第二話 聡平達、リアル兵庫編敵キャラ退治の旅始まるで
翌朝、六時頃。
「もう朝かぁ」
聡平は目覚まし時計の音で目を覚ますとすぐに私服に着替え、あのゲームの電源を入れた。
雅楽の音色で奏でられた和風ＢＧＭと共にスタート画面が表示されると、聡平は続きからを選ぶ。安福館内部に摩耶の姿が映った瞬間、
「おはようさん聡平様。体力は全快しましたか？」
摩耶はゲーム画面から飛び出て来た。
「おはよう摩耶ちゃん、出て来れてホッとしたよ。俺、リセットしたらもう出て来れなくなるんじゃないか心配だった」
「うちも飛び出せるかちょっと不安やったよ」
「今日はメイド服じゃないんだな」
「動きやすい格好で行きたいから」
「そっか。あの件、今朝のニュースではやるかな？」
聡平は地上波受信モード切り替え、ローカルニュースが流れるチャンネルに合わせる。
『この時間は、神戸のスタジオからニュースをお伝えします。今朝早くから、兵庫県内各地で怪奇現象が起きているとの報告が多数寄せられました。神戸市ではマカロンやゴーフルが空を飛んでいた。篠山市では異様に巨大な鹿を見かけたなど……』
トップでこんな報道が。
「目撃情報はいくつかあるけど、人的被害はないようだな」
聡平はとりあえず安心する。
「ゲーム内にいるべき敵キャラが、現実世界に長期滞在すると一般人に被害を与える可能性も無きにしも非ずやから、遅くとも明日までにはボスも退治しちゃいましょう。雑魚は無限増殖するから全滅は不可能やけど、ボスさえ倒せば残る雑魚は自動的にゲーム内に戻ってくれると思うで」
☆
午前六時五五分頃。聡平の自室に聡平、三姉妹、和香子、摩耶が集った。
摩耶がゲーム内から用意した竹刀などの装備品や神戸生チョコレート、神戸プリン、有馬サイダー、ゴーフルなどのご当地回復アイテムが床やベッドの上に並べられる。
「装備品と回復アイテムはおもちゃ屋やスポーツ用品店、うちのお店などから用意して来ました。回復アイテムはリアル神戸でも売られとるもんばかりやけど、体力回復効果は桁違いやで。このゲームでは回復魔法がないゆえ体力回復手段は食べ物か宿泊、入浴するくらいしかないから種類豊富に揃えられてるねん。ただ、回復アイテムは賞味期限がありまして、ゲーム内時間の期限を過ぎて使用すると食中毒になって体力下がっちゃう。最悪の場合０になっちゃうで。まあ今回は一泊二日の短期決戦やから、あまり関係はないけど」
「そこも従来のＲＰＧとは違いますね。あのう、このよもぎの葉っぱのような形のは、薬草かしら？」
和香子は十本くらいで束ねられたそれを手に掴んで質問する。
「はい、毒消しの薬草やで。丹波但馬地域は猛毒持ってる敵もおるから」
「これはリアルでは見かけないな」
聡平も興味深そうにそのアイテムを観察する。
「猛毒持ってる敵もいるのかぁ。怖いなぁ」
夢乃は不安そうに呟く。
「夢乃お姉さん、ワタシはますます闘争心が沸いて来たよ」
「あたしもだよ」
「鎧とか盾とか、防具らしい防具は用意してないんだな」
「ゲーム上と同じく、兵庫編では防具は普段着で特に問題ないと思うで。いきなりボスの巣食う城崎温泉へ向かうことも可能やけど、皆様の今の力では確実に瞬殺されちゃうやろうから、まずは最弱雑魚揃いの神戸、明石、須磨、甲子園、宝塚。その後は丹波篠山で多くのご当地敵キャラ達と対戦して経験値を稼ぎ、レベルを上げていきましょう。日本全国、各庁所在地の敵が一番弱く、田舎ほど強くなる傾向にあるで」
聡平 身長 １６８ 体重 ５１
防具 Ｔシャツ ジーパン
武器 竹刀 マッチ
夢乃 身長 １５８ 体重 ？
防具 チュニック プリーツスカート 麦藁帽子
武器 ヴァイオリン 和傘
絵莉葉 身長 １６０ 体重 ？
防具 カーディガン プリーツスカート 眼鏡
武器 プラスチックバット 手裏剣 マッチ Ｇペン 黒インク カッター
風実 身長 １３１ 体重 ３０
防具 サロペット ダブルリボン
武器 フルメタルヨーヨー 泡立て器 生クリーム絞り器 水鉄砲 手裏剣
和香子 身長 １５４ 体重 ？
防具 ショートパンツ ブラウス 眼鏡
武器 阪神タイガース応援用Ｖメガホン 竹うちわ マッチ
摩耶 身長 １５３ 体重 ？
防具 ワンピース
こんな装備に整えた聡平達六人は、回復アイテムなどが詰まったリュックを背負い押部宅から外へ出て、いよいよ敵キャラ退治の旅へ。
第一目標の三宮を目指して最寄り阪急駅までまとまって歩き進む。
「怖いなぁ。敵、一匹も出て来ないで欲しいなぁ」
恐怖心いっぱいな夢乃は最後尾、聡平のすぐ後ろを歩いていた。
「夢乃さん、みんな付いてるから怖がらないで。わたしはいつかかって来られても大丈夫なよう、心構えていますよ」
「あたしも戦闘準備万端だよ。敵キャラ達、早く現れないかなぁ」
「ワタシもはよ戦いたいわ～」
「絵莉葉様、気持ちは分かるけど戦闘になるまでバットは聡平様の竹刀のようにケースに入れて運んだ方がええで。お巡りさんに注意されちゃう可能性もあるから」
「それもそうやね」
絵莉葉は素直に従って専用ケースにしまう。
「きゃぁっ！」
夢乃は突然悲鳴を上げた。そして顔をぶんぶん激しく横に振る。
「もう敵が出たのか？」
聡平はとっさに振り返った。
「あーん、飛んで行ってくれなーい。誰か早くとってぇ。頭の上」
街路樹の葉っぱから落ちた虫が止まったようだ。
「なぁんだただの虫かぁ」
聡平はにっこり微笑む。
「なぁんだただの虫かぁじゃないよ聡平くん、背筋が凍り付いたよぅぅぅ。まだ飛んでくれなーい」
夢乃は今にも泣き出しそうな表情を浮かべていた。
「カナブンが乗っかってるね。この場所がお気に入りなんだね」
風実は楽しそうに眺める。
「夢乃お姉さん、カナブンくらいで怖がってちゃあかんやん。ここは聡平お兄さんが取ってあげて」
「分かった」
聡平は夢乃の後頭部を軽くぺちっと叩いた。
「あいてっ」
すると前髪に潜り込むようにとまっていたカナブンは、弾みでようやくどこかへ飛んで行ってくれた。
「聡平くん、痛かったよ」
「ごめん夢乃ちゃん」
「聡平お兄さん、なんで直接掴まなかったん？」
「虫を直接手で触るのは、ちょっと抵抗が」
「聡平お兄さんも情けないよ。二人とも、高校生なんやから昆虫嫌いは克服しなきゃ」
「虫の類は大人になるに連れて嫌いになっていくものだと思うけど俺は」
「私もそう思う」
「わたしは今も大好きですけど」
和香子は微笑み顔できっぱりと言い張った。
「夢乃様にとっては、身近な生き物も敵キャラ扱いのようやね」
摩耶はくすっと微笑む。
「洋菓子の形した敵は現れたら明らかに敵だって分かるだろうけど、イノシシとかの生物型の場合、本物との見分け付くのかな？」
聡平はちょっと気がかりになった。
「敵キャラの形状は現実世界でもＣＧやアニメ絵っぽく見えるやろうし、壁すり抜けるとかあり得ない挙動をしたり、生物型なら異様に大きかったりもするから、見分けは簡単に付くで」
☆
阪急神戸三宮駅到着後は、みんな南側の京町筋を西に向かって歩き進んでいく。
「リアル三宮も休日のこの時間ならまだ人通り少なくて最高やね。敵キャラ出没率も高くなるし」
「さっそくマカロンこまちが現れたぞ」
ゲームで見たのとそっくりな敵キャラの姿を発見するや、聡平は嬉しそうに伝えた。
みんなの前方に抹茶色、ピンク色、バニラ色の円盤型物体が合わせて八体現れ、浮遊しながらどんどん近づいてくる。
「すっごくかわいい。攻撃なんてかわいそうで出来ないよぅ」
夢乃はうっとり眺める。
「夢乃様、マカロンこまちはリアル蚊よりちょっと強い程度で、リアル世界のか弱い女子高生でも平手一発で退治出来るやろうけど、油断してたら危険やで」
摩耶が注意を促したその矢先、
「いたっ、指噛まれちゃった」
夢乃はさっそく抹茶色のやつにダメージを食らわされてしまった。
「こいつめ、夢乃ちゃん、大丈夫？」
聡平は夢乃の指をガブッと噛んだマカロンこまちを平手一撃であっさり退治した。
「ちょっと血が出てる。痛い」
「夢乃様に１か２のダメージやね。有馬サイダーで完全回復出来るで」
「本当？」
夢乃は摩耶から差し出された有馬サイダーを飲んでみる。
すると指の傷が一瞬で元通りに。
「すごい」
この効能に夢乃自身も驚く。
「おう、これはファンタジーっぽいわ～」
絵莉葉は別のマカロンこまちをバットで楽しそうに攻撃しながら感心していた。
「くらえーっ！」
風実も泡立て器一撃でマカロンこまちを退治した。
「倒したら姿が消滅するのもファンタジーだな。全滅させたらゲームと同じくマカロン落としていくのか」
聡平は拾ってアイテムに加えた。
「これは体力が５回復するで。皆様、財布の中を見てみぃ」
「おう、小銭が増えとるやん」
「本当だぁ」
「マカロンこまち八体倒して二百円ゲットか。ゲーム上の設定と同じだな」
「これもファンタジーですね」
「ワタシますます戦闘モチベーションが沸いたわ～。敵キャラ倒しまくってお小遣い増やしてアニメグッズ買いまくるよ。もっと出て来ぉい！」
「あたしもお小遣いもっと増やしたいから、敵キャラさん、どんどん出て来て」
「お小遣いが増えるのは嬉しいけど、私はもう出て来て欲しくないよ」
「わたしは戦ってお小遣いいっぱい増やしたいです」
「俺も。こんな方法で金が入るって、最高過ぎるだろ」
夢乃以外のみんなの願いが叶ったのか、ほどなくラテン系の陽気な音楽が聞こえて来て踊りながら近づいてくる、華やかで露出たっぷりな衣装を身に纏った数体のお姉さん達の姿が。
「神戸サンバ姉ちゃんの体力は１１。竹刀なら一撃と思うで」
「なんか、かわいいからちょっと攻撃しづらいけど、敵だしな」
聡平はエロティックな姿にちょっとときめいてしまいつつも、容赦なく神戸サンバ姉ちゃんの丸見せなおへそ付近を竹刀でぶっ叩いて一撃で消滅させた。
「まさに国際色豊かな神戸らしい敵ですね。今は神戸まつりの時期ではないけど」
「お小遣い稼ぎのためには戦わなきゃ損だね♪」
和香子と風実も戦い始めてすぐ、
「ぐはぁっ！」
絵莉葉が別の一体に弾き飛ばされた。
「大丈夫？ 絵莉葉」
夢乃は心配そうに側に駆け寄る。
「この敵、攻撃力どのくらいあるのかわざと当たって確かめてみたけど、予想以上にダメージ受けちゃったわ～。あばらにひび入っちゃったかも。めっちゃ痛ぁい」
絵莉葉は脇腹を押さえながら、苦しそうな表情を浮かべていた。
「じゃあ早く、病院行かなきゃ。一人で立てる？」
夢乃は優しく手を差し伸べてあげる。
「絵莉葉様、これを食して下さい」
摩耶はリュックから取り出した神戸プリンを絵莉葉の口にあてがった。
「おう、痛みがすっかり消えたよ。めっちゃすごいわこれ」
絵莉葉は飲み込んだ瞬間に完全復活。自力で立ち上がる。
「あらまっ！」
夢乃は効能に驚く。
「リアルな神戸プリンじゃ絶対起こりえないよな」
聡平は感心気味に呟いて、絵莉葉を襲った一体を竹刀二発で退治した。
「このようにリアルなら入院、絶対安静レベルの大怪我でも瞬時に治るので、皆様、怪我を恐れずに戦ってや」
「想像以上の治癒効果ですね。これは心強いわ」
「あたし、思いっ切り暴れまくるよ」
「すぐに治るって分かってても、私、痛い思いはしたくないよ」
「夢乃ちゃん、俺が敵の攻撃から守るから安心して」
「大丈夫かな？ 聡平くん力弱いでしょ？」
逆にちょっと心配され、
「俺を頼りにして欲しいな」
聡平は苦笑いする。
「また新たな敵キャラが近づいとるから、聡平お兄さんが一人で倒していいとこ見せてあげなよ」
「分かった。ゲーム上でもドールミュージアム付近で出た、女のビスクドールのモンスターか。ゲームと同じく防御力はけっこう高そうだな」
「神戸市街地の敵ではイノシシの次に防御力高いで。ちなみに体力は１２や」
「二発くらいか」
聡平はゴスロリ金髪フランス人少女型のそいつに立ち向かっていき、竹刀を振り下ろそうとしたら、
「うぉわっ、びびった。こんな技も使えたのか」
思わず仰け反ってしまった。
今しがた、腕が抜けて聡平の顔面目掛けて飛んで来たのだ。
「ロボみたいやね」
絵莉葉はくすくす笑い、ちゃっかり携帯のカメラで写真撮影した。
この時、
「この敵もやはり防御力高いわね」
「チェーンソー使わないと切れなさそうだね」
和香子と風実は近くに現れた、長さ１．５メートルくらいのフランスパン型モンスター二体と対戦中。
協力して一体をなんとか倒した直後、
「ワタシも協力するで」
絵莉葉は残る一体の背後からバット攻撃を見事命中させ消滅させた。
「絵莉葉お姉ちゃんすごいっ！ 一撃で倒しちゃった」
「バットはやはり攻撃力高いわね」
「ワタシも一撃で行けるとは思わんかったよ。会心の一撃が出たみたいや。聡平お兄さんはまだ頑張っとるね」
「危ねっ。噛まれかけた」
聡平は攻撃をかろうじて避けると、ビスクドールの顔面を竹刀で二発思いっ切り叩いた。
「まだ消えないか」
三発目を叩こうとしたら、
「やばっ」
片手で受け止められてしまった。
「こうなったら」
聡平はとっさにビスクドールの側頭部を蹴る。
「いってぇっ！ 想像以上に硬いな」
つま先にダメージを受けてしまったものの、これにて消滅。神戸生チョコレートを残していった。
「聡平くん、強いね。これは本当に頼りになってくれそう」
「これくらい楽勝だったよ」
夢乃に満面の笑みで褒められて、聡平は激痛を感じつつもちょっと照れてしまう。
