勇者と魔王-1
「夢……じゃない……」
孝太郎は目をこすった。
昨日突然連れてこられたこの世界。
今座っているベッドも、降り注ぐ朝日も、目の前にあるテーブルとそこに置かれた青い本も――――すべてが本物だった。
「なんなんだよ……」
酒を口にしたせいで眠って変な夢でも見たのかと思ってい——しかし現実は、目の前に広がる異世界だった。
その時。乱暴にドアが開けられた。
「孝太郎! 行くぞ!」
「はへっ!?」
孝太郎はなんとも間抜けな声を出し、ドアを開けた主――シラキに振り向いた。
「ななな、なんたんだよお前!! 行くってどこに!?」
シラキは孝太郎の腕を掴みこう言った。
「魔王の元だ」
「魔王!?」
孝太郎は慌ててシラキの腕を振り払った。
「冗談じゃない!! 俺は行かないね!」
しかしシラキは引き下がる様子はない。
「いいや、来るんだ! オマエの力が必要なんだ!」
「はぁ!? なら尚更だ! 魔王に力なんか貸せるか!!」
「この世界はオマエの住んでいる世界とは違うんだ! このままでは世界は神の言いなりだ!!」
「またわけのわからん事を……」
「いいから来い!!」
シラキは頭を抱える孝太郎の手を無理矢理ひっぱり外へ連れ出した。なぜかあの青い本を持って。
「オマエ、空を飛ぶ呪文は覚えたか?」
「そ、空!?」
玄関を出て、目の前は雲の上の世界という所でシラキは言った。
「なんだよそれ」
「世話のやけるヤツだな」
シラキは大袈裟にため息をついた。
「なら絶対に落ちるな」
「は?」
シラキは孝太郎の腕を掴んだ。そして――――
「うあああぁぁぁ!!!」
そのまま大空へと飛び立ったのだった。
「おい! こら! やめろ!!」
「ウルサイ! 落とされたいか!!」
暴れる孝太郎をシラキは声で制した。
「ちっ……」
やがて見えてきたものは、キノコのような岩がそびえ立つ場所だった。
「なんだ……ここ……」
呆気にとられる孝太郎。
「まるでカッパドキアだな……」
「かっぱどきあ?」
「トルコの世界遺産だ。……なんなんだここは」
「魔王の城だ」
シラキは当たり前のように言う。
「ほら、下りるぞ」
シラキは乱暴に孝太郎を下ろした。孝太郎は地面に突っ伏す。
「いってぇ……」
のろのろと起き上がる孝太郎。それをシラキは無理矢理叩き起こす。
「早く起きろ! マオウがお待ちだ!」
そして彼女は、孝太郎の腕をとってキノコ岩の入り口まで歩いていく。
扉を開けると、一人の男が孝太郎を出迎えた。
長めの黒髪をポニーテールにし、目隠しのようなオレンジのバンダナをつけ、服は真っ白な古代人のような服――――それは、すべてが異様な男だった。
「ハハハ!! お前か? 青の勇者は」
「あ、青の勇者?」
男は孝太郎の肩を叩く。孝太郎はぽかんとして叩かれている。シラキがようやく孝太郎の腕を離した事にも気付かずに。
「ああ、青の勇者だ! お前、名前は?」
「……ひ、飛騨……孝太郎」
「そうかそうか! よろしくな! 俺はマオウ・タカヤマ」
「ま、魔王高山?」
「そうだ。私はこの世界の魔王、マオウ・タカヤマだ! よろしくな。勇者!」
孝太郎は相変わらずぽかんとしている。しかしマオウはお構いなしに、勝手に彼と握手を交わした。
「はぁ……。で、勇者って何?」
「ん? もしかして孝太郎は何も知らないのか?」
マオウはようやくその事実に気がついたようで、孝太郎に問い掛ける。
「知るわけないだろ。だいたいお前、魔王なんだろ?」
「そうだ。私が魔王だ」
「だったらなんで……」
「魔王が勇者を探しているかって? それはな……」




