マシュリク・ルーナ-1
「うわぁぁぁぁ!!!」
制御が利かないまま、彼は市場へと突っ込んでいった。人々の悲鳴が聞こえる。
「誰か、止めてくれぇぇ!!」
しかし誰も彼を止める事などできず、彼は箱にぶつかって弾き飛ばされた。その反動で、孝太郎は宙に舞い上がる。
そのまま彼はゆっくりと、風に流されるように空へと上昇していった。
「痛ってぇ……」
顔を手で覆いながら孝太郎は流されていく。
しばらくして落ち着いて手を退けると、目の前に大きな城が現れた。城は崖にくっつけられたように建てられている。
「なんだ……あれ……。まるで魔王の城だな」
「あれは神の城だよ。君、エアリス人?」
「誰!?」
孝太郎が後ろを振り向くと、そこに居たのは長い金髪の男だった。目が血のように赤い。おとなしそうな顔つきの彼は声までもおとなしげだ。彼は緑の長い服を来ていた。
「緑……」
ふと、孝太郎はマオウの言っていた事を思い出した。飛ばされた原因もこれだ。
「お前か」
「え?」
男はきょとんとする。
「お前が緑の魔法使いか」
「え? え?」
孝太郎の言っている事を男は全く理解していないようだ。
「なんだい? 緑の魔法使いって」
キョトンとする男。いやいやそんなはずはない、と孝太郎は血が登った頭を横に振って冷静になろうとする。
「いや……なんでもない。話変わるけど……エアリスって何?」
冷静になると疑問が生まれる。エアリスとは?
「エアリスは地球――――つまりはこっちでいう異世界だよ。こっちの世界はウィングル。僕はエアリス人だ」
孝太郎の無礼な振る舞いに怒る様子もない彼は笑顔で質問に答えてくれた。
「エアリス……人? つまりお前は、俺と一緒でこの世界に飛ばされてきたってこと?」
「まあね。エアリスに潜む魔法書を手にしてしまってね」
「ふーん……」
魔法書……つまりは彼も孝太郎と同じように突然現れた不思議な本を持っているということのようだ。
「ここに来たばっかみたいだし、せっかくだから僕がいろいろ案内するよ。僕、マシュリク・ルーナ。マシュリクが苗字でルーナが名前。君は?」
「え、あ、俺は飛騨孝太郎……」
「孝太郎? よろしく」
ルーナはにっこりと笑って握手を求めてきた。
「あ、うん……」
孝太郎も手を差し出した。
「じゃあ、まずはあの城から」
ルーナは城を指差した。
「あれは神の城。あそこに神族が住んでいる。信じられないかも知れないけど、ここでは神は悪とされている。だからむやみやたらに近付かない方がいいよ」
「そうか……神は悪ってマジなんだな……」
「そう。で、次に、この世界に来たからには君も魔法書が絡んでいるはずだ」
「まあ……な。無茶苦茶なやつに絡まれて魔法書の使い方を無理矢理教わったがな」
「無茶苦茶なやつ? まあ……とりあえず魔法書については知ってるみたいだから飛ばそうか。次は……緑の魔法使いってのが気になる。なんだいそれは」
孝太郎は言葉に詰まった。本当のことを言うには、あまりにもスケールがでかすぎる。神が悪だと言うのなら、魔王は神だ。
「えーと……」
「うんうん」
「なんていうか……俺、青の勇者……らしい」
「青の勇者……?」
「うん、まあ。で、その……魔王にここに連れてこられて……赤の戦士と緑の魔法使いを探し出せと……」
「魔王!?」
ルーナは孝太郎の肩を掴んだ。そして質問を浴びせる。
「魔王ってどういうことだ!? もしかして、魔法書の使い方を教えたのも魔王? それとなんなんだい、青の勇者って!」
「あ……えっと……俺にもよく……」
「……そうか、ごめん」
「いや、俺もうまく説明できないし……。とりあえず、なんかよくわからないけど、俺、勇者らしい」
「勇者……かぁ。すごいな」
ルーナは関心して孝太郎を見る。
「え?」
「だって、勇者と言われるほどの力があれば神を倒せるかもしれない!」
「そうか……」
孝太郎は肩を落とした。
「悪いけど、俺にはそんな力ないよ。何をやっても駄目人間だ、俺は」
「そんなことない! エアリスでうまくいかなくたって、こっちでは君は英雄だ!」
「英雄……ねぇ」
「ねぇ、僕も手伝っていいかな?」
ルーナは孝太郎の手をとった。孝太郎は首をかしげる。
「何を……?」
「戦士と魔法使い探し! 僕でよければ手伝わせてくれないかな?」
「けど……俺は……」
「君は勇者だ。この世界を救えるのは君しかいない。僕は、この世界を変えたい!!」
そういうルーナの目は強く輝いていた。真剣な目だ。
「そう……か。なら……」
「いいのかい!?」
「まあ……ね。俺が神を倒すなんて信じられないけどな」
「大丈夫だよ! なら、改めてよろしく、孝太郎」
二人は再び握手を交わした。
「あ、ああ……」
「なら、君の連絡先を聞いておこうか」
「連絡先? 家に電話なんかないぞ」
「家? 来たばっかなのに家を持ってるなんて珍しいね」
ルーナは首をかしげた。
「魔王の住家だけどな」
「なるほど」
納得したようにルーナは手を叩く。
「あ、そうそう。連絡先だけど……電話は要らないよ。魔法で、一瞬で届く手紙を出すんだ」
「メールみたいなものか?」
しかし、ルーナにはメールの意味が通じなかったようだ。彼は再び首をかしげる。
「……メール?」
「いや、なんでもない。続けて」
「あ、うん。で、届けるには君の家に魔法をかけなければならないんだけど……来たばっかりだと、まだ覚えてないかな……」
「うん、知らない」
「なら、一回君の家に行ってもいいかな?」




