マシュリク・ルーナ-2
孝太郎は頭を掻いた。
「あー……悪い、それが……その……」
ばつが悪そうに彼は言う。
「家がどこか……わかんなくなった」
「……え?」
ルーナの表情が半笑いの状態で固まった。
「この雲の中のどっかにあるんだけどな」
「……ええ?」
「いや、まじで。まじで雲の上にあるんだ。だからわからないんだ」
「そ……か……。雲の上……か」
二人は遠い目をして空を眺める。眺めたところで家付きの雲が流れてくるわけではなかったが……。
「さすがに雲の上ってのは探すのはきついよなぁ……一旦魔王の元に戻るか」
ボサボサ頭をボリボリとかきながら、孝太郎はため息をついた。対照的にルーナの目は輝く。
「それ、僕も行っていい……?」
興味津々と言わんばかりに声も高揚している。魔王の城に行けるとなれば興奮するのも無理はないが。
「いいんじゃないかな。仲間が増えたって言っとけば、あの魔王なら歓迎するよ」
「やった! 魔王の城、楽しみだな」
しかし問題がひとつ。孝太郎は来た方向に体を向けた。
「かといって、魔王の城もどこかわからない。……ルーナわかる? キノコみたいな岩のある所」
ダメもとでの質問。そんなのわかるわけがない、と孝太郎は思っていたのだ。しかしルーナは驚いて孝太郎に返した。
「え!? あそこが魔王の城!?」
「ああ。信じられないが、あれが魔王の城だ。大草原に囲まれてるとはいえ、随分無防備であの魔王らしい城だと思うがな」
孝太郎が思っていた以上に、この世界ではキノコ岩の存在は有名なようだ。
「へぇ……あそこがね……。――――わかった、案内するよ。ついてきて」
ルーナは先頭に出て先を飛んで行った。孝太郎は後に続く。
――――しばらく飛んでいくと、キノコ岩の群が見えてきた。二人は入り口のついている岩の前に下りる。
呼び鈴らしきものは見当たらないので、孝太郎はドアを叩いた。
「おい! マオウ! いるんなら出てきてくれ!」
しばらくすると、ドアの向こうから声がした。
「その声は孝太郎か?」
マオウの声だ。
「ああ。聞きたいことがある」
「家の帰り道がわかんなくなったか?」
「うっ……」
「あはははは! 図星か! わかった、今開ける」
ゆっくりと両開きの扉が開く。マオウの姿が見えると、ルーナは感激の声を漏らす。
「ほ、本物だ……」
マオウはにやにや笑いで孝太郎達を出迎えた。
「孝太郎! 帰りたいだの言う前に自分の住む場所を覚えなきゃな」
「俺が帰りたいのは元の世界だ! ……って、今こんなこと言ってもしょうがないか。家の場所がわからなくなった。教えてくれ」
「はいはい。……で、後ろにいるのは?」
マオウはルーナにバンダナで隠れた目を向けた。
「マシュリク・ルーナです」
「ほう……。ルーナの方が名前か?」
「はい。はじめまして、魔王様」
すると、マオウは盛大に笑った。
「ははははは!! 魔王様なんてそんなかしこまらないでくれ! マオウでいい! マオウ・タカヤマのマオウ!」
「マオウ・タカヤマ?」
「こいつの名前だよ」
孝太郎が説明する。
「魔王だからマオウ。なんでタカヤマかは知らない」
「へぇー……」
「変なやつだろ?」
「え、まあ……」
ルーナは小声で言った。
「さて、帰り道を教えるから今度こそ覚えておくようにな!」
マオウはそういうと、天に指差して呪文を唱えた。
「フラーレ!」
するとマオウの指先から一筋の光が生まれた。
「あの光の向こうがお前の家だ。地上にある青い旗の真上だから、今度からはそれを頼りに帰るように」
「どうも。じゃ、行こうぜルーナ――――フライヤー!」
「あ、うん」
ルーナはマオウに一礼してから呪文を唱えた。
「ヤティール!」
二人は空へと消えていった。
やがて、マオウが指し示した方向に家が見えてきた。
「あれ?」
ルーナは家を指差す。
「あれだ」
まったくマオウも面倒な所に家を建てたもんだ、と孝太郎はつぶやく。
「ん? なんか言った?」
「いいや、なんでもない」
孝太郎はドアの前で降りて、鍵が開いたままのドアを開けた。
「開けっ放し? 無用心だなぁ」
雲の上に降りながらルーナは言う。不思議とこの雲は上に立つ事ができる。
「鍵が無いんだ」
「そっか。なら、早く鍵を見つけるか鍵をかける魔法を覚えなきゃね」
「……そうだな。まあ、入れよ」
「うん。お邪魔します」
孝太郎に勧められるまま、ルーナは中に入った。
「中は普通なんだね」
「あのマオウにしては意外だよな……ん?」
ふと、机に魔法書を置こうと目を向けると、そこには一通の手紙が置いてあった。孝太郎は本を置いて手紙をとる。手紙はマオウからだった。
『言い忘れたが、私の城に入るためには扉を五回叩いて自分の名を名乗る事。我がしもべが出迎えてくれる』
手紙の内容はそれだけだった。
手紙が届いている様子に対してルーナは言う。
「これこそが僕のやりたかった連絡手段だよ! 手紙の配達先はこのテーブルの上でいいかな?」
「あ、ああ……」
「なら行くよ。――――ズィウ!」
ルーナは机に手をそえ呪文を唱えた。机の表面が一瞬光る。
「これで僕からの手紙がここに届くようになった。孝太郎からの手紙はポストに入れれば届くようにしておくから」
「あー、ちょっといいか?」
孝太郎は手を挙げた。
「何?」
「俺、この世界の字書けないんだけど。読めるみたいだけど」
「あ、そっか。なら英語で返信してよ。簡単なのは読めるから」
「わかった。そうする。……ルーナは英語圏の出身じゃないんだな」
「うん。なんか……ここに来るとき記憶が飛んだみたいで、ほとんどの事を覚えてないんだけど」
どこか寂しそうにルーナは笑う。




