特訓
その夜。マリアは夢を見た。暗闇の中、誰かの持っている赤い石が眩く光る。その光を放つ者は——と、ここで目が覚めてしまった。
だがこれは赤の戦士が見つかるという事を意味するのかもしれない。マリアは急いでマオウの城へ行き、その事を伝えた。
「おおそうか! それは吉夢だな!」
「ですよね! 私もこれはすごい! って思って、急いで来たんです。急ぎすぎてまだ誰もいないみたいですけどね……」
「気にするな! ハハハ! うちにはシラキにメイにガブリエラもいるんだ。話し相手になってあげてくれ!」
夢見のマリアが赤の戦士の夢を見たことによって、今日のマオウは一段とテンションが高い。笑いにも気合が入っているようにすら見える。
「本日の孝太郎達の任務は赤の戦士探しだなぁ。早く来ないかなー楽しみだなー」
よっぽど嬉しいのだろう。まだ見つかっていないのに、鼻歌まで歌う上機嫌っぷりだ。そんなマオウの様子を見ているマリアもなんだか楽しそうだ。
「あはは、マオウさんは愉快な方ですね」
この場に変人魔王を止める者はおらず、彼の鼻歌はシラキがメイとガブリエラを連れて書斎に入ってくるまで続いたのだった。
「マオウ、ナニカいい事でもあったのか?」
「マリアが赤の戦士の夢を見たんだ!」
「なんだと!? それはめでたいな」
「ハハハ! めでたいめでたい!」
とても上機嫌なマオウを前にメイとガブリエラは顔を見合わせ、互いに笑い合った。
「赤の戦士かぁ。どんな奴なんだろうな?」
ふたたび上機嫌の鼻歌が始まろうとしたその時、ドアを五回ノックする音がした。孝太郎とルーナとクウサがやってきたようだ。
「おはよー……やけに上機嫌だな。気持ち悪いぞマオウ」
孝太郎のまだ眠たそうな顔は瞬時に呆れ顔に変わった。
「これが喜ばずにいられるか! よーく聞け! マリアが赤の戦士の夢を見たんだ!」
「えっ!? おい、マジかよ」
「マジだマジ! それで、だ——」
マオウは孝太郎達に詰め寄る。顔が近いとの文句も無視をして、彼は話を続けた。
「今日の任務は特訓だ! クウサ、ルーナ、手伝ってくれ。赤の戦士が現れるってのに勇者がこんなへっぽこじゃあ恥ずかしいだろ?」
「へっぽこは余計だ! 事実だけどよ……俺だってこの世界に馴染むために頑張ってんだ……魔法だって覚えてるし字だって書けるように努力してんだ……」
孝太郎はボソボソ声で反撃した。事実なので、強くは言い返せない。
「へーえ? じゃあ見せてもらおうかな? その覚えた魔法とやらを」
ニヤニヤ顔のクウサ。本当に覚えたの? と彼をからかう。
「早速外へ出ましょう。さぁ、孝太郎、実力を見せてちょうだい」
「お、おう……」
三人は特訓のために城の外へ出た。そこへ見学したいとマオウ達もついてくる。
念の為、城の周りに気配を悟られないようマオウが結界を張ってから特訓はスタートした。
「さぁ孝太郎! どっからでもかかってきなさい!」
クウサの手には魔法の剣がある。準備は万全のようだ。
「やるしかないか……う、ウィン!!」
戦闘開始。孝太郎の両手から風が吹き出した。風は小さな竜巻となってクウサにおそいかかる。
「そんなショボイ魔法しか使えないの? ガディル!」
クウサは余裕の表情で光の結界を作り風をガードした。
「ほらほら、あんたの魔法で私の結界を破ってみなさいよ!」
「くっそぉぉ!! 最大級の竜巻出してやるよ!!」
孝太郎は指先に力を込めた。少し風の威力が上がった。しかしクウサにしてみたら全然大した事のない威力なようで、彼女はまだ余裕の笑みを浮かべている。
「ふーん、これが勇者の実力? こんなんじゃ赤の戦士に笑われちゃうわね」
「う、うるせぇ!」
「風がダメならほかの呪文を混ぜるといいわよ」
「アドバイスどうも! じゃあ……フィリア!」
新たな呪文が加わり竜巻は炎の竜巻へと変貌した。
「そうそう、そんな感じ。でもこれはどうかしら? ミスティア!」
