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お前の髪色では嫁に行けないと言われましたが、騎士様と結婚して幸せになりました。

掲載日:2026/05/29

連載「婚約破棄されても問題ありません。」の内容を短編に編集しなおしたものです。

本編と話は少し変わっています。

「婚約破棄になった!? なんてことだ、信じられない......。お前が何か粗相をしたのだろう、このグズめ!!」


「......申し訳ございません、お父様......。」


怒鳴り散らす父親に向かって、エルミーヌはただ謝罪するしかなかった。


うつむく令嬢、エルミーヌ・ユールドースは、婚約破棄にあったばかりだった。


相手は幼少期から決められた婚約者アルフレードで、エルミーヌとはずっと仲睦まじく過ごしてきた。


婚約破棄の理由は「他に好きな人ができた」ということだった。

突然の裏切りに、エルミーヌは深く傷ついた。しかし彼女の不幸はそれでは終わらない。


エルミーヌの父親は、彼女の外見を気に入らず、幼い頃からことあるごとに非難してきた。

婚約破棄などにあえば、その罵倒がより苛烈になることはわかりきっていた。


「その醜い髪色では、もう他の相手など見つけることは難しいだろう。せっかく見つけてきた縁談を台無しにしおって」


父は赤毛を嫌っており、子供のころはたびたび「お前のその髪では嫁ぎ先に困るだろうな」と言っていた。

祖母譲りの赤い髪は、父とも母とも似ていない。


だからこそ、社交界で目立たなくとも困らないよう、子供のころから婚約相手を決めていたのだ。


さらに、エルミーヌの姉が容姿を見初められて第5王子に嫁いでからは、より一層外見を非難されることが増えた。


エルミーヌはとにかくこの家から抜け出したく、苦痛の日々が始まったのだった。


***


数日後、エルミーヌは王立図書館に来ていた。

婚約破棄をされてから、家に居づらいためだ。

父と顔を合わせてしまうと、婚約破棄のことで罵られる。


できるだけ友人と舞台を見たり、お茶をしたり家にいないようにしているが、予定のない日は王立図書館に足を運ぶことにしているのだ。


とはいえ、恋愛小説は読む気になれないし、音楽の本も今は気分ではない。

見るともなしに本棚を眺めていると、知っている顔が現れた。


「なんだ、この前の。」

「……」


(なぜこんなところにいるのよ。)


声をかけてきたのは、本とは無縁そうな、無神経男ヴォルガラスだった。


婚約破棄にあってから、エルミーヌは新しい結婚相手を見つけるため、知人や友人から異性の紹介をしてもらっていた。


ヴォルガラスはその紹介相手の一人だったが、あまりの失礼さに、紹介されてすぐに断り退席したのだった。


この男は騎士で、初めて会った際あいさつもそこそこに「お前、婚約破棄にあったやつだろ?」とエルミーヌに言い放ったのだ。


(とても何かを守るのに向いている人間には思えないわ)


エルミーヌは男と会話をするのに気乗りしなかった。しかし、このまま無視するのはさすがに不自然だろう。仕方なくヴォルガラスに話しかけた。


「……本なんか読むのね。」


「戦術について学べと言われてな。あんた、文字得意?」


文字に得意も何もないだろうと思ったが、思い直す。この男は文字が読めないのかもしれない。


騎士になる人の中には、騎士見習いから始めるものがいる。見習いは大抵が庶民の出身なのだ。


そして活躍次第で騎士になり貴族階級を得る。

ヴォルガラスはおそらくそのタイプなのだろう。


「普通くらいだけど……。何?」


「この単語の意味わかるか?」

男が持っているのは辞書だった。「円錐」についての項目だ。


「『円錐型武器』があったんだが、円錐ってなんだ?」


口で説明するのは難しい。普段目にするもので円錐形のものは何かあるだろうか?