さらに付近を散策すると、また新たな敵キャラが三体浮遊して近づいて来た。
ゴーフルの形をしていた。
「あの敵キャラはゴーフるん、体力は８や。防御力意外と高いで」
「こいつ、ゲーム上では噛みつき連続攻撃がかなりきつかったな」
聡平は攻撃される前に一体を竹刀ですばやく二発叩いて退治。
「いやぁん、このゴーフルちゃん、エッチだよぅ」
他の一体が夢乃のスカートに食い付いて捲って来た。
「ゴーフるんはこんな猥褻な攻撃もしてくるから、ＣＥＲＯがＢになっとるんよ。ゲーム上でも女の子を仲間にしてから遭遇させると見れるで」
摩耶はにこにこ笑いながら伝える。
「煩悩まみれなゴーフルだな」
いちご柄のショーツを見てしまった聡平は、とっさに目を背ける。
「ゴーフるんさん、ダメですよ」
和香子がすばやくこの一体をメガホン三発で退治。
「あーん、ワタシのスカートまで捲って来たよ。聡平お兄さん、助けてー」
「俺じゃなくても倒せると思う」
絵莉葉の純白ショーツをばっちり見てしまい、聡平はまたも目を背けた。
「絵莉葉お姉ちゃん、あたしがやるぅ。くらえーっ！」
風実は楽しそうに泡立て器で二発叩いて退治した。
これにて全滅。
それを見計らったかのようにティラミス型の敵が一体襲い掛かる。
「美味しそうな敵だね」
「夢乃お姉さん、見惚れてると痛い目に遭うよ。いったぁ」
絵莉葉が警告した矢先、上に乗ったハーブの葉を飛ばされ顔面に直撃された。
「ティラミスっちは体力９、ゴーフるんと同レベルの雑魚やで」
「ティラミス落としていくのかな？」
風実は期待しながら泡立て器で攻撃。
見事一撃で消滅。神戸ワインの一種、官兵衛ワイン白を落としていく。
「ティラミスっちが稀に落としていくこれも回復アイテムやけど、未成年の皆様が使うと体力減っちゃうで。ゲーム上では町中でアルコール飲料使ったら即効お巡りさんに説教されるで」
「せっかくのアイテムやから貰っとくよ。そういえば、摩耶ちゃんは敵から全然攻撃されんね」
「そりゃぁうち、案内役やから。ＲＰＧでも村人は攻撃されんやろ？」
「確かにそうやね。摩耶ちゃんもいっしょに戦ったらいいのに。スカッとするよ。あっ、あっつぅぅぅ！」
絵莉葉は背後から全身に熱々のコーヒーをぶっ掛けられた。
振り返るとそこには、高さ七〇センチ、直径一メール以上はあると思われる巨大なカップに入ったコーヒーが。湯気も立っていた。
「めっちゃ痛いよぅぅぅ」
涙目になり苦しがる絵莉葉。
「絵莉葉、早く冷やさなきゃ」
夢乃は心配そうに近寄る。
「絵莉葉様、これを。他の皆様も熱々コーヒーのぶっかけに気をつけて下さい。ちなみにこの神戸コーヒーちゃんっていう敵、ゲーム上ではポートアイランドのＵＣＣコーヒー博物館内や周辺にも出没するで」
摩耶は神戸生チョコレートを絵莉葉に与えてあげた。
「強敵っぽいわね」
「ゲーム上でも熱々コーヒー攻撃は脅威だったな」
和香子と聡平がどうやって攻めるかを考えているうちに、
「絵莉葉お姉ちゃんを火傷させるなんてひどいよ」
風実は泡立て器でカップ部分を攻撃。
「飛び跳ねたっ！ あつぅぅぅーい」
しかしかわされ、腕に少し熱々コーヒーをかけられてしまう。
「ワタシがとどめさすよ。仕返しやっ！」
全快した絵莉葉はバットでカップの部分を叩いた。
「よっしゃぁっ！」
会心の一撃が決まり消滅。コーヒー豆を落としていった。
その直後。
「うひゃっ！ 緊縛プレーまでしてくるなんてこの敵エッチやね」
絵莉葉は背後から新たな敵キャラに襲われた。マロンクリームに全身絡み付かれて身動きを封じられてしまう。
「おいモンブラン、クリームの使い道間違ってるぞ」
聡平が竹刀ですばやく側面を二発叩いて退治。
「ワタシについたコーヒーとクリームの汚れ、倒した瞬間にきれいに消えたわ」
絵莉葉はあっと驚く。
「汚される系のダメージは戦闘終えたら自然に消えるようになっとるで。服の破れもね。神戸の敵は洋菓子文化ゆえに汚してくる系多いで」
摩耶が伝えた矢先、
「うわっ、眩しっ！ 今度は何だ？」
色鮮やかな七色の光が聡平の目をくらました。
「ぐわっ、さっきボスンッて何かに体当たりされたぞ」
聡平は腹部に軽いダメージ。
横幅五〇センチ、高さ三〇センチほどのアーチ型の物体が縦横無尽に空中を動き回っていた。
「ルミナリエイルミネーションのモンスターかぁ。この子も神戸らしい。うひゃっ、眩しいわ～」
バット攻撃をしようとした絵莉葉、
「太陽直接見たみたいだよ。目がチカチカするぅ」
泡立て器攻撃をしようとした風実にも七色発光攻撃を食らわす。
「いたぁっ、尖っとるからよう効くわ」
「痛い、痛い。突き刺されちゃったぁ」
さらに体当たり攻撃も受けてしまう。
「この敵の弱点は？」
和香子が問いかけると、
「光やで」
摩耶がすぐに教えてくれた。
「光かぁ。得意技が弱点になってるなんて、カメムシが自分のにおいで気絶するような感じなのね。これを使おう！」
和香子はデジカメを取り出し、この敵をフラッシュ付きで撮影する。
これであっさり消滅した。
かりんとうシュークリームを残していく。
「やっと普通に目が見えるようになった」
「強敵だったよ」
「和香子お姉ちゃん、デジカメが武器になったね」
聡平、絵莉葉、風実の視力も同時に元の状態へ戻る。
「和香子ちゃん、機転を利かせた攻撃だったね。ん？ きゃっ、きゃぁっ！」
また新たな敵キャラが視界に入り、夢乃は思わず目を覆った。
「立派な芸術品だけど、こんな風に登場されると猥褻なおじさんに見えちゃいますね」
和香子は頬を少し赤らめて微笑む。
「このおじちゃん素っ裸だぁ！ お○ん○んも丸見えーっ！」
風実はくすくす笑いながら楽しそうに、駆け足で迫ってくるそいつを眺める。
オーギュスト・ロダンによって作られただろう、筋肉ムキムキな青年男性の裸体ブロンズ像型モンスターだったのだ。
「神戸市立博物館前に飾られてあるのがモンスター化みたいだな」
聡平は苦笑いする。
「神戸ジャン・ド・フィエンヌ、体力は１６。この辺りに出る敵じゃ攻撃力最強やで。パンチとキック、タックル攻撃に注意して」
「やぁ、かわいいマドモアゼル、おじさんといっしょにカレーを食べに行かないかい？」
そいつは人間の言葉を使って誘いかけてくる。
「ワタシ、こういう系の、苦手なんよ」
絵莉葉は眉を顰め、すかさずあの部分目掛けてマッチ火を投げつける。
「うをおおおおおおおおおおっ、ぐあああああああああああああああああっ！」
神戸ジャン・ド・フィエンヌは断末魔の叫び声を上げたのち、あっさり消滅した。
「絵莉葉お姉ちゃん、あの裸のおじちゃん火炙りの刑にしちゃったね」
「なんか、あとで呪われそうだな」
「ワタシもちょっと反省しとるで。おう、アニヲタっぽい男の子も前から来てるやん」
「あれも敵なのかしら？」
「俺も一昨日から計四時間以上はプレーしたけど見たことないぞ。でも、ＣＧっぽいし、本物の人間には見えんから敵だろう」
「一応そうやで。神戸のアニヲタ君、体力は８。レアな敵やで。オタク系の敵は各都道府県主に庁所在地やアニメの聖地に現れるねん」
そいつは逆三角顔、七三分け、四角い眼鏡。青白い顔、まさに絵に描いたような気弱そうな風貌で、萌え美少女アニメ絵柄のＴシャツを着てリュックを背負い、両手に萌え美少女アニメキャライラストの紙袋を持っていた。
「見るからに弱そうだな。素手でも勝てそうだ」
聡平は得意げになる。
「攻撃するのはかわいそう」
夢乃は憐れんであげた。
「この敵、リアルからゲーム画面越しに見たらキャラに黒線やぼかしがかかっとるはずやねんけどここでは消えとるね。リアルに現れたらこうなるんかぁ。っていうかゲーム内のと作品ちゃうやん。まあ流行のアニメにはタイムラグあるもんね。皆様、護身用のナイフ攻撃をしてくる可能性もあるから気を付けてや」
摩耶は感心しながら注意を促すも、
「面白そうなお兄ちゃんだね」
「ワタシもこのアニメめっちゃ好きよ。きみ、京○ニのアニメ好きそうやね」
風実と絵莉葉は躊躇いなくアニヲタ君のもとへぴょこぴょこ歩み寄っていく。
「……ボク、今忙しいねん。ほっ、ほなね」
するとアニヲタ君は慌ててピュゥゥゥッと逃走してしまった。
これによりみんな、お金と経験値は得られず。
「ありゃりゃ、逃げんでもええのに。お話出来なくて残念やわ」
「あのひょろひょろのお兄ちゃん、百メートル十秒切りそうな速さだったね。壁もすり抜けてたね」
「全国どこのアニヲタ君も弱点は三次元の女の子やねん。体力と攻撃力はマカロンこまちより上やけど、すぐに逃げられるからこのゲームでほんまの意味での最弱敵キャラやねん。倒した時に貰える金額は二万円。神戸市内に出る敵キャラでは破格やで」
「それはぜひとも倒したいわ～。さすがアニヲタは金持っとるね」
絵莉葉が感心していると、
「うをぉぉぉぉぉぉぉっ、ふぅっ！ うをぉぉぉぉぉぉぉっ、ふぅっ！ うをぉぉぉぉぉぉぉっ、ふぅっ！ みなちゃん、みなちゃん、みなちゃぁぁぁーんっ！ あきちゃんあやひーとまっちゃんも大好きだけどみなちゃんが一番だぁぁぁぁぁっ！ うをぉぉぉぉぉぉぉっ！ ふぅっ！」
こんな掛け声を上げながら時折ジャンプしつつ、紫のサイリウムを両手でブンブン激しく振り回していた、背丈は一六〇センチくらい、体重は百キロを超えてそうなぽっちゃり体型紫の法被を身に纏った三十代くらいの男の姿が。みんなの方へどんどん近づいてくる。
「聡平くん、あの人怖いよ」
夢乃は聡平の背後に隠れる。
「俺もそう思う」
「わたしも同じく」
聡平と和香子は動きを見て思わず笑ってしまう。
「摩耶ちゃん、あれはＣＧっぽいから敵やろ？」
「その通り。あれもレア敵、神戸の声ヲタ君や」
「声ヲタ君かぁ。ねえねえ、そっちの世界ではどんな声優さんが人気あるん？」
「お相撲さんみたいだね」
絵莉葉と風実はそいつにぴょこぴょこ近寄っていく。
「ぐはぁっ、いきなりサイリウム投げつけられたよ。もう逃げられてるし」
絵莉葉は腹部にその直撃を受け、弾き飛ばされてしまった。
「あたし、手裏剣投げたんだけどすごい勢いで逃げたから当たらなかったよ」
風実は唇を尖らせて残念がる。
神戸の声ヲタ君、逃走によりお金と経験値得られず。
「神戸の声ヲタ君は勇者達に出遭った瞬間、サイリウムで攻撃してすぐに逃げるんが特徴やねん。倒すんはアニヲタ君以上にむずいで」
摩耶が楽しげに伝えている最中、さらに前方から、
「うぉ、うぉ、うぉっ、うおおおおおおおっ！ さや姉、さや姉、さや姉ぇぇぇーっ！ うおおおおおおおおおおおっ！ うぉ、うぉ、うぉっ、うおおおおおおおっ！」
回転を交えて神戸の声ヲタ君以上に激しく踊り回るぽっちゃり体型の三十代くらいのおじさんが。
「神戸のドルヲタ君、倒せたら一万貰えるけど近づくとかなり危険やで。サイリウムだけやなく、初回特典抜いたＣＤも大量に投げつけてくるで。とくに夢乃様、かわいいから携帯奪われちゃうかも」
「こっ、怖いよ。さっきの人以上に」
夢乃はカタカタ震える。
「わたしも正直そう思っちゃったわ」
「時々テレビで見るライブで熱狂するドルヲタは、モンスター化してないリアルのでも脅威を感じるもんな」
和香子と聡平は大いに同情出来たようだ。
「うぉ、うぉ、うおっ、さや姉、さや姉、さや姉ぇぇぇーっ！」
神戸のドルヲタ君は引き続き豪快にジャンプしながら、神戸国際会館のある方角へ向かっていった。
「確かに倒すのめっちゃむずそうや。動き速過ぎやで。百メートル七秒くらいで動いてるんやないの？」
「動きも格好もすごく面白いおじちゃんだったね」
「関西に出るドルヲタ君はなんばのあのグループファン型が多いで」
見届けたみんなはさらに西へ向かって歩き進んでいくと、
「ご主人様ぁ。アタシのお店に来て欲しいにゃん♪」
背丈一五〇センチちょっとくらい、ゴスロリファッションでネコ耳＆紫髪ポニーテールな若い女の子にとろけるような甘い声で誘われ、聡平は腕を引っ張られた。
「あの、今忙しいから。って、こいつも、敵キャラみたいだな。宙にちょっと浮いてるし、アニメ絵っぽいし」
聡平はちょっと躊躇いつつも竹刀で腹部を叩き付けると、
「痛いにゃぁんっ！」
猫なで声を出してあっさり消滅した。
「聡平様、惑わされんかったのはさすが女の子慣れしとるだけはあるね。神戸のわるメイド＆レイヤーちゃん、容姿違いはあるけどどれも体力は１０でレベル１でも竹刀一撃で倒せる雑魚やねんけど、あの敵についていったらええ体験は出来るけど全財産奪われるで。製作者によるとアニヲタ君、声ヲタ君、ドルヲタ君から貰える金額が多いんはそうなっちゃった場合の救済的な意味合いもあるみたいや。せやけどそいつら倒すんさっき実感した通り容易やないから、ゲーム上でも遭遇したら即攻撃するか逃げた方がええよ」
「敵キャラ名通り、悪質なメイドとレイヤーだな」
聡平は顔をやや顰めた。
「ポンバシの方には悪質なんも実際おるみたいやね。おう、メイドちゃんレイヤーちゃんまた登場や。壁から突然出て来たし」
絵莉葉は笑みを浮かべて喜ぶ。
さっきのとは容姿違いが計七体、みんなの前に行く手を塞ぐように現れた。
「きさまぁ、さっきはよくもウチの百合友を消してくれたなっ。許さへんでっ！」
チャイナドレスコスプレの子が怒りに満ちた表情でいきなり聡平に飛び蹴りを食らわして来た。
