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◆森の中

 とりあえず新しい作品を書き始めてみました。とは言えぶっちゃけ物凄い見切り発車になりそう……

 更新は一週間に一度位はしたいなとか思っていたりいなかったり、とにかくよろしくお願いします。


 神様に近づき過ぎたが故に、ロウで作った翼を溶かされ地に落ちた人間の話――


 天突く塔を築き上げようとして、神様の怒りを買い、塔を崩されるだけでなく、一つだった言葉をバラバラにされ、意思疎通が出来なくなってしまった人々の話――


 そんな話を昔、俺に善くしてくれた一人の大人から聞いたような気がする。


 今思えば、あの人がそういった類の話をしてくれたのは、きっと、地中深くに埋められた防護壁、あの時俺たちがいたあの空間の名前が、それに準したものであったからなのだろう。



 もしかしたらそんな話と同じ――



 旧時代には人の手によって作り出されたもので、世界を滅ぼしかねない物があったらしい。


 世界を滅ぼす、そんな事は神々の専売特許で、俺たち人間がしていい事じゃない。


 だからこそ、それが出来るようになってしまった人間は、それ故に神々の怒りを買ってしまったのかもしれない……



 俺が生まれる十年とちょっと前、世界は終焉を迎えかけるほどの災害に見まわれた――それこそ地球上の生命体が、残らず死滅するのでは無いかと恐れられるほどの、だ。


 小惑星が降り注いだ――言葉にしてしまえば唯の一言の事だが、その被害は壮絶の一言だったらしい。


 何時までも続くと思われていた世界は、容赦なく降り注いだ小惑星群のせいで終わってしまったのだ。


 それらは直接地表にぶち当たり、人々の生きた歴史を押しつぶした。


 あるいは海に落ちて、それによって発生した津波という名の二次災害などによって、呆気なく押し流された。



 それは宛ら、神々の怒りの鉄槌。 



 世界というものは、人々が思っていた以上に脆く儚いものでしかなかったらしい。





■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■





 深い森だった。見渡してみても、生い茂る木々のせいで殆ど先の確認が出来ないくらい、それくらい深い森だった。


 流石にそれだけ深い森となると、歩みで乗り越えるのは重労働。


 当然整備などされている筈もなく、それどころか獣道であるかどうかも怪しい。


 故に前に進むには、右手に握る”鉈に模したフラギリスの牙”を振るうしかない。


 そうしなければ、蔦や木の枝が行くてを阻み、とてもではないが進む事は出来ない事だろう。


 そうした森が、何処までも、何時までも続いているという事実を、何時もと違いこの時ばかりは、少しばかり恨めしく思った。



「はぁ、はぁ――……っ」



 刃渡りおよそ五十センチの牙を振るい続けて、もうどれくらいの時間が立つのか――


 馴染んだ筈の牙が、いつも以上の重さへと変質しているような錯覚を覚えるのは、きっと気のせいではないのだろう。


 今一度大きく息を吸い込んで、ゆっくりと吐き出す――荒れた息を整えながら、牙を振るうのを一旦止ストップさせ、その代わりに左腕を持ち上げることで、其処に巻き付けてある時計の時刻を確認することにした。


 この時計を最後に確認した時の時刻は十七時二十七分丁度、露で濡れたガラスの向こう、アナログの文字盤上で針が指示している時刻は十七時四十一分と三十秒。


 この年代物の腕時計が正確に時を刻んでいるのならば、経過は大体十五分。



「――っはぁ、よし、いい頃合だ」



 俺は上着の胸ポケットからコンパスを取り出す。


 朝一番に前の箱庭を出発してから、こうしてコンパスを覗くのはこれで何回目の事か……


 大体十五分に一回のペースで一時間の内に約四回、箱庭の入り口は朝の七時でないと開かないから……まあ、それなりの回数をこなしているのだろう。


 十七回までは数えていた事を辛うじて覚えてはいるが、永延と牙を振るい続けてきた結果、考えるのが面倒になって止めてしまった――だからこそこれが何回目になる方位計測なのかは分からない。


 まあ、”一定の時間が立ったら方位を確認している”訳だから、正確な回数を数える事は出来るのだろうけど、ハッキリ言って面倒なので考えないようにした。”一定の時間が立ったら方位を確認する”という、その行動さえ忘れなければいいわけなのだから、回数など知らなくても問題にはならない。


 とにかく気をつけなければならないのは、”進むべき方向を見失わない事”なのだから。



「よし、東は――こっちだな。にしても、聞いた限りならそろそろ次の箱庭(ノアズ・アーク)についてもいい頃の筈なんだけどな、早くしないとタイムオーバーになっちまう」

 


