傍観者気取りですが何か?
ありふれた乙女ゲーム転生の話じゃございません。乙女ゲーム転生ジャンルをこよなく好む方はバック推奨。
今日も、キーンコーンカーンとありふれたチャイム音が鳴り響いとりますねぇ。
日本全国津々浦々、どこかに変わったチャイム音を流す学校は無いかと、わたしゃ常日頃思うんですがねぇ。皆様はどう思いますかねぇ。
おっと、申し遅れましたねぇ。わたしゃ、この葵学園にて日々を過ごすモノでしてね、皆様方に名乗る名もござんせん。えぇ、聞きたいですって?
……最後までわたしの長い独り言、というやつにお付き合い頂いた方にお教えしましょうかねぇ? いや、ね? 別に聞きたくないのなら、知りたくないということでしょうから、興味の無い御方はどちらなりともお行きなすったらよろしいんですよ、 あぁ、わたしのことなんてお気になさらず、ねぇ?
――ではでは、わたしの長い独り言とやらにお付き合い頂ける奇特な方々。さぁ、耳の穴よぉくかっぽじってお聞きなすって。
……え? 言葉遣いが汚いですって? 今さらですよぉ、お嬢さん。さぁ、お聞きなすって。
わたしには、こちらの世に生まれ来るまでの記憶、というのがありましてねぇ?
見渡すかぎり、山、山、山という盆地に住んでいたのですよ。まさしく、どのつく田舎でしたねぇ。電車も走ってない、バスもない。
……わたしの生まれ来るまでの土地に興味はないと?お客さん、なら他を当たったらよいとわたしは思いますがね? いいましたよねぇ? これは――独り言だと。こちら、生まれ来るまでのあちらでハマっとりました“乙ゲー”ってやつの世界に、ですよぉ。
……おや、よくあるお話ではないかって?よくあるパターンでわたしも傍観者を気取っているのかって? ……あなた方、このカラダを見てもそうおっしゃりになる? ……いわない? そりゃそうでしょうよ。
「あんたなんか、あんたなんか!」
――おや、“主人公”のおでましですねぇ。
「待ってくれ!僕は――……」
――おやぁ、攻略対象のメガネ隠れマッチョ化学部長クンがおいでなすった。これは、あれですねぇ、イベントですねぇ。
「こないで! あたしに近付かないで! この、二股!、三股! あたしだけっていったのにっ………!」
――おやおやまぁまぁ。痴情のもつれですか。いつのまにやら、主人公は彼を攻略して、見事ゴールについた……後のお話ですねぇ?
ふふふ、傍観者はこういう“ゲーム外”ならではの現実を楽しめるからいいんですよぉ! ……そのカラダでかって? 当たり前でしょう、皆様方? あなたたちもでしょう。
「来たら、このビーカーを投げるんだから!こっちのフラスコも!ガラスなんだから、いい武器よ!」
――ほら、まぁ。いってるソバから、捕まってらっしゃるではありませんか! せぃぜぃ武器にされて投げられて今生を終えないことお祈りしますがね。
……冷たいと? 喧嘩売りますか? 売れないでしょう、あなた――
「こないでぇえっ!」
――あぁ、わたしの言葉を最後まで聞かずじまいですねぇ。
「こら、ビーカーは武器じゃない!」
――割られてしまいましたよ、ビーカーさん其の35。彼女は35個目のビーカーでしたかねぇ。………え、42個目? まぁ、どうでもいいですよ。わたしは絶対割られませんから。武器にしようにも出来ませんよぉ。………そりゃそうだって?そうですよぉ。
「とりゃっ」
――たとえ、フラスコが投げられて、コントロールを間違えてこちらに来てもねぇ。わたしは割られやしませんよぉ?
「おい!傷がつくぞ!」
――わたしは、
「黒板が!」
――わたしは黒板ですからね!
――そう、わたしゃ黒板なんですよぉ。
傍観者を気取る、なんてフラスコくんいってましたがねぇ、あなた。傍観するしか出来ないでしょう? 黒板なんですから、そもそも人とお話しできませんからねぇ。変な質問ですよぉ。お月さまに何でお空に浮かんでいるのって聞くようなもんですからねぇ。……何、黒板ならここでしか傍観出来ないですって? ………それこそ愚問、ってやつですよぉ!
……だって、ねぇ?ここの理科室以外にわたしは移動できますからねぇ。
………だって、わたし移動式黒板ですから。いくとこいくとこ見放題ですよぉ。
――ほら、また移動するみたいですねぇ。
……何でわかるかって?足音がね、するんですよぉ。攻略対象の……過去形ですかねぇ。攻略対象、だった穏やかな細マッチョ爽やかイケメン数学教師が近づいてきましたよぉ、わたしを取りに来ましたからね、授業で使うために。
さぁ、おもしろいことになりますよぉ……! 過去形の攻略対象が、事の運びようによっては現在の攻略対象になる……下克上も夢ではないですからね!
はぁ、楽しくなってきましたよぉ……。これだから傍観はやめられません。
――さぁ、舞台は整いましたよぉ!
まだ誰も書いたことのない“乙ゲー転生、傍観もの”を書きたかったんです。………だいぶアレですが、石は投げないでやってください。作者もなんでこんなの書いたかはホンマ謎ですから。