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孤児から兵士へ

 城下町に入ると、ラウルとカイは物珍しげに辺りを見回した。二人は以前シスターに連れられ、買い物に数回来たが、買い物を終えたらすぐに帰ってしまっていたため、ゆっくり見て回ったことがなかった。

「すごいな。お祭りのような華やかさだ」

「ああ。人の数もすごい。この一瞬で今まで見てきた人の数を裕に超えたな」

通商などの影響もあり、城下町は人でごった返していた。二人は目が回りそうになりながらも城門前へと行き着いた。

「でかいなー」

カイは城を見上げると、あ然とした。明らかに場違いな二人を見つけると、門の前に立っていた兵士が歩み寄った。

「そこの者。兵士になりにきたのか?」

門兵に声を掛けられると、二人はたちまち恐縮した。

「は、はい」

「中で受付を済ませろ」

兵士の指示を受けると、二人は頭を下げて城の中へと入っていった。

 二人は受付を済ませると、広場で待たされた。周りには自分たちと同じ年齢くらいの人たちが集まっていた。

 しばらくすると、胸に勲章をつけた一人の兵士が一段高くなっているところへと上った。

「若者たちよ、よくぞ集まった。実際に訓練に移る前に諸君の能力を調べさせてもらう。格技場へ移動せよ」

ラウルとカイは指示に従い、格技場へと歩いていった。

「今から適性検査を行う。各自で検査用紙を貰って全ての項目を検査し、係りの者にサインを貰うように。そして、全て終わったら再びここへ来て用紙を提出せよ。それと引き換えに各自の部屋の鍵を配布する」

指示を聞くなり、二人は用紙を取りに行った。

 二人が用紙を受け取ると、そこには視力、聴力などの身体能力から瞬発力などを測る運動能力、そして狙撃力や剣術、武術から知力など幅広く細かいことが記載されていた。

「これ全部一日でやるのか?」

カイはため息混じりに呟いた。

「ぼやいても仕方がない。早いところ回ってしまおう」

ラウルはカイの肩を叩いた。そして、ラウルたちは歩きだした。

 検査は城の敷地内の至る所で行われており、城に入ることが初めての二人には回るだけでも一苦労であった。その上、剣術や武術、知能検査などの慣れないことの連続で心身共に疲れ果てていた。

 やっとのことで全ての項目を終えた二人は格技場へと戻り用紙を受付へと持って行った。

「随分疲れた顔をしているな。この程度のことで参っていたら、日々の訓練なんてついて行けないぞ」

受付の兵士は厳しい顔つきで言うと、鍵と紙をラウルたちに手渡した。

「部屋の鍵と適正検査の結果がでるまでの訓練日程だ。結果によって各々の能力にあった部署へと分かれてもらう。そこで戦場に出て行けると判断されるまで訓練し、各々戦場へ行くこととなる。何か質問は?」

兵士に尋ねられるとラウルたちは互いの目を見合わせた。

「いえ、ありません」

ラウルが代表して答えると、受付の兵士は無愛想うにうなずいた。二人は兵士に一礼すると、二人は部屋へと歩いて行った。

 二人は右往左往しながら、やっとの思いで部屋を見つけた。部屋は四人一部屋制で、二人が部屋に着いたときには既に他の二人が部屋にいた。

「お、来たな。俺はクリス。宜しく」

二人が部屋に入るなり、百九十センチ以上ある大柄な男は笑顔で握手を求めた。

「俺はラウル」

「俺はカイだ。宜しく」

二人が挨拶をすると、検査で疲れ果てていたのか、ベッドで横になっていた男が鈍い動作で起き上がった。

「私はレンブラン」

「軟弱な奴だな。あの程度の検査でへとへとになりやがって」

クリスは豪快に笑いながらレンブランの背中を叩いた。

「止めろよ、痛いな。あの程度の検査? バカを言うな。俺は今日一日で一生分動いた気がするよ」

レンブランが腰を抑えながら言い返すと、クリスは指を刺しながら笑った。しかし、立っていることがやっとのラウルとカイは笑えずにいた。

「……よろしく、レンブラン」

「あ、ああ」

 四人は代わる代わる握手を交わした。そして、一通り挨拶が済むと四人でそれぞれの子供の頃の話に華を咲かした。気がつくと、いつの間にか四人は寝てしまっていた。その寝顔はどうみてもまだ幼さ残る少年であった。


