断ち切れ、少し形がひしゃげたロケットがあった。

 ラウルは膝をつき、大事にそれを拾い上げた。そして、堪えようのない涙を流した。

 遠くから馬が駆けてくる音が聞こえた。


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