「危ねっ！ おう、消えた。武闘派っぽい風貌だったけど、たいしたこと無かったな」
聡平はひらりとかわしてこの一体の背中を竹刀で叩くとあっさり消滅。ちょっと拍子抜けしてしまう。
「お嬢様、どうぞこちらへ」
「いえ、いいです。興味ありませんから」
夢乃は青髪ショートヘアな黒スーツ執事コスプレの子に手首を掴まれ引っ張られてしまう。
「客引き禁止！」
和香子がすぐに背後からメガホンで頭をぶっ叩いて消滅させた。
「美味しくなりやー、美味しくなりやー。萌え萌えきゅんっ♪」
「うひゃっ、ケチャップぶっかけて来たかぁ。ワタシの顔はオムライスやないで」
絵莉葉はパティシエメイド服姿栗色髪ツインテールなそいつのお顔に黒インクをぶっかけ、休まずバットで攻撃し消滅させた。
「ぶはっ、アイスコーヒーまで。冷たいわ～」
その矢先に絵莉葉はまた顔にたっぷりぶっかけられてしまう。
「ごめんなさぁい、お嬢様。きゃぁんっ」
巫女服姿で黒髪にカチューシャをつけ、眼鏡をかけた子がすぐ横にいた。とろけるような甘い声で謝罪するや、すてんっと転げて前のめりに。
「ドジッ娘ちゃんタイプかぁ。でも敵やから容赦はせんで」
「きゃぅっ！」
絵莉葉はその一体にもバットでお尻を叩き消滅させた。
「べつにあんたのために作ったわけじゃないんやからねっ！ たまたま売れ残って、それで、捨てるのは勿体ないかなぁって、思ってん」
風実は背丈一五五センチくらい、セーラー服姿黒髪ロングの子に不機嫌そうな表情ながらも照れくさそうに、チョコレートケーキをプレゼントされる。
「ありがとうメイドのおばちゃん、すごく美味しそう♪」
「おばちゃんじゃなくてお姉ちゃんやろ。あたくしまだ十七歳やねんよ」
「えっ、どう見ても三十歳くらいに見えるよ」
「そっ、そんなこと、あるわけないやろ」
「おう、学園モノのツンデレタイプや。年齢は明らかに自称やけど」
絵莉葉は嬉しそうに微笑む。
「風実様、そのケーキ睡眠薬入りやから食べたらあかんで。神戸のわるメイド＆レイヤーちゃんはこんなあざとい攻撃もしてくるねん」
「そうなの。やっぱり敵なんだね」
「ちょっとそこのあんた、営業妨害でうっ、ぶほっ、きゃんっ！」
摩耶から警告されると風実はすぐに生クリームをこのメイドの顔にぶっかけて、休まず腹部をヨーヨーでぶっ叩いて消滅させた。
その直後、
「この子ばりかわいい。妖精さんみたい。お尻にお注射したいな。えへへっ」
「あーん、助けてー。あたしお注射嫌ぁい」
風実はナース服姿で緑髪ミディアムウェーブ、虚ろな目つきの一体にお姫様だっこされ、そのまま持ち運ばれてしまう。
「誘拐はダメですよ」
和香子はすぐに追いかけてメガホンで背中を叩き消滅させた。
「あれはヤンデレタイプっぽかったね」
絵莉葉はにっこり微笑む。
「お兄ちゃん、アタシのお店『にゃ～に』へ遊びに来て♪ お願ぁい。五百円から遊べるよ。萌え萌え萌え♪」
「俺自身がそこへ行くのはまず無理だな」
聡平はやや呆れ顔で、背丈一四〇センチ台パジャマ姿ピンク髪ロングボブ、クマのぬいぐるみを抱えていた一体にマッチ火を投げつけて消滅させた。
神戸のわるメイド＆レイヤーちゃん、これにて全滅。
「さっきの戦いはめっちゃ楽しかったわ～♪」
お顔の汚れもきれいに消えた絵莉葉は大満足だったようだ。
みんなさらにもう数十メートル歩き進むと、
「ぃやぁーん、胡麻団子さんが、服に中に潜り入って来たぁ。あぁん、おっぱい吸い付かないで。この子、すごく油っこい」
夢乃は数体の胡麻団子型モンスターに襲われた。
「南京町胡麻団子郎、体力は９。こいつも最弱雑魚やで」
「南京町付近ではやっぱ中華料理がモンスターになっとるんやね」
絵莉葉はバットで、
「俺はゲームでは南京町の敵とすでに何回か戦ったよ」
聡平は竹刀で胡麻団子郎を次々と倒していく。
「これ全滅させたら、豚まんが貰えるのかなぁ？」
「そうだといいですね。あつぅ！ 湯気を噴出して来たわ」
「南京町豚まん、体力は白が１１。ブラックが１３。湯気と体当たりに気をつけてや。ちょっと強いブラックの方はイカ墨噴射にも注意してね」
風実はヨーヨーで、和香子はメガホンで近くに現れた白黒二種類の豚まん型モンスター数体と戦闘を始める。
「聡平くーん、助けてー。龍が、私のスカートに噛み付いて来たぁ」
夢乃はまた新たな全長五メートルくらいの敵に襲われてしまった。
「あの龍、夢乃お姉さんにエッチなことして幸せそうな笑顔しとるわ～」
絵莉葉は残る胡麻団子郎をバットで攻撃しながら楽しそうに眺める。
「南京町の龍、体力は１２。身動き封じの巻き付き攻撃に注意すれば雑魚やで」
「確かに強そうな見た目のわりには弱かったな。絵莉葉ちゃん、あとは頼んだ。夢乃ちゃん、ごめんね。敵の攻撃から守り切れなくて」
「気にしないで聡平くん。何もない空間から突然現れたんだもん。対処しようがないよ」」
ゲーム上ですでに対戦経験した聡平が竹刀で胴体を攻撃するとあっさり消滅した。
残りの胡麻団子郎、南京町豚まん、共に全滅させて、みんなまた歩き始めてほどなく、
「きゃっ、きゃあっん！」
「いやぁん、この風エッチやな」
周囲一体にブワアアアアアッと突風が起き、夢乃と絵莉葉のスカートが思いっ切り捲れ、ショーツが丸見えになった。
「うわっ！」
聡平はとっさに視線を逸らした次の瞬間、
「しっかり見ろよ少年。せっかく見せてやったのに」
「ぐわっ！」
何者かにタックルを食らわされてしまった。
人間の言葉でしゃべっていたが、横幅一メール、高さ三〇センチくらいの六甲山地のミニチュア型だった。
「いってててっ、背骨折れたかも。起き上がれねえ」
弾き飛ばされた聡平は地面に叩き付けられてしまう。
「聡平くん、大丈夫？ これを食べて」
夢乃はすかさずロールケーキを聡平に口に放り込んだ。
「おう、痛み消えた」
聡平、瞬時に完全回復。
「ひょっとして、六甲颪のモンスターなのかしら？」
「その通りやで和香子様、三宮・元町エリアで最強の敵、六甲颪くん。体力は１７や。弱点は炎」
「ミニチュアのくせに生意気やっ！」
「六甲颪くんさん、これでも食らいなさい」
絵莉葉と和香子がマッチ火を投げつけ、山火事状態になるやすぐに消滅した。
おいしい水六甲６００ｍｌペットボトルを残していく。
「マッチ棒使ったのに数が減ってないわ」
「ほんまや。ワタシも今気付いた。魔法のマッチ棒やね」
「ゲーム内の武器やから無限に使えるで。黒インクやＧペン、手裏剣、生クリーム、水鉄砲もね」
「それはええこと聞いたわ～。これから使いまくろっと」
「あたしの武器も無限に使えるんだね」
「ちなみにマッチ火、外して草木とかに投げちゃっても火事の心配はないで。皆様、そろそろ若干手強くなる北野へ向かいましょう」
☆
みんなは続いて北東にある北野異人館街へ。
「おう、エロ絵画や。ええ匂いもした来たよ」
絵莉葉はにやけ顔で、浮遊している絵画型モンスターの接近を伝える。
「うろこ美術館展示、モイズ・キスリングさんの『赤い膝掛けの裸婦』のモンスターみたいですね。とってもいい匂い♪」
「私、ハーブの香り大好きだな」
「あたしもー。気分が安らぐね」
和香子、夢乃、風実は姿を見かけるや、恍惚の表情を浮かべた。
「ゲーム上でも美術館などでこういったヌード絵画が閲覧出来ることも、ＣＥＲＯがＢの理由やねん。聡平様は、この絵ぇから漂ってくる匂い嗅いだらあかんで。あっ、遅かったかぁ」
「あんぅ、聡平くん、やめて」
「ごめん、なんか俺、夢乃ちゃんの汗まみれのパンツ見たくてしょうがないんだ」
聡平はとろんとした目つきで夢乃のスカートを捲ってしまう。
「聡平お兄ちゃんが、エッチなお兄ちゃんになっちゃった」
風実は楽しそうに笑っていた。
「聡平さん、普段は絶対そういう猥褻なことする人じゃないのに。この敵の力のせいね」
「男の人によく効く魅惑のハーブの香りで聡平様はムラムラ状態に侵されちゃってん。ゲーム上で主人公一人だけで旅しとる時は罹っても特に影響ないけど」
「夢乃お姉さぁん、大好きや♪」
「えっ、絵莉葉ぁ。やめて。聡平くんも絵莉葉も変だよぅ」
絵莉葉からはほっぺたにディープキスをされてしまった。
「絵莉葉様、女の子なのに効いちゃうなんて、百合の気質を持ってるのかも」
摩耶は楽しそうににっこり微笑む。
「夢乃ちゃん、俺、パンツの匂いも嗅ぎたい」
「夢乃お姉さぁん、舌入れさせてー」
「んもう、聡平くんも絵莉葉も早く正気に戻ってぇぇぇぇぇ」
夢乃は中腰の聡平にショーツ越しだがお尻に鼻を引っ付けられ、絵莉葉に口づけを迫られる。
「すみやかに倒しましょう」
「裸のおばちゃん、くらえーっ！」
和香子のメガホン、風実の泡立て器の連続攻撃によりあっさり消滅。
「あれ？ 俺。うわっ、なんで夢乃ちゃんのお尻が俺の目の前に！？」
「ありゃ、ワタシさっきまで何を」
聡平と絵莉葉は途端に平常状態へ戻る。
「聡平お兄ちゃんと絵莉葉お姉ちゃん、夢乃お姉ちゃんにずっとエッチなことしてたよ」
風実は楽しそうに伝えた。
「ごっ、ごめん夢乃ちゃん！」
聡平はすみやかに夢乃から離れてあげ深々と頭を下げた。
「夢乃お姉さん、百合なことしちゃったようで申し訳ない」
絵莉葉は夢乃のお顔をじっと見つめたまま頬を火照らす。
「べつに、気にしてないよ。さっきの敵のせいだもん……きゃっ、きゃあっ 巨大イノシシだ！」
今度は成獣イノシシのモンスターがとことこ走りながら近づいてくる。体長二メートルくらいはあった。
「六甲イノシシの体力は１４。リアルイノシシと同じく、突進攻撃に気をつけてや」
「ゲーム上でこいつに酷い目に遭わされたよ」
聡平は竹刀攻撃を試みるが、
「ぐはっ」
先に突進され弾き飛ばされてしまった。
「聡平くん、これを」
夢乃はすぐに駆け寄って神戸プリンを与えた。
「接近戦は危険やな」
絵莉葉はマッチ火を投げつける。
これにてあっさり消滅した。
みんなは続いて六甲ケーブル利用で山上駅へ。
そこからはバス利用でオルゴールミュージアム前へ移動し、付近を散策していくと、
「スズメバチや。町中の敵より強そうやね」
体長二十センチくらいはありそうなスズメバチ型モンスター計四匹に遭遇した。ブォォォン、ブォォォンと不気味な大きい羽音を立てて迫ってくる。
「実際強いで。体力はハチの通り８しかないけど攻撃力と素早さが高いで。毒状態に侵されるほどの強い毒はないことは安心出来るけど」
「聡平くん、早く何とかして」
夢乃は慌てて聡平の背後に回り込む。
「いたたた。痛いよ。やめて下さい」
和香子はスズメバチ二匹から腕と足に針攻撃されてしまった。
「真殿さん、今助けるよ」
聡平は竹刀を懸命にブンブン振り回すも、全て空振り。
「素早過ぎる。ゲーム上の主人公のようにはいかないか。うわっ、やばっ。いててぇっ」
スズメバチのうち一匹から針攻撃を食らってしまう。
「聡平お兄さんの動きが遅いんやない？」
絵莉葉はバットを直撃させ、あっさり消滅させた。
「大きいから簡単に当たるよ」
風実も泡立て器攻撃であっさり一蹴。
「攻撃力は、俺の方が絶対高いと思う」
聡平はちょっぴり落ち込む。
「あっ、狸だ。かわいい♪」
「夢乃様、これもモンスターやで。近づくと噛まれるで」
「おう、腹叩いとるやん。リアル狸に似とるけどリアル狸はこんなことせんよね。写真撮っとこ」
「ぽんぽこ鳴ってるぅ」
絵莉葉と風実はくすくす笑いながら、リズミカルに腹を叩く一頭の狸モンスターの姿を眺めた。
「なんか数がさっきより増えていますよ」
ゴーフルを自ら食してダメージから回復した和香子が指摘する。周囲に十頭以上は集まっていた。
「体力１２の六甲たぬきくんの腹太鼓は仲間を呼ぶ合図やねん。ちなみに兵庫編では狸型の敵、他にも数種類おるで」
「昨日ゲーム上でひどい目に遭ったな。あの電話さえなけりゃ楽勝だっただろうけど」
聡平は竹刀攻撃で容赦なく次々と退治していく。
「六甲たぬきくんさんは、やはり火が弱点みたいね」
「必殺かちかち山やっ！」
和香子、絵莉葉はマッチ火を投げつけて一蹴した。
「あたしはこれで攻撃するよ」
風実も手裏剣で一蹴する。
ゲーム上と同じく全滅後、カマンベールチーズケーキを落としてくれた。
「聡平くーん、助けてー」
突如、夢乃の悲鳴が。
カァカァカァッ！
体長一メートルくらいあるカラス型モンスターに追いかけられていた。
「六甲山カラス、体力は１４やで」
「こんなのも出るんだな」
聡平はすぐさま駆け寄り、竹刀で頭を攻撃。
カァァァァァァァーッ！
六甲山カラスは怒ったようだ。羽を激しくばたつかせ、聡平に襲い掛かって来た。
「いってててぇ」
聡平は断続的につつかれ、攻撃する隙を与えてくれなくなってしまった。
「ごめんね聡平くん、倒した後回復させに行くから」
夢乃は申し訳なさそうに六甲山カラスからさらに遠ざかっていく。
「聡平お兄さん、ワタシが倒すよ。必殺！ Ｇペンミサイル」
絵莉葉はＧペンを五本束ねて投げつけた。
カッ、カァァァッ！
見事命中。六甲山カラスは甲高い鳴き声を上げるとすぐに消滅した。
神戸牛ステーキを残していく。
「これは体力５０回復や。本日中に召し上がった方がええで」
「そうか。傷だらけの聡平お兄さん、どうぞ」
「どうも。めっちゃ美味い♪」
聡平、それを食して完全回復。
「わっ！ オルゴールも来たよ」
夢乃が知らせる。
「ほんまや。オルゴールが宙舞ってるし」
「この敵はどんな攻撃をしかけてくるのかしら？」
