天使-2
絡まった縄を切ろうと、天使が鎌を振り回そうとしたその時。少女が三度目の魔法をかけた。
「サイア!!」
すると縄は天使の体にきつく絡み付いた。天使が苦しみの表情を見せる。
「うっ……」
「逃げるわよ!!」
苦しむ天使に背を向け、少女は孝太郎の手をとって全速力で天へ駆け登った。
――――耳の痛みを感じ始める頃、ようやく少女は上昇をやめた。
手を離し、少女は孝太郎にきつく問う。
「もう一度聞くわ。あんた、何したの? 天使を知らないってことは異世界人っぽいけど、だったら尚更、この世界の理を知らない奴が天使に攻撃されることがおかしいわ!!」
「いや……その……俺にもよく……」
孝太郎は少女から目を反らす。本当の事は言えない。言ってはならない。彼はそんな気がしていた。
「そう……。言わないならいいわ。どうせもう二度と会う事なんてないし」
「はぁ……」
「けど、言うんなら助けてあげてもいいけど」
「はぁ?」
孝太郎は眉根にシワを寄せた。少女のペースに飲み込まれていることに対して、どう反応すればいいのかわからない様子だ。
「私がこの世界のことを教えてあげる。あなたが天使に襲われた理由を教えてくれるのなら」
「知ってどうするんだ?」
「……青の勇者は異世界人」
ぼそりと彼女はつぶやく。
「青の……勇者、か」
「そう。神の手に渡る前に私が勇者と手を組みたいの」
だから、と彼女は続ける。
「あなたが青の勇者なら、そうだと答えなさい。マオウに会っているのなら、自分が何者かわかっているはずよ」
「マ……オウ!?」
孝太郎は目を大きく開いた。
やっぱり、と少女は言う。
「マオウの言う通りだった。青の勇者は異世界人で、ボサボサ頭に青い服」
少女はにっこりと笑った。
「あなた、飛騨孝太郎ね。マオウからあなたのことは全部聞いてる。命じられたの。マオウに、勇者にこの世界に慣れさせるよう」
「全部……知ってたのかよ」
孝太郎は相変わらず眉根を寄せている。
「最初、天使に襲われてる時は気付かなかったけどね。まさか勇者が天使ごときに負けるなんて。本当に何も知らないようね」
今度は別の意味で、孝太郎は眉根を寄せた。
「まあいいわ。私はクウサ。よろしく」
クウサは握手を求めてきた。孝太郎はゆっくりと手を差し出す。
「よろしく……」
握手を交わすと、クウサは早速提案をした。
「まだ話したいことがあるんだけど、ここではいつ天使に目を付けられるかわからない。……家に来てくれる?」
そういいつつ、彼女は進行方向に体を向けていた。孝太郎に選択肢はないようだ。
「はいはい、わかったよ」
クウサの後に孝太郎は続いた。この世界に来てからというもの、彼は振り回されてばかりだ。
――――クウサについて行き向かった先は、街の中にあるボロボロな小屋だった。
「ここが私の家。入って」
クウサはドアを開けてそう言う。
「お、おう」
促されるまま孝太郎は部屋に入る。中は生活に必要な物が最低限そろっていて、タンスなどはなく代わりにクローゼットが一つある。
全体が木で統一されたこの部屋は、外見とは打って変わって住みやすそうだ。
「座って」
クウサは孝太郎にテーブルの席に着くように言った。彼女も席に着くと、肘をついて話しはじめた。
「さて、まずはこの世界の理について話そうかしら。流石に、神が悪だということはマオウから聞いているね?」




