マシュリク・ルーナ-3
「記憶……!?」
「まあ、記憶が欠けてたって僕は僕だと思うから」
へらり、とルーナは笑う。
「記憶がなくなったってお前……」
「孝太郎、僕はこれで満足してるんだ」
「満足?」
「うん。記憶がなくたってこっちでの生活はそれなりに楽しいし、もしかしたら思い出さない方がいい記憶かもしれないし」
孝太郎は何も言い出せなかった。
「ごめん。余計な事言ったみたいで。……僕はこれで帰るよ。邪魔したね」
「え、あ、ああ……」
手を振って、ルーナは玄関に向かって行った。
「あのさ……」
玄関を出る前にルーナは言う。
「青の勇者がいる限り、僕は絶対に神を倒す」
「え?」
「じゃあね」
ルーナは家から出て行った。
「期待……されてるのか?」
孝太郎は頭を掻いた。彼自身、ただ帰る事を望んでいた青年には、まだ、自分が勇者でこの世界を救わなければならないという自覚がなかった。
その時。また、机が淡く光った。手紙が一通届いていた。
「またマオウから……」
彼は封を開け手紙を読む。
『今の格好じゃただの変人だからクローゼットの中にある服を着るように』
用件はそれだけだった。
「変人って……お前に言われたくない」
しかし、ジーンズにTシャツという服装では確かに目立つ。しかたなく、孝太郎はクローゼットを開けた。中には青い服が詰まっていた。
「全部青……青の勇者だから?」
彼は静かにクローゼットを閉めた。
「まさかマオウがここまでとは……」
彼は額に手を当てる。
「もういい。なんでもいい。あの魔王に歯向かったら面倒だ」
孝太郎はクローゼットから青い長い服と白いズボンを取り出した。それをベッドの上に放り、彼は風呂場へと足を運ぶ。思えば、昨日から風呂に入っていなかった。
――――しばらくして風呂から上がると、孝太郎は青い衣装に着替えた。服はイスラム世界の衣装みたいな形をしている。それに腰紐や手足に紐をつけている。
鏡を見て彼は言う。
「似合わねぇな……」
ふと、孝太郎の頭をマオウの言葉がよぎる。
「青の勇者に赤の戦士……そして緑の魔法使い……」
まるでどこかのRPGみたいな組み合わせだ、と彼はつぶやく。
その時。またテーブルが光った。一枚の紙切れが乗っている。今度はルーナからの手紙だ。用件は確認の手紙だった。『どう? 届いた?』とだけ書いてある。
本棚にはさまっていたメモ用紙に孝太郎は『OK』と返事を書く。折り畳んだ紙の面にルーナの名前を書いて彼はポストに向かった。
半信半疑でそれを外のポストに入れ、再びポストを開けると、そこには何もなかった。
「まじかよ……」
孝太郎は自分の目を疑った。
――ポストを閉め、彼は家に戻る。その際にもう一度、ポストに目をやった。
家に入り、彼はベッドに横になる。これからもっと不思議なことが起こるかもしれない。そう思いながら、彼は眠りにつくのだった。




