改第7話 魔法
話を考えるのが難しい。迷いの森の話がやっと出せました。
アリスが起こした一幕が飛鳥の日常を大きく変えた。
宿の宿泊客と話すようになり、冒険者ギルドに一緒に向かうようになった。
街の人たちも親しげに語らいながら歩くようになったアスカに怯えるような視線をおくることはなくなった。
しかし飛鳥は困っていた。『まんぷく亭』限定でだ。
「あのー、アリスさん。アリスさんってば!」
問題の張本人のアリスはというと、飛鳥に話しかけられると同時に、忙しいんですと言わんばかりにどこかに行ってしまう。
そんな飛鳥を面白いものを見るように――ニヤニヤと笑みを浮かべる宿泊客たちであるが、そんな彼らも飛鳥に頼まれて食事の時に魔法や文字について教えている。
「生活魔法は使えるよな。
誰にでも使えるしな。俺
たち人間はどれか1系統しか魔法を使うことができない。
もちろん生活魔法は別だけどな」
生活魔法とはどの系統の最下級魔法であり火魔法では”着火”、水魔法では”呼水”、風魔法では”送風”、光魔法では電灯”、聖魔法はなくて無系統魔法の清潔魔法で”簡易浄化”がある。
これらは誰もが使うことができる。
飛鳥が初めて入った宿で見かけた魔法陣は”簡易浄化”の魔方陣であった。
「俺ら人は個人によって魔力量が変わってくるらしくてなあ、光の勇者パーティーは誰もが莫大な魔力量を持っていたそうだ。
それは上級魔法を何回も打てるほどにな!
それに魔水晶が付けられた聖剣を持っていたそうだ」
興奮するように話す宿泊客の1人。
”簡易浄化”の魔法陣が付与されていた水晶を魔水晶という。これは魔法陣を記憶することができる。
しかし硬貨くらいの大きさではでせいぜい生活魔法くらいしか付与することができない。
「それにな、魔眼ていう目を持つ者がたまにいるんだ。魔法陣が見えるらしい」
魔法陣が見える飛鳥としては驚きだが、普通の人は他の人が使う魔法を自分の見た経験や本による知識によってイメージによって勝手に魔法陣が作られる。
魔眼持ちでは他人が魔法を使ったときその魔法陣の特徴を覚えておけばどんな魔法を使ったか解るのだ。
「人は生活魔法を誰もが使えるんだ。
でもな獣人はそれ以上は使えねえ。でも身体能力が異常なんだ。
はやくて目で追いきれねえんだ。
それに小巨人だなぁ。
やつらがつくる武器は俺ら人間が使う武器なんかよりはるかに性能が良いらしいぜ」
人とは人間、獣人、小巨人などを含めた言葉を操るものの総称である。
さらに宿泊客は続ける。
「2ヶ月後に麦の収穫があるんだ。
そんあとによ、収穫祭ってのがあんだがその時期に毎年獣人の大道芸人がやってくるんだ。やつらの剣舞なんてはやすぎて剣の打ち合う音しか聞こえねえんだ」
それを聞き胸を高鳴らせる飛鳥。
目を輝かせながら熱心に聞いているアスカに宿泊客は思わず苦笑する。
「そんな楽しみか。でも麦の収穫はこの街の一大事なんだ。
農夫から収穫依頼がギルドにだされるんだがその時期はその依頼を受けるのが慣習になってんだ」
「麦の収穫……」
飛鳥は収穫と言われてもあまりピンとこない。
稲と似たようなものだから鎌で穂先をつむのだろうか。自分にできるだろうか。
飛鳥は少し不安になった。
字も読み書きがある程度できるようになり飛鳥がギルドで受けられる依頼の選択肢が大きく増えた。
「アスカさんこちらの計算もお願いします」
その多さに思わず目を見開いてしまう。
そんな飛鳥にギルド職員のマリーは追い打ちをかける。
「これが終わるまでサインはしませんからね」
山のような書類をやっとのことで終わらせた飛鳥は茜色に染まる空を見ながら宿に戻るために歩き出す。そんなとき……。
「アスカ、久しぶりだな」
手を振りながら近づいてくるのはカルノだった。
「久しぶりカルノ。いったい2ヶ月もどこに行っていたんだ?」
飛鳥はカルノと1回会ったきり今まで会うことはなかった。当然カルノがどこで何をしていたか気になるのである。
「ああ、街の北の先にある迷いの森の偵察をギルドマスターに頼まれたんだ」
迷いの森とは街の北から出て、草原を抜け、さらに軽い森を抜けて先にある。まさに秘境である。
「ギルドマスターから直接頼まれるなんてカルノはすごいな」
ギルドマスターという大きな名前が出てきて思わず飛鳥はびっくりしてしまう。
「ギルドマスターも詳しいことは教えてくれないんだけど森の生態調査なんだ。
迷いの森の魔物はどれも手ごわくてね。この辺に迷って出てくる魔物とじゃ強さが違ったよ」
「魔物と戦って怪我とかしないの?」
心配そうな顔をする飛鳥に問題ないという風にカルノは首を横に振る。
「うまく立ち回れば怪我はしないよ。
でも自分の力を過信すると最悪死ぬことだってあるんだ」
カルノは急いでいるのか早口で言う。
「これからギルドマスターに報告しなきゃいけないんだ」
カルノは飛鳥の前をあとにしようとするが思い出したように振り返る。
「それと今度、麦の収穫依頼を一緒に受けないかい?」
何気ないカルノの提案。
「え、いいの?じゃ、よろしく頼むよ」
カルノに誘ってもらえて飛鳥は嬉しかった。
この世界に来て同年代の友達というべき人は飛鳥には存在しなかった。
一緒に依頼を受ける。
まさに友達のようではないか。
麦の収穫は宿屋の宿泊客と受けようと思っていた飛鳥であったがカルノが誘ってくれたので彼と一緒に受けることにした。