午後の紅茶-2
しばらくもぐもぐと口を動かし、そして無言でケチャップを米にかけた。
「あら、お口に合わなかった?」
不安げな表情をしてマリアは問う。
「えっと……ちょっと、薄くて……。あ、基本的には美味しいのよ!!」
味が薄いことを伝えつつ、料理自体は悪くないとクウサは主張した。
「味の好みは人それぞれだもの。ね? ほら、マリアも食べよ!」
クウサはマリアにも料理を食べるよう促した。味についてはこれ以上触れたくないのが、クウサの本音だろう。
「うーん……そんなに薄いかしら?」
オムライスを口に運んでマリアは言う。
「気にしなくていいのよ。そ、それよりさ、あの女の子のことなんだけど」
味のことから話を逸らそうと、クウサはメイの話題を持ち出した。
「ほんとはルーナを連れてここに来た後にマオウの所に行こうと思ったんだけど、ルーナ、結構疲れてるみたいで……。あの子がどうなったかルーナも気になるみたいで、あとでマオウの城においでって行っておいたわ。私たちも行かない?」
「あ、それ、私も気になっていたの。あの子の様子、見に行きたい」
「なら、これ食べたら行きましょ」
「そうね」
その後二人は談笑しながら食事をした。食べ終わった後、マリアが片付けをし、それをクウサが手伝う。そんなことをしているうちに時計は一時半を指していた。
「ちょっと疲れたわね。食後の紅茶飲む? デザートも用意するわ」
マリアは洗ったばかりのポットを手にとり言う。
「なら、休憩がてら飲んでいこうかな。何か手伝うことある?」
マリアにもてなされてばかりでは申し訳ないと思い、クウサは手伝うことはないか聞いてみる。
「大丈夫よ。お湯を沸かして作り置きのクッキーを出すだけだから。テーブルで待ってて」
「そう? なら、楽しみに待ってるわ」
クウサは再び椅子に座った。
「あ」
椅子に座ったとき、ふとクウサは思った。マリアがどうしてこの世界に来たのかを。
ルーナがどうしてこの世界に来たのかは、孝太郎から聞いていた。孝太郎は魔法書とシラキが現れ、シラキに連れ去られた。ルーナは魔法書に触れたらこちらに来てしまった。ルーナは元々魔力が強く、魔法書に触れた瞬間自身の魔力でトリップしたとクウサは推測した。しかし、マリアは魔力がない。魔法書絡みの二人とはトリップした理由がまったく違うだろう。
マリアが紅茶とクッキーを運んで来ると、クウサは疑問を口にした。
「ねぇ、マリアはどうしてこっちの世界に来たの?」
「え? そうねぇ。それはね」
マリアは椅子に座り、カップに紅茶を入れながら話しはじめた。
「夢を見たの。この世界で、この世界の住人として暮らしている夢を」
マリアは紅茶の入ったカップをクウサに渡す。
「そして起きたらね、この世界に居た。この部屋のベッドで寝てた。この集合住宅の新しい入居者として」
「そうなんだ……」
クウサは驚きの表情を隠せなかった。魔力ではなく、夢でこの世界に来たと言われたのだから。
「私は過去に何度か、夢でこの世界に来てたの。だから初めは夢かと思ったわ。だけど、夢じゃなかった。何度寝起きしても私はエアリスには帰れない」
マリアは紅茶をすすった。
「夢でウィングルを見ていたおかげで新しい世界に適応するのには困らなかったけどね」
そう言ってマリアは笑ってみせる。
「私のこの力を使える場所ができてよかったわ」
そんなマリアをクウサは見つめた。
「どうしたの?」
動かないクウサを不思議に思って、マリアは問う。
「あ、いや……その……エアリスに帰りたいとは思わないのかなって思って……」
マリアは頬杖をつき、笑みを浮かべて答えた。
「そうねぇ……最初はどうすれば戻れるのか必死だったわ。だけど、今はこっちでの生活も楽しいし……なんとも言えないわね。――それより、お茶、飲んで! 冷めちゃうわ」
「え、ええ……」
マリアに紅茶を勧められ、クウサは言葉を返すタイミングを失った。