「こう…………。その戦術書に絵はかいてないの?見せなさい。」


手で形を説明しようとして諦め、エルミーヌは机まで向かう。ヴォルガラスの隣に座り、戦術書を開いた。


「この形が円錐よ。底が円になっていて、頂点がとがっている形。」


「この絵は三角形だろう。円錐と何が違うんだ?」


「横から見たら三角だけど、底面が円になってるのよ。先が鋭くて、深く刺すほどに傷を広げられるんじゃない?」


「ふうん。女なのに頭いいじゃん。」


エルミーヌはイラっとする。教えてもらっておいてなんて態度だ。


「そういう偉そうな言い方はよくないわ。こういうときは『ありがとうございます』と言うべきよ。」


「……。『ありがとうございます。』」


ヴォルガラスがあまりにもあっさりとお礼を言うから、エルミーヌは驚いた。お礼を言える程度の常識はあるらしい。


「あなたこれまで、どんな教育を受けてきたのよ。」


「俺は孤児だったから、教育も何もねえよ」



エルミーヌは納得する。

だとすれば、所属している騎士団からの影響は大きいはずだ。

騎士団の団員の日ごろの言動が悪いのか。

意外と素直なところを見ると、口の悪さは直しようがあるのかもしれない。



「人に聞くより、ちゃんとした家庭教師を雇いなさいよ」


「......めんどくせぇ。なあ、こっちの単語はどういう意味だ?」


「まったく……。今日だけだからね。」


「優しいじゃん。やっぱりあんた、いい女だな」


この男のいう『いい女』というのは、要するにすぐに泣きださない女ということだ。

ヴォルガラスが知人を通して結婚相手の紹介を希望しているのは、上司から提案された結婚相手である、情緒不安定な女性を断るためだった。


蝶よ花よと育てられた令嬢は、ヴォルガラスの失礼な言動に耐えられずすぐに泣きだしてしまうらしい。


『ヴォルガ様、新しい盾をご用意しました!ぜひ使ってください!』

『いんねーよ』

『ひどいわ...!私の心配なんて貴方には重荷なのね...!!そんな冷たい言葉言われたことがないわ...!!』

このような調子で、わっと泣き出すそうだ。


そのため、多少汚い言葉を使っても、すぐに言い返してくるエルミーヌを気に入っているようだった。


しかし、エルミーヌからすれば、言い返せるのは汚い語彙を人より知っているというだけだ。エルミーヌだって失礼な男より、優しくて、大切にしてくれる人を選びたいのだ。


「おべっか言っていないで、早くページを開きなさい。」


面倒見のいいエルミーヌは、結局夕方までヴォルガラスの勉強に付き合うことになったのだった。


***


それから数日後、エルミーヌは父親から呼び出された。


父から声をかけられるとひやりとする。大体ろくなことではないからだ。


しかしエルミーヌの予想に反して、その内容は吉報ともいえるものだった。


「婚約の申し込みがあった。騎士団のヴォルガラス・キャストロウからだ。」


エルミーヌは衝撃を受けた。

(……あんなにはっきり断ったのに!!)


まさか直接父に手紙を送るとは。伯爵家であるエルミーヌの家からすれば、男爵の地位を持つヴォルガラスは低身分の相手となる。


父に何を言われるかわからない。『男爵家ごときでも手が出せると思われるなんて。』『この程度の男からの求婚など恥さらしが。』父からかけられる言葉を想像し、エルミーヌは身構えた。


しかし、父親からかけられた言葉は意外なものだった。


「おまえのような捨てられた女にまだ婚約の話が来るなんて、奇跡のようなものだ。良かったじゃないか。」


腹の立つ言い方ではあるが、想像とはうらはらに、父親の反応は思ったよりも良いようだった。


「お前は売れ残りなのだし、贅沢は言えんだろう。いいんじゃないか?」


父親はもしかすると、騎士という仕事に好感をもっているのかもしれない。


30年ほど前、隣国との戦で騎士団が活躍し勝利を納めた。そのため、当時を知るものは騎士団に対して好印象を抱いているのだ。


それに、騎士は昇級の機会も多い。

騎士は活躍に応じて昇級の可能性がある。

今後の爵位の変化を見込んでいるのかもしれない。


(あんな生意気な男と結婚する気はなかったけど、そんなに私が好きなら考えてやらないこともないわ。)


