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世界最弱の希望  作者: 人鳥
第一章『本当に勇者なら』
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第二十話『真実のかけら』

人間、誰でも隠し事はあるものです。

 暖かい。

 目に見える世界は真っ暗で、まわりの状況は何一つわからない。立っているのか、倒れているのか。上を見ているのか、下を向いているのか。意識は覚醒しているのか、していないのか。

 そもそも――

 生きているのか、死んでいるのか。

 思い出せることは、フィオ(Fio)の〝火トカゲの尾〟によって体に焼けるような痛みが走っていたということ。

 逃げるルートに川を選択したこと。

 そのあと……ぼくはどうなったのだろう。いや、もう考えることもしないでいいのかもしれない。ぼくは今考えているけれど、本当にぼくが生きているのかどうかわからない。もし生きていないなら、この考えるという行為すら不毛だ。

――大丈夫か?

声が――誰のものかわからない、若い男の声が聞こえる。その声は直接頭に響いてきているように感じる。

 ――目を開けろ。

 なるほど。視界が真っ暗なのは、目が開いていないからなのか。だとすればなるほど、目を開けてしまうのがいいかもしれない。

 ――おい、生きているなら目を開けろ。

 なんだ……やっぱり、死んでいるのか? 死んでいるのか? いや、死とは無だ。今、考えているぼく――そして、それを考えている「今」がある。

 生きている。

 自分が生きていると自覚をしたからか、この暗い世界がひどく(いびつ)で不自然なもののように感じ始めてきた。

 ここは夢だ。

 夢の中だ。

「おお、気づいたか!」

 さっき聞こえていた男の声だ。

「大丈夫か?」

 心配そうに顔を覗き込んできたのは、屈強な体の男だ。もしかしたら騎士団の構成員にも匹敵……いや、構成員をも凌駕するかもしれない。

「大丈夫……です」

 体を起こそうとするのを、支えてくれた。その太い腕に支えながら、かろうじて上半身を持ち上げる。屋内であることだけはわかる。タンスや小さな机があり、部屋はそれほど広くない。おそらく個人の部屋なのだろう。ドアがひとつ、男の後ろにあり、その向こうからは小さくはあるが物音がする。

「状況を確認したいのですが……」

「そうだなあ……」

 男はそこで言葉を切り、言葉を選ぶようにゆっくりと話し出した。

「ここは俺の家だ。川の岸に打ち上げられていたお前をうちの子供が見つけ、俺がここまで運んできた。お前の荷物は全てこちらで預かっている。ここはササ村という村で、工業都市イカガカの最寄りの村だ。こんな感じか? あとは質問に答えよう。ああ、その前に、俺はアランだ。お前は?」

「ヒジリです」

「そうか、ヒジリだな。おし――で、質問に答えるとか言っておきながらなんだが、お前、どうしてこんなことになってんだ? お前の体を蝕んでいた魔力はある程度取り除いたが、殺す気でやらないとなかなかこうはならない」

 アランさんがぼくの体を指差す。それに促されて体を見ると、服を脱がされ、代わりに包帯が巻かれていた。そういえば、あの体を焼く痛みも、あまり感じない。

「えっと……」

「どうした? 言いにくいことなのか?」

「いえ、その……魔と戦った時の傷です」

 そう言うと、アランさんは目を見開いて、一瞬、体をこわばらせた。

「魔と?」

 うなずくと、アランさんは豪快に笑いだした。

「冗談はやめろ。お前のような魔力のかけらもないやつが魔と戦って――しかも生き残っているなんて信じられん」

 ひとしきり笑った後、すまないと言いながらも、そう言ってのけた。アランさんは後ろに振り向き、続けた。

「お前の装備を見ても、剣は安物だし……盾もそれほど良いものには見えん」

「盾には王家の紋が入っていると聞きましたが」

 王家の紋が入っているということは、王族の親衛隊が使うようなものだろう。そういうものが安っぽい装備だとは思えない。

「王家? 王家ってのはあの(こころ)()姫が実権を握っているあの王家か?」

 こころみひめ?