「呪いのオルゴールの体力は１６やで」
摩耶が伝えた直後。
ウォォォォォン♪ ウォォォォォン♪
呪いのオルゴールは大きな音色を出した。
「不気味過ぎるでこの音、精神がおかしくなりそうや」
「これはやばいな」
「あたしも変になりそう」
「わたしもです」
「私もだよ」
聡平達は動きが鈍ってしまう。
「皆様、耳を塞いで聞かないようにして下さい。混乱状態になっちゃうで。こいつの弱点は音やから、夢乃様。早くヴァイオリンを」
摩耶は注意を促した。彼女には効果がなかったようだ。
「分かった」
夢乃は急いでリュックからヴァイオリンを取り出し、メリーさんの羊を演奏し始めた。
すると呪いのオルゴールは音を出すのをやめてくれたのだ。
「夢乃ちゃん良くやった。音さえなければ弱そうだ」
聡平の竹刀二連打で退治完了。
「夢乃様、上手くいきましたね。不気味な音には耳障りな音で対抗するのが一番いいんやで」
「私のヴァイオリン、やっぱり耳障りなんだね」
夢乃はしょんぼりしてしまう。
「夢乃お姉さん、今回は楽器の下手さが武器になったから喜びなよ」
絵莉葉はにっこり笑って慰めてあげた。
「あたしはそんなに耳障りじゃなかったよ。あっ、またオルゴールが来たよ。さっきのとは別の形だぁ」
風実が新たなモンスターの接近に最初に気付く。
「なんか私、眠くなって来ちゃった」
「あたしもー」
「ワタシもや」
「俺も、急に睡魔が」
「わたしも眠いです」
「皆様、微睡のオルゴールは催眠術使ってくるで。音を聞かないように」
「さっさと片付けないとな」
聡平が寝惚け眼を擦りながら竹刀二発で退治。
すると途端にみんな眠気が冴えた。
「ぃやぁーん、この羊さん、エッチだよ」
夢乃はまた新たな敵に背後から襲われスカートを捲られてしまった。
メェェェェェェェ～、メェェェェェ～とリアル羊そっくりな鳴き声を上げながら夢乃のスカートをむしゃむしゃ齧る。体高は一メートルくらいでリアル羊より大柄だ。
「六甲の羊さんは体力１５。イノシシより強いで」
「こら羊」
聡平が竹刀でぶっ叩こうとしたら、
「ぐぉっ！」
強烈な突進攻撃を食らわされた。
「夢乃様、メリーさんの羊を弾いて下さい。この敵はその歌の演奏を聞かせると、皆様をお友達と思ってくれるで」
摩耶は聡平にゴーフルを与えながら伝える。
「そうなの？」
夢乃はさっそくヴァイオリンを演奏。
メェェェェェェェ～、メッメェェェェェ～。
「あれ？ なんか、怒ったような」
「あらら。失敗しちゃったようや」
摩耶はてへっと笑う。
「羊さん、くらえーっ！」
風実はヨーヨーで六甲の羊さんの顔を攻撃。一撃では倒せず。
「とりゃぁっ！」
絵莉葉もバットで攻撃を加える。
メェェェ、メェェェ。
六甲の羊さんの鳴き声はどんどんか細くなっていった。
「まだ倒せんか」
「羊毛で覆われとるから防御力高いけど、早く仕留めんと草を食って体力回復しちゃうで。ほらっ」
メェェェェェ、メェェェェェッ！
六甲の羊さんは元気な鳴き声を上げる。
全快してしまったようだ。
すぐに絵莉葉の方へ突進してくる。
「ラムステーキになりや」
絵莉葉は冷静にマッチ火で攻撃。
メェェェェェェェェェェェェェェェェェーッ！
かなり効いたようだ。六甲の羊さんは全身ボワァッと炎に包まれる。
「ごめんね羊さん。ラムステーキ残していったら美味しく食べるから」
風実が容赦なく手裏剣でさらに攻撃を与えて消滅させた。
ラムステーキ、ではなくカマンベールチーズケーキを残していく。
ほどなく、
ンモゥゥゥゥゥゥゥ！
体高二メートル以上はあるホルスタイン型モンスターがみんなに向かって突進して来た。
「牛の化け物だぁ」
夢乃はとっさに聡平の背後へ。
「体力１６の六甲の牛さんもダメージ受けたら草食って回復するから一気に倒しちゃって」
摩耶はすぐにアドバイス。
「この大きい牛さん、怒ってるみたいだね」
風実は手裏剣、
「ミルクがようさんとれそうやね。うひゃっ、ぶっかけやがった」
乳房から突如噴き出た牛乳を顔面にたっぷりぶっかけられた絵莉葉も手裏剣、
「突進されたら間違いなく大ダメージ食らいそうですね」
和香子はマッチ火で、続けざまに攻撃を与えた。
ンモゥゥゥゥゥゥゥ！ ンモゥゥゥゥゥゥゥゥ！
「燃えながらも草食ってるし」
六甲の牛さんの命乞いをしているかのような鳴き声にも容赦せず、聡平が竹刀で攻撃して消滅させた。
ホエイ生キャラメルを残していく。
息つく間もなく、紫色の花型モンスターが十数本束になって飛び跳ねながら近づいて来た。
「高山植物の一種、ツリフネソウのモンスターね」
和香子は推測。
「その通りやで。六甲ツリフネソウ。体力は１９、縛り付け攻撃に気を付けてや」
「切り裂いたるで」
絵莉葉は楽しそうにカッターで茎をズバッと切り付けた。
ツリフネソウの花びらが何本か落ちる。
「いたたたぁっ」
落とされた四本のツリフネソウは一斉にジャンプして、花びら部分で絵莉葉の頬を両サイドから思いっ切りビンタした。絵莉葉の頬もスパッと切れて血が噴き出してくる。
「絵莉葉、お花を傷付けるのは罰当たりだよ」
「まさかあんな攻撃してくるとは思わんかったわ～」
夢乃から受け取ったカマンベールチーズケーキを食して、絵莉葉の頬の傷は瞬く間に消える。
「お花潰しちゃえ」
花びら部分を風実が泡立て器で、
「きゃっ！ 茎だけでも動けるのね。足に絡みついて来たわ。いたぃっ！ 離れて下さい」
茎部分を和香子がメガホン、
「なかなかしぶといな」
聡平が竹刀で叩いて消滅させた。
その直後に、
「あっ、ちちぃっ！ 痛いわ～。これ、チーズや」
絵莉葉は背後から新たな敵キャラに両足にぶっかけられた。
振り向くとそこには、鍋に入ったチーズフォンデュ型のモンスターがいた。
「美味しそうな敵だね。きゃんっ！」
風実は鍋から飛び出て来た熱々チーズ塗れなブロッコリーの直撃を顔に食らった。
「六甲チーズフォンデュくん、体力は１８。鍋からいろんなものが飛び出してくるから接近戦は危険やで」
「あっぶねっ。コーヒー以上に危険な敵だな」
熱々チーズ塗れのフランスパンの一片を顔面に食らいそうになった聡平はなんとか避けて、マッチ火を投げつけた。
六甲チーズフォンデュくんはゴォゴォ激しく燃える。
次の瞬間、チーズの中からいろんな具材が弾けるようにたくさん飛び出して来た。
「あっつぅ！ いったぁ！ エビ食らったわ。聡平お兄さん、炎で攻撃したんはやばかったんちゃう？」
「そうかもなっ。うわっ、フォークまで飛んで来っ、いっててっ！」
聡平はこれは避け切れず尖った先端が顔に当たり、頬から少し血が出た。
「きゃぁんっ。じゃがいもさんとにんじんさんとアスパラが当たっちゃった。アスパラはあたし嫌ぁい」
「私も足にマッシュルームとうずらの卵が当たったよ。靴下べとべとぉ」
「熱いです、熱いです。ぅぶっ！」
和香子は足や腕に芽キャベツやミニトマトなどが当たり、さらに唇にソーセージまで食らわされてしまった。
ともあれ六甲チーズフォンデュくんはまもなく自然に消滅する。
神戸チーズを残していった。
「六甲チーズフォンデュくんはどんな攻撃方法でも倒された後、熱々チーズ塗れな食材やフォークを飛び散らす性質持ってるねん。ゲーム上で遭遇したら倒した後、コントローラの十字キーの下押して即逃げんと大ダメージ食わらされるで」
聡平達と固まっていたにも拘らず、一つも当てられずに済んだ摩耶は笑顔で忠告する。
「つめたっ、またぶっかけられた。今度は水や」
絵莉葉はどこからともなく現れた新たな敵キャラに顔を攻撃されてしまった。
「これ、あたしが倒したーい」
あの部分からの放水を風実も顔に食らってしまい、笑ってしまう。
小便小僧がモンスター化したものだったのだ。尚も放水しながら空中をぐるぐる飛び回っていた。
「高山植物園に飾られてあるやつだね。ひゃぁんっ！ ダメだよ、イタズラしちゃ。勢いすごい」
夢乃も顔にぶっかけられてしまい、堪らず和傘を広げて防御した。
「六甲の小便小僧くんの体力は２０。放水攻撃と頭突きは強烈やで」
「飛び道具の方が良さそうだね。こっちも水で戦うよ」
風実は六甲の小便小僧くんに水鉄砲で対抗。
直撃はしたがまだ倒せず。
「小便小僧、嬉しそうに笑っとるね」
絵莉葉がバットであの部分を思いっ切り攻撃すると、六甲の小便小僧くんは涙目に変わった。放水もぴたりと止まる。
「見た目通り硬い敵ね。まだ消えないわ」
和香子が背中をメガホンで、
「あとは俺がやるよ」
聡平が竹刀で六甲の小便小僧くんのお顔を容赦なくぶっ叩き、見事消滅させた。
☆
みんなは六甲山上からケーブルカー利用で降りたあと、バス利用でＪＲ六甲道駅へ。
いよいよ他の市へ移動開始だ。
「甲子園、宝塚の方が敵手強いから、まずは西の明石、須磨から旅して行きましょう」
摩耶の勧めにより、みんなは直近でやって来た網干行き快速電車に乗り込む。
三ノ宮駅で新快速に乗り換えた。
※
明石駅に到着後、みんなは駅南側、魚の棚付近を歩き進んでいく。
「やっぱ名物のたこが敵になってるのか。リアルのよりでかいな」
「姿はマダコだけど、サイズはミズダコ並ね」
聡平と和香子は感心気味に呟く。
「私たこ好きだけど、あれだけ大きいと恐ろしいよ」
夢乃は思わず目を背け、聡平の背後に隠れた。
体長二メートルを優に超す、マダコのモンスターが八本の足をうねらせながら近づいて来たのだ。
「あいつは明石たこの助。体力は２２。墨ぶっかけと触腕の吸盤絡み付き攻撃に気を付けて」
「この敵もエロ攻撃して来そうやね。とりゃぁっ！」
絵莉葉はバットでさっそく一発叩いた。
「うっひゃっ、避けれんかったわ」
次の瞬間、顔と服に墨をぶっかけられてしまう。
「ひゃぅっ！ もう、やっぱエロダコやな。お仕置きや」
さらに触腕の吸盤で胸に絡み付かれたがすぐにバットで攻撃して引き離した。
「遠くから攻撃した方がいいね」
風実は手裏剣を投げつけダメージを一発与えた。
「巨大たこ、仕返ししたるで」
絵莉葉は黒インクを投げつけ、明石たこの助を墨まみれにした。
「明石名物の子もちたこ最中落としていったよ。太っ腹や」
休まずバットで攻撃して退治。墨の汚れもきれいに消える。
「子もちたこ最中は体力が２０回復するで」
「うぉわっ！ 今度は穴子が来たぞ。いかにも強そうだ」
聡平のすぐ目の前に新たな敵が現れた。
体長は二メートルくらい。鋭い歯を剥き出しにして闘志をあらわにしていた。
「こっ、怖ぁい。食べられちゃう！」
夢乃は慌てて逃げ出す。
「穴子、美味しそう♪」
風実は舌をぺろっと出す。
「あの歯で噛まれたら大ダメージ食らいそうですね」
「明石の穴子くん、体力は２３や。明石の魚型の敵では最強。噛み付き攻撃に注意してや」
摩耶は笑顔で警告。
「聡平お兄さんも逃げとるし。まあ確かに打撃はやめた方がよさそうや。これは、こいつで倒すよ」
絵莉葉は接近戦は危険だと感じ、明石の穴子くんに手裏剣を投げつけた。
「必殺、穴子攻め！」
風実は両手を用いて生クリーム＆水鉄砲で攻撃。
まだ倒せなかった。
明石の穴子くんは路上をビチビチ跳ね回る。
「風実さん、穴子くんさんに水攻撃はあまり効かないと思うわ」
和香子はこう助言し、マッチ火を投げつけた。
明石の穴子くん、黒焦げになったがまだ少し動く。
「みんなありがとう」
聡平がすっかり弱ったそいつを竹刀で叩きつけ、ようやく消滅。
穴子の干物を落としていった。
「これは、食う気にはならんな」
「わたしも、ちょっと抵抗が」
「私は絶対無理」
「あたしは食べたいなぁ」
「うちは大好物や。体力４０回復するで」
「一応、貰っとくわ～」
絵莉葉のアイテムに加える。
ほどなく、新たな魚型の敵キャラに遭遇した。
体長は二メートルくらいだった。
「鯛だ。美味しそう。あたし刺身で食べたいな」
「ワタシも刺身派よ」
「わたしはお茶漬けがいいです。あの大きさなら、かなりの人数分ありそうですね」
「ビチビチ跳ねてて怖いよぅ」
夢乃は聡平の背後に隠れてしまう。
「こいつは明石の鯛ちゃん。体力は２５。お隣徳島編の鳴門の鯛ちゃんに比べればかなり弱いで」
「的がでかい分、楽に勝てそうだ」
聡平が果敢に立ち向かっていったら、
「うぉわっ！」
急にくるっと向きを変えた明石の鯛ちゃんに尻尾で弾き飛ばされてしまった。
「いってぇぇぇっ！」
街路樹に叩き付けられる。
「明石の鯛ちゃんの体当たり食らったら大ダメージ貰うで。他の皆様も気をつけて」
摩耶は注意を促しながら聡平にゴーフルを与えた。
「サンキュー摩耶ちゃん、俺たぶん腕折れてたと思う」
聡平、瞬時に完全復活。
「あんなに機敏に動けるなんてやばそうや。逃げるって選択肢もありやんね？」
「ここは逃げましょう」
「その方がいいよ。聡平くんみたいに大怪我しちゃう」
「あたしは戦いたいけどなぁ」
「うわっ！ 私の方襲って来たぁ」
夢乃はとっさにその場から逃げ出す。
「俺に任せて。今度は上手くやるから」
聡平はマッチ火を明石の鯛ちゃん目掛けて投げつける。
明石の鯛ちゃん、炎に包まれて瞬く間に消滅した。
「聡平お兄ちゃんすごーいっ！ これぞ本当の鯛焼きだね」
「聡平様、弱点を上手く利用しましたね」
「やっぱ聡平お兄さんは主人公やわ」
「ありがとうございます聡平さん」
「聡平くん、勇気あるね」
「いや、そんなことないと思う」
