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改第5話 アリスチャレンジ前編


 この一週間飛鳥は荷運びとレストランの裏方の依頼しか受けていない。

 午前中からお昼過ぎまでレストランで、午後いっぱいかけて荷運びをしている。

 荷運びの依頼は店主が気が良い人でそこまで大変ではない。

 しかしレストランの依頼はもう根を上げる寸前だ。冷たい水で具材を洗い、具材を細かく刻んで、お皿を洗ってと目を回しそうな忙しさだ。

 使うことに慣れていない包丁で指を切ったり、お皿を割ったりして料理長には雷のような剣幕で叱責される。

 唯一の救いはまかない付きだったということだ。


 街中を1人で歩く飛鳥は相変わらず好奇の目にさらされ、宿では隅っこでひっそりとご飯を食べている。

 カルノともあの時以来会っていない。

 飛鳥は基本的に自分から依頼以外で話しかけはしない。

 自分から話かけて拒絶されたらと思うと怖いのだ。

 実際は街の人は最初は得体の知れない何かを見るように遠巻きに飛鳥を観察し、特殊な魔法を使うことなく街の中を荷物を運んでいる姿を見て、黒い髪の子ががんばってるなぁ、と思っているだけである。

 依頼では怒られ、宿では1人ぼっち。

 まだましだと思う荷物運びでさえ腕や腰には堪えている。

 飛鳥は日本にいたときどれだけ幸せだったかと切実に感じている。

(……帰りたい)

 そう思うとまるで心がキリキリと痛むように胸のあたりが苦しくなる。

(なんで俺がこんなところに……。なんで俺がこんな目に……。アイツさえいなければ……)

 飛鳥の心の中でドロドロとした黒い感情が激しく湧き上がる。



 宿屋『まんぷく亭』の看板娘アリスはこの1週間黒髪のアスカという少年を観察している。

 宿に入ってきたアスカを見て、アリスは怖いと思った。

 『まんぷく亭』は冒険者の赤い髪の人、青い髪の人、もっとたまに獣人だって泊まりにくることもあるけれど黒髪は見たことも聞いたこともなかった。

 系統外魔法使いは白髪だし、とにかく得体がしれなかったのだ。

 黒と言えば子供のときに読んだ絵本のなかでいつも残忍で最後には勇者にやっつけられる悪いやつがしている色であり、黒という色自体に忌避感があるのだ。


 最初にそんな印象をアスカに抱いたアリスであるがアスカを1週間観察していればわかる。

 アスカは誰とも話すことなくアリスとだって洗濯物とか宿の延長とか必要なことだけ話す。

 まるで人と必要以上に話すことを避けているかのように。


 日に日にアスカの顔から表情がなくなって目は血走ってまるで病人のようだ。

 今日だって1人でごはんを食べてすぐに部屋に戻ってしまった。

 さすがに心配になる。

(私、そんなに怖がってるように見えたかしら……)

 アリスもこの宿に泊まっている人もアスカが頑張っているのは知っている。

 宿に戻ってくるとき、赤く腫れた指をさすって戻ってくるのだ。

 誰も話しかけないのはアスカが話すのを嫌がっているように見えるからだ。

 でもそんなことはないとアリスは思う。

(私だったら誰とも話せないなんて耐えられないわ。彼だって話しかけて欲しいはずだわ)

 アリスはおせっかいになるかもしれないがアスカに話しかけてみることにした。

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