天使-1
翌日、孝太郎は無事マオウから家の鍵をもらえた。これで誰かが勝手に入る心配はなくなる。
鍵をもらう時、マオウはこんなことを言っていた。
「ははは! 悪い悪い、すっかり忘れてた! ははは!」
何がおかしいのかと孝太郎は問う。マオウはさらに笑っていた。
そんな事を思い返しながら、孝太郎は自宅へと飛んでいた。さわやかな風が孝太郎を優しく包む。
そんな時。孝太郎の目の前に白い服を着た一人の女が立ち塞がった。歳は孝太郎よりも若そうで、長い銀髪に青い目を持った美しい少女だ。孝太郎は目を奪われた。
少女は孝太郎をじっと見つめる。
「えっ……あの……」
言葉がでない。少女に対し、『何か用ですか?』の一言すら言えなかった。少女のもつ何かに孝太郎は捕われていた。
「青の……勇者……」
少女はつぶやく。
「え?」
その刹那。孝太郎の頬を刃がかすめた。
「え……?」
孝太郎は頬に手を当てた。手の平に血がべっとりとつく。
見ると、少女は手にナイフを持っている。彼女はそれを掲げ、投げる体制にはいった。
「ちょ、ちょっとまて! なんなんだよいきなり!」
「死ね」
「おい!」
瞬間、孝太郎は飛び上がった。ギリギリのところで少女の投げたナイフを回避する。
「だから、なんなんだよいきなり!」
少女はゆっくりと孝太郎に近寄る。
「神のご命令により、勇者を排除する」
「神!?」
すると少女は、手の平からナイフを産みだし、孝太郎に突き付けた。するどい目つきをして。
「ただし……神に奴隷として仕えるというのなら、命だけは助けてやろう」
「神の……奴隷!?」
神が奴隷を扱うなど、孝太郎は聞いたことがなかった。少女はさらに迫り来る。
「……冗談じゃない。神の奴隷なんてまっぴらごめんだ。それに、マオウはどうでもいいが……ルーナは裏切れない」
孝太郎は迫り来る少女にきっぱりと断りをいれた。すると少女は孝太郎をナイフで突き刺そうとする。
「うわっ」
孝太郎はそれを避けた。
「避ける事しかできないとは……ひ弱な勇者だこと。奴隷としてすら使えないな」
鋭い目付きと言葉で孝太郎の微力さを訴える彼女はそう言うと、両手を天にかざし、光を集めて大きな鎌を作った。
「死ね」
少女は鎌を構え、孝太郎に襲い掛かる。鎌を振り回せば攻撃できる範囲は広くなる。孝太郎は目をつむった。――――その時。
「天使……!?」
孝太郎の背後から声がした。二人がそちらの方を向くと、そこには黒いパンクスタイルのようなワンピースを着た、短い黒髪の少女がいた。
「天使……?」
孝太郎がつぶやく。
「あんた知らないの?」
少女は剣を構えながら孝太郎に言う。
「神の手下の天使よ。あんた何したの!?」
「いや……その……」
知らない女の子にいきなり「青の勇者です」という真似はできない。孝太郎は言葉につまる。
「まあいいわ! 今はどうでもいい!」
下がってろ、とパンクスタイルの少女は手で指示する。
少女は構えた剣で天使に攻撃をしかけた。天使も鎌を振りかざす。
少女は鎌を避け天使に切りかかる。しかし天使はそれを避け、再び鎌を振りかざし少女がそれを避け、の繰り返しになってしまった。孝太郎はただ見ている事しかできないでいる。
「埒があかない……。――――ムレミン!!」
呪文を唱えて、少女は一本の縄を生み出した。
「サイア!!」
また呪文を唱えると、縄はひとりでに動きだし、天使の体に絡まった。




