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転生先の姉は、元歳下の幼なじみでした

作者: 鈴羽夜乃
掲載日:2026/10/31

けたたましい雨音の中、私、橋本乃々香は傘も差さずに歩いていた。

怒ることも、悲しむことも、全てが疲れてしまい、ただ呆然と、重い足取りで。


_この世界は、どれだけ私の大切な人を奪えば気が済むのだろう。


きっかけは5歳下の幼なじみ、真宮沙菜が亡くなった時。私が9歳の頃だった。


心臓の音が速くなる。

胸の中から何かが込み上げてくる。

何かが詰まっているかのように頭の中がいっぱいになる。

大切な人を亡くした絶望、気付けなかった自分のどうしようもなさ、やり場のないぐちゃぐちゃした気持ち。

沙菜が亡くなった時から、ずっとそれらが渦巻いている感情だった。


傷が癒えないまま、私は11歳で両親も失った。

逆走した車が猛スピードで突っ込んできたらしい。

運転した人も死亡したらしく、行き場の無い怒りに苦しんだのを今でも覚えている。


誰かが死んだ知らせなんてもう聞きたくないし、聞くことに慣れたくもなかった。

そう思いながら過ごしていた12歳。おばあちゃんの病気が悪化して、そのまま亡くなった。

昨日の夜のことだった。


「もう、いやだ」


この日常が後どのくらい続くのだろう。

これから、私はどうすれば良いのだろう。


「しにたい」


ぽつりと呟いた瞬間、私の願いを聞いたかのようにクラクションが鳴り響く。

私が顔を上げたのが先か、トラックが私にぶつかったのが先かなんて分からない。

青信号のはずだとか、そもそもどうして歩道の方に突っ込んできたのかとか、そんなことはもうどうでも良かった。


_地面に叩きつけられた瞬間、意識が途絶えた。


***


気が付けば、私は産声を上げていた。


「無事に産まれました!女の子です!」


知らない人の声がする。産まれた?女の子?

一体何の話をしているのか気にはなったが、ただ私は誰かに抱かれながら泣くことしかできなかった。

知らない人たちが何か盛り上がっていたようだが、何も聞き取れない。


「_産まれてきてくれて、ありがとう」


賑やかな雰囲気の中で唯一聞き取れた言葉。

声のした方へ顔を向けると、知らない女の人が愛おしそうにこちらを見ていた。

分かったのはただそれだけ。泣き疲れてしまったのか、そのまま意識が遠のいた。


どのくらいの時間が経ったのだろう。

少しぼうっとしながら目を開けると、知らない人たちがこちらを笑顔で覗き込んでいた。


「目が覚めたかい?」


そう笑ったのは、他の人たちよりももっと優しい顔をしたお父さんみたいな人。隣にはさっき私に話しかけてくれたお母さんみたいな人。

反対側に視線をやると、お兄ちゃんみたいな人とお姉ちゃんみたいな人が目を輝かせながら私を見ていた。

知らない人しかいないのに、みんなの笑顔を見ていると不思議と安心できて、つい笑みがこぼれた。


「…えへへ」

「あ、笑った!かわいい〜っ!!」

「ほんとだ!ほら〜お兄ちゃんだよ〜」


私が笑うと、みんながもっと笑顔になる。

みんなが笑うたびに、私の胸もぽかぽかしてくる。

だから私は、この人たちの新しい家族として生まれたんだって改めて実感した。


こうして私、橋本乃々香は、リア・スベニアとして新しい人生を歩み始めた。


***


生まれ変わって1週間。

赤ちゃんだから言葉は「ばぶ」とか「あう」ぐらいしか話せないけど、考えることはできるので誰もいないうちにとりあえず頭の中で整理することにした。

まず始めに、私は橋本乃々香としての記憶がそのまま頭に残っている。

おそらく、というか絶対、トラックにはねられた時に乃々香としての人生は終わってしまったのだろう。

そしてなんらかの形で今の私、リア・スベニアとして生まれ変わったのだ。


新しい家族のことも少しは分かってきたと思う。

王家の騎士である父のケリアンと同じ王家のメイドである母のメリア、そんな2人から産まれた双子の兄リープと妹イリム。

家族と言えるか分からないけれど、王様と女王様もこのお城に住んでいるらしいし、息子である王子様もいるとかなんとか。


ざっとまとめるとこんな感じだろうか。

結構すごいところに産まれたんだな…と他人事みたいに思ってしまうけど、ちゃんと自分のことだし紛れもない現実だ。

私が生まれ変われたんだから、沙菜も、お母さんもお父さんも、おばあちゃんも、みんな私みたいにどこかで生まれ変わって幸せになってほしい。なんて、赤ちゃんだというのについ物思いにふけてしまった。


