日記-5
「確かにな。誰のかは気になる。……けどそれよりも気になるのは、このカルタ語ってやつだ。日本語じゃないのか?」
孝太郎は続きを読み始めた。
『どうも最近、新たに最高神となるネレシアの動きが気にかかって仕方がない。そもそも、神が魔王に対して友好的な態度をとること自体、どこか信用ならない。もしもの時のために、重要な事柄を私は真央高山に伝えていこうと思う。手紙が真央に読まれることを切に願って』
「マオタカヤマ……」
「恐らくマオウさんのことでしょうね……ネレシア神が神王となったのは、今から五十九年前のことですから……」
「しかもこれ、普通に読んだら『マオ』って読めるんだけど、別の読み方をしたら『マオウ』と読めないこともない」
『真央』の部分を指差して孝太郎は言う。
「これは偶然なのか? マオウとマオ、ネレシアと真央高山……」
「とりあえず、続きを見てみましょう」
「そうだな」
孝太郎は続きを読んだ。次の日の日記。
『今日は城に探りを入れることにした。ネレシア神が友好的な態度を見せている今、本当はよくない事だとわかっていたが仕方がない。密偵に行かせたヴェアヌのクラリオンは未だ戻ってこない。有能なヴェアヌ家のことだから、捕まったりはしていないだろうがいささか不安だ』
「ヴェアヌ……か」
孝太郎は次の日の日記を読んだ。
『どこからか天使の気配を感じた。密偵から帰ってきたクラリオン・ヴェアヌが、帰りに出くわした天使より絨毯を授かったと言っていたが、どうも納得がいかない。通りすがった天使から絨毯を貰うなど、普通あることではない。気配の元が本当に絨毯であるか、調べることにする』
「天使!? それとクラリオン・ヴェアヌ……さっきのヴェアヌ家の奴か?」
孝太郎は日記の続きを読む。
『クラリオンからの情報によると、城は厳重な警備で固められていたそうだ。ネレシア神の命令でこうなったらしい。彼の神王即位はあと一週間しかない。彼が不安を抱いているのか、はたまた野望を抱いているのか……。報告では、ネレシア神は即位後、神妃を迎えるようだ。しかも人間の娘を。何を考えているのかはわからぬが、嫌な予感がしてならない』
「見事に的中したがな、この予感」
「ネレシア神はさらわれた王妃様が神妃となるまで、サラベラという女性を神妃にしていました。若い頃はとても美しい女性だったようです」
「……若い頃は?」
孝太郎は首を傾げる。
「はい。ネレシア神の暴君ぶりは、即位して間もない頃から始まったことだと聞いていますが、今のように次々と側室を迎えるようになったのはサラベラさんが年老いてしまってからのようです」
「なるほどね……。ようするに、あのネレシアは昔からとんでもない女好きで、だけどサラベラは奴を虜にさせるほどの魅力を持っていたのか」
「そういうことですね。現に、サラベラさんと出会う前は色んな方と関係を持っていたと言われてますし……」
「……まったく、とんでもねぇ野郎だな」
孝太郎は大きくため息をつく。そして続きを読み出した。
『もう一つ報告があった。どうやらネレシア神は毎夜、天使にワインを振る舞っているらしい。これは今までなかった事だそうだ。薬でも盛られてなければいいが……』
「この方、完璧にネレシア神を疑っていますね……」
「鋭い感覚の持ち主なのか、単にうたぐり深い性格なのか……どっちにしろ、この日記を書いた奴の考えた通り、現状、最悪の結果が現れてるな」
日記は次の日に続く。
『天使の件は相変わらずわからずじまいだ。明日、再びクラリオンを問い詰めることにしよう。私の命があるうちに、なるべく多くの情報を得て、いざという時マオに伝えられるようにせねば。……私が死ねば、自動的に次期魔王の座はマオに移ることとなるのだから』
「次期魔王……? じゃあ、この日記は前の魔王の日記!?」
「そうですね……そうとしか考えられません……」
孝太郎は一番最後に文字が書かれたページを開いた。そこには、ネレシア神の神王即位の様子が書かれていた。