「さっきの敵に関しては、姿残しといて欲しかったわ～。あっ、また敵現れたよ。明石焼もモンスターになってるんか」
「明石焼衛門は体力３０。こいつも体当たりしてくるから気をつけてや。あと、防御力は低いけど素手で叩いたら皆様の今のレベルじゃやけどするで」
湯気も立ち上らせていた黄色い丸型の明石焼衛門は、ボールのようにぴょんぴょこ弾みながらみんなの方へ近づいてくる。
「あれも美味しそう。あたしが倒したーい」
風実は楽しそうにヨーヨーで二発ぶっ叩いて消滅させた。
「明石焼残していったよ。太っ腹な敵やね」
絵莉葉は嬉しそうに拾い上げ、アイテムに加えた。
「明石焼は体力が３０回復するで。本日中に召し上がってや」
摩耶が伝えた直後。
「いやぁん、なんかべっとりしたものが頭に覆い被さって来ました。前が見えません。磯臭いです」
和香子が何者かに先攻された。
「明石のりのモンスターか。真殿さん、大丈夫か？」
「息苦しいですぅ」
「濡れてて重いな」
聡平は和香子の上半身にこびり付いた加工前自然のままの海苔を手掴みで引き離してあげた。
「ありがとうございます聡平さん。疲れました」
和香子は体力をかなり消耗してしまったようだ。
「和香子ちゃん、これ食べて」
夢乃は子もちたこ最中を与えて全快させてあげた。
「明石のりちゃんは体力２７や。弱点は炎。皆様、身動き封じに注意して」
「分かった。うわっ、動き早っ！」
聡平も明石のりちゃんに上半身を包み込まれてしまう。
「鬱陶しい」
けれどもすぐに自力で引き離した。
次の瞬間、明石のりちゃんはさらに巨大化した。
「うわっ！」
聡平は驚いて仰け反る。
「お水かけたら大きくなっちゃった」
風実はにこにこ微笑む。水鉄砲で攻撃したのだ。
「風実様、明石のりちゃんは水攻撃するとパワーアップしちゃうで。今の体力値は４０相当かな？」
摩耶も楽しそうに笑っていた。
「これはやばいな」
聡平も苦笑いする。
「増えるわかめちゃんと同じやね。ワタシに任せて」
絵莉葉がすみやかにマッチ火を投げつけて消滅させると、加工された明石のりを残していった。
みんなは付近をさらに歩き回っていると、
「うわっ」
聡平、
「きゃっ！」
夢乃、
「髪がべとべとになってもうたわ」
絵莉葉、
「これクリームだよね？」
風実、
「誰のしわざなのかしら？」
和香子、
「これは明石名物、福玉焼のやで。こんなのを投げつけてくるなんて、シゴセンジャーのモンスター、『シゴセンジャ悪』のしわざやね」
摩耶、
全員背後からクリーム状のものをぶっかけられた。
「その通りだ。明石の時を破るため、そしてきれいな星空を破壊するために戦うシゴセンジャ悪レッド！」
「かなり効いたようだな。青い地球を破壊するため、そしてよい子の笑顔を潰すために戦うシゴセンジャ悪ブルー！」
みんなの背後に、左胸部分に『１３５Ｅ』と記された赤と青のヒーロ―スーツを身に纏った男二人組の姿が。
「また先攻されちゃったわ。シゴセンジャ悪さん、これくらいでわたし達が怯むと思った？」
「べとべとはするけど、物理的ダメージはないぞ」
「暑そうな格好してる悪いシゴセンジャーのおじちゃん、食べ物を粗末にしちゃダメだよ」
和香子と聡平と風実は怒りの表情だ。
「お嬢ちゃん、これは地肌だ。おれ達の必殺技はこれだけじゃないんだぜ」
「ギャフンと言わせてやる。くらえっ！ 明石の突風」
シゴセンジャ悪は二人とも体を超高速回転させた。
周囲一体にビュオォォォォォォォッと突風が起きる。
「きゃぁぁぁっ！」
「いやぁん、こいつらヒーローの癖にエッチやわ」
夢乃と絵莉葉のスカートが思いっ切り捲れ、ショーツが丸見えに。
「……」
聡平は直前に目を背けていた。
「よそ見するなよ少年。さっき貴重な時間を無駄にしたね。お仕置きにコテンパンにしてやる。くらえっ！ シゴキーック！」
「ぐわっ！」
シゴセンジャ悪ブルーに背中にキックを食らわされてしまった。
「いってててっ、背骨折れたかも。起き上がれねえ」
聡平は弾き飛ばされ地面に叩き付けられてしまう。
「聡平くぅん、大丈夫？」
夢乃は心配そうに駆け寄っていく。
「夢乃お姉ちゃん、危なぁいっ！」
風実は夢乃の背後に迫っていた明石焼衛門をヨーヨーで攻撃。
会心の一撃で退治して、子午せんを手に入れた。
「ありがとう風実」
「どういたしまして」
「夢乃様、戦闘中に他の仲間の心配をし過ぎると、自分もやられちゃうで。聡平様ならうちが回復させるで。聡平様、これを」
摩耶はすぐさま明石焼を聡平に口に放り込んだ。
「おう、痛み消えた」
聡平、完全回復だ。
「聡平さん、わたしは問題なしですよ。あれ？」
和香子の穿いていたショートパンツもビリッと破れて、熊ちゃん柄のショーツがまる見えに。
「俺、何も見てないから」
聡平はとっさに顔を背けた。
「和香子お姉さんのパンツも子どもっぽくてかわいいわ～」
絵莉葉はくすっと微笑む。
「あの、聡平さん、なるべく早く忘れて下さいね」
和香子は頬をカァッと赤らめ、ショートパンツを両手で押さえながらお願いする。
「分かった」
聡平は和香子に対し、背を向けたまま承諾した。
「油断したな少年」
「ぐぉっ！」
聡平はレッドの方から顔面にシゴパンチを食らわされてしまう。
シゴセンジャ悪は二人とも表情は分からないが、嘲笑っているように思えた。
「明石で最強の敵、シゴセンジャ悪。ブルーもレッドも体力は３５や。レッドはパンチ、ブルーはキックが得意やで」
「ヒーローのくせに極悪過ぎやっ！」
絵莉葉は黒インクを投げつけた。
「うぉっ、目の前がブラック星に」
「ぬわぁっ！」
怯んだ両者。
「シゴセンジャ悪レッド、くらえーっ！」
「ぎゃふん」
風実の泡立て器攻撃と、
「本物のシゴセンジャーから苦情が来そうだな。このゲームの制作者」
「ぐぇぇぇっ！」
聡平の竹刀攻撃で共に消滅。
シゴセンジャーのＴシャツを残していった。
「あたしこれ欲しい♪」
風実のアイテムに加わる。
「よかった」
ショートパンツの破れも元に戻って和香子はホッと一安心した矢先に、
「きゃっあん！ 真っ暗です」
また何かに今度は上空から襲われてしまった。
「和香子ちゃんが閉じ込められちゃった」
夢乃は慌てて呟く。
「息苦しいです。熱いです」
和香子は高さ二メートくらいの赤茶色な壷型の敵に覆い被されてしまったのだ。
「蛸壺ちゃん。体力は３３。防御力かなり高いで。弱点は無し。火にも強いで」
「明石が発祥だとされてる蛸壺のモンスターか。真殿さん、すぐに助けるからな」
聡平はさっそく竹刀で攻撃。一撃では倒せず。
「とりゃぁっ！」
絵莉葉もすみやかにバットで攻撃。まだ倒せなかった。
「壺だけにすごく硬いね」
風実のヨーヨー攻撃。これでも倒せず。
聡平達がもう一度攻撃を加えようとしたところ、蛸壺ちゃんは消滅した。
「皆さん、ご協力ありがとうございます。酸欠になりかけました。あと十秒遅れてたら、わたしの体力、０になってたとこでした。松尾、芭蕉さんの、蛸壺や、はかなき夢を、夏の月、という俳句も、思い出しました」
代わりに現れた和香子はハァハァ息を切らし、汗もいっぱいかいていた。彼女も中からメガホンで攻撃していたようである。
「和香子ちゃん、これ食べて」
夢乃は子午せんを与え、和香子の体力を全快させた。
みんなはこれにて明石をあとにする。
「わたし、明石では酷い目に遭ってばかりだったな」
快速電車内で、和香子はしょんぼりした気分で呟く。
「おそらく本日中に辿り着ける中ボス戦では、和香子様の本領を発揮出来るで。むしろ和香子様がいないと突破出来へんと思うよ」
「どんな中ボスなのかしら？」
「それは着いてからのお楽しみということで」
☆
このあと、みんなは須磨を訪れた。
「ここはどんな敵が現れるか楽しみや。戦の前にお昼ご飯食べよう。もうとっくにお昼過ぎてるし。ワタシ、回復アイテムけっこう使ったけど普通にお腹すいて来たわ～」
「回復アイテムは食糧代わりになるほどカロリーないから、よほど大量に摂取せんと満腹感は得られへんで」
「リアルのものと同じか凌駕するくらいの美味しさなのに、そんな仕組みになっているのは素晴らしいですね」
「ちなみにゲーム上では日中、ゲーム内時間で七時間くらい食事させずに旅させ続けとったら空腹の表示が出て敵からダメージ受けんでも体力減ってくるで」
「そこも面倒なリアル感だな」
みんなはまずはＪＲ須磨駅近くのファミレスへ。
六人掛けテーブル席に聡平と夢乃、絵莉葉と風実、和香子と摩耶が向かい合って座る。
「わたし、明石鯛茶漬けにしようっと」
和香子がメニュー表をテーブル上に並べた。
「うちもそれにするわ。あと、デザートに餡蜜も。リアル世界のファミレス食、楽しみや」
「俺は天ぷらうどんにするか」
「あたしはミートパイとフルーツパフェにするぅ」
「風実、お子様ランチじゃなくてええの？ シャボン玉付いてくるみたいよ」
「絵莉葉お姉ちゃん、あたしもうそんなの頼むほど子どもじゃないよ」
「そうか、そうか。風実も大人になったんやね。ワタシは明太子スパゲティーと抹茶ソフトにするわ～」
「私は淡路ビーフカレーにしよう。あとパイン味のソフトクリームも」
みんなの分のメニューが運ばれて来て、ランチタイムが始まる。
「聡平くん、私のカレー少し分けてあげるよ。はい、あーん」
夢乃はカレーの中にあったビーフの一片をさじで掬い、聡平の口元へ近づける。
「いや、いいって」
聡平は困惑顔を浮かべ、左手を振りかざして拒否する。右手で箸を持ち、麺を啜ったまま。
「あーん、やっぱりダメかぁ」
夢乃は嘆く。でも微笑み顔で嬉しそうだった。
「聡平様、お顔は赤くなってないけど、きっと照れてるね」
「聡平お兄さん、一回くらいやってあげなよ」
摩耶と絵莉葉はにこにこ笑いながらそんな彼を見つめた。
「出来るわけないだろ」
聡平は苦笑いしながら伝え、引き続き麺をすする。
「赤ちゃんみたいで、恥ずかしいもんね」
風実はフルーツパフェを美味しそうに頬張りながら言う。聡平の気持ちがよく分かったようだ。
「パインソフトすごく美味しいよ。聡平くん、少しあげるよ」
「いらねー。そんな酸っぱいの」
「酸っぱくないよ」
「それでもいらねー」
「もう、全部食べちゃうよ」
夢乃はにっこり笑顔でそう伝え、最後の一口を味わう。
「聡平様は、フルーツあまり好きじゃないみたいね」
「ああ。いちご、柑橘系は特に苦手だ。辛い物や味の濃いのが好きだな」
「ワタシといっしょやね」
「聡平様、味の好みは男らしいで」
☆
ファミレスをあとにしたみんなが須磨海岸に辿り着くと、さっそく砂浜でご当地の敵キャラに遭遇した。
「カメか。須磨海浜水族園にいるやつもモンスター化してるんだな」
聡平は感心気味に呟く。
「昔からしょっちゅう行ってる私の大好きな須磨海浜水族園の生き物さんまでモンスター化するなんておかしいよ。ご当地色も薄いし」
夢乃は不愉快になった。
「ゲーム上では水族館内の敵は館内に現れるよ。動物園、美術館、科学館などもね。あいつはスマウミガ～メ。体力は２９。攻撃力、防御力共に高いで」
「動きのろそうやん。とりゃぁっ！」
絵莉葉は甲長二メールくらいあったそいつの甲羅にバットでさっそく攻撃し始める。
「五発で消えたよ。一発叩いたら体引っ込めて何もして来なくなったよ。須磨海浜水族園名物のウミガメメロンパンも落としていったし、明石たこの助よりも楽勝やったよ」
ダメージ食らわされず簡単に倒して、自慢げに伝えた。
「ウミガメメロンパンは体力が１６回復するで」
「確かに体はリアルウミガメよりでかくて硬いけど弱過ぎだな。俺は四発だ」
「あたしは五発ぅ。最初は口を開けて襲ってくるけど動き遅いし、一発食らわせたら勝ったも同然だね」
近くに現れたもう二頭を聡平は竹刀、風実はヨーヨーを用いて手分けして倒した。またしてもウミガメメロンパンを落としていく。
「絵莉葉、聡平くん、風実。亀さんいじめちゃダメだよ。かわいそう」
「夢乃さん、そんな気持ちではまた攻撃されちゃいますよ」
「夢乃様、スマウミガ～メの噛み付き攻撃はかなり痛いで」
「夢乃お姉さん、旅始めてから一回も敵打撃攻撃してへんやん。ここは心を鬼にして退治しなきゃ」
「それは、かわいそう」
「夢乃様、敵キャラは触感はあるけどグラフィックで出来てて命は宿ってないから、容赦なく攻撃したらええねんで」
「グラフィックでも、やっぱり無理だよ」
「夢乃様、そんな甘いこと言ってるうちに背後に敵が」
摩耶はやや表情を引き攣らせ、慌てて伝える。
「えっ！」
夢乃はくるっと振り向くや、
「ぎゃあああっ！」
甲高い悲鳴を上げて、そこにいた敵を和傘で殴りつけた。
一撃で消滅。
体長五〇センチ以上はある巨大な節足動物型モンスターがいたのだ。
「さっきのは須磨のフナムシくん、体力は２６や。防御力高いけど夢乃様、会心の一撃が出ましたね」
「夢乃お姉ちゃん、すごぉい！」
「やるやん夢乃お姉さん」
「お見事でした。夢乃さんに節足動物や昆虫、爬虫類、両生類型の敵と戦わせると、常に会心の一撃を出せそうですね」
風実と絵莉葉と和香子はパチパチ拍手する。
「怖かったよぅ」
夢乃は涙目を浮かばせ、聡平にぎゅっと抱き付いた。
「確かにフナ虫は怖いよな。あの、夢乃ちゃん、わざわざ抱き付かなくても」
「聡平様、夢乃様、背後にまた新たな敵が」
「えっ！」
「またか」
夢乃と聡平はとっさに後ろを振り向く。
体長一メートルくらいのクルマエビ型モンスターがいた。