エルミーヌの拒絶にもくじけないヴォルガラスに、悪い気はしなかった。


エルミーヌはこれまで恋愛で追いかけられる経験がない。アルフレードとは元から婚約が決まっていたし、当然他の男とは必要以上に親密にならなかった。


それに、婚約をすることでエルミーヌにとってのメリットもある。

今の父の態度からすると、婚約をすれば今後は余計なことを言われずに済みそうだ。


「わかりました。その婚約、お受けします。」


***


それからさらに2カ月後。

結婚の話は順調に進み、晴れた午後、ヴォルガラスとエルミーヌの結婚式が行われた。


婚約破棄にあった数ヶ月後に美しい白いドレスを着ているなんて、当時のエルミーヌには想像もつかなかった。


式は、孤児であるヴォルガラスの親代わりの騎士団の上司と、エルミーヌの家族での少人数で行われた。



ヴォルガラスとの結婚式の後。


結婚を祝うパーティが行われた。


エルミーヌの友人の令嬢達や、ヴォルガラスの騎士団の所属者が多く参加し、皆酒を飲んだり踊ったりと、楽しい時間を過ごしていた。


エルミーヌはヴォルガラスと共に、参加者達に順にあいさつをする。

いかつい見た目の騎士達に最初は緊張したが、皆気のいい良い人達だった。


すると、一人の女性がエルミーヌに近寄ってくる。


「おめでとう、エルミーヌ」

「姉さま!」

声をかけてきたのは、エルミーヌの姉であるルノダイヤだ。

彼女はエルミーヌの腹違いの姉である。

ルノダイヤは愛人の子だったが、その器量の良さからエルミーヌの屋敷に引き取られた。


その後第5王子に見初められ、現在は王子妃だ。

エルミーヌの父親が伯爵という爵位を得ているのは、ルノダイヤのおかげだった。


「エルミーヌも妻になるのか。何かあったらいつでも相談してね」

「本当?姉さまもお忙しいのではなくて?」

「エルミーヌのためなら、いつだって時間を空けるよ」



すると、騎士の一人が大声で注目を集めた。

「それでは皆さん!本日の主役、エルミーヌ様のお父様に、一言ごあいさつをいただきましょうー!」


エルミーヌは嫌な予感がする。

余計なことをしないでほしいと思ったが、すでに遅かった。


乾杯のグラスを持った父親が、静かになった会場で話し始める。


「本日はお集まりいただきありがとうございます!

見ての通り、器量も頭も足りない娘ですが、騎士様に拾っていただけてほっとしております!騎士様も、こんなハズレをわざわざ選ぶなんて、物好きですな! 」


父親が話し終わると、あたりは静まり返り、張りつめた空気が流れた。


エルミーヌの父はいつもより酒を飲んでいた。そのせいで上機嫌になったのだろうか。笑いが起きるだろうと思った父親は不穏な空気を察し、あたりを見回した。


誰一人笑っていない。

エルミーヌは誰とも目を合わせることができず、うつむいていた。


(これで最後。今日で最後だから。)

エルミーヌは怒りと屈辱で震えながら、時間が経つのをただ待っていた。


最初に口を開いたのはヴォルガラスだった。

ヴォルガラスがエルミーヌの肩を抱きよせる。


「ユールドース伯、我が妻を侮辱することはおやめください。エルミーヌは今日からはもう俺のものです。


そして騎士にとって、身内を侮辱されることは宣戦布告と同義。もう一度でも同じようなことを口にされれば、相応の報いを受けていただきます。」


ヴォルガラスが声を発するのと同時に、つい先ほどまではしゃいでいた騎士たちがユールドース伯に向き直り、隊列を整えた。


笑いごとでない空気を察し、ユールドース伯は青ざめる。

次に口を開いたのはエルミーヌの姉、ルノダイヤだった。


「器量も頭も足りてないのはあんただよ、くそジジイ。牛の糞にも劣るド低能が!」

しんとした会場にドスの効いた声が響き渡る。


「今どういう状況か周りが見えないの!?エルミーヌが主役の場面で、でしゃばるんじゃないよ。自分の娘を貶めて、何がしたいの?反吐が出る!!」


ルノダイヤの啖呵に、周囲の騎士達がざわつき始めた。


「たとえ父親でもエルミーヌを悲しませるのならそれなりの覚悟をしてください。明日からどんな立場になるかお考えになって。


今後もこのような言動を繰り返すのなら、第5王子妃があらゆる手段をもってあなたを今の地位から引きずり下ろします」


ルノダイヤの力強い宣言に、拍手が巻き起こる。

騎士達からは「よく言った!」「姐さん!!」などの声が上がっている。


エルミーヌの父親は真っ青な顔をして、謝罪とも言い訳とも取れない言葉を述べた後、足早に会場から消えていった。


「あんた、反応が遅いよ。もっと早く言い返しな」

ルノダイヤがヴォルガラスを責める。


「すみません。気を付けます」


「姉さま、ありがとうございます......。」


「この子はね、妾腹の私に唯一優しくしてくれたの。屋敷にきて肩身の狭かった私の、たった一人の本当の家族。エルミーヌを泣かせたら、あんたもただじゃ置かないよ」


「......はい。」



ルノダイヤの周りには、騎士達が集まってくる。


「姐さん痺れました!!」

「結婚してるのか~、立候補したかったです!」


騎士の多くは、平民からのしあがった者か、貴族のなかでも継承権のない三男以下だ。目上の者に啖呵を切る姿は、敬意をいだかずにはいられないのだった。


「ヴォルガラス、私......」

「お前は俺が選んだ女だ。世界一きれいだよ」


ヴォルガラスはエルミーヌを抱きしめる。

エルミーヌは今さらになって、案外悪い結婚ではないのかもしれない、と思ったのだった。



***

数年後、ユールドース伯は尊大な態度で敵を増やし、暗殺されかけることが後を絶たなくなった。

以前は第5王子妃の父であることが暗殺の抑止力となっていたが、不仲であることが露呈したため、生かす理由がなくなったからだった。


エルミーヌは父親と会うことはほとんどなく、意外にも愛情表現豊かなヴォルガラスとともに平和に暮らしている。


お読みいただきありがとうございました!


面白かったら評価☆☆☆やリアクションをいただけると嬉しいです♪

誤字報告ありがとうございます!


結婚相談所+令嬢の連載も更新しているので、そちらもお読みいただけたら嬉しいです。


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