闘技場-1
市場はいつものように賑わっていた。
ルーナの手の中にある赤い石は今のところ何の反応も示していない。
四人は市場の中に戦士がいないか探しつつ、闘技場へと歩いて行った。
闘技場もまた、賑わいを見せていた。貴族から庶民まで沢山の人が戦士や魔法使い達の闘いを楽しみにしている。
今行われている試合では、戦士達による魔法の剣と剣のぶつかり合いが行われていた。一人は筋肉質な男、もう一人は細身だが素早い男。両者とも一歩も引かぬ、手に汗握る闘いだ。魔力も互角なのかなかなか勝負がつかず、最終的にはお互いの体力勝負と言った所だろうか。
「さぁ、赤の戦士を探さなくっちゃ! 会場をまわってみましょ」
戦闘も気になるけれどそれどころじゃない、とクウサが先導して彼らは戦士探しを始めた。
しかし、ありとあらゆる席をまわりステージ近く、控え室近くも回ってみたが石はそれらしき光は発さなかった。
ここにはいないのか、と諦めて、孝太郎達は次の場所を探しに行こうと出口へ向かった。
だがしかし、観客席が何やら騒がしい。悲鳴のようなものも聞こえる。逃げ惑う人まで現れはじめた。これは普通ではない、と様子を見るため彼らは観客席へと駆けていった。
するとどうだろう。ステージ上では互いに闘い合うはずの戦士と魔法使いが肩を寄せあっている。彼らの視線の先には、なんと翼を生やした男——天使がいたのだ。
「天使!?」
真っ先にそれに気がついたのはクウサだ。
「一体、何の目的があって?」
気がつけば彼女は誰よりも早く飛び立ち、天使の元へと駆けていた。
「クウサ!? ——孝太郎はマリアを連れて安全な所へ避難して!」
クウサを追いかけるようにルーナもステージへと飛んでいく。
「ちょっと! なんであんたがっ、天使がここにいるのよ!」
クウサの光の剣が天使めがけて襲いかかる。だが頬をかすめただけで避けられてしまった。
「おやおや、勇ましいお嬢さん。ネレシア様が真の決闘……つまり殺し合いを観たいと仰るので参加しに参った次第です。この様子はネレシア様の自室の水晶からご覧頂いております。さーて、どなたから殺しましょうかね?」
「ふ、ふざけるな……殺し合いですって!?」
天使の言葉にクウサは怒り心頭だ。余裕の表情の天使に剣を突きつけこう言い放った。
「いいわよ、私が相手になってあげる。死ぬのはあなただけどね!!」
「クウサ! 早まるな!」
後から追いかけてきたルーナは止めに入ろうとした。だがクウサはそれを拒否する。
「私は天使を倒す。あんた達は下がってて」
「いや、僕も闘う!」
「勝負は一対一が原則ですよ。綺麗な顔のお兄さん」
加勢しようとしたルーナを天使は魔法で弾き飛ばした。
「くっ……」
ルーナはふたたび加勢しようと駆け出した。だが見えない壁がそれを阻む。クウサ以外の者を追い出すために使った天使の魔法のようだ。
「決闘は一対一が原則ですよ!」
観客席でマリアは不安の声を漏らした。
「そんな……クウサ一人で大丈夫なの!?」
「ここはクウサに任せよう。大丈夫、クウサは強い」
孝太郎は、ここはクウサを信じるしかないとマリアをなだめる。
天使はクウサを挑発するようにこう言った。
「さぁ、どこからでもかかってきなさい。まぁお嬢さん一人などすぐに殺してしまえますがね」
「ふん、ならお言葉に甘えて」
クウサは空を駆けた。光の剣を複数出し、それを天使目がけて魔法の力で一気に投げつける。だが天使はその全てを避け切った。床に刺さった剣は光となって消える。
「なかなかやりますね。魔力も高い……これは苦戦しそうだ」
天使は腰に携えた剣を取り出した。それを構えて飛び立ち、クウサと剣を交えた。
天使の剣さばきはよく訓練されておりクウサと互角だ。今の戦況は若干クウサが押されている。彼女は後ろへと少しずつ追い詰められていた。背後には天使が作った壁がある。このままではいつかは壁にぶつかり逃げ道を失ってしまう。
そこでクウサは足で天使の腹を蹴り、怯んだ隙に会場中央へ逃げ出した。それを天使は追いかける。
天使は剣に炎を纏わせ、クウサ目がけて飛んで襲いかかる。クウサは水の魔法で盾を作りそれを弾き返した。
それでも天使はふたたび襲いかかる。剣を盾で弾き返すの繰り返しの中、クウサは反撃のタイミングを探していた。盾を構える右手。左手は縄を生み出していた。縄は天使の足へ絡みつき、そして強く縛り上げた。
「くっ!!」
天使が炎の剣で縄を切ろうと視線を下に向け、屈んだその時。隙が生まれたうなじ目がけてクウサは光の剣を突き刺した。
だがその手は天使に読まれていた。縄を切った天使は屈んだまま一回転。足で剣を蹴飛ばしたのだ。
ならばとクウサは二本の縄を動かして天使の両手を縛り上げた。キツく縛ったために手から剣がこぼれ落ちる。縄の先を掴んでいるクウサはそのまま天使を引きずり回し、地上へと叩きつけた。
大きな音と共に観客席から大きな声援が巻き起こる。皆、見た目以上に強いクウサに期待しているようだ。
今の天使に余裕の表情はない。焦りと怒りで顔を歪ませている。
「はは、まさか人間のお嬢さん一人にここまでやられるとは……あなたは一体何者だ?」
「私はクウサ。覚えておきなさい、地獄でね」
クウサはトドメを刺そうと光の矢を生み出し、天使目がけて放った。
矢は心臓部に命中した。天使の悲鳴が会場に響く。
——天使の負けが確定し、神の城ではネレシアがつまらなさそうに「あーあ」と呟いて水晶玉の映像を消した。
神の目が届かなくなった決闘場では天使が光となって消えようとしていた。その天使に向かって最後にクウサは小声でこう言った。
「私はイザベラ・ラナンキュラスよ。さようなら」
闘技場は本日最大の拍手と歓声が湧き起こった。
見えない壁もなくなり、ルーナはクウサの元へと近寄る。
「よかった! クウサ!」
「あんな奴、マオウ直々に訓練を受けた私が負けるはずがないわ」
ルーナに続いて孝太郎とマリアも降りてきた。続いて、戦闘していた戦士と魔法使いも現れた。
「ありがとう! 君が天使を倒してくれなければ俺達どうなっていたことやら……」
戦士と魔法使いはクウサの手を握り礼を言って去って行った。
「クウサ、ケガとかはない?」
「大丈夫よマリア」
多少の擦り傷などは出来ていたがクウサに大きな外傷はなかった。
「お前、本当に強いな」
圧倒的強さを見せつけたクウサに向かって孝太郎は笑いかけた。
「うるさい、あたりまえよ」
貴方に褒められた所で嬉しくない、と言わんばかりにクウサはふん、とそっぽを向いた。
「それより、ここに赤の戦士はいなかったわ。今日はもうマオウの所に戻って、明日は王城あたりを探してみましょ」
一同はクウサに賛同し、マオウの城へ帰ることにした。
————多くの歓声を背に、彼らは闘技場を後にしたのだった。




