【閑話】 ティムのパーティ構成論
今回の話は、第11話「旅立ち」でのパーティ構成について掘り下げたもので、全編会話文で書かれています。
MMOに詳しい方が読むと何を今更感があると思いますが、軽く流し読んで頂ければと思います。
「ちょうど良い機会だから、サツキにパーティ構成のイロハを教えておこっか」
「そうですね。サツキさんも覚えておいて損はないはずです」
「はい。よろしくお願いします」
「まずはパーティの構成人数ですが六人を基本として考えます」
「なぜ六人なんでしょう? 冒険者の宿屋も一人部屋、二人部屋の次は六人部屋なのが不思議だったんです」
「これは話すと長くなるのですが、RPGの起源であるTRPGという実際にプレイヤーが集まって会話とダイス判定で遊ぶゲームがあって、それのパーティ構成の基本が六人だったのが、のちのちのコンピューターRPGのMO、MMOにまで受け継がれたと言われていますね。D&Dというのを聞いたことはありませんか?」
「えっと……」
「あーサツキ、真面目に返さなくていいよ。ティムにこの手の話をさせると長くなるんだから。ようするに昔から六人だったっていうだけの話」
「……ざっくりとはしょりましたね。まあそういうわけで基本は六人なんですが、時代を経るにつれてその構成は洗練されて職業ごとの役割分担が明確になってきたんです。あまり良い意味では言われませんが効率主義というやつです」
「いわゆる優遇ジョブ、不遇ジョブっていう格差まででてきたんだよ。盗賊なんてホント誘われなくてさー」
「ニルさんが嘆くのは大抵のゲームでは盗賊が不遇ジョブだからですね。それでも毎回選ぶのですが」
「いいの! あたしは一生盗賊として生きる!」
「……現実世界で言ったら誤解されそうですね」
「その構成ですが、大きく分けると前衛、後衛とあります。比率としては三対三がバランスが良いとされていますね。その前衛のなかで敵の攻撃を一手に引き受ける専門職が盾役です。攻撃力よりも防御力が重視され、HPが多く、以前に説明したヘイトアビリティを持っているのが優れた盾役の条件です」
「回避盾って言って、盗賊みたいに防御力はないけど敏捷に優れた職業が盾役をやることもあるんだけど、いかんせんヘイトアビを持ってないからターゲットを取れないんだよね。あと一撃死の可能性もあるし」
「確かにニルさんが盾役をするとしたら、わたし心配です」
「盾役以外の前衛は攻撃役です。メレーとかDDなんて言われたりもしますね」
「サツキの職業の砂漠の民は典型的なDDよね」
「攻撃役も細かく分けると近接攻撃と遠距離攻撃があります。弓使いが遠距離攻撃役の代表ですね。また攻撃役の枠に特殊技能を持った職業を入れる場合もあります、ニルさんのような盗賊を入れてアイテムドロップの確率を上げたりとかですね」
「それなら盗賊は不遇ジョブではないんじゃないですか?」
「んにゃ。盗賊はアイテム目的の時にだけ居ればいいから、経験値稼ぎが目的だったりすると完全に劣化攻撃役なのよ」
「なるほど、いろいろと難しいんですねえ」
「後衛ではなんといっても回復役が欠かせません。どんなゲームでも必須の職業ですね。よく回復役は回復だけしていればいい暇で簡単な職業だなんて言われますが、これはあきらかに間違いです。優秀な盾役と回復役さえいれば他のメンバーが頼りなくても強敵に勝てたりするものです。サツキさんも覚えておいてください」
「はい」
「あたし某ゲームで十人がかりで倒せない敵を、たった二人で倒した盾役と回復役見たことあるわ……」
「残りの後衛は明確に分けるのは難しいです。完全に独立しているというよりそれぞれの能力を兼ねている場合が多いからです。一応特化した役割で分けるとしたら、まずは被物理攻撃役というのがあります。これは前衛の攻撃役が物理攻撃を主体としているのに対して、被物理、つまり魔法攻撃を主体としているわけです」
「RPGって物理攻撃が効きにくい敵っていうのが絶対にいるじゃない。固い甲羅があったり、実体がなくて武器が通り抜けちゃったり」
「蟹や亀のモンスターだったり、精霊とか霊体とかですか?」
「そそ、そういうのをやっつけるのが被物理攻撃役の役目。あと攻撃魔法の威力っていうのは大抵の場合物理攻撃よりも高いから、ボスクラスの敵と戦う時にも有効だね」
「どんなゲームでも大量の魔法使いを動員しての一斉魔法攻撃での攻略はバランスブレイカーですからねえ」
「次はバッファーとデバッファーです。バッファーというのは日本語にすると支援、強化魔法使いでしょうか。味方にプラスの効果の魔法をかける役です。攻撃力や防御力を上げたりする魔法ですね、これをBuffと言います」
「じゃあティムさんもバッファーになるのですね」
「そうですね、付与魔術師はバッファーにカテゴライズされるでしょう。ヒーラーがバッファーを兼ねていることも多いです。逆に敵にマイナスの効果を与えるのがDebuffです。攻撃力や防御力を下げたり、動きを遅くしたり麻痺させたりする魔法ですね。これらを使うのがデバッファーです」
「どっちも地味に思えるけど凄い重要だよねー。あたしは性格的に向かないからやらないけど」
「納得ですね」
「納得です」
「……あんたたち」
「最後はクラウドコントローラーです。CCと略されたりしますね。これは比較的新しくできた概念だと思います、理由は多対多の戦闘をメインとしたゲームがデザインされたのが新しいからでしょう。役割としては、眠りや気絶、束縛などの魔法を駆使して複数の敵を無効化します。その間にパーティが各個撃破していくわけですね。デバッファーとクラウドコントローラーは兼ねている場合が多いです。最もセンスを問われる職業と言っても過言ではなく、上手いプレイヤーがいると一気に戦闘が楽になります」
「単独戦闘が強いのもデバッファーやCCの魅力だよね」
「そうなのですか?」
「うん。ものすごーく簡単に言うと何でもできるから強いって感じ。ただ敵を倒すのに時間はかかったりするけど」
「まとめると理想的な六人パーティの構成は、盾役、攻撃役、攻撃役、回復薬、被物理攻撃役、デバッファーでしょうか。七人以上のパーティだと基本の六人から役割ごとに増やしていく感じですが、敵の数は増えずに一体だけの強力なレアモンスターを相手にする場合とかだと、盾役はメインとサブの二人で十分でそれ以外は攻撃役を増やした方がよかったりもします」
「じゃあわたしたちは攻撃役が二人とバッファーだから、理想的な構成ではないということなのですね」
「だねー。三人なら理想は盾役、攻撃役、回復役がベストかなあ。それでも後衛が一人いるんだからマシとも言えるけど、これが全員攻撃役とかだと目も当てられない」
「まったりと遊ぶならパーティ構成を気にする必要はありませんし、むしろそういう人間は嫌われる傾向にあります。ただ現状のNoahではそうも言ってられませんからね、ある程度は考えて組む必要があるでしょう。これでパーティ構成については終わりです」
「はい。わざわざありがとうございました」
「――ところで、サツキさんはRPGの歴史や系譜に興味はありませんか?」
「え?」
「VRMMOをより深く理解するためにも役に立ちますよ」
「あ、あの」
「はーい、終わり終わり。サツキ、冷たいものでも飲みに行こー」
「は、はい。それじゃあティムさん失礼します、ありがとうございました」
「……悲しい」




