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世界最弱の希望  作者: 人鳥
第二章『もう一人の勇者』
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第七話『最後の敗北』

「うるさい。あたしは人としか話さない――あれ? あたしは今誰と話してるんだろ。目の前には敵しかいないのに」

「くひっ」

 フィオ(Fio)が顔をゆがめる。それは不快の表れだった。揺れ動く尾はぴたりと止まり、戦うことの楽しみよりも、ミサオの言動が腹立たしいようだ。じれったいほどのにらみ合いの後、先に動いたのはフィオだった。

 目視を拒む高速移動。

 常人には消えたようにしか見えないその動きを、しかし、ミサオは見切っていた。

 見切っていた。

 左手側に回り込んできたフィオの顔面にミサオの拳がさく裂する。それと同時にミサオの手から青の閃光が奔る。光はどうやら、グローブに装着された青い石のような物から放たれているようだ。

 聞くに堪えない悲鳴が漏れ、フィオの体が無様に地面を転がる。ミサオがそのフィオの体を追う。さながら格闘ゲームで追い打ちをかけようと相手に迫るキャラクターのごとく、転がるフィオに追いつき、右の拳で腹を打ち抜く。

「がはぁ!」

 青い光は可視化された魔力なのか、殴ったそこから血が噴き出す。ミサオはそこで攻撃の手を緩めることなく、続けざまに顔を、腹を打ち続ける。その度にフィオはくぐもった呻き声を上げている。

 フィオに打撃を加えながら、ミサオの視線が力なく地面に横たわる尾に向けられた。ミサオの目に剣呑さがにじみ、フィオの体を乱暴に蹴り飛ばした。

「がふっ」

 悲鳴というよりも、ただ空気が漏れただけのようなフィオの声。うつ伏せに倒れるフィオにゆったりと近づき、尾の付け根に攻撃を加える。尾が切れ、光となって消えた。

 尾は再び出現することはなく、尾があることに慣れたミサオには尾のないフィオが不自然に見えた。


 気づいたらぼくは騎士団の建物の中にいた。部屋の痛み具合が、騎士団の建物であると物語っている。誰かが運んできてくれて看ていてくれたのだろう、傷は手当てされている。

 あまり心地の良くないベッドの上で、痛む体に悪態をつく。

 先の戦いのことを思い出して暗澹(あんたん)たる気持ちになっていると、この部屋のドアがノックされた。

「おや、お気づきになりましたか」

 予想通り騎士団だったようで、ブロールさんが部屋に入ってきた。手には革袋を持っている。

「任務をこなしてくれてありがとうございます。これはその報酬ですよ」

 ブロールさんが革袋をベッドの上に置く。金属がすれる音がした。これが銀貨なら、かなりの金額だろう。

「銀貨二十枚です。一体に十枚の計算ですね」

 槍使いの魔と、怠け者の魔。

 槍使いの魔は人間的だった。もはや「魔」と呼ぶこともはばかられるような、人間よりも人間味があった。

「しかしヒジリさん」

 ブロールさんが、いささか困ったように言う。

「魔は三体ですよ? 後一体、残っています」

 後一体。

 一体。

 あの狂った魔。

 名も知らぬ――わからぬ魔。

「すいません。ぼくには……今のぼくには、あの魔は倒せません」

 実力の差?

 違う。

 実力差も大きいが、なによりぼくが、()()()()()()()()()。魔という種を恐れる以上に、あの個体を恐れている。

 あの燃える魔よりも。

 村を半分以上焼いたあの魔よりも、ぼくはあの狂った魔が恐ろしい。

「そうですか。そう言うということは、会っているわけですね? 教えてください。その魔のことを」

 説明?

 説明だって?

 あの魔を説明することは困難を伴う。

「狂っていました」

 あの魔を説明するには、この言葉が最もふさわしい。

「狂っていた?」

「狂っていました。もうぼくらとは違う世界の生き物ですよ。それはあれの同族の魔にしても、です。違う世界、違う価値観で生きていると考えてもいいと思います」

 たった一つだけわかることは、あれが、リズ(Liz)という誰かを探している……いや違う。リズを殺した誰かを探しているということだ。

「狂っていることはわかりました。その魔はどういった魔法を?」

「使っていません」

 そう。

 あの魔は魔法を一度も使っていない。

「あの魔は魔法を使っていないんです」

 ぼくがあれと戦うために魔と共闘のようなことをしたことは、ここでは伏せておくべきだろう。いや、話しておくべきなのだろうか。

 あの存在が、魔にとっても脅威であるという事実。

「あれは魔にとっても脅威なようです」

 ブロールさんが眉を寄せる。

「どういうことですか?」

「ぼくが魔と戦っている時、あれがやってきました。すると、ぼくと戦っていた魔があれと戦い始めたんです」

「そして、その狂った魔は逃げ出した、と」

「はい」

 本当は少しばかり違うが、指摘するほどではないだろう。

「ふむ……ありがとうございます。ヒジリさんはもう少し休んでいてください」

「は――」

 ぼくが返事をするのを待たず、ブロールさんは部屋から出て行った。

 残されたぼくは一気に疲れを感じ、ベッドに体を倒した。やはり寝心地は良くない。おそらく仮眠室なのだろうけれど、これでは疲れも取れたものじゃない。

「今のぼくには勝てません、か。だったら――いつになったら勝てるっていうんだ?」

 いつになるかはわからないけれど、それでも「今は」だ。

 ぼくはまだ、根本的に負けていない。

 折れていない。

「出会った魔にはすべて勝つ」

 このくらいの思いは必要だ。

 負けるのは今日で最後だ。

 戦いに負けても、心が負けてはいけない。


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