「こころみひめってなんです?」

「心を視る姫と書いて心視姫だ」

 ああ、レミアさんのことか。出会いがしらからぼくの心を読んだんだよな、たしか。

「そうですよ。あの人からもらった盾です」

 剣ももらった、というのは言わぬが華だろう。仮にも女王とあろうものが、安売りの剣を渡したとなれば、それは隠しておきたい事実だろう。

「ヒジリ……お前、心視姫とはどういう関係だ?」

 なんだろう? さっきからアランさんの言葉の端々からトゲのようなものを感じる。

 トゲが気になりつつも、事のいきさつをアランさんに説明した。

 召喚されたこと。

 半ば無理矢理旅立たされたこと。

 魔と戦い、勝利したこと。

 盗賊に遭ったこと。

 魔と戦い、敗走したこと。

 最後まで話した後、アランさんはぼくの話を疑うことはしなかった。それは盾に刻まれた紋を見たからかもしれないし、ぼくの話を信じたからかもしれない。

「心視姫の話は信じるな……というのは言い過ぎだが、話半分に聞いておけ」

 その代わり、開口一番、そう言った。

「どういうことですか?」

 アランさんは前かがみになり、声を低くして話し始めた。

「心視姫は元をただせば王家の人間じゃない。外から来たんだ」

 それは……しかし、それはあまり珍しくないことだろう。いや、当然と言える。女王にしても王にしても、連れ添う相手に選ぶのは外部の人間だろう。それもぼくの世界だけの常識なのだろうか。

「お前の言う通り、この世界でも近親相姦は認められていない。王族でも、だ。しかし、まあ、話は最後まで聞けということだ」

 うなずく。

 アランさんは満足そうにうなずいて、人差し指を立てた。

「いいか、魔法には種類がある。攻撃に使う魔法、肉体を強化する魔法、道具に魔力を付与する魔法、傷や魔法による傷・呪いをいやす魔法だ。これは人間も魔も同じだ。魔は攻撃魔法と肉体強化の魔法に秀でていると言われている。人間は一般的に、魔力付与に秀でた者が多いとされる。もちろん、個人差がある」

 エヤスさんから聞いたような気もするが、聞いていないような気もする。どうしようもなく面白い話を聞かせてもらったが、例のごとく、ほとんどが記憶から抜け落ちている。学生の性というやつか。

 まったく……自分がどこまで真面目なのかがわからなくなる。

「人が扱える魔法は、やはり人にもよるが大体、ひとつかふたつ程度だ。どうしてだかわからないが、物心ついたときから、自分が扱える魔法がわかるんだ」

 物心ついたときから、か。

 人が話すようになったり、立ち上がって歩くようになったりするのと同じようなものなのだろうか。

「それに近いかもしれないな。ちなみに俺は、魔力付与に分類される魔法で、遠く離れた場所にいる人に、手紙や物を届けることができる」

「なるほど」

 驚くのは後だ。魔法の世界なのだから、ちっとやそっとの不思議で驚いていては身がもたない。

「魔法は多種多様で、世界中の人間が集まればできないことはないんじゃないか、とさえ言われている。けれどな……」

 そこでアランさんは言葉を切った。

「どうかしましたか?」

「……けれどな、心視姫――レミアさまの魔法は、人の心を視る魔法は()()()()使()()()()()()

 どくん、と、全身を何かが殴りつけたような衝撃が走った。

「で、でも……魔法は多種多様なんでしょう?」

 アランさんがそう言ったばかりじゃないか。人の心を読む――視る魔法だって、あってもおかしくない。現にレミアさんが扱っているじゃないか。だからその時点で、魔にしか使えない魔法だとは言えないじゃないか。

 しかし、アランさんはだまって首を振るばかりで、ぼくの質問には答えようとはしない。

「レミアさんが初めての体現者かもしれないじゃないですか」

「ヒジリ、お前は魔の長のことは知っているか?」

「いえ……レミアさんが知るべきではないと言って教えてくれなかったので」

「なるほどな……」

 アランさんが神妙にうなずく。

「魔の長は名前をゼノ(Xeno)という。俯瞰する(Excluder)ゼノ(〝Xeno〟)。圧倒的な力を持ち、圧倒的な破壊力で俺たち人間を(ほふ)ってきた」

 ――魔はまるで世界から愛されているかのごとく圧倒的な力を持ち、圧倒的な破壊力でもって我々を襲います。

「魔は人間と同じように、それぞれに得意な魔法がある。ゼノは破壊と心を司る」

 破壊と――心。

 心?

「――――っ!」

 いや、まさか……。

 まさか、だ。

「ゼノの操る心の魔法は、人の心を読むこと。心視姫は言わずもがな」

 ぼくは一体――

 一体――()()()()()()()()()()

()()()()――()()()()()

注意:俯瞰する≠excluder です。

    問題ないと思いますが、フィオでは日本語とルビが一致しているので、念のため。今後、このような不一致のルビが出ると思いますので、ご注意ください。

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