改第1話 新たな世界の始まり
ついに改第1話完成です。改第18話まで投稿したら元の第1~18話を消去します。皆さんに拙い文章を読んでもらえたこと感謝します。この物語とても多くの方にアクセスして頂けたようです。この改稿が僕の文章力の精一杯です。喜んで読んでもらえたら幸いです。また「異世界に落とされました」⇒「世界の終わりは始まりで」に題を変える予定です。
「……ハァハァ」
鬱蒼と茂る木々の中、湊飛鳥はもう半日くらい歩き続けている。
彼はもちろん登山しにきたわけでもバードウォッチングをしにきたわけでもない。
やむを得ず近くの街に向かって歩いているのである。
彼は歩き始めて以来未だ何も口にしていない。当然お腹も空き、たまに盛大にお腹をならしている。
「……はぁ」
今日何度目か分からないお腹の音に自分でもため息をついてしまう。
彼がこんな状態になってしまったのは彼の体感時間で半日前のあの瞬間であった。
湊飛鳥は池袋にある高校からいつものように帰宅していた。
といっても、部活として校内にあるプールで泳いだあと大手の進学塾に行くところであった。
少し湿った髪を5月の爽やかな風に揺らしながら。
事件は進学塾が見え始めた丁度そのとき起こった。
彼の視界は突如真っ暗になり、彼には状況がまったく分からない。
次の瞬間、とても明るく暖かい光が彼の視界全開に広がる。
彼は「ハッ・・・・・・、ここはどこなんだ?」と思わず声に出してしまう。
見渡す限り何もない空間が広がっていることは彼も見て理解していた。
だから答えなんて期待などしていなかった。
「湊飛鳥君こんにちは!」
突然声をかけられ彼は慌ててキョロキョロとまわりを見渡す。
しかし彼の目にはどこまでも広がる光に包まれた空間しか映らない。
「湊飛鳥君、見渡したって僕を見ることはできないよ。だって君の魂に直接語りかけているんだから」
「………」
その言葉の意味が分からず飛鳥は黙り込んでしまう。
魂と言われてわかるわけがない。飛鳥には魂という概念が分からないのだ。
「魂というのはすべての生きとし生けるものに宿るもの。
人間で言えば心の元となる部分のことなんだよ。
そんな君だって今は魂だけの状態なんだし」
その言葉に飛鳥は自分の体を見渡す。
彼の体は透明であり、足の方は透明を通り越し消えかけている。
「なにこれ? えっ、待って! ちょっと! どうなってんの!?」
飛鳥はもはやパニック状態だ。そんな焦りまくりの飛鳥に
「まぁ、落ち着きなって。焦ってもなにも状態は変わらないんだし」
そんないい加減な声が投げかけられる。
「まずは自己紹介だ。僕の名前は神?なのかな……
うん、神ということにしておこう。
さて、君に問題です。
なぜ君はこんな状態になっているのでしょう?」
「………」
自称神と名乗るその声に飛鳥は絶句してしまう。
そもそもこの質問に彼は答えることなどできない。
そして答える必要などなかった。
「まぁ、わかんないよね。答えられるはずないし」
もはや質問すんなよ、と突っ込みたいところである。
「君は偶然不慮の事故で死んでしまいました。これは理解してる?」
「………」
飛鳥は自分が死んだということに言葉を発することができない。
しかしこの状態が生きているという状態から遠く離れているということは彼にも理解できた。
そこで彼は疑問に思う。
自分が自動車に跳ねられたり、人に刺されたりしたならば何かしらの痛みが視界が真っ暗になる前にあったはずだと。
だが彼にはそんな痛みははなかった。
「嘘だ! 俺は事故には遭っていないはずだ」
「ちぇ~、このまま押し通せたら説明しなくて楽で良かったのに」
その言葉に若干いらつきながらも飛鳥は自称神の話を聞くことにした。
「全部あんたが悪いんじゃねーか!」
飛鳥は思わず絶叫する。
彼が怒るのも当然だ。
自称神の説明した内容は以下のようなものだったのだ。
自称神はいくつも存在する世界の1つをを管理する存在であり、今回飛鳥がいた世界で管理者たちの定期報告会があったらしい。
自称神は定期報告会の後行った世界を毎回少しブラブラしながら帰るそうだ。
その帰る瞬間に近くにいた飛鳥が偶然巻き込まれてしまった。
飛鳥に人にあたった記憶がないのは(そもそも神たちは自分たちの管理する世界に干渉することができないらしい)、彼が巻き込まれた瞬間、自称神には形もなく重さもなかったからなのだそうだ。
「ごめん、ごめん!」
自称神は謝る気があるのかと思うほど軽い謝罪をする。
その態度に飛鳥の怒りは限界を超えた。
「もうそんな言い訳はいいんだよ!
あんた神なんだろ?
じゃあはやく元に戻してくれ」
そんな飛鳥にまだ気付いてないの、という感じで自称神は言う。
「あれ~、なんで君と僕が話してるかわかってる~?
