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改第8話 神話



 時間を少し遡る。


「はぁ……。どうしたものか……」

 とある街の冒険者ギルドの一室。

 男はある本を机の上に放り投げたいところだが丁寧に置く。

 リーバイの街の冒険者ギルド支部のギルドマスター――バジル・フラムはつい先日ギルドの書庫で目の前の本を見つけた。

 見つけてしまったのだ。

「はぁ……」

 この本に書かれたことをバジルは知りたくなかった。

 しかし知ってしまった。

 知ってしまった以上その真偽を確かめなければならない。

「はぁ……」


 読みたくないのだがおずおずとまた本に手を伸ばす。

 少し読むだけで数年分も年をとったくらいの気苦労が溜まる。

 バジルが読んでいる本は古い日記だ。

 古い日記だけなら問題じゃないのだ。

 誰が書いたかが問題だった。

 さらに内容も。


 その本は初代ギルド総括――アダム・ソルの日記であった。

 アダム・ソルは土の勇者と呼ばれている。

 王国では光の勇者や他の勇者の下っ端とみなされて蔑まれているのだがここフレニア自由都市連合では違う。

 アダム・ソルは冒険者ギルドをつくった。

 誰にも縛られない――そんな冒険者の生き方を示した。

 それはこの都市連合の根底でもある。

 王国のように身分に囚われたような生き方をしたくないといった者が王国に抵抗してこの都市連合はできたのだ。

 そんなアダム・ソルが残した日記はバジルに衝撃――そんな言葉では済ませられないほどのショックをバジルに与えた。


 この世界の神話。

 5人の勇者の物語。

 とても邪悪な竜を勇者が悪戦苦闘しながらも最後には光の勇者の聖剣で邪悪な竜を封印する。

 それがこのパンゲア大陸の人間誰もが知っている神話なのだ。


 私たちはより強い魔物ほど魔力保有量がより大きいことを知った。

 すべてがこのとき始まった。

 大陸の中心にある迷宮でシャルロ(光の勇者)はひと振りの剣を見つけた。

 他に剣は見つけることはできなかったがその剣は切れ味がすばらしく、魔力を込めると特殊な力を発動した。

 私は魔眼持ちだった。

 この剣の魔水晶に付与された魔法陣は今まで私は見たことがなかった。

 しかし同じような魔法陣が迷宮全体を覆っていることに私は気付いた。

 おそらくその魔法は魔物をそこから出さないようにするもの――結界魔法なのだろう。

 そんな魔法は今には存在しない。

 迷宮は魔力保有量が高い者しか入れないようだった。

 私たちは強力な魔物を殺してすぐ食らうことで魔力保有量を底上げしていた。

 しかし私たちは剣を見つけたその先には進めなかった。

 さらに魔力保有量を上げるために私たちは大陸中を旅した。

 そこで出会った魔物を殺しては食らい、殺しては食らった。

 旅の途中で私たちは竜人と出会った。彼らは竜に変身できるという特殊な力を持っていた。

 とても大きな魔力保有量を持っていないとそんなことはできないと私たちは思った。

 私たちは彼らと少しずつ親しくなり隙をうかがった。

 そして彼らが巫女と呼ぶとりわけ魔力保有量が高そうな竜人と彼ら隔離させることに成功した私たちは今までのように誘い出した彼らを殺し、食らった。

 仲間がいなくなったことに気付いた巫女と私たちは交戦することになった。

 彼女は圧倒的だった。

 私たちも善戦はしたが残るは私とシャルロだけになってしまった。

 私たちは生き残るために2人で剣の魔法を発動させた。

 そして竜人の巫女を封じることに成功した。

 私たちは生き残ったのだ。


 バジルが読んだ内容はこんなものであった。

 ここまで読んでバジルはこの先を読み進む気力が湧かなかった。

 自分たちが勇者と信じていた者たちは自分たちの魔力保有量を上げるために他の人族を虐殺した。

 その方法も問題だった。殺して食らう――なんと酷い方法だろう。

 想像しかけたところでバジルは口を覆う。

 彼らは勇者なのではない。

 人殺しだ。

 なんと罪深いやつらだ、そんな怒りがこみ上げてくる。

 こんなやつらを自分たちは崇め奉り、憧れていたのだ。


 バジルは本を手放し考える。

 この本がここにある理由を。

 冷静になればおかしいではないか。

 普通ならゲルニア王国にある本部に置いておくべき本だ。

 しかしこのギルドに存在した。

 そのことに気付きもう一度日記に手を伸ばした。

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