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剣神と黙示録 ~農村の少年が一柱の神になるまで~  作者: わたあめとは哲学である
約束をした日

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第9話 完成と終わりと始まりを

「ありがとう……ございました」


 その言葉を最後に剣を鞘にしまう少年。


「君はもう充分に完成したと言える。これで、私のカリキュラムはお仕舞い。でも、これからが始まり」


 これが最後の訓練、その終わりの瞬間だった。



 この日、訓練が終わっても少年はすぐに帰らなかった。というより、少女に呼び止められていた。

 

「いよいよ、いつ出発しても問題無い訳だけど……どうする?」


 少年は言い拒んでいた。巨大な猪に襲われ、少女に救われてから3年。大きな使命があるにしても、この場所は、少年に取ってあまりにも大きな居場所になっていた。

 

「明日。明日までには決める。……済まない、分かってるんだ。ここにいても意味が無いことは」


 この回答が少年に取っての精一杯だった。

 

「分かった。君の旅支度だけはこちらでしておく。何時でも明日でも、君が出発出来るように。また」


「ああ」


 そう言って、少年はまるで無意識のように、ゆらりと走り出す。その動きは普段と文字通り、寸分変わりなかった。




 いつからだったろうか、走るだけでは満足出来なくなったのは。少年はただ、早く帰るための道を駆け抜けながら過去に浸る。


 (ああ、そうだ。あの日か……)


 記憶は、少女と出会った日。あの小川という境を初めて越えた日まで遡る。その時の景色も甦る。


 未知の動植物、これを見た時には、本当に心が沸いた。なんだろうと気になった。ついさっきまでそれが、その時こそが自分の好きな事が変わった転換期だと思っていたが、今は違う。


 (こんな景色、もう見慣れちまったもんなぁ……)


 頭の中に浮かんでいる、キノコや小鳥。あれだけ不思議だったものが、今では名前、特徴、使い道、全部分かるし、何度も使ってきた。


 そこまで行くと、それらが少年の心を沸かす事はない。少年は気づいたのだ。自分を満たす好きな事は常に、新しさ溢れる物だけなのだと。

 

 (この場所に俺は……長く居すぎたのかな) 


 もう、飽きた。周りを見渡しても何も面白くない。そんな個人的な感情で、決断を下そうとしていた。しかしそれが、少年の本質であり、世の普通でもあった。

 

 (それに、はやく約束も果たさねぇとな。アイツからは貰ってばっかりだ)


 少年の気持ちは固まった。


 


「そうだ畑……叔父さんにも伝えねぇとな……」


 次の日、刈り取った草を干草にしながら、少年はやり残しを見つける。夏も終わり、既に種まきを終えてしまっていた少年。無責任な事にはしたくないなと思いつつも、ここで来年を待つ気など無い。


 (迷惑掛けちまうけど、どうにかなるか。二人の子供もいるし……、俺が帰って来る頃には、もしかしたら、どっちかがここを継いでるのかな)


 それを確認するのは何年後になるだろうか、これからを想像しながら、叔父への言葉を選んでいく。



 

「それで、出発は明日で良いの?」


「