(0)
この世界には、【職】と呼ばれる特別な力が存在する。
生まれながらにして持つ天賦の才ではなく、人々は十歳を迎えた時、神殿で祈りを捧げることにより、自らの運命を告げる【職】を得る。
それは農夫であったり鍛冶師であったり商人であったり——多種多様でありながらも、人々にとって【職】とは人生そのものと言っても過言ではない。己の適性を示す道標であり、人生を豊かにするための羅針盤であるからだ。
王都アウラニアから南東に馬車で三日の距離にある辺境の町リーヴェルト。人口約三千人ほどの小さな町だが、西側に広がる「深淵の森」と呼ばれる危険区域に隣接しているため、冒険者や傭兵が多く集まる拠点として栄えている。そんな町で育った少年セイン・ウォードは、十歳の誕生日を迎えようとしていた。
セインの両親は幼い頃に事故で亡くなり、以来祖父に育てられてきた。祖父は元冒険者で、「星見の剣」と呼ばれる二つ名を持つ歴戦の勇士だったが、今は引退し酒場の主人をしている。剣術の基礎を叩き込んでくれた厳しくも優しい祖父の背中を見て育ったセインは、物心ついた頃から自分の【職】はきっと何らかの戦闘職に違いないと信じて疑わなかった。「爺ちゃんのような強い冒険者になって、世界中を旅するんだ」という夢を胸に秘めていたのだ。
迎えた十歳の朝。町の中央広場に建てられた小高い丘の上の古い石造りの神殿は、今日も人々の希望と不安で満ち溢れていた。早朝から続々と子供たちが保護者に連れられて参列しており、それぞれが緊張と期待に胸を膨らませている。セインも祖父と共に長い行列に並んでいた。
「セインや、お前は何を得たい?」
白髪混じりの髭を撫でながら祖父が尋ねる。
「もちろん剣士か冒険者系だよ! 爺ちゃんみたいな強い職業がいい!」
目を輝かせる孫の頭を撫でて微笑む祖父だったが、内心では別の願いを抱いていた。安全な職業でありますようにと。
長い待ち時間の後、ついにセインの番が来た。神官の老人に案内され、祭壇の前に立つ。祭壇には古代文字が刻まれた黒曜石のプレートが置かれている。これが人々に【職】を授ける儀式の核心だ。
「さあ若者よ、この石板に触れ、お前の魂の形を見極めん」
震える手で黒曜石に触れる。冷たい感触が皮膚を伝い、次の瞬間——
眩い光が石板から放たれ、空間全体を白く染めた。同時に脳裏に直接響く声。
《セイン・ウォード》
《汝の【職】は——》
息を呑み、祈るように目を閉じた。
《……【経験統御者】》
「なんだって?」
思わず声が漏れる。聞いたこともない【職】だ。周囲がざわつき始める。異変を察したのか神官の表情が曇る。祭壇の石板からは光が消え、再び沈黙が訪れる。
神官が困惑した表情で何度も確認するが、石板にはやはり同じ文字が浮かんでいる。
「これは……非常に珍しい【職】のようです。私は文献で見たことがありません。おそらく過去の記録にも類似例はないでしょう」
祖父が心配そうに近づいてくる。
「どういう意味だ? 戦うことはできるのか?」
「わかりません……少なくとも通常の戦闘職ではないようです」
神官は申し訳なさそうに首を振る。
混乱と落胆の中でセインは考えていた。謎の【職】は何なのか。役に立つのだろうか。輝かしい冒険者の夢は砕け散ってしまったのか?帰り道、俯いたまま歩くセインに祖父は笑いながら言った。
「まあ、なんにせよ何かの能力はあるはずだ。帰ったら試してみようじゃないか。それに……」
祖父は空を見上げて付け加えた。
「わからないからこそ面白いかもしれんぞ」
全4EP予定しております。




