貧者
カネがない。とにかくそれだけだ。カネがないと、何もできない。食べ物も食べられない。住むところもない。カネがないと生きていけない。とにかくカネをつくらねば。
カネがない。もうずっと、あたりをウロウロとしている。カネがないと歩き回ることしかできない。本当に不便な世界だ。公園の水道で水を飲むことしかできない。
カネがない私は毎日ギリギリの生活をしている。いま、この瞬間が生きるか死ぬかの対決なのだ。とにかく、食べ物を手に入れなければいけない。食べ物は街中で手に入る。しかし、よほど注意して行動しなければ食べ物にはありつけない。
食べ物を手に入れるにはとにかく飲食店だ。飲食店街をウロウロとする。深夜から明け方の飲食店街は人が少ないので狙い目だ。目的地は飲食店裏の細い路地だ。そこはとにかく悪臭立ち込める醜悪極まりない場所だが、食べ物にありつける。そう、ごみ箱だ。飲食店ででるごみにはまだ食べられる食料が大量に入っている。私はそれを拝借して生活している。もうこの道40年だ。
私のような人間は自然あふれる田舎よりも、都会のほうが暮らしやすい。ごみ漁りというのは都会の最下級構成員なのだ。都会でこそ成立する身分だ。私はまさか、こんな生活をしてこの年まで生きながらえるとは思わなかった。今は多様性の時代だというがこんなことまでできるとは。
都会で生きていくにはとにかくひと目につかなければそれでいい。私がこんな生活を続けられたのも、徹底して人目につくことを避けたためだろう。でもやはり、カネが欲しい。カネのある生活に憧れる。私はもう何十年も1円玉さえ手にしたことがない。知らず知らず、私はおカネがない生活を選んだ。どこかに百円玉でも落ちていないだろうか。この前、拾ったおカネだけで40年生きてきた者に出会った。




