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エビルワールド  作者: 解凍みかん
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ガブリエラ-1

 遅めの朝食も終わり、話し合いが再開された。


「まずやるべき事はそうだな……赤い扉の天使の正体を突き止める事だな」


 皆一同、マオウの言葉に耳を傾ける。


「よし、それじゃあ赤い扉のところまで行きますか……」


 よっこらせ、と小声を添えて孝太郎は立ち上がった。


「メイ、道案内を頼む」


「はい。皆様、こっちです」


 メイに連れられて一同は長い廊下を抜けていった。


 問題の赤い扉は開いた様子はない。メイも天使の気配を感じると言っているので、どうやらこの中に天使がいるのは間違いないようだ。


「私から行こう」


 マオウは壊れた扉を押した。すると扉は大きな音を立てて倒れてしまった。


「あちゃあ。これは派手に壊れたもんだな。まぁいい、行くぞ」


 マオウを先頭に、一同は中へと進んでいく。暗い室内を魔法の光で照らすと目標の茶色の扉が見えてきた。


「この先か……みんな、下がってろ」


 手を添えるとギリリと音を立てながら扉は動いた。ゆっくりと開かれたその先は相変わらず暗い。魔法の光をひとつ忍ばせると、何やら人影のようなものが見えた。


 さらに光を増やすと全貌が見えた————そこにいたのは、紛れもない、天使だ。


 クラリオン・ヴェアヌが捕まえてから何十年と経っているであろうその姿はとても美しい。流れるような銀髪、ガラス玉のような赤い瞳、美術品のような美しい銀翼。両手を鎖で繋がれ白い肌に酷く跡が残っている。


「誰だ? う、裏切り者のクラリオンか!?」


 天使は酷く怯えた様子だった。無理もない。友好関係を築こうとしていた最中に魔族に捕えられてしまったのだから。


「クラリオンはもうここにはいない。私はマオウ・タカヤマ。マオウって名前の魔王だ」


「ま! 魔王!? やっぱり私を人質に取って神を裏切るつもりだな!?」


「違う違う。えーと、まぁ、いろいろ事情があって今は神が人類を裏切っているんだ」


 マオウは今の世界がどうなっているかを天使に説明した。


「うそだ……うそだ!! 確かにネレシア様は自分勝手な所があったが……人を奴隷に!? 国王の妃を奪う!? そんな……うそだ」


「信じられないかもしれない。今は信じなくてもいい。外の世界を見れば嫌でもわかるだろうからな。——ステイサム」


 マオウは魔法で光の剣を生み出した。そしてそれで天使の両手を繋いでいた鎖を打ち壊す。


「マオウ!! ——ムレミン」


 まさか解放するなんて、とクウサは慌てて武器を生み出す呪文を唱えた。剣が生み出され、それは素早く天使の喉の前に突き出された。


「マオウは貴女を信用しているかもしれないけど、私は貴女を信用していないから……」


「ひっ!! 何もしない! 何もしないからその物騒な物を下げてくれ」


 天使は酷く怯えている。この様子では危害を加えるつもりはないらしい。クウサは剣をゆっくりと下ろした。だが、その瞳は未だ警戒心を解いていない。


「さぁ、外の世界を見せてやろう。その上で君がどうしたいかは君が決めてくれ」


 マオウは天使の手を取った。天使はフラフラと立ち上がり、おぼつかない足取りで、着いてこいと言うマオウの後を追いかけた。その後を警戒しているクウサが追いかけ、メイも後に続く。


「マオウはどうするつもりなんだ?」


「さぁ……わからない」


 孝太郎とルーナ、そしてマリアは首をかしげた。


 ——マオウが天使を連れていった先は、なんと外だった。先日マオウは無闇やたらに外に出られないと言っていたばかりなのに。


「隠れ身の呪文をかけたから私達の姿は見えない。さぁ、行こう!」


 街の様子を見に行くのだとマオウはいう。魔法で姿が見えなくなった孝太郎達は後へ続いた。


 ——まず初めに向かったのは市場だ。マオウは街の人の声を聞けと言う。


「また税金があがるんだって」


「ネレシア神への献上品も増えるんだってさ」


「税金逃れが増えたからねぇ。王も神への献上品が足りなくて困ってるんだろうね」


「はーあ、これからどうやって生活すればいいんだ……」


 市場では客と店員が国へ納める税金が上がることに対する不満で盛り上がっていた。その税金の行先は神への献上品となるらしい。


「神への献上品で……民が苦しんでいる? 神は信仰の対象。民草は信仰のために苦しめられているのか?」


 どうやら天使は驚いているようだ。信じられない、と。


「そうだ。今の神はまるで邪心を持った王のように振舞っている。献上品を捧げられない、納税できない者は奴隷にされてしまうのさ」


 マオウの表情はいつになく真剣そのもの。彼もまた、神の悪行を許せない者のひとりなのだ。


「次は農家だ」


 一同はマオウへ続き、畑の広がる農村へと移動した。そこでは農家の者達が畑仕事をしながらこんな愚痴をこぼしていた。


「はぁー、作っても作っても、俺達の口には入らない。ほとんどが献上品として神と王城に捧げられちまうんだからよ」


「全くだねぇ。なんのために働いているんだか……がんばってる王様が贅沢するのは仕方ないにしても、神の贅沢っぷりは異常だからねぇ。そもそもなんで私たちに恩恵をくれない神のために働いてるんだか」