そもそも君を君の世界に戻すには君の世界の管理者が必要なんだ。
でもその管理者が僕が何回問い合わせても『それはおまえの過失だ。おまえがなんとかしろ』としか言わないんだよ。
あいつも頭固いんだから」
飛鳥が聞き取れるか聞き取れないような声で問う。
「……俺はもう帰れないのか?」
「そういうことだね~。ほんとごめんね~。
僕だってまさかこんなことになるとは思ってなかったんだよ。
悪いと思うけど僕もこのあと他の管理者たちから痛~いお仕置きを受ける予定なんだ。
問題ないでしょ。ねっ!」
問題大有りである。
すでに飛鳥は元の世界に帰るという可能性を失われてしまった。
そんな飛鳥にこれからの行き場があるはずない。
そんなとき飛鳥は元の世界にもう1回生まれればいいのでは、と思いつく。
そのことを飛鳥が話すと、自称神は電話のようなものを始めた。
「もしもし~、僕だよ、僕。
さっきの人間の件なんだけど……
えっ、こっちに戻されても魂粉砕機に通常通り入れちゃうって!?
そりゃないでしょっ!? 僕が悪かったけどさ!?
ちょっ、切らないで! おい!?」
自称神が通話を終了する。
そして改まって言う。
「湊飛鳥君、残念ながら君の世界の管理者は君が元の世界に戻ることを了承しなかったよ。
全面的に僕が悪いとは思うんだけど君の世界の神も融通が効かなくてね……
そんな君に提案があるんだ。
1つ目はこのまま君を魂粉砕機に入れて僕の世界の生き物に振り分ける。もちろん君の人格は残らない。
2つ目は君を僕の世界の住人にする。この場合君の人格も残る」
自称神の言う魂粉砕機とは文字通り昇天してくる魂を回収し魂の結合を断ち切り、新たな魂をつくり、新たに生まれる生き物に宿らせる機械である。
自称神やその仲間の管理者はその魂粉砕機がきちんと作動するのを確認するための存在なのだ。
飛鳥のいた世界では善行を繰り返し死後の楽園の世界を目指す、という宗教や天地創造の唯一神が信仰するものを救う、という宗教がある。
しかし実際はそんな死後の幸せは存在しないそうだ。
自分を神と名乗る彼に話しかける世界の管理者は魂を集め、再分配しているだけなのだそうだ。
輪廻という考えが一番近いのではないだろうか。
もちろん同じ魂が回るわけではないらしい。
「1つ目の選択肢は俺になんのメリットがあるんだ?」
飛鳥は問う。
「う~ん、ほらもう生きるのやめたい人とか、たまにいるでしょ。
そんな人なら新しい生活も拒否したいんじゃないかと思ってね」
「……なるほど」
自称神の言葉に納得してしまう飛鳥。
飛鳥のいた世界では毎日とても多くの人が自分の人生に絶望し自ら命を絶っている。
そのことを飛鳥もよく知っている。
「じゃ~僕の世界に行くんでいいのね~。えっとね~、僕の世界は――」
自称神の世界。
飛鳥と同じような人間の他に、同じような姿かたちをした言葉を解するものが存在するそうだ。
他にも魔法という技術が存在したり、彼がいた世界では考えもつかないような生き物が存在する。
これが飛鳥ではなくゲームやその手の創作物を好む者なら「剣と魔法の世界だぜ! 俺のハーレムルート突入や! ヒャッハー!!」と身を震わせながら喜ぶところであるが、進学校に通う彼にはそのことはわからない。
「今回は僕の不手際だ。それなりの対応はさせて貰うよ。
こんな能力が欲しいとか自由に言ってね~」
湊飛鳥という人間は一流大学に通い大手企業に就職した典型的高学歴両親から生まれたエリートのサラブレットである。
彼の姉も今春首都圏で最上位と呼ばれる大学に入学した。
彼のまわりは偏差値の高い人間を褒め、低い人間を貶す、そんな中で彼は生きてきた。
その学力至上主義を彼は疑うことはなかった。
彼は両親、学校の教師や塾講師から一流大学に行くことがすばらしいことだと押し付けられてきた。
大学に受かるための勉強をすることがなによりも大切であり、彼はそれ以外のことをしたことがほとんどなかった。
それが今新たな世界に行くことによってとても無意味なものになってしまった。
高校までの勉強とはとても軽いもので専門性などなにもない。
飛鳥は高校1年生だ。
部活も始めたばかりで体力もある方ではない。
彼が今までしてきたことは実践的なものが何もないのである。
そのことに飛鳥は気付く。
「見聞きしたことを忘れない能力、新たな世界で適応し、うまく生きていくことのできる能力が欲しい」
この要求には飛鳥の切実な思いがこもっている。
新たな世界で生きていくことは今までの常識などまったく当てはまらないだろう。
なら1つ1つ確実に覚えていかなければならない。
それに世界にうまく適応しなくては生きていけない。
そしてその世界で他の人を抑えて自分の身も立てなければいけない。そんな想いがこもっている。
「ん~ 、わかったよ。それと僕の世界は魔法を使えないと話しにならないし、皆身体能力高いからな……
魔法の能力も高め、身体能力も高め、あと特定の人がもっている魔眼っていう便利な眼もつけておこうか」
自称神は飛鳥の要求に加えて自分が思いついたことを次々と加えていく。
これを見る人が見たら十分チートと言われるものなのだろう。
しかし飛鳥にはそれはわからない。
せいぜいこれで暮らしやすくなるのなら、と思う程度である。
「こんなものかな。
じゃ~これから僕の世界に下ろすから。
僕たちが不干渉なことは覚えてるよね。
次僕の声を聞くのは君が死ぬ時だ。
そのときは君の魂は魂粉砕機行きだよ。
そのタイミングが早くならないようせいぜい頑張って生き抜いてね~」
その言葉を最後に再び飛鳥の視界は真っ暗に染まった。