生き続ける王女
——私に渡されたのは、そのメイドの子供が着ていた服。メイドは目に涙を浮かべて私にその服を着せていた。始めは意味がわからなかったけど、彼女のあの言葉で何かが変わったと感じた。
『貴女の名はクウサ・ラムです。もう貴女はイザベラ王女ではありません』
あの日突然言われたのは、優しかったあのメイドの、この一言。そして兵士に捕らえられた私。長かった髪を切り落とされ、目隠しをされてあの小屋まで運び込まれた。何で運ばれたかはわからない。だけど、ガタゴトと揺れて体が痛かったのは覚えている。
そして目隠しを外して見えた世界が、今の私の始まりの場所だった。メイドは魔法書を私に渡して、こう告げて去って行った。
「貴女はもう、この国の王女ではありません。ですから城に近付いてはなりません。近付けば……王に殺されてしまいます」
私は赤い魔法書を抱え、その場に立ち尽くした。赤い魔法書――それは攻撃魔法を中心に教えてくれる魔法書だった。王女という身分に……女という性に似合わず、私は攻撃系の魔法が得意だった。緑の魔法書が羨ましかった。あの魔法書は魔法使いと名乗れる本格的な魔法を教えてくれて、王女のもう一つの身分に相応しいと思っていたから。けれど、赤い魔法書を抱きしめ一人ぼっちになった瞬間、それはどうでもいいものになった。
その日の夜はあの狭い小屋の中で大泣きしたわ。なぜ、私は王女でなくなったのか――あの家の娘ではなくなったのかがわからなかったから。
けれど次の日、すべては解決した。王女が死んだとの情報が国中を駆け巡って私の耳にも入った。死んだ理由は暗殺。誰しもが『なぜあの王女が』と口にした。自分で言うのもなんだけど、私は国民に愛された王女だった。
それから何日か経って葬式があげられた。王女のためにと国民が納めた金で。その金は、実際には財政難を克服するために使われていた。
あの日あげられた嘘の葬式は費用なんて国民から集めた金のほんの一部しか掛かってないわ。だって、嘘の葬式だもの。中身のない空っぽな葬式は、火葬もしない、骨を埋めることもない。司教様を雇わなきゃいけないから、掛かる費用はワイロくらい。国民に愛された王女は、そうして『死んでいった』。
私はあの王を酷く憎んだ。私を世間から殺したこと。国民を騙したこと。それが憎くてたまらなかった。そして、それは今も同じ。
けど、一つ疑問に思ったことがある。なぜ、あの王は私を本当に殺さなかったんだろう。……多分、殺す勇気がなかったんだろうけど。けど、王が罪を負ったことに変わりはない。
――――私は神を倒して世界を変えてみせる。この国の嘘をあばいて、真実の国を作るんだ。
私はマリアのロザリオを強く握った。それが手に食い込んで痛いけど、この痛みが私の決意に変わる……。私は城を見下ろすのをやめて、マリアの元へ急いだ。マリアの家は私の家と同じ町にあるけど歩いたら結構時間が掛かる。だからと言って特に急ぐ必要もないのだけれど、私は王城に背を向けて飛び立った。