今のことやこれからのこともしっかり考えなきゃ。

きっと私が成長すれば王様と女王様、王子様のことを教えてもらえるだろうし、いつか会えるかもしれない。

特に王子様と会うのは楽しみだ。お兄様とお姉様からよく話を聞くこともあってすごく興味がある。

2人とはよく遊ぶ仲らしいから、同い年くらいなのだろう。


「リア〜!お待たせ〜!」

「一緒に遊ぼ〜!」


色々考えていたら、お姉様とお兄様が戻ってきた。

仕事で忙しいお父様とお母様に代わって、お兄様とお姉様はほとんどの時間傍にいてくれている。

兄妹揃って遊んでくれることが、妹として本当に嬉しかった。

もちろん、朝と夜にお父様とお母様が笑顔で私を見て挨拶してくれることも嬉しかった。

こんな気持ちになったのはいつぶりだろう。そう思える程に私は満たされていた。


***


時は過ぎ、私は3歳になった。

まだおぼつかないけれど、行動も会話もそれなりにできるようになっているし、少しずつこの生活にも慣れてきた。


そんなある日、お姉様が熱を出した。

医者によるとただの風邪だから心配いらないとのこと。

それでも私は心配で、よく部屋の前の扉に立っていた。

風邪が移るから、とお父様に止められることが多かったが私が引き下がらないからか「少し落ち着いてきたから入って良いよ」と言ってくれた。


起きないようにそっと扉を開ける。お姉様は静かにベッドで眠っていた。

起こさないなら良いよね、とお姉様に駆け寄る。顔はまだ赤くて少しうなされているようにも見える。

もぞ、と布団の音がした。

もしかして起こした!?とつい反射で手を上げる。

息が荒い。落ち着いてきたとは言われたけど、やっぱりまだ熱高いんじゃないのかな。

誰か呼ぶために部屋から出ようとすると、ぼそぼそと声がが聞こえてきた。

寝言だろうか。少し気になってまたお姉様の方へ近づく。


「ごめ……なさ……まま…たたかな…で…」


誰かに謝っているような言い方だ。

「まま」って何だろう。ママ?お母様のこと?でも、お姉様はお母様のことをママって呼ばないだろうし。

それに、お母様が人を叩くなんてことしないはずだ。

ただほんの少しだけ胸騒ぎがして、お姉様のおでこにあったタオルを近くの氷水につけてそっと載せた。


「たす、け……ぱぱ……」


「……のの、ねぇ」


「え」


息を呑んだ。

確かに聞こえた。「ののねぇ」と。

その瞬間、思い出したくないことを思い出してしまった。

まだ私が橋本乃々香だった時。お母さんから「沙菜ちゃんが死んだ」と聞かされ、ニュースでも速報で『4歳幼児 死亡 母親が虐待か』の見出しが見えた日。


沙菜は虐待死だった。

詳しいことは分からないし分かりたくもないけど、お母さんが言うには沙菜のお母さんが暴力を振るっていたらしい。

私と会っても痣みたいな物は見えなかったから、意図的に隠されていたんだと思う。

それでも私は徐々に弱々しくなっていく沙菜に気づくことができなかったのを、ずっと後悔している。


気が付けば、私はお姉様の手を握っていた。

この人が沙菜だって完全に分かったわけではない。

目の前で眠っている人は、私の姉「イリム」だ。

そのはずなのに、母親から虐待されているような夢を見て、「ののねぇ」なんて言って。勘違いしない方が無理な話だった。

そんなの、黙って見てるわけにはいかないから。


「大丈夫だよ、沙菜」


徐々に視界が滲んでいく。

多分今、私は酷い顔をしていると思う。

それでも手は離さずに優しく頭を撫でる。


「『のの姉』が、傍にいるからね」


声を震わせながら呼ばれるはずのない名前を口にしていた。


涙が枯れる頃には、既にお姉様の顔色は戻っており、穏やかな寝息を立ててた。

お姉様の頭を撫でながら、私は決意した。

今世ではもう、誰も死なせない。

お姉様も、お兄様も、お父様もお母様も、もちろん王様、女王様、王子様も、みんなが長生きできるように。


今までは何もできなかった私だけど、これからは、私がみんなを護る騎士になるんだ。


私の決意に応えるかのように、夕日がまばゆく輝いていた。

閲覧ありがとうございました。

イリム(沙菜)目線のお話も書く予定です。

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