「ここでも……民は作った農作物をほとんど口にすることが出来ず献上品として取られてしまうのか……そんな、ネレシア神は一体何をしているんだ!?」


「これが現実だ、天使ちゃん」


 信じられない、信じられない! と天使は青ざめ、何度も首を横に振る。だがマオウが言うようにこれが現実なのだ。


「本来このような場合、民を苦しめる暴君に裁きを加えるのが神の役目……だがこれではまるで神が暴君! こんなことがあっていいのか……」


「ちなみにだ……城にいる天使は皆、神に薬を飲ませられ心を穢されてしまった。だから今は戦うだけの兵器みたいなものだ……」


「そんな、そんな……」


 天使はその場で泣き崩れた。


「天使ちゃん、僕はね」


 泣き崩れる天使の横に立ちルーナは言った。


「神のこの振る舞いが許せないんだ。だから、青の勇者がいるってわかった時、僕も神を倒す力になりたいって思ったんだ」


 だから、と彼は続ける。


「僕は神を倒すよ。こんな世界、僕が変えてやる」


 すると天使は泣くのをやめ、静かに頷いた。


「そう、か……わかった。私、お前達に協力する……。こんな世界、私が知っている世界じゃない。たとえ堕天使になろうともかまわない。私もネレシアを倒したい」


「ありがとう。でもその覚悟だけ受け取っておくね。君を堕天使にはさせないよ。天使ちゃ……なんて言うのかな、名前」


「ガブリエラ……」


「そう。よろしくね、ガブリエラ」


 そう言うとルーナは手を差し伸べた。ガブリエラはほんのり頬を赤く染め、それに応じた。


「お前、良い奴だな」


「ん? そ、そうかな?」


 二人の仲が良くなっていく様を、クウサ以外は快く思っているようで「よろしく!」とそれぞれ声をかけていく。クウサだけは……ガブリエラを信用するのに時間がかかりそうだ。


 と、その時だ。マオウは上空に天使の気配を感じ空を見上げた。するとそこには一人の女の姿をした天使がこちらを見ていた。


「……おい、みんな、天使に勘づかれてる」


「……そこに何かいるな? 魔族の気配がするぞ。それと人間と、天使……なぜ天使が一緒にいる?」


 冷酷な目をした天使はこちらへと近づいてくる。完全に気づかれる前に立ち去ろうとマオウは指示を出した……が。


 最悪のタイミングで、魔法の効果が切れてしまった。


「なっ!? お前はガブリエラ!? 生きて……今までどこに? そもそもなぜ魔族と一緒にいる!?」


「リリア!! リリアなの!?」


 どうやらガブリエラと知り合いの天使のようだ。だが、その姿、瞳はかつての仲間のものでは無かった。神に支配され優しさを失った冷酷な天使なのだ。


「まさかお前……ネレシア様を裏切って人間と……それと魔族にまで! 寝返ったのか?」


 リリアと呼ばれた天使は剣を携え猛スピードで攻撃をしかけてきた。一同それをかわし攻撃元へと注意を向ける。


「ガブリエラ……話は後で聞く。先にこの魔族共とその仲間を始末する!!」


「そんな……リリア! あなたは騙されてい————」


 刹那、かつての仲間は赤い閃光によって突き刺された。クウサの光攻撃魔法が発動したのだ。


「……マオウの姿を見られたんじゃ、生かしてはおけない」


 クウサの目は天使のそれよりさらに冷たさを帯びていた。


「え……リリア……リリア…………」


 光となって砕け散るリリア。消えゆく生命の灯火をガブリエラは追いかけた。


「おい、クウサ……いくらなんでもいきなり殺さなくても……せめて縄で縛るとかして話だけでもした方がよかったんじゃ?」


 目の前で起きた事が一瞬で、残虐性を帯びていて、孝太郎はひどく戸惑った。だがそれに対しクウサは強く言い返す。


「何言ってるの!? あのまま生かしておいて天使がマオウの正体に気づいたら? 逃げて神に報告でもされたら!? 私達が不利になる。わかんない!? こうするしかないの! 殺すしかないの!」


 そしてガブリエラに対しても。


「ガブリエラ。これもこの世界の現実よ。あいつらは私達に刃向かってくる! だから私はあいつらと戦う」


 クウサの鋭さは止まらない。今度はマオウに対してもだ。


「マオウ! 私達の姿を隠して。早く城に帰りましょう」


「あ、ああ……イシュラ!」


 ふたたび一同の姿は外部から見えなくなった。クウサの言う通り、彼らは城へ帰ることにした。帰るまでの間、誰も言葉は発さなかった……。

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