勇者と魔王-2
「勿体振らずに早く言え」
マオウの態度に苛々する孝太郎。しかし、マオウが次に発する言葉は余計に孝太郎を苛々させるものだった。
「この世界とお前がいた世界とでは常識が違うからだ」
「……はぁ? そりゃそうだ! クローゼットに入り口作るわ空に家があるわ!! 常識的だったらそれこそおかしいだろ!!」
「けどお前は常識はずれを望んでいた!!」
マオウは孝太郎に人差し指を向ける。
「違うか?」
「……それは」
孝太郎は言葉に詰まった。マオウのいうことが正しいからだ。
「本題に戻る」
マオウが言った。
「なぜ魔王が勇者を求めるか。それはな――――悪の神を倒す為だ」
「悪の神? そりゃ、魔王にとっては神は……」
「違う。この世界にとって神は悪なんだ」
「はぁ……」
「この世界には昔、伝説の青の勇者がいてな。その勇者の力を受け継いだのが孝太郎、お前だ」
「伝説の……勇者……ねぇ」
さらに、とマオウは続ける。
「お前にはまず、赤の戦士と緑の魔法使いを探してもらう。そうでないと神は倒せないからな」
「ひとつ質問」
「なんだ?」
「その、青の勇者は当時誰を倒したんだ? その時も神は悪か?」
マオウは一瞬黙り込んだ。
「……そう、だな。……昔は私たち魔王一族だった。神が悪に成り下がり魔王一族の中で変わり者の私が産まれたために世界の常識は変わってしまった」
「変わり者?」
孝太郎の問いにマオウが答えるより先にシラキが口を開く。
「マオウは心優しい魔王だ。末えいとして魔王の椅子に君臨する今、神さえああでなかったら争いは起こらないはずだ」
「まあ……確かに心優しい魔王なんて変わり者だよな」
「まあ、そういうわけだ。で、だ――――」
マオウは口角を上げて言った。
「今日からお前に仲間探しをしてもらう」
「はぁ!?」
「さっき言ったろ? 赤の戦士と緑の魔法使いを探してもらうって」
「なんで俺が……」
孝太郎は眉をひそめた。
「お前が青の勇者だからだ」
不満そうな孝太郎に向かってマオウは言い切った。
「それよりマオウ」
そしてシラキが口をはさむ。
「コイツ、魔法の基礎をまったくわかってないぞ。なんとかしてやれ」
「む……。それは本当か? むー、世話のやける勇者だ」
マオウはわざとらしく腕組みをする。
マイペースなマオウとシラキに、孝太郎は痺れを切らしていた。彼らの事情などよりもこのヘンテコな世界から元の世界へ返してほしいからだ。
「あの!! 俺、まだ勇者になるなんて言ってないんだけど……。それより! 俺を元の世界に」
「まず!」
しかしマオウは孝太郎の話をまったく聞いていないようだ。
「空を飛ぶ魔法からだ! シラキ!」
「わかってる」
シラキは青い魔法書をマオウに差し出した。
「呪文は個々でわかりやすいものを決めればいい事になっている。つまり、同じ魔法でも人それぞれ呪文が違うんだ。……さて、どんな呪文にする?」
「だから俺は……!」
「この呪文を覚えないとここから出るのも難しいぞ。ここの周りは何も無いからな」
孝太郎は反論できなかった。実際、ここに来るまでにあったものは広大な平原だけだったからだ。
「さあ、呪文は?」
「そう言われても……」
「ならフライヤーでどうだ?」
「別になんでも……」
その時、本が薄く光った。
「お、登録されたな」
魔法書を開くと、空を飛ぶ呪文のページ上部の開きスペースに「フライヤー」とこの世界の文字で書き込まれていた。
「さあ孝太郎、精神を集中させるんだ。自分が飛ぶ姿をイメージして「フライヤー」だ」
「はいはい……」
孝太郎はやる気がなさそうに言った。
「フライヤー」
しかし、何も起こらない。
「ちゃんとイメージはしたか!?」
マオウが声を上げる。
「はいはい。真面目にやりますよ」
今度は少し間を置いて、孝太郎は呪文を唱えた。
「フライヤー」
すると、孝太郎の体がふわりと浮かんだ。
「うぉ!? う、浮いた!?」
「やったな! これでお前は空を飛べるようになった! あとは練習あるのみ!!」
「まさか……嘘だろ?」
孝太郎は高くなった目線でマオウを見下ろす。
「嘘じゃない。お前は勇者だ! 魔法くらい使えて当然だろう!」
孝太郎は額に手を当てた。
「だから……俺は勇者じゃ……」
すると、マオウは浮いたままの孝太郎の手に魔法書を押し付け話し始めた。
「……孝太郎」
「は?」
「お前は勇者だ。お前が認めなくても俺が見込んだんだから間違いない。だから――――」
「だから?」
次の瞬間はマオウは孝太郎をおもいっきり突き飛ばした。
「うぇぇ!?」
「早く赤の戦士と緑の魔法使いを探してこい!!」
突き飛ばされた孝太郎は、天高くへと消えていった――――
「いいのか? まだあいつフライヤーしか覚えてないぞ」
どうでもよさ気にシラキが聞く。
「ああ、あいつはこの世界の現状を見せないとやる気を出さないだろうからな」
「そうか」
「さて、俺は読書に勤しむ」
伸びをしてマオウはキノコ岩の中に入っていく。
「そうか」
マオウがドアの向こうに消えてから、シラキもそれに続いた。二人は岩の中に消えて行く。
一方の孝太郎はというと――――飛ばされたまま制御が利かず、空を飛び回っていた。