「私、えび、苦手。あのもじゃもじゃした足が」
夢乃は慌てて聡平の体から離れて逃げていく。
「こいつの名は須磨のエビ。体力は３０。こいつも殻で覆われとるから防御力高いで」
「力士の四股名みたいやね。めっちゃ美味そうや。とりゃぁっ！」
絵莉葉が甲羅に向けて攻撃すると、須磨のエビはビチビチ激しく跳ねる。
「ぎゃぁっ、こっち来たぁーっ！」
逃げ惑う夢乃。
「俺に任せて」
聡平は竹刀を構え、バットでボールを打つかのように須磨のエビの歩脚部分に叩き付ける。
須磨のエビ、裏返しになって自由に身動き不能に。脚をバタつかせる。
「エビフライ落としていかないかなぁ」
風実がさらにヨーヨーで容赦なく攻撃を与えて消滅した。残念ながら、風実の期待したアイテムは残さず。
「ぎゃんっ、いたぁい」
突如、絵莉葉の体にビリッと痛みが走る。
「いってぇ！ 俺も食らった。クラゲの攻撃だな。動け、ない」
聡平の推測通り、彼の背後で一匹、空中を漂っていた。
「絵莉葉様、聡平様。痺れ状態に侵されちゃいましたか。クラゲの針は毒針やけど、この場合毒状態やないから毒消しでは回復出来んねん。倒すかしばらくすれば自然に治るで。須磨海浜水族園くらげ、痺れ攻撃はきついけど、体力は１８しかなくて防御力も低いで」
「くらげさん、食らえーっ！」
風実が手裏剣で攻撃して、一撃で消滅。
「体が動かんかったけど、マッサージされとるみたいでけっこう気持ちよかったわ～」
「俺は不快に感じたけどな」
絵莉葉と聡平は痺れ状態から回復した。
けれどもまたすぐに、
「いてててぇぇぇっ、はっ、離れろ」
聡平は背後から体長五十センチくらいの熱帯魚型の敵五匹に襲われた。
「聡平くん、顔と腕が血まみれ」
夢乃は子午せんを手に抱え、慌てて駆け寄っていく。
「須磨海浜水族園ピラニア、体力は２２しかないけど、噛み付き攻撃の威力は須磨の敵では最強やで」
「聡平お兄さん、ワタシに任せてや」
絵莉葉がすぐにマッチ火で攻撃し、三匹は退治。
「空飛ぶ巨大ピラニアだね」
風実は残る二匹に噛み付かれそうになったが、なんとかかわして泡立て器で顔を叩き付けて消滅させた。
さらに海岸を散策してると、
「うわっ、危ねっ！」
どこかから槍が飛んで来た。
聡平は寸でのところでかわし、ダメージ回避。
「ぎゃあああああああっ！ えっ、絵莉葉お姉ちゃあああああっん」
風実は大声で叫び、絵莉葉の背中にぎゅぅっとしがみ付いた。
「風実、あれ、そんなに怖いかな？」
絵莉葉はにこにこ微笑む。
「怖いよ、怖いよぅぅぅ」
風実はだんだん泣き出しそうな表情に変わっていく。
「あれは確かにめちゃくちゃ怖いよ。夢に出て来そう」
夢乃は同情してあげる。
「こんな敵まで出るなんて、さすが一ノ谷の戦いの舞台に近いだけはあるわね」
「地域に纏わる亡霊もモンスター化されてるんだな。強そうだ」
和香子と聡平はちょっぴり感心していた。
みんなの目の前に現れたのは、頭に槍が刺さり鎧を身に纏った落武者の亡霊だったのだ。馬に乗っていた。
「亡霊のみならず妖怪もモンスター化されとるんよ。一ノ谷の落武者亡霊の体力は３９。弱点は水や」
「風実、倒してあげたら？」
絵莉葉は楽しそうに勧める。
「怖い、怖ぁい」
風実はそう言いつつも、勇気を振り絞って絵莉葉の背後から少し顔を出して狙いを定め、水鉄砲を発射した。
ぐおおおぉぉぉぉぉ～。
一ノ谷の落武者亡霊は苦しそうな叫び声を上げる。
「まだ消えないよぉぉぉ～」
「風実様の今の攻撃力なら、もう一発できっと消えるで」
「消えて、消えてぇぇぇ」
風実は涙目でもう一発発射した。
ぐわあああああぁぁぁ。
一ノ谷の落武者亡霊は断末魔の叫び声を上げると、たちまち消滅。源平せんべいを落としていった。
「怖かったよぉぉぉ～」
ぽろりと涙を流す風実。
「風実、よく頑張ったね」
夢乃は優しく頭をなでてあげた。
「あら、イルカさんもモンスターになってるのね」
和香子は新たな敵の接近に気が付く。
体長六メートルくらい。背中にボールを乗せていて、砂浜を這って移動していた。
「本物のイルカさんよりかわいい♪」
夢乃はついつい見惚れてしまう。
「夢乃様、油断したらあかんで。須磨海浜水族園イルカ、体力は４０。ジャンプ突進攻撃は大ダメージ食らうで」
「夢乃お姉さん、心を鬼にせんとあかんで」
絵莉葉はバットで容赦なく頭を攻撃。
キュゥゥゥィン、キュゥゥゥィン、キュゥゥゥゥゥィン♪
するとこんな愛らしい鳴き声を上げた。
「なんか、ワタシもかわいそうに思えて来た」
「わたしも、攻撃する気無くしちゃいました」
「俺も」
「あたしも戦う気無くしちゃったぁ」
「私は元からこの子を傷付ける気なんてないよ」
絵莉葉達は武器をリュックにしまってしまう。
「皆様、戦意喪失される憐みの状態にされちゃいましたね」
摩耶が苦笑いで呟いた瞬間、
「いったぁい！」
「うぼぁっ」
「ぎゃんっ。痛いです」
「あいたぁ！ このイルカ、卑怯過ぎや」
夢乃以外のみんな、須磨海浜水族園イルカが尻尾で蹴り上げたボールで攻撃を食らわされてしまったと同時に元の精神状態へ。
「皆様、この敵は一撃で倒さんとさっきみたいになってまうで。皆様一斉に攻撃してや。炎はあかんで。さっき以上に悲しげな鳴き声上げちゃうから」
「イルカ、さっきの仕返しやっ！」
絵莉葉はバット、
「イルカさん、かわいそうだけど倒しちゃうね」
風実は手裏剣、
「こいつの顔は見ちゃいかんな」
聡平は竹刀、
「イルカさん、申し訳ないです」
和香子はメガホンで。
四人ほぼ同時に攻撃して消滅させた。
「やっぱり、かわいそう」
夢乃はぽろりと流した。
「夢乃様、こちらの世界に出た敵キャラが消滅したということは、死んだわけではなくゲーム内に戻されたということやから、悲しまんといてや。皆様、須磨の敵もさほど苦戦することなく退治出来とるから、そろそろ甲子園に向かって行きましょう」
「そうだな。ん？ 風実ちゃん、体調悪いのか？」
聡平は異変に気付くや優しく気遣ってあげる。
「あたし、ちょっと頭がくらくらして来たの」
風実は砂浜に座り込んでしまっていた。
「風実、大丈夫？」
「風実さん、熱中症になっちゃったみたいね」
夢乃と和香子は心配そうに話しかけた。
「そうみたい」
風実は俯き加減で伝える。
「風実、日陰に移動させるね」
絵莉葉がおんぶしてあげようとしたら、
「風実様、これ飲んでね」
摩耶はおいしい水六甲６００ｍｌペットボトルを差し出す。
「ありがとう」
風実は一気に飲み干すと、
「気分、すごく良くなったよ」
瞬時に回復。
「よかったね風実様。皆様、三宮に戻ったら、そこの敵ともう一度戦ってみてや」
みんなは須磨海浜公園を後にし、最寄りのＪＲ駅へ向かっていく。
摩耶の勧めにより、聡平達はＪＲ三ノ宮駅到着後、また駅近くの人通りの少ない場所をぶらつくことに。
「全然痛く無いよ」
絵莉葉は神戸コーヒーちゃんからまた熱々コーヒーをぶっかけられたが、ほぼノーダメージ。このあとカップ部分にバット一撃で消滅させた。
「確かにめっちゃ弱く感じる」
「武器がいらないね」
聡平と風実は神戸サンバ姉ちゃんを平手打ち一発で倒した。
「マカロンこまちは指でつついただけで倒せますね」
和香子は五体で襲って来た色とりどりのマカロンこまちをあっという間に撃退。
「あーん、またスカート捲って来たぁ。やめてー。あっ、あれ？」
夢乃はゴーフるんをポンッと押しただけで消滅させることが出来た。
「よっしゃぁっ！ アニヲタ君倒せたよ。お小遣いようさんゲットッ！ ワタシの素早さが上がったおかげやな」
絵莉葉はセンター街で神戸のアニヲタ君の姿を見かけるや、すぐに追いかけてＧペンミサイルを投げつけ消滅させることが出来た。
レベルアップを実感したみんなは阪神電車を利用して甲子園駅へと向かう。
甲子園球場の近くをぶらついていると、バットなどを手に持った背番号入りユニフォーム姿の敵数体と遭遇した。
「やっぱ高校球児がモンスター化されてたか」
「高校球児くん、背番号と容姿は違えどみんな体力は同じ４４やで」
「うわっ！ いきなり土を投げて来やがった」
聡平は仏顔一八五センチくらいの一番背の高い一体から、顔面にぶっかけられた。
「甲子園の土攻撃、かなりきついやろ？」
摩耶が問いかけた次の瞬間、
土を投げた高校球児くんは聡平のかかと目掛けてスライディングしてくる。
「おぅわっ」
聡平は弾き飛ばされた。
時同じく、
「きゃっ、やっ、やめて」
「ええやんかお姉ちゃん」
「この子、酔っ払ってるよ」
夢乃はぽっちゃり体型丸刈りの一体にスカートを捲られキスまでされそうになる。
「やめてーな」
「きみ、ええ乳してるやん。うちの部のマネージャーになってよ」
絵莉葉は一番背が低くグローブを右手に持った一体に胸を揉まれてしまっていた。
「おれのバット、きみの股間のミットにはめてやるよ」
「やめて下さぁい」
和香子は厳つい顔つきの一体に馬乗りにされ服を脱がされかけていた。
「おいこら、何やってんだよ」
聡平が攻撃しようとすると、
「あっちちぃ」
別の一体にたばこの火を手の甲に押し付けられた。
「高校野球のお兄ちゃん、暴力はダメだよ」
「お嬢ちゃん、かわいいねぇ」
「きゃぁんっ」
風実はそいつに抱きかかえられてしまう。
「おいっ、盗るなよ」
「これ、めっちゃ美味そうやん」
さらにもう一体にリュックを漁られ、聡平がアイテムに持っていた神戸プリンも奪われてしまった。
「飲酒、喫煙、強姦、窃盗、暴行は高校球児の五大要素やからね」
摩耶は楽しげに伝える。
「真面目にやってる高校球児達に失礼だろ、このゲームの製作者。訴えられかねんぞ」
「高校球児くんの弱点は股間のバットやで」
「やっぱりそうなんや。ワタシ、筋肉質な男の子は嫌いやねん」
絵莉葉は自分に抱き付いて来た高校球児くんの股間を蹴り上げる。
「ぐはっ！」
一撃で消滅。
「高校野球のお兄ちゃん、盗みもダメだよ」
「のいて下さい。これ以上猥褻なことして来たら高野連に通報しますよ」
風実と和香子も同じようにして一撃で消滅させた。
「当てられねえ。動き速過ぎだ」
聡平は竹刀で残り三体の高校球児くん達の弱点を狙おうとするも余裕でよけられ、
「自分、文化部か帰宅部やろ？」
「ぐわぁっ！」
一体から金属バットで腰を叩かれてしまった。聡平はあまりの痛みでその場に崩れ落ちる。
「聡平くん、これ食べて」
夢乃はすぐに駆け寄って神戸チーズで回復させに行く。
「聡平お兄さん、ワタシ達に任せてや」
絵莉葉は黒インクを投げつけ、
「ぬわっ！」「おわっ！」「うおぉぉっ！」
高校球児くん全員に命中させ目をくらますことが出来た。
「悪い高校野球のお兄ちゃん達、お仕置きだよ」
風実の手裏剣、
「やっぱ高校球児は野球道具で倒すべきやろ」
絵莉葉のバット、
「その方が本望なんじゃないかしら？ わたしは野球の応援グッズで倒すわ」
和香子のメガホンですぐに彼らの弱点を狙い、それぞれ一撃で全滅させた。
バケツ一杯分くらいの甲子園球場の土と、ビニール袋を五枚残していく。
「このアイテムは高校球児くん倒したら高確率で手に入るで。皆様記念にどうぞ。ゲーム内の甲子園球場のやけどね」
「せっかくだし、貰っとくか。袋まで残すなんて気の利くとこあるな」
「そうですね」
「あたしも欲しい」
「私も持っておくよ」
「ワタシも記念に持っとこっと。リアル甲子園のより価値あると思うし」
ゲーム内甲子園球場の土を袋に詰め、みんな再び歩き始めてほどなく、
「きゃぁぁぁ～、このおじさんが、スカート捲って来た」
夢乃はまた新たな敵に背後から襲われてしまった。
「姉ちゃん、ええケツしてんのう」
虎柄の服と野球帽を身に纏っていた五〇代くらいのそいつは尚も夢乃の尻を触り続ける。
「タイガースファンのモンスターかよ」
聡平は思わず笑ってしまう。
「阪神タイガースおじさん、体力は甲子園の敵で最大の４６。応援メガホン攻撃に注意してや。ちなみに大阪編の道頓堀付近にも出没するで。この敵はゲーム内プロ野球試合で阪神が負けると不機嫌で攻撃的に、勝つと上機嫌になるけどこれは明らかに上機嫌モードやから倒しやすいで。上機嫌モード時でも他の球団のグッズかざすと途端に不機嫌攻撃的モードに豹変するけどね」
摩耶から説明され、
「そのキャラ設定もリアル感があるな」
聡平はまたも笑ってしまった。
「メガホン攻撃してくる敵にはメガホン攻撃で対抗ね」
和香子はメガホンで阪神タイガースおじさんの頭をぶっ叩く。
「ハッハッハ。お嬢ちゃんもタイガースファンか？ おじさんめっちゃ嬉しいで。構ったろう。構って欲しいんやろ？」
「いや、いいです。きゃっ！」
阪神タイガースおじさんは帽子を被っているためか、ほとんどノーダメージのようで、今度は和香子のお尻を撫でて来た。
「エッチなタイガースのおじちゃん、くらえーっ！」
「ぐはっ。涼しなったわ～」
「これならどうだっ！」
「ハッハッハ。パイ投げほどの威力はないなあ」
風実は水鉄砲と生クリームで顔面を攻撃する。
「しぶといおっちゃんやなぁ」
「ハハハッ。わいが昔甲子園の内野席で顔面に食らったファールボールよりは痛ないで」
絵莉葉は手裏剣でさらに顔面を攻撃するもまだ倒せず。
「やめて、やめてー」
「お嬢ちゃん、逃げんでもええやん」
阪神タイガースおじさんは元気いっぱいに夢乃を追い掛け回す。