 一人愚痴るも、その声は木々の狭間に容易く呑みこまれてしまった。


 元々誰かの耳に届くように発したものではないけれど、それでも余りにあっさりとした消失に、虚しさを覚えるのは一体何故だろう。


 俺は今一度大きく息を吐き出しながら、再び牙を握る右手へと力を込めて一払い――そうして歩みを再開することにした。


 ハッキリ言って、本当にこれ以上無駄口を叩いてなどいられなかった。早くしなければ間に合わなくなってしまう。


 タイムリミットは十九時ジャストだが、木々の隙間から辛うじて見える空模様は、既にほんのりと朱色に染まり始めていた。


 日の暮れた森の中の、その移動にかかる労力は、昼間のそれとは段違いであるし、危険なのは言うまでもなく明らかだ。


 それに、日の暮れた夜の森は、夜行性の”あいつら”が行動を開始する。


 そんな中で野宿するなんて、世間の一般論から言うならば、自殺を志願しているのと同じこと。


 いや……俺の場合よっぽどの事がない限り死ぬことはないのかもしれないが、それが一般的な思考であり、それはつまり常識と呼ばれるものだ。



 それに――何よりメンドクサイ。



 野宿をせずに済むのならばそれに越したことはない。


 だからこそ、そうならない為に急がなければならない――というか、実際かなり急いでいた。


 それはもう、振り回す牙の速度に現れる位に――



「……――ッ!?」



 だが、そんな理由で急ぎ足だった俺は、切り払った木の枝と木々の隙間から覗き、己が瞳でとらえた物的物に息を呑み、すぐさま体勢を低くした。


 ……――正直、運が悪いとしか言いようがない。


 予想外に木々に足を取られ、進行自体がかなり遅れ気味であった事に加え、もう少しで目的地に到着しようという直前でこれなのだから。 


 己の不運を呪いながら、今一度そっと顔を持ち上げる。


 やはり見間違いではなかった。



 目にしたそれらの姿かたちはトカゲ、だが、四足を持ち二足歩行するその姿は、旧時代より遥か昔に存在していた”恐竜”という生き物に近い姿らしい。


 全長約一.三メートル、鋭い鍵爪と鋭い牙を持ち、走ることが得意な肉食クリーチャー――”ラプター”だ。

 


 過去何度か遭遇した事がある割とよく知られている種だ。


 奴らはとにかくすばしっこい、決して体は大きくはないが、それはつまり機能性に富んでいるという事。


 そしてそれ以上に厄介なのが――



「……いち、に、さん――確認出来るだけで五体、か」



 ――高い知能を持ち、”群れを成して行動する”という点だ。


 奴らは群れで狩りをする。


 多数で一の獲物を追い詰めいっせいに襲いかかる時もあれば、群れのいずれかが囮となって敵を引きつけ、油断を誘う時もある。


 つまり、今見えている五匹のラプターは囮で、既に俺自身が包囲されている状態にある――と、最悪そう言った可能性も考慮に入れて行動しなければならない。


 果たして、今の時点で俺自身の置かれている状況がどういったモノであるのか……



 出来る事なら奴らの群れに気付かれずに、此処を離れ目的地に着きたいというのが、理想であり、本音だ。


 だが、進行方向にいるであろうラプターの群れに気付かれることなく、迂回する方法など皆目思いつかなかった。


 下手をすれば、最悪十数体のラプターとの戦闘もあり得る。


 俺はそこまで考えつつ、右手の牙の握りを確かめると同時、左足の太股にくくりつけたポーチから掌大の容器を一つ取り出して、手の中でその存在を確かめた。


 もしかしたら背中に背負ったもう一本の牙も、使用することになるかもしれない……


 その可能性も思考の隅にとどめておく事にする。



「ふうっ――さて、どうしたもんか……」



 一度だけ深呼吸、そうして如何にか冷静さを保とうと試みながら、静かに機会を窺う。


 集音に気を配り周囲を警戒し、奴らの動向を逃さぬよう視線を固定し、神経をとがらせ反応を反射に――








 そうして、変化は訪れた。 







 

