聖女マリア-1
自分が王女であることは絶対にしゃべってはいけないと何度も念を押された後、孝太郎は帰宅した。
ベッドに寝転がり、彼はルーナのこと、クウサのことを思い返す。
――――この世界には神を倒そうとしている人がいる。それは、孝太郎も納得できる理由で。
「マオウに従うのは釈だが……」
彼に従わなければ帰ることができない。しかし、孝太郎の常識では魔王は悪だ。その考えが孝太郎の判断を鈍らせる。
「けど……神は倒さなきゃならない存在……」
ルーナやクウサ以外にも神の滅亡を願う者は大勢いるだろう。その情景が孝太郎の頭の中を駆け巡った。
「これはマオウのためじゃない」
そう呟いて孝太郎は起き上がり、テーブルの上の魔法書を手にとった。そして魔法書に何かを書き込んでいく。
書き込んだのは、呪文だった。火を生み出すフィリア、水を生み出すアクアシャーナ、風を生み出すウィン、土をあやつるフィール。
そして、孝太郎は本を持って外に出る。家の鍵をかけ下へと降りて行く。適当に人のいない空き地に着陸し、彼は魔法書を広げた。
「フィリア」
精神を集中させ、呪文を唱える。すると、孝太郎の指先から小さな火が出た。彼は感嘆の声をあげた。
次に彼はアクアシャーナ、ウィン、フィールの順に魔法を試し、一通り試し終わると魔法書のページを開いた。すると、今まではなかった応用のページが姿を現した。内容は動いて魔力を操る、といったものだ。例えばフィリアなら、手の動きで火を飛ばしたりできるということだ。
流石に火を飛ばすことはできないので、彼はアクアシャーナの魔法を唱えた。水量をあげ、手を天にかざす。空き地に雨が降った。
孝太郎は再び感嘆の声をあげた。そして、それを見ていた女が一人。
彼女の存在に気付いていない孝太郎はまだ呪文の練習をしている。今度はフィールの呪文で地面に穴を開けはじめた。
雨が止んだ空を見上げようとした時、ようやく彼は女の存在に気付いた。――金髪碧眼の美しい女だ。長い髪と白いワンピースを揺らしながら彼女は孝太郎に近づく。
微笑を浮かべながら彼女は孝太郎の正面まで歩き、足を止めた。
「……な、なんですか?」
孝太郎は問う。
「あなたが青の勇者なのね」
彼女は孝太郎の手をとった。
「やっと会えた……」
「え? え?」
安堵する女。戸惑う孝太郎。しかし、彼女はそこにある温度差を気にしない。
「私、いつも夢で見ていたの。青の勇者が異世界より現れて、この地で私は勇者に会う……」
「まて、状況が読み込めん。お前は誰だ?」
「私? 私はマリア。あなたと同じエアリス人よ。イングランドに住んでいたの」
「へぇ……エアリス人ねぇ。マリア、か。で、なんで俺が青の勇者で、今日俺と会うなんてわかったんだ?」
「だから、夢で見たのよ。私、夢で未来を見ることができるの。あなたに会う夢を何度も見た。だからこれは予知夢。そして今日、それは当たったわ」
「へぇ、そういう能力者もいるのか」
マリアはにっこりと笑って孝太郎の両手を握った。
「だからね、私も仲間捜しに協力させて。赤の戦士と緑の魔法使いを捜しているんでしょ?」
孝太郎は少し考えて、頷きも拒否もせず質問をした。
「あのさぁ……それって、戦士と魔法使いがどこにいるかわかるってこと?」
するとマリアは一瞬ためらい、答えた。
「それは……まだわからないわ。何度も同じ夢を見ればそれは確信に変わるけど、一回見ただけではわからないし、忘れることだってある」