「タイガースファンはタイガースの選手だけ追いかけてろよ」
ほとんど間を置かず聡平が竹刀で背中を攻撃し、ようやく消滅した。
「高校球児くん以上に恐ろしい敵だったよ。本物の阪神タイガースおじさんも嫌いになっちゃいそう」
夢乃はホッと一息つくも、トラウマになってしまったようだ。
「鬱陶しさは今までの敵で最高レベルでしたね。ひゃっ、つめたぁいです」
和香子は新たな敵にうなじを攻撃された。
「甲子園近くで冷たい敵っていうとあれしか思い浮かばんな」
聡平が呟くや、その敵がみんなの前に姿を現した。氷型だった。
「夏の甲子園名物、かちわり氷のモンスター、かちわり氷ん太郎や。体力は４１。弱点は見るからに炎やで」
「いってててぇ。動き速過ぎだな」
聡平のバット攻撃。何度振り回しても空振り。かちわり氷ん太郎に足に一発激突されてしまった。
「ワタシもマッチ火、外してもうたわ」
「当たらないですね」
絵莉葉と和香子も苦戦する。
「やったぁ！ 当たったぁ！」
風実のヨーヨー攻撃が見事命中し、かちわり氷ん太郎消滅。
しかし次の瞬間には、
「ぐぉわっ！」
聡平が何者かに蹴り飛ばされていた。
「聡平くん、これを」
すぐさま夢乃が源平せんべいで回復させに行く。
「この男の子、弱ぁっ。きっと文化部か帰宅部ね。野球部以外の男は本当ダメね」
みんなの目の前に現れたのはポニーテールヘア、ノースリーブのトップス、ミニスカート姿で両手にポンポンを持った高校生くらいに見える少女だ。嘲笑いながら聡平を眺めていた。
「甲子園チアガールちゃん、体力は３４で甲子園の敵じゃ一番低いけど運動神経抜群。キック力は甲子園の敵で最大やで」
「ほんま、すごいキックやね。うさぎ柄のパンツ丸見えやったよ。うごぅぁっ！ がはっ」
絵莉葉も腹を蹴りを食らわされた。
「あなたはどんな柄のパンツを穿いてるのかしら？」
甲子園チアガールちゃんはくすっと笑う。
「この子、蹴り、強過ぎやっ！」
絵莉葉はうずくまって腹を両手で押さえる。
「絵莉葉、早くこれを」
夢乃は子もちたこ最中で回復させた。
「くらえーっ！」
風実は甲子園チアガールちゃん目掛けてマッチ火を投げつけるも、
「効かないわよ」
足で踏み潰され消されてしまった。
「これは、逃げた方がいいかもですね」
和香子はちょっぴり怯えながら意見する。
「絶対その方がいいと思う」
全快した聡平は苦笑いで意見した。
その矢先、
「姉ちゃん、ええケツしてんのう。肉付きええわ～。何かスポーツやってんの？」
「ひゃぁっ！ 痴漢っ！ やめてぇぇぇぇぇぇぇ～。このおじさん怖ぁぁぁい」
何者かに背後からお尻を撫でられたチアガールちゃんは、涙を浮かばせて慌てて逃げ出してしまった。
「待ってーな。今夜、おじさんといっしょに阪神タイガース優勝祈願にディナーでも」
追いかけていくのは、阪神タイガースおじさんだった。
「阪神タイガースおじさんと甲子園チアガールちゃん、ゲーム上でも同時に現れると共に逃げるようになってるんよ。高校球児くんとならタッグ組んでさらにやばい状況になってたで」
摩耶は楽しげに伝える。
「助かったな。あの子、阪神タイガースおじさん蹴り飛ばすと思ったけど」
聡平は呆れ気味に笑う。
「メンタル意外と弱そうやね」
絵莉葉はにやけた。
その矢先、
「がはっ！」
聡平は猛スピードで北西に向かって横切った何者かに追突され、五メートルほど弾き飛ばされてしまった。
「何や今の？ 何か通ったよな？」
「大学生くらいのお兄ちゃんがすごい速さで走っていった気がする」
「わたしも一瞬見えたわ。新幹線より速かったも。甲子園球場の外壁すり抜けたような」
あまりに一瞬の出来事に絵莉葉、風実、和香子もぽかんとなった。
「うっ、動けねえ」
聡平はうつ伏せで苦しがる。
「聡平くぅん、大丈夫！？」
夢乃は慌てて駆け寄りカマンベールチーズケーキを与えた。
「まあ、なんとか。さっきのはやばかった。意識が飛びかけた」
聡平は苦い表情で伝え、ゆっくりと立ち上がる。
「まだ全快じゃないみたいだね」
夢乃はさらにウミガメメロンパンを与えた。
「聡平様、先ほどは不運にも西宮市内随所に出没するレア敵、体力４１の一番福男に追突されちゃいましたね。もう一段レベルが低かったら確実に体力０の気絶状態になってたで」
「西宮神社で毎年一月十日の早朝にやってるあれかぁ」
聡平はようやく体力全快。
「ゲーム上でも遭遇した瞬間、主人公らに猛スピードで追突して大ダメージ与えて、西宮神社の方角に走り去っていく厄介者やで。路上やったらアニヲタ君、声ヲタ君以上に倒すんが難しいで。簡単な倒し方は西宮神社の本殿で待ち伏せして疲れ切った状態を狙うことやねん。でも倒したところで何も良い事起きんよ。強敵にも拘らず経験値もお金も増えんしアイテムも貰えんで。戦うだけ無駄や」
摩耶は得意げに攻略法などを伝えた。
「一番福じゃなくて一番厄ね」
和香子はにこにこ顔で突っ込む。
「リアルなのは西宮神社の表大門から本殿までしか走らないんだけどなぁ」
聡平は苦笑いした。
「ぃやぁーんっ、降ろしてぇぇぇ～」
その直後に夢乃の悲鳴。
「お嬢さん、いい肉付きだね。特に太ももとお尻のところ。香りもベリーグッド♪ フライせずにそのまま生でかぶりつきたいものじゃわい」
全身薄汚い灰色で至る箇所剥げて白くなっている、背丈一八〇センチくらいの小太りお爺さんの人形型モンスターに肩車されていた。
「あーっ、あのおじちゃんだぁ！」
「おう、ケン○ッキー阪神甲子園店に飾られとったあいつやん」
「道頓堀川に二四年間沈まれていた、あのカーネル・サンダース人形さんがモンスター化したのね」
「こんなのまでゲーム上でモンスター化されてたんだな。夢乃ちゃんを降ろしてやれ」
風実達四人は思わず微笑んでしまう。
「ゆかりの地ってことで甲子園のご当地敵にした、道頓堀出身の呪いのカーネル・サンダース人形。体力は４５。防御力は甲子園の敵で最大やで。パンチ、キック、タックル、熱々フライドチキンの投げつけ攻撃に注意してや」
「お嬢さん、これからわしといっしょにデートしよう。ディナーには特製のケン○ッキーフライドチキンをご馳走するよ」
呪いのカーネル・サンダース人形は夢乃のお尻に頬ずりしながらにこにこ顔で言う。
「やめて、やめてぇーっ！ ザラザラするよぅ」
夢乃はにこにこ笑ってはいるが、かなり嫌がっている様子がよく分かった。
「いい加減降ろしてやれ」
聡平が竹刀で腰を攻撃すると、
「いててて」
呪いのカーネル・サンダース人形は両手を夢乃の膝から放し腰に当てる。
「んっしょ。あ～、怖かったぁぁぁ」
夢乃はその隙に顔を飛び越えて自分で降りた。
「お坊ちゃん、邪魔するなよっ！」
「あっつぅ。いってぇっ。辛ぁっ。めっちゃ美味いけど。リアルの以上に」
聡平は呪いのカーネル・サンダース人形から顔面と腹部に骨＆ハバネロソース付き熱々フライドチキンを合わせて十本近く投げつけられた。けれどもさほどダメージにはならなかったようだ。
「おっちゃん、食べ物粗末にしたらあかんで。これでも食らいや」
「ぐおぉぉぉっ。目が」
絵莉葉は黒インクを顔面に投げつけた。呪いのカーネル・サンダース人形のお顔は真っ黒に。
「とりゃぁっ！」
「アウチッ！」
風実はヨーヨーで顔面に攻撃を加える。
「これでとどめさせるかな？」
和香子がマッチ火を投げつけると、
「ぐわあああああっ。直火焼きにするなんて、わしを道頓堀川に投げ込んだ連中以上にひどいお嬢さんじゃ。せめてフライにして欲しかったものじゃわい」
呪いのカーネル・サンダース人形はこう言い残して、ついに消滅。
「なんか、本当に呪われそうで怖いです」
和香子は苦笑いで呟いた。
ともあれ、みんなは阪神甲子園駅へ戻っていく。
「あのおじさん、また出たよ。嫌だなぁ」
駅近くの路上で夢乃が発見すると、
「あの阪神タイガースファンにあるまじきエッチなおっちゃん、ワタシがやっつけるよ」
「あたしもやるぅ」
絵莉葉と風実は武器を構えて楽しそうにそいつのもとへ駆け寄っていく。
「とりゃぁっ！」
絵莉葉はバットで背中を、
「おじちゃん、くらえーっ！」
風実はヨーヨーで肩を一発攻撃した。
「いたたたぁ。こらっ、お嬢ちゃん、何するの？」
「まだ消えないか。攻撃力足りんかったようやね」
「もう一発叩けば消えそう」
「あのう、この方は本物の阪神タイガースおじさんみたいやで。人型の敵は本物と見分けつきにくいんもおるねん。リアルのを参考にしてデザインされとるゆえ」
摩耶が苦笑いして呟くと、
「えっ！？ すっ、すみませんでしたぁ」
「おじちゃんごめんなさーい」
絵莉葉と風実は慌てて謝罪。
「いや、ええんよ。なんか今朝からこの辺りにタイガースの応援衣装で若い女に猥褻な行為をするけしからん輩が出とるって聞いとるし。お嬢ちゃん達はわいがその者と思ったんやろう？ じゃあ、嬢ちゃん達も気をつけてな」
リアル阪神タイガースおじさんはハハハッと笑って快く許してくれ、甲子園の方へ足を進める。
「間違いなく敵キャラの阪神タイガースおじさんのしわざやな」
「ついに一般人にも直接被害受けたやつが出たわけか」
「神戸市内の商店で、商品が誰かに入られた形跡もなく持ち出される不可解な現象が相次いでるみたいよ。アニメイトととらのあなさんも被害に遭ったみたいやけど、それはきっとアニヲタ君、声ヲタ君のしわざやろうね」
絵莉葉は自分の携帯をネットに繋いでローカルニュースと関連記事を確認する。
「泥棒もやってる敵キャラさんは、あたし達が懲らしめなきゃいけないね」
「わたし達、使命感がさらにふくらみましたね」
「敵キャラさん達、大人しくしてて欲しいものだよ。私達にも襲い掛からないで欲しいよ」
※
甲子園→今津→西宮北口を経由して阪急宝塚駅へ辿り着いたみんなは、宝塚大劇場とを結ぶ遊歩道、通称【花のみち】を歩き進んでいく。
「俺、宝塚は何回か家族で来たことあるけど、歌劇よりも手塚治虫の記念館の方が面白いなって感じたよ」
「聡平様はやっぱ男の子やね。ゲーム内宝塚歌劇も女性に人気で男のファンは少ないで」
「あたしも家族で来た時、歌劇より手塚治虫の記念館の方がずっと面白いって感じたよ」
「ワタシもそう思ったで」
「私は、どっちも楽しいなって感じたよ」
「わたしもです。あら、あれは、雰囲気的に本物じゃなさそうね。目つきがわたし達を狙ってるようだし、少し中に浮いてるし」
レオタードや浴衣、着物、グレーの制服、ドレスといった華やかな衣装を身にまとったスタイルの良い女性型モンスターが数体、みんなの方へ近づいて来た。
「敵やで。宝塚歌劇少女、体力はどの容姿のでも４８や。大人っぽい風貌の方はイーブルタカラジェンヌでどれも５３。どちらも多彩な技使ってくるから気を付けて」
「宝塚音楽学校の生徒やタカラジェンヌをモンスター化するなんて、本物から訴えられかねんな。このゲームの製作者」
聡平はさっそく竹刀でレオタード姿のタイプに立ち向かっていく。
「身体能力、甲子園チアガールちゃん以上だな。うぉっあっ！」
しかしひらりとかわされてしまい、聡平はパチーンと平手打ち攻撃を食らわされてしまった。
「男みたいな宝塚のおばちゃん、食らえーっ！」
「絵莉葉さん、男役と言うべきだと思うわ」
風実はヨーヨー、和香子はメガホン攻撃を試みるも、余裕でかわされてしまう。
「よっしゃぁっ！ 当たったで」
絵莉葉はグレーの制服姿のお淑やかそうな一体のお顔に官兵衛ワイン白をぶっかけることが出来た。
「おほほほ、あはははははっ！」
すると頬を赤らめて笑い出し、ふらふらしながら自分で自分を攻撃して自滅したのだ。
「ありゃまっ」
絵莉葉は拍子抜けしたようだ。
「酩酊状態になっちゃうと、自分で自分を攻撃したり仲間を攻撃したりして自滅する場合もあるねん」
摩耶は微笑み顔で伝える。
「それはええこと聞いたわ。そっちもこれ食らいや」
絵莉葉はオスカル型のもう一体のお顔にもぶっかけた。
「ふふふ」
そのお方に嘲笑われてしまう。
「大人の方には効かんかぁ」
苦笑いした絵莉葉は、そのお方にスミレの花を鼻に近づけられた。
「絵莉葉様、早く離れてっ！」
摩耶は警告するも、間に合わず。
「めっちゃええ匂いやぁ～。あひゃひゃ」
絵莉葉は途端にうつろな目つきに変わり、ふらふらしながらバットで自分を攻撃した。
「絵莉葉様が、混乱状態に」
「絵莉葉、しっかりして。きゃん。いたぁい」
夢乃は絵莉葉から膝にバット攻撃を食らわされてしまう。
「夢乃様、そのうち自然に戻るので。今、絵莉葉様に近づくと危険やで」
「絵莉葉ぁ、早く元に戻って。あっ、服脱いじゃダメだよ」
「ぐぉっ、この敵、強過ぎる」
聡平は背丈一七五センチくらいはあるアンドレ型のタイプから蹴りと、手に持っていたバラの棘で攻撃されてしまう。顔や腕から血がけっこう出て体力もかなり減っていた。
追い討ちをかけるように、
「あらごめんなさい」
「邪魔よ庶民くん」
「ぐわぁっ！」
宝塚歌劇少女二体に隊列行進で突進され弾き飛ばされてしまう。
「きゃぁん、いったぁいです」
「きゃんっ、あたしも蹴り飛ばされちゃった」
風実も和香子も日舞とバレエの華麗な舞いで弾き飛ばされてしまった。
「ラ～ラララ♪ ラララララァァァ」
宝塚歌劇少女の一体が突如歌を口ずさみ出す。
「何だこの声は。精神がおかしくなりそうだ」
「あたしは眠くなって来たぁ」
「わたしは、涙が止まりません。ずっと聞いていたいです」
「私もだよ。この歌、すごく心を動かされるよ。なんて素晴らしい曲なのっ！」
「宝塚歌劇少女の歌唱は、眠りや混乱、戦意喪失の感動状態にさせる力があるで。皆様、耳を塞いで聞かないように」
「夢乃お姉ちゃぁん、早くヴァイオリンの騒音で蹴散らしてー」
うとうとしかけていた風実から頼まれると、
「わっ、分かった」
夢乃はすぐにヴァイオリンの弦を引く。
相変わらずのひどい音色が周囲に流れるが、
「あれ？ 全然効いてないよ」
宝塚歌劇少女、イーブルタカラジェンヌ達は全く怯んでいないようだった。
「夢乃様、残念ながら、宝塚歌劇少女とイーブルタカラジェンヌは他者の出す騒音雑音くらいじゃびくともせんで」
摩耶から苦い表情で伝えられた。
「それじゃあ、絶対勝てそうにないよ。みんな逃げよう！」
夢乃は顔を強張らせながら叫ぶ。
「皆様、うちに任せてや。宝塚歌劇少女とイーブルタカラジェンヌの身動きを封じる取って置きの技があるねん」
摩耶は自信たっぷりに伝えると、リュックから阪急電鉄の模型を取り出した。
すると、宝塚歌劇少女とイーブルタカラジェンヌは皆、攻撃の手をぴたりと止めたのち、一糸乱れず一堂にそれに向かってお辞儀したのだ。
「この敵はこれでもう何も出来へんよ。皆様、容赦なく攻撃しちゃってや」
「こんな弱点があったのですね」
和香子はちょっと躊躇いつつもメガホンで背中を攻撃。
「くらえーっ！」
風実は手裏剣、
「この敵、手強過ぎたわ。歌劇だけに火撃やっ！」
元の精神状態に戻った絵莉葉はマッチ火で攻撃。
「かなり罪悪感に駆られるな」
聡平は竹刀で背中を叩きつけ、全滅。
歌劇まんじゅう、人形焼、ローズケーキ、乙女餅。
計四つの回復アイテムを残してくれた。
「これみたいに一見戦闘の役に立たんアイテムでも、役立つこともあるねんで」
摩耶が阪急電鉄の模型を手に持って自慢げに言った直後に、
「ぃやぁーん、ここにもエッチな敵が」
夢乃は円盤型の敵数体にスカートを捲られた。
「炭酸せんべいくんは有馬温泉にも出る体力１７の雑魚やで。皆様の今のレベルなら武器使わんでも楽に倒せるよ」
「離れて、離れてぇぇぇ」
夢乃がつかんで投げ捨てるとすぐに消滅した。
炭酸せんべいを残していく。
時同じく、
「こっちの敵はけっこう強いぞ」
「いったぁ～い。鳥さんやめて」
「あんっ、耳噛まないで下さい」
「ぎゃっ、腕引っかかれたぁ。この爪の威力強烈過ぎや」
ホォォォォォォォ、ホケキョッ！ ホケキョッ！
チッ、チュイ、チュイ、チュイイイッ！
聡平達は体長五〇センチくらいのウグイスと七〇センチくらいのセキレイ型モンスターに襲われていた。
「宝塚ウグイスは体力４０。宝塚セグロセキレイは４４。宝塚歌劇の敵に比べたら攻撃力も防御力も瞬発力も低い雑魚やで」
摩耶は伝える。
「確かにあの敵よりはかなり弱いな」
聡平は竹刀、
「くらえーっ！」
風実は水鉄砲、
「手塚治虫さんの出身地にちなんで、リアル火の鳥にしたるわ～」
絵莉葉はマッチ火、
「宝塚市の鳥さんがモンスター化したのね」
和香子はメガホンで攻撃して全滅させた。
その時夢乃は、
「きゃぁぁぁっ、巨大な昆虫さんがいっぱいまとわりついて来たぁ」
リアルで通常見かける倍以上のサイズはあるカブトムシ、クワガタ、とんぼ、アゲハチョウ、テントウムシなどに追われ逃げ惑っていた。
「手塚治虫の愛した昆虫達。体力は１４から３７まであるけどこれも雑魚やで。ゲーム上では一回の戦闘につき八種類くらいで襲ってくるで」
「さすがに手塚治虫の作品に登場するキャラをモンスター化させることは著作権的に出来なかったか。竹刀じゃ当たりにくいな」
聡平はマッチ火、
「夢乃お姉さんの昆虫を引き付ける力はすごいわ～。手塚治虫さんに敬意を表してこれで攻撃しよっと」
絵莉葉はＧペンミサイル、
「ペットにしたいなぁ」
風実は水鉄砲で攻撃していく。
「わたしは標本にしたいです。倒すのが勿体ないかも」
和香子は攻撃を躊躇ってしまった。
とくに苦戦することなく全滅させた後、みんなは引き続き手塚治虫記念館付近を散策していると、
「フォフォフォ、皆の者、良くここまで辿り着いたな。若い娘さんがようけおって嬉しいわい。男主人公一人だけで来るゲーム内での標準進行より、こっちの方がずっと良いわ」
白髪白髭、老眼鏡をかけた作務衣姿の仙人風なお爺ちゃんに遭遇した。
「エロそうな爺ちゃんやね」
絵莉葉はそのお方の風貌を見てにっこり微笑んだ。
「フォフォフォフォッ。わしは小学生の女子が一番の好みなのじゃよ」
お爺ちゃんはとても機嫌良さそうにおっしゃる。
「ロリコンなんかぁ。見た目通りやね」
「あたしが好きなの？」
風実がぴょこぴょこ近寄っていこうとしたら、
「風実、このお爺ちゃんに近づいちゃダメだよ。エッチなことされるからね」
「そんなことしないよ」
「いや、しそうだよ」
夢乃に背後から掴まえられた。
「このお方は学問仙人といって、対戦避けることも出来るねんけど、戦った方が後々の旅で有利になるかもやで」
「学問仙人のイベントうざ過ぎってレビューに書かれてたけど、兵庫編で早くも遭遇するんだな」
聡平は興味深そうに学問仙人の姿を眺めた。
「敵キャラだけど、倒せば味方になってくれるで。主人公達に学力向上を授けてくれるいいお方よ。小学生の女の子の中でも、勉学に励む子が特に好きやねん」
「ホホホッ。わしはゲーム内でも兵庫県内、それどころか日本で最も入学難易度が高いといわれる、宝塚音楽学校付近に登場するのじゃ」
「宝塚音楽学校は確かに入学は大変難しいですが、学力的に最難関なのは灘ですよね」
和香子はすかさず指摘する。
「わしもそう思うのじゃが、灘は男しかおらんからのう。女の園の方がいいわい。もっと欲を言えば、神戸女学院中学部付近に登場するという設定にして欲しかった。そっちの方が宝塚音楽学校よりも若い娘さんが多いからのう」
学問仙人はホホホッと笑う。
「やっぱロリコン仙人やん」
絵莉葉はすかさす突っ込んだ。
「そこの風実と申されるお嬢ちゃん、わしに勝負を挑んでみんかのう？」
「やる、やるぅ」
「風実、危ないからダメだよ」
「小学生の風実様では、まだ無理だと思うで」
「戦いたいんだけどなぁ」
「わたしがやりますっ！」
和香子が率先して学問仙人の前に歩み寄った。
「ショートがよくお似合いのお嬢さんは、東大志望かのう？」
学問仙人が問いかける。
「いや、わたしは京大第一志望よ」
和香子はきりっとした表情で答えた。
「そうか。まあ京大でもいい心構えじゃ。戦いがいがあるわい。それっ！」
学問仙人はいきなり杖を振りかざした。
「ひゃっ！」
和香子は強烈な突風により吹っ飛ばされてしまう。
「想像以上に強いな。このエロ爺」
聡平はとっさに和香子から目を背けた。
「きゃんっ！」
服もビリビリに破かれて、ほとんど全裸状態にされてしまったのだ。
「なかなかのスタイルじゃわい」
学問仙人はホホホッと笑う。
「立ち上がれないわ。かなり、ダメージ、受けちゃったみたい。痛い」
仰向けで苦しそうに呟く和香子のもとへ、
「大丈夫？ 和香子ちゃん、これ食べて」
夢乃はすぐさま駆け寄り、神戸生チョコレートを与えて回復させた。けれども服は元に戻らず。
「学問仙人、攻撃もエロいね。ワタシも協力するよ」
「エッチなお爺ちゃん、くらえーっ！」
絵莉葉はバット、風実は水鉄砲を構えて果敢に挑んでいく。
しかし、
「ほいっ！」
「きゃわっ！ もう、ほんまにエッチやわ」
「いやーん、すごい風ぇ」
和香子と同じように攻撃すらさせてもらえず杖一振りで服ごと吹っ飛ばされて、ほとんど全裸状態にされてしまった。
「絵莉葉も風実も大丈夫？」
「平気よ、夢乃お姉さん」
「あたしも、大丈夫だよ」
「すごく苦しそうにしてるし、そうには思えないよ」
夢乃は心配そうに駆け寄り、子もちたこ最中で全快させてあげた。破かれた服はやはり戻らず。
「一応、やってみるか」
絵莉葉と風実のあられもない姿も一瞬見てしまった聡平も、竹刀を構えて恐る恐る立ち向かっていったが、
「それっ！」
「うおあっ！」
やはり杖の一振りで吹っ飛ばされ大ダメージを食らわされてしまった。けれども服は一切破かれず。
「男の裸なんか見たくないからのう」
学問仙人はにっこり微笑んだ。
「聡平さん、相当効いたでしょう？ これ食べて元気出して下さい」
「ありがとう、真殿さん」
明日用の替えの服を着た和香子は子午せんで聡平を全快させてあげた。
「次は、お嬢さんが挑んでみんかのう？」
「いいえけっこうです！」
学問仙人に微笑み顔で誘われた夢乃は、青ざめた表情で即拒否した。
「このエロ爺、とんでもない強さや。これは倒しがいがあるわ～」
「中ボスの力じゃないよね？」
絵莉葉と風実は圧倒されるも、わくわくもしていた。
「どうやっても、勝てる気がしないわ」
和香子は悲しげな表情で呟く。
「この仙人、見た目のわりに強過ぎだろ。どうやって勝つんだよ？」
聡平は絵莉葉と風実のあられもない姿を見ないよう視線を学問仙人に向けていた。
「ホホホ、まあ今のお主らには勝てんじゃろうな。けどわしも鬼ではない。お主らにわしにハンディを与えさせてやろう」
学問仙人はそう伝えると、数枚綴りの用紙を聡平に差し出して来た。
「これ、テストか？」
「学問仙人はデフォルトじゃかなり強いけど、学問仙人が出すペーパーテストの正答率と同じだけ攻撃力、防御力、体力も下がるねん。例えばこれに六割正解すれば、デフォルトの能力値から六割減になるねんで」
摩耶は解説を加えた。
「相当難しいのばかりじゃから、お主ら程度の頭脳じゃ三割も取れんと思うがのう。三割取れたところでまだまだわしには通用せんじゃろう」
学問仙人はどや顔でおっしゃる。
「確かに難し過ぎだな。マニアックな問題が多いと思う。高校生クイズの地区予選のよりも難しいんじゃないか？」
聡平は苦笑いした。
世界で四番目に大きい島は？
漫画『やけっぱちのマリア』の著者は誰？
兵庫県内にある次の地名の読み仮名を記せ【宍粟】などの一問一答雑学問題が特に多く出題されていた。
「あたし一問も分からないよぅ」
「ワタシもや」
「絵莉葉ちゃん、風実ちゃんも、服破けてるから」
前から覗き込まれ、聡平はもう片方の手でとっさに目を覆う。
「すまんねえ聡平お兄さん、すぐに着てくるわ～」
「この格好でいたらお巡りさんに逮捕されちゃうね」
絵莉葉と風実は自分のリュックを置いた場所へ向かってくれた。
「私も、ちょっとしか分からないよ。三割も取れないと思う」
夢乃もザッと確認してみて、苦い表情を浮かべる。
「それならわたしに任せて」
和香子はシャーペンを手に持ち、楽しそうに解答をし始めた。
全部で百問。一問一点の百点満点だ。
「どうぞ」
和香子は三〇分ほどで解答を終え、学問仙人に手渡した。
「ホホホ。かなり自信のようじゃが……うぬっ！ なんと、二問ミスしただけの九八点じゃとぉっ！ ネットで調べる素振り見せておらんかったのに」
学問仙人は驚き顔で呟く。
「和香子様。さすが賢者。大変素晴らしいで。どこにでもいるごく普通の高校生なら三割取れれば上出来なこの超難問テストで九割八分の正解率を叩き出すなんて。学問仙人、能力値九割八分減で神戸サンバ姉ちゃん並に弱くなったと思うで」
「本当か？ 姿は全然変わってないけど」
聡平は少しにやけた。
「いや、わしの強さは全く変わってないぞよ」
学問仙人は自信たっぷりに杖を振る。しかし先ほどのように風は起きなかった。
「明らかに弱くなってますね。学問仙人さん、わたし達に風でエッチな攻撃した仕返しよ」
和香子は竹うちわで学問仙人を思いっ切り扇いだ。
「ぐええ！ まいった」
学問仙人は数メートル吹っ飛ばされてしまい、あえなく降参。
「能力値極端に下がり過ぎだろ」
聡平は思わず笑ってしまう。
「お見事や」
「和香子お姉ちゃん勝ったんだね」
「楽勝過ぎて拍子抜けしちゃいました。服も戻ってよかったです」
絵莉葉、風実、和香子の破かれた服も瞬く間に元通りに。
「ホホホッ。皆の者、今後の旅、健闘を祈るぞよ。これを持って行きたまえ」
学問仙人はみんなに学力向上のお守りを一つずつ手渡すと、ポンッと煙を上げて姿を消した。
「なんか、急に頭が冴えて来た気がするわ～」
「俺も」
「私も」
「わたしもですよ」
「あたしもすごく頭が良くなった気がする。勉強しなくてもテストで楽に百点取れそう」
「皆様、お疲れ様でした。もう夕方やから、このあと篠山に移動したら宿を決めましょう」
「行楽シーズンの篠山で六人も泊まれるとこあるのかな？ 連休中だしどこも埋まってそう」
聡平は少し心配になった。
「篠山口駅からちょっと遠いけど、篭桜旅館は空室があるみたいよ。食事付きで高校生以下は一人当たり一泊一万三千円だって。六名以上だと団体割引で一万千円よ」
「それでも高めやけど全部屋露天風呂付き客室なんかぁ。和香子お姉さん、ここにしよう！」
「ゲーム機とソフトも備えてあるのっ！？ あたしもここがいいな♪」
「私もー」
「ええ場所にあるね。うちもここがいいわ～」
「ではしておきますね。わたしもすごくいいなって思ったの」
和香子は携帯のネット画面を閉じると、さっそくその旅館に電話予約。
「ゲーム上でも事前予約してへんと、宿に泊まれん場合もあるで」
「そこもリアルさがあるな」
聡平はそのシステムも余計だなっと感じたようだ。
