革命願望
一方その頃、ルーナは、昨夜マリアから借りた十字架のアクセサリーに魔力を吹き込んだ疲れで熟睡していた。木のテーブルの上に置かれた銀のロザリオには魔力が吹き込まれている。
外はどの店も開店し始め、少しずつ活気が出ていた。しかしルーナが目を覚ますのは外のざわめきではなく、小さな家のドアを叩く音だった。ルーナは着替えるのも忘れて寝てしまった、前日と同じ服の姿で玄関へと向かう。
「はい、どちら様?」
あくびをしながらルーナは問う。すると聞き覚えのある声が返ってきた。
「私よ、クウサ」
クウサの声を聞いて、ルーナはドアを開けた。いつもは黒基調の服を着ているクウサだが、今日は全身白で固められていた。相変わらず派手な格好ではあったが。
「おはよ……ていうか、珍しい、というか初めてだよね?」
ルーナは挨拶をしようとして、少し口が止まった。そしてクウサの格好を凝視する。
「何が?」
「クウサが白を着るの。いつもは黒じゃん」
「まあ、私が白を着るのは珍しいかもね。それよりさ、あれ、できてる?」
どうやらクウサが訪ねてきたのは、魔力を込めたロザリオのペンダントが完成したかを見に来たようだ。
「うん。なんとか。魔力を使いすぎて今の今まで寝てた……」
ルーナはもう一度あくびをする。
「そうなの? ……そういえば、その服昨日も着てなかった?」
「うん、まあね……。風呂もまだだからこれから入るつもり」
「そう……。もうちょっと遅くに訪ねた方がよかった?」
「いや、別にいいよ。まあ、とりあえず入りなよ。立ち話もなんだし」
ルーナはテーブルの椅子にクウサを案内しようとした。が、クウサは玄関から動かなかった。
「いいのよ。ペンダントを受け取ったらすぐ帰るから。疲れてるでしょ? あんまり長居をして無理をさせたくないわ」
「……ありがとう。意外と優しいんだね」
ルーナは微笑んだ。対してクウサはムッとする。
「何? 私、今まで意地悪なイメージだったの?」
「まあ……孝太郎に対する態度を見てたら、なんとなくね」
「昨日のあれは教育よ。勇者があんな弱っちかったら話にならないじゃない。少しでも強くなってもらわなきゃ」
「……神を倒すため?」
わざとらしくルーナは問う。昨夜、孝太郎と別れた後、彼とマリアはクウサの正体について聞いている。
「そうね。あの全能神さえいなきゃ、みんな解放される」
「マリー・ラルズ……いや、クウサの母親もね」
図星を付かれた、と言わんばかりにクウサの目が見開いた。
「いいんだよ。それで。僕も、神を倒したいのはせっかくの人生、楽しく生きたいだけだからね」
ルーナはペンダントを手に取り、クウサの元に戻った。
「記憶を無くしてしまった以上、エアリスに帰れても辛いことしか待ってないだろう。だから、少しでも住み慣れてるこっちで楽しく生きたいんだ。僕は」
クウサの手にペンダントが渡る。
「みんなそれぞれ目的は違えど敵は一緒だよ」
「ルーナ……」
クウサはルーナの顔を見上げた。いつもの彼の優しい顔が、そこにはある。
「あ、ペンダント、ありがとうね。マリアに届けてくるわ」
クウサは慌てたようにドアノブに手をかけた。
「ごめんね、疲れてるのに」
ドアが開き、そそくさとクウサが外へ出ていく。
「私はマオウの所に行ってるから、気が向いたらおいで」
じゃあね、と言う声と共に、ルーナの家のドアは閉まった。
「クウサ?」
空気が突然変わった気がして、不思議そうな顔をして、ルーナはその場に立ち尽くした。
一方、クウサは早歩きで街中を歩いていく。
「あああああ!! 苦手なのよ! ああいう空気! ――――サーバス!!」
人の目を気にせず、クウサは大きな声で呪文を唱えて空へと舞い上がった。
「母様……必ず助けるから……」
クウサの右手はロザリオを強く握る。
「その暁に、私は……この世界を変えてみせる」
彼女の目の先にあるのは、空の向こうに映るかつての彼女の家――王城だった。そして、低い声でこう言うのだった。
「この国もね」