 ――ギャアギャアッ








 動向を探っていた五匹のラプターは、どういう訳か揃いも揃って奴ら独特の音質で喚き散らし始める。


 気付かれたのか、もしくは、奴らが”囮”なのだとしたら、この咆哮は――仲間への合図。


 どうやら覚悟を固める必要があるらしい。俺は最悪を想定し、打って出ることにした。


 小さく息を吸い込み、逃がさないように肺の中に留め、両足に俺の持ちうる最大の力を込めてその場から飛び出した。


 ガサリッと、大きな物音ひとつ。


 とりあえず、目先の目標は脅威の数を減らすこと、だからこそ物音を立てようとも前へ。



「アアアアァァ!!」



 掛け声一閃、目掛けるのは最も近くにいたラプターの首元。


 俺は自分の膂力を最大限振り絞り、更に走る勢いさえ利用して、鉈の形を模したフラギリスの牙を今まで通りの軌跡で、今まで以上の威力で振り払う。



 ズンッ! と、枝や蔦を振り払う時には決して感じる事のない手ごたえを右腕に感じた。


 目の前を何かが舞うのを知覚する――ラプターの頭だ。


 それは軽く回転しながら、重力に従い地に堕ちてゆく。



 第一段階の攻撃は成功、だけどまだだ――終わるのはまだ早い。


 振り切った牙、その刃を手首と一緒に返し、その状態のまま再び違うラプターへと接近。


 一匹目のラプターの首が地に着くのよりも速く、俺はそのまま裏拳バックブローの要領で再びなぎ払う。


 出来る限り大振りに、出来る限り遠心力を付ける事を忘れない。


 このニ撃目の威力は流石に一撃目には及ばないだろうが、一撃目の手ごたえから推測する。


 恐らくだが、これで事足りるだろう。



「――ッァ!!」



 振り抜いたニ撃目は、先ほどと同様の手ごたえを感じる一閃だった。


 そうして俺は初めて、素早くバックステップにてラプターの群れから距離をとり、体勢を立て直す。 


 続けざまに二体、流石にこれは向こう(ラプター)としても予想外だろう。



 これで奴らが体勢を崩し、思考を乱してくれれば、このまま続行するにしろ、戦闘を離脱するにしろ、多少は有効に働くはずである。



 そうこう考えているうちに、切り払った二体の胴体が、血しぶきを上げながらバランスを崩し、その場に倒れ込んだ。


 その音を聞いてか、複数体のラプターの視線が俺を捉えてくる。


 身体に今まで以上の緊張が走る事を知覚する。果たして、奴らは一体どんな行動でくるのか?


 ……しかしながら、俺は此処にきて若干の違和感を感じた。


 今、飛び出してきたこの場所で改めて奴ら(ラプター)の群れを見れば、その数は俺の想定してた最悪と同程度の数を確認できた。



 多い……想定していたとはいえ、流石にこの数を相手取る事はした事はない。



 だが妙なことに、十数体はいるであろう群れの奴らの大半が、”俺を見てはいなかった”。


 此方を警戒するラプターの数は全体の三分の一にも満たない。残りは他へと視線を向けているのだ。

 

 奴らは一体何を目にしているのか……俺は、自分に視線を向ける複数体のラプターに気を配りながら、そっとラプターの視線の向く先をたどってみる。



 そうして俺は、思わず息を呑むことになった。



 理解した。いや、感じた違和感の正体を理解”させられた”というのが正しいのか。



 何故奴らに対する一段階目の攻撃がこうもあっさり成功したのか、そして、それでも尚俺の方へ群れの視線が全て向いてこないのか。



 なんてことはない、奴らにとって俺は、獲物ターゲットではなく乱入者イレギュラーだったわけだ。


 

 奴らの本当の狙いは、俺を見ていない彼ら(ラプター)と、そして俺自身が己が眼で捉えているあの人影。


 肩に着くかつかないかくらいの髪の毛を無造作に散らすその人影は女性。


 あれは地毛か否か、乱雑に広がっている割に艶やかに見えるその黒髪は、毛先に行くほどその色彩を反転させている。


 背丈は女性にしてはやや高い方だが、その容姿は、例え迷彩色の軍服を着ていたとしても十分に綺麗……いやその服装故に、凛々しいという表現に軍配が上がるのかもしれない。


 前髪は目元が隠れてしまうほどに長いが、今この時は中間で左右にかき分けられていて、丁度そこから覗く切れ長の目が、油断なく目の前の群れを捉えている。


 そこまで捉えて、俺は思わず身震いをしてしまった。その理由は彼女の目を見てしまったからなのだろう。 


 彼女の持つのは金色の眼だというのに、黒い瞳孔が縦に割れていた。


 その眼で群れを観察するその様は、まるで狩猟でもしているかのよう。


 現に視界にとらえた彼女の周りには、既に数体のラプター達が倒れている。


 俺が成したような死傷はそいつらには見られなかったけれど――倒れ弱弱しく痙攣しているそいつらは、きっと間違いなく、俺が手をかけた奴らと同じ結末を辿る事だろう。

 

 これではどちらが狩られる側だか解らない。


 それがラプターの群れと対峙する人影を一瞥して、俺が抱いた感想だった。


 ふとそんな彼女の視線が、獲物を確認するように動く。


 一瞬視線が交錯したような錯覚を覚えるも、しかしながら、恐らく彼女は俺の事に気が付いていないのだろう。


 彼女の人ならざる瞳は、極度の集中の為か知らないが、何にせよ、目の前のラプターの群れ以外、他の何ものも捉えてはいなかったのだから。


 この場の空気を支配しているのは、間違っても俺なのではなく、群れるラプター達でもなく、彼女だ。


 一見しただけでは、その剣呑さ故に戦慄さえ覚えてしまっても可笑しくはない事だろう。


 其れほどまでに、獲物だけを一心に捉え、単身で群れに突っ込んでゆく彼女の姿は異様で、異端だった。



 だというのに、何故なのだろう――



 その光景に一瞬でも心奪われ、綺麗だと感じた俺は、矢張りどこかがおかしいのかもしれない。





 登場人物の名前が出てこないのはいかがなもんだろうか?

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