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世界最弱の希望  作者: 人鳥
第一章『本当に勇者なら』
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第八話『悪夢にも似たもの』

「貴方は世界最弱にして世界最強。ふふふ……」

 レミアさんは不敵に笑った。

 レミアさんは王座から立ち上がり、不敵な笑みでこちらに近づいてくる。

「さあ、ヒジリ。少し私と手合わせをしてみませんか? 貴方も自分の最弱っぷりを知りたいところでしょう? どれほど弱いか知っておきたいでしょう? もしかしたら勝てるかもしれないと思っているから、それも試してみたいのでしょう?」

 レミアさんの手にはきらりと輝く、純白の(つるぎ)。身に纏うドレスとその剣は似つかわしくなくて、それなのにも関わらず、とても絵になっている。

 ゆったりと、まるでぼくをダンスにでも誘おうとしているかのような優雅な雰囲気で、彼女は剣を構えた。

「さあ、ヒジリッ!」

 シュ――ッ!

「え?」

 気付けば、ぼくの視界は赤で染まっていた。


 はじけるように視界が開ける。目の前に広がるのは、青い空と緑の葉。

「夢……か」

 やれやれ。なんて夢を見てるんだ、自分。レミアさんに恐れを抱く必要なんてないじゃないか。しかも一瞬でやられているし……。

 グググ、と伸びをして川へと向かう。流れる水を手ですくい、顔を洗う。ついでに空き瓶に水をくみ取って、頭にかけた。冷たい水で一気に目が覚めた。

 川の水と、袋に入れていた水を入れ替えておく。

「よし、今日か明日には到着するぞ」

 元々、王都とリヴィルの距離はそう遠くない。旅慣れした人ならば、一日で到着するような距離なんではないだろうか。いや、さすがにそれはないか。

 朝食に干し肉をかじり、少し体を動かしてから出発した。

「こういう状況だから、旅の人なんてめったにいないんだろうな……」

 現実はゲームや小説とは違う。おいそれと旅には出られないし、敵を打倒するのも並大抵のことじゃない。現実には割り当てられたステータスも、ステータスの分配もないのだから。そう考えれば、ゲームの世界は救いがあるな。回復アイテムや復活アイテムもあるし。

 鳥が鳴く。

 見上げて見ると、そこにいるのはぼくがいた世界で見かけても不思議ではないような鳥だった。ハトに近い。

「あの森にはグロテスクな鳥しかいなかったのにな……」

 あの森が特別だったのだろうか。

「考えても仕方ないか」

 もはやあの場所は、ぼくには関係のない場所だろう。ぼくが魔の長を討伐するまでは、関係がない。討伐に成功するまでは。

 でももし、討伐に失敗したらどうなるだろう。わかりきってる。その時はぼくが死ぬ時だ。それこそリセットボタンなんてあるわけがない。でも、ぼくが死んでしまったらもう元の世界には帰れないわけで――そうなると、父さんや母さん、クラスの連中はどう思うのだろう。今でさえ、すでに一週間近くも行方知れずになっているはずなんだ。

 旅の終わりはいつになるのだろう。何年後の話だろうか。

「はは……帰ったころにはぼくの墓が立ってるかもしれないな」

 無理矢理笑ってみたけれど、出てくるのは乾いた声だけだった。ぶんぶんと頭を振り、思考を切り替える。今はそんなことを考えている場合じゃない。

「うおっ!」

 突然、大きな揺れとともに、地響きにも似た轟音が響いた。

「なんだ!」

 音は右手側から聞こえてきた。剣と盾に手を添え、すぐに抜ける状態でそちらをうかがう。

 前方では砂煙が巻きあがり、木々が唸りを上げながら倒れていく。地の揺れは断続的に続いている。普通ならただの地震だと思うだろうが、どうもそうではないらしい。超局所的なものであるのなら、それはそれで不思議ではないが。

「たっ――助けてくれぇ!」

 人影が二つ、こちらに向かって近づいてくる。ここから人影までの距離はおよそ二百メートルほど。大声で叫べば十分に聞こえる距離だ。

「聞き違い、じゃなさそうだ」

 にしても……()()()()()

「――――っ! ()()!」

 さっきまでの余裕はどこかへ失せてしまい、一瞬で体が恐怖に染まる。全身は猛烈な勢いで震え始め、動こうとしない。ガタガタとみじめなほどに震え、思考もままならない。

 助けに向かうことも、逃げることもできない。

 動け!

 動けぇ!

 無我夢中で念じる。

「うああああああ」

 気がつけば――

 ぼくは全力で駆けていた。逃げればいいのに、逃げもせず、二人の元へ。『何が』そこにいるかもわからないまま、馬鹿みたいに突っ込んでいた。

 我に帰った時、そこには完全に顔色を失った二人の男がいた。

「ああ……あんた、たた、助けてくれ! 助けて!」

「終わりだ……もう終わりだ……終わりだ……」

 二人は完全に錯乱していて(ぼくもそうだ)、言っていることを聞きとるのにしばらく時間がかかった。

「ひぃぃ!」

 二人が悲鳴を上げ、一目散に逃げていく。その後ろ姿を呆けたように見ていたぼくは、次の瞬間、一緒に逃げればよかったと後悔した。

 それこそ、見捨てて逃げたところで、誰にも責められなかっただろう。自分の生命を守るということから考えれば、それこそ最善であり最良の選択だったはずだ。

 はずだったのだ。

 振り返ったそこに――異形の闇がいた。


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