すると炎の竜巻はいとも簡単に水を帯びた結界にかき消された。風だけがさわさわと水の結界の表面を撫でる。
「くそう、じゃあこれでどうだ! 泥水になれ、フィール!」
風は土をはらんで土埃となりクウサに襲いかかる。それは結界の水と混ざり合い、泥水の結界へと変貌した。
「やるじゃない……あんたの魔力が高ければ生き埋めになりそう。でもこんなんじゃ、負けないっ!」
水の結界は水量を増し、孝太郎の土を押し流した。クウサは結界から飛び出し剣を片手に孝太郎へ詰め寄る。
「さぁ、ここで何とかしないとあんたは私の剣に打たれる! どうする?」
「マジかよ、え、えーと……アクアシャーナ!」
孝太郎の打った魔法は水の塊となりクウサを打つ。しかし剣先で跳ね飛ばされてしまった。
「弱い! これで、おわりっ!!」
クウサの剣が孝太郎の首元ギリギリの所で止まる。勝負は決まった。
「クウサの勝ち!」
マオウの声が響く。試合終了の合図だ。
「孝太郎、あんたは全体的に魔法が弱い。基礎の魔力を高める練習からしないととてもじゃないけど神を倒すなんてできないわ」
だから、とクウサは続ける。
「特訓はかなり沢山しなきゃだわね。骨が折れるわ。ルーナ、次はあなたがやって」
「うん。わかったよ」
今度はルーナによる特訓だ。すでにフラフラしている孝太郎は、なんとか身を引き締める。
「孝太郎、僕は火の玉を出すから防御してみて!」
今度は防御の特訓のようだ。ルーナは魔法で火の玉を出し、高太郎目がけて投げつけた。
火には水。孝太郎はアクアシャーナの魔法で水の壁を作り、火の玉を防いだ。
「うん、いい調子だ。このまま火力を上げるよ!」
初めは小さな火の玉だったルーナの攻撃は大きな火の玉へ変化し、孝太郎に襲いかかる。次第に水の壁では防ぎきれず、打ち破ろうとしていた。
「孝太郎、このままじゃ焼肉になっちゃうよ」
「ああ、わかってる!!」
焼肉になるのは御免だ、と孝太郎も水の威力を上げた。
「そうその調子! 安定して魔力を出せるようにして!」
「わ、わかった!」
降り注ぐルーナの攻撃。それを孝太郎は防ぎ続ける。しかし魔法初心者の彼には限界があった。次第に水の壁は小さくなっていく。
「う、うおおおおおおっ」
なんとか踏ん張るがルーナの魔力には勝てない。ついには魔法が切れてしまい、孝太郎は火に飲み込まれる前に倒れてそれを避けた。
「だ、はぁっ……はぁっ……」
間一髪、逃れられた安堵感で心臓はバクバクと鳴っている。そこに差し伸べられるルーナの手。
「お疲れ様。これから練習すればもっと魔力を出せるようになるから頑張ろうね」
孝太郎はルーナの手を取り小さく「あ、ああ……」と返した。あまり気は進まないが、そうは言っていられないので。
「ハハハ! ルーナの勝ちだ! 孝太郎はまだまだ修行が必要だな! しばらくは二人に特訓の相手を任せるとしよう」
パンパンと手を叩きながら言うマオウ。その方がいいわね、とクウサは相槌を打った。
「これからみっちり特訓してあげるわ」
「手加減してくれよな……」
ニコニコ顔の彼女に対し不安感を抑えきれない孝太郎であった。
——その後魔力の回復を待つために休憩を挟んだ後、しばらく特訓は続き、気がつけば午前が終わっていた。マオウの指示で本日の特訓はこれまでとし、午後からは赤の勇者探しに向かう事となった。
「でも、どうやって探せばいいのかな?」
昼食の席。赤の戦士を探す方法がわからずルーナは首をかしげた。
「闘技場へ行ってみたらどうだ? 有能な魔法戦士や魔法使いが沢山いる」
と言うとマオウは机の引き出しから赤い石を取り出しルーナへ渡した。
「この石を持っていけ。近くに赤の戦士がいると光を放って示してくれる。無くすんじゃないぞ」
「ありがとう。これで探しやすくなるよ」
ルーナは赤い石を受け取った。
——昼食後、孝太郎、クウサ、ルーナ、マリアの四人は赤の戦士を探す為街へとくりだした。