 次の日から新兵たちは朝昼晩ひたすら基礎体力、基礎筋力の向上のための訓練をさせられた。食事も喉を通らぬほど走らされ、箸も持てぬほど筋肉を酷使させられた。

「いつまで続くんだ?」

「ずっとだろう」

ラウルが呟くと、カイはラウルに肩を貸しながら答えた。カイは日に日に訓練に慣れていき、一週間ほど経つと体がほとんど痛まずにいた。

 二週間が過ぎたある日、一日の訓練が終わった後で、新兵たちは格技場へと集められた。そして、皆が集まったのを見計らって一人の兵士が口を開いた。

「検査の結果が出た。各自自分のものを採れ。明日からしばらくの間は今までの基礎トレーニング朝と晩に行い、昼は適性検査の結果をふまえて訓練をしてもらう。その内容、場所などは結果の用紙に記載されているとおりだ。何か質問は?」

ラウルが用紙に目を遣ると、細かな分析がされていた。

 検査結果によって新兵たちは各自の能力に合わせて、武術専門の前線兵士、銃撃・弓など遠距離専門の遠距離兵士、策略を練る策士の三つに分けられていた。

「ありません」

新兵たちは口をそろえて答えた。

「では、解散」

兵士が言うと、新兵は各自部屋へと戻っていった。

「ラウル、お前は何になった?」

カイが尋ねると、ラウルは自分の用紙をカイに手渡した。

「策士だ」

「……そうか、俺は前線兵士。分かれてしまったな」

苦笑を浮かべながらカイは言った。

「じゃあ、カイは俺と一緒、ラウルはレンブランと一緒だな」

ベッドで横になっていたクリスはゆっくりと起き上がった。

「そうか、全く別々にならずによかった。あんな訓練一人だったら気が狂う」

ラウルが言うと、レンブランと二人でうつむいた。

「……明日も早いから寝よう」

レンブランはそう言うとベッドに倒れこんだ。

「策士組は一段とお疲れのようだな」

静まり返った部屋でクリスは笑いながらカイに話しかけた。

「あの訓練じゃ、仕方ないさ。さて、俺たちも寝よう」

カイは息をつくとベッドに入った。クリスは喋り足りなそうな表情であったが、渋々ベッドで横になった。


 翌日から予告どおりの訓練が始まった。ラウルたち策士組の訓練は、情報の解析や戦略の練り方などが主で、他に狙撃の訓練も行われた。一方、カイたち前線兵士組は実際の武器を使った実践が主であり、基礎トレーニングとは比べものにならないほどの激しい、命がけの訓練が課せられた。

 一年が経つと、四人はそれぞれの才覚を表し始めた。上官たちは当然四人に目をつけ、他の新兵とは違う訓練を課すようになった。カイは戦士としての頭角を現した。

 そして、二年が過ぎ去った。

 いよいよ四人は戦場に派遣されることとなった。

 早朝、四人は揃って広場に集められた。

「昨日、革命軍の本拠地クールガンの北にあるクシャ村も革命軍の支配下となった。よって、本来二年の訓練期間とは実に短いがお前たち四人も戦場へ派遣されることとなった。カイとレンブランは革命軍の本拠地を目指しているφ班、ラウルは革命軍に補給物資を送っていると思われるヴァーミン砦攻略のためにμ班、クリスは革命軍の退却ルートを無くすためにσ班。各自準備ができ次第各々の集合場所へ行き、配属先へ向かうように」

「はい」

上官直々の伝達を聞くと、ラウルたちは部屋へと戻っていった。

 戦争がより身近になり、四人は表情を強張らせた。そんな重苦しい空気の中、クリスが口を開いた。

「いよいよだな。いつかまた、どこかで逢おう。みんな少しは粘れよ」

「俺の剣を一度も取れなかったくせによく言うぜ」

カイは冗談交じりで言うと、早々と荷物をまとめ始めた。

「もう行くのか?」

「ああ。ラウル、必ずまた逢おう」

寂しそうに顔を歪めるラウルに、カイは一言だけ告げた。そして、うつむいたまま足早に、振り帰ること無く部屋を出て行った。

「待ってくれよ、カイ。 ……じゃあな、ラウル、クリス」

レンブランは二人と握手を交わすと、慌ててカイの後を追った。

「必ず生きてまた逢おうな」

ラウルが大声で叫ぶと、二人は静かに手を振り去っていった。

「カイの奴、随分急いで出て行ったな」

「別れの時は長引くほど寂しくなるからな」

ラウルはシスターとの別れを思い出した。

「不器用な奴だな」

クリスの言葉を聞くと、ラウルは穏やかに笑ってうなずいた。

 二人は別れを惜しむようにゆっくりと荷造りをした。

「……さて、俺もそろそろ行くよ」

クリスは荷物を肩に掛けると、ゆっくりと立ち上がった。

「ああ、元気で」

二人は握手を交わすと、クリスも静かに部屋を後にした。

「長引くほど寂しいか。 ……確かにな」

クリスは自分自身を鼻で笑うと、下を向いて歩いていった。

 ラウルは空しさに駆られていた。誰も居なくなった部屋で一人静かに残りの仕度を済ませると、静かに部屋を後にした。


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