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新米冒険者育成計画~レベル1からの導き手~  作者: あどん


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(3)

エルミナは、実に優秀だった。そして優等生だった。一つ教えれば二つ覚える。そしてそれを忘れず次の日には完全に習得していた。その才能の高さは舌を巻く程だった。本当に優秀な彼女は魔法以外の知識も素早く吸収していった。


だからこそ油断していたと言ってもいいかもしれない。彼女の「最強」への情熱を甘く見ていたと言えるかもしれない。彼女は優等生で無茶なことはしない。勝手にそう思っていた。


「セイン様。一番効率よく経験値を得るにはどうしたらよいでしょうか?」

「ん?そうだな。いろいろ方法があるが……まあダンジョンだろうな」

「ダンジョン……ですか?」

「ああ、ダンジョンは同じモンスターを倒しても得られる経験値が多いと言われている」

「そうなんですねー」


何の気ない会話。ただの雑談。だが、それをきっかけに事件は起こった。



ーーー



数日後。俺はいつもの時間に銀翼の巣に向かった。エルミナが入ってきてからというもの、彼女の成長ぶりは目を見張るものがあった。優秀すぎる才能は時に恐怖さえ感じる。魔法だけでなくサバイバル技術も素早く身につけ、冒険者としての基礎知識も日に日に増えている。


「セインさん、おはようございます」

「ああ、おはよう」

「エルミナさんはまだ来てないのですか?」


ソフィアが首をかしげる。確かに彼女はいつも朝一番に来るのが習慣だった。


「ん?まだか……ちょっと遅いな」


午前の訓練時間が過ぎても彼女の姿は見えない。連絡もなしに欠席するのは初めてのことだ。


「どこか体調でも崩したかな」


心配しつつも業務を片付けていると──


突如、ドアが激しくノックされた。


「セイン殿!大変です!」


血相を変えたギルド職員が飛び込んできた。


「落ち着け、何があった?」

「ダンジョン第二層にて!転移トラップに引っ掛かった冒険者が出ました!しかも……推定三十層以下に転移した模様です!」

「な……三十層だと!?」


ダンジョン転移トラップは最悪の場合地下五十階層近くまでランダム送りされる。一度落ちればほぼ生還不能とされる危険エリアだ。


「誰だ?犠牲者は?」

「それが……おそらくエルミナ・スプリアではないかと」

「エルミナだと!?」


怒涛の報告に頭が真っ白になった。


「証拠はあるか?」

「複数の目撃情報があります。何名かは直接会話し、ソロでの行動は危険だと忠告していたそうです……」

「単独……だと?」


いや、彼女がダンジョンに行くなら単独でしかないだろう。


「それで現状はどうなってる?」

「救助隊の派遣可能階層ではありますが、現在の人員では三十層突破は不可能です……」

「クソ……!」


三十層以降は地形変化も激しく下位A級以上の実力が必須だ。王国にも数えるほどしか存在しない。


「俺が行くしかないか……」

「え!?セイン殿が?」


レベル10しかない俺が最深部に挑むことに驚くギルド職員。だが勝手知ったるソフィアはすぐに準備を進めていた。


「装備は?」

「【夜霧刀】を……あとは必要な物資を」

「はい。薬草セットと簡易食料、地図……は最新版ではありませんが」


ソフィアは的確に指示を出しながら荷造りを進める。その合間に質問が飛ぶ。


「ユミナに連絡を。出来るだけ正確な転移した位置を割り出させてほしい」

「わかりました。セインさんの居場所も逐一把握できるようにします」

「ああ、頼む」


準備を整え終えると俺は深く息を吐いた。


「やれやれ、せっかく溜めた経験値を使ってしまうな」

「こんな時のためじゃないですか」

「それもそうだ。じゃあ行ってくる」

「気をつけてください」


ソフィアの声を背に受けながら扉を開ける。


「行くぞ。【刹那の超越】(レベル・バースト)!」



ーーー



……暗い。何も見えない。ただ冷たい石床の感触だけが足裏に染みついている。岩壁に凭れて浅い呼吸を繰り返す。指先が震える。心臓は早鐘のように打っていた。


(どうして……こうなってしまったのかしら)


【沈黙の霧】……自分の足音さえも飲み込む無音の帳が張られた通路。エルミナは呼吸音さえ殺すように唇を引き結ぶ。魔法学園では教科書通りの魔法しか学ばなかった。こうして実戦の中で編み出す応用法こそが“冒険者”という生き物なのだと、今さらながら痛感する。


(こんな形で実践することになるなんて……)


低階層ならそう危険はない。しかしダンジョンというものは時として悪意のある罠を仕掛けてくる。転移陣の罠。低階層であればそれほど危険ではない。しかし、まれに地下深くまで飛ばされることもある。だからこそ【罠感知】のスキルを持っている【ロール】と一緒に潜ることが鉄則だ。運が悪かったと言えばそうなのだが、そうならないように準備して臨まなければならなかったのに。


(セイン様……すみません)


脳裏に浮かぶのは彼の呆れたような顔。勝手な行動を叱責されるのは覚悟の上だ。それでも『最強』への憧れが理性を押しのけてしまった。ソロでも大丈夫、と甘く見積もっていた。


通路の奥から不規則な足音。エルミナは反射的に【騒音爆破】を詠唱する。破裂音が空洞に反響し、敵の注意を逆方向へ逸らす。本来は閉鎖空間で敵を驚かす魔法だが、今は敵を誘導する手段として使っていた。


(なるべく動かない方がいいとは思うのだけど)


それは遭難した時の常識。だがここは動かなければ餌になる場所だ。生きるために知識を総動員する。魔法学園の成績優秀者は知識の応用力で劣っていた。授業では『正解』だけを求められ、『非常事態』への対処は講義外。その歪みが今ここにある。


天井に亀裂。壁から滲む赤い瘴気。明らかに危険度が高い階層だ。


(ここで……待つ?)


冷静を装いながら心臓は早鐘を打つ。モンスターはいる。角の生えた猪のような魔獣だ。おそらく獄炎豚ヘルボアだ。音に敏感な魔獣だと記憶している。【沈黙の霧】があれば発見されにくいはず。


(……三十層?四十層かも?)


上を見上げれば漆黒の天井。下を見ても光は届かない奈落。耳を澄ませばかすかな魔獣の咆哮が地響きとなって伝わってくる。浅い階層の規則的な光源はとうに失われていた。


(助かる方法はひとつだけ)


誰かが助けてくれること。


(私がこの階層にいると知っている人は……いない)


ギルドの救助隊は優秀だ。おそらくこの階層へと飛ばされたことも突き止めてくれるはず。だが、ここが三十層以下だとすると、救助隊がいくら優秀でも到達するのも困難だろう。


(絶望的……)


歯噛みする。全身が汗ばんでいるのに指先だけは凍りつくように冷たかった。バッグに入れていた携帯食料は尽きかけ、水分もわずか。無音を保ち続ける。


「……!」


岩陰で息を潜めていると突然──カキン! 金属音! 廊下の角から真紅の鱗を光らせた竜騎士蟹ドラゴンカニスが鎌状の脚を振りかざして現れた。二十メートルほど先。こちらを認識していない──


「【火球】!」


咄嗟に放つ炎が鎌脚を直撃。だが軽く跳ね除けられた。この敵には明らかにレベル不足。


(逃げなきゃ……!)


走り出した刹那、背後から別の唸り声。獄炎豚だ。左右から挟撃される形でエルミナは袋小路に追い込まれていく。


「【火球】! 【氷矢】!」


連続で魔法を放つ。しかし獄炎豚は灼熱の毛皮で火を弾き、ドラゴンカニスは硬殻で氷塊を砕く。いずれも致命傷を与えるどころか歩みを鈍らせる程度。


(ここまで……なのか)


杖を握る指が滑る。心臓が張り裂けそうだ。涙が視界を滲ませる。もう駄目。そう思った瞬間──


「【極真空旋刃】!」


轟音と共に巨大な真空の刃が疾走した。紫電のような刃閃は両者の胴体を一瞬で粉砕。獄炎豚は灰となり、ドラゴンカニスは鋼の破片となって四散した。


「……セイン……様?」


通路の奥に佇む黒衣の男。静かに煙る刀身を納めながらこちらを振り返る。いつもの余裕ある微笑。


「全く……無茶をするものだ」

「申し訳……ありません……!でもどうして……」

「なんだ?助けに来ない方がよかったか?」


セインは冗談めかしてそう言うが、その眼差しは鋭い。


「いえ……セイン様のレベルは10。それ以上は上がらないはずでは……」

「知ってたのか」


知っている人は知っている情報だ。経験統御者エクスペリエンスドミネーター。この特殊な【ロール】はレベル10程度しか上がらない。セインが『育て屋』をやっている理由でもあるのだ。そんなセインがこんな深部にまで助けに来れるはずがない。


「裏技を使ったのさ」

「裏技……?」

「あまり使いたくなかったんだけどな。経験統御者エクスペリエンスドミネーターには【刹那の超越】(レベル・バースト)というスキルがあるんだ」

「【刹那の超越】(レベル・バースト)……?」

「経験値を消費することで一時的にレベルを一気に上昇させるんだ。今の俺のレベル120だ」

「れ、レベル120!?」

「だから、こんなことも!」


セインはそう言うと、密かに接近しようとしていた獄炎豚を瞬殺した。


「凄い……!」

「っとまあ、今の俺はまさに『最強』なんだが、残念なことに明日にはレベル1に戻ってしまうんだ」

「そんな……!」

「つまり今日一日しか使えない切り札ってわけだ。ほら、さっさと上に戻るぞ」


セインはそう言って歩き出した。その背中はどこか寂しそうにも見えた。レベル1に戻る。また『最弱』に戻ってしまう。そのリスクを考えれば使いたくはなかっただろう。エルミナは改めて申し訳なく思った。


「セイン様っ!」

「どうした?」


セインは立ち止まって振り返る。


「わ、私がセイン様のレベルアップを手伝います!!失った経験値を取り戻します!!」


突然の提案にセインは少し呆れた顔をしたが、すぐに微笑んで答えた。


「そうだな。じゃあレベル上げに付き合ってもらおうか。無事に戻ったらな」

「はいっ!」


二人はそうして地上を目指して歩き始めた。お互いがお互いの『最強』への道のりを照らし合うように──。


【to be continued】



〇おまけ

経験統御者エクスペリエンスドミネーター特殊スキル】


・覚醒促進 (アウェイクン・トリガー)

効果:他者の潜在的なスキルを目覚めやすくする特殊な能力。触れた相手の眠っている才能を刺激し、スキル発現率を大幅に向上させる。


・狂気の抑圧 (ルナティック・ディプレッション)

効果:一定範囲(50mほど)の敵のレベルを少し(レベル3ほど)下げる。範囲外では戻る。


・経験値増加 (エクス・ブースト)

効果:戦闘で得た経験値が増加する。増加効果はパーティメンバー全員に適用される。


・経験喰らい (エピック・ドレイナー)

効果:パーティメンバーが得た経験値を自分のものにする。


・経験値共鳴 (コア・レゾナンス)

効果: パーティー内の最弱メンバーの獲得経験値を2倍にする。代わりに他のメンバーの経験値は1.5倍に減少。


・経験値連鎖 (チェーン・ゲイン)

効果: 同一戦闘で複数人が経験値を得ると、最後に倒したモンスターの経験値が追加ボーナスとして加算される。


・一時限界突破 (テンポラリー・ブレイカー)

効果: 自分または味方1人のレベルを少し(10レベル)上昇させる。1時間のみ。3日は使用不可。


・経験値貯蓄庫 (ストアド・エキスパート)

効果: 獲得した経験値の一部(最大50%)を非消費型の「貯金」に回す。任意のタイミングで全額使用可能。

【to be continued】としましたが、今のところ予定はありません。なにか思いついたら書きたいと思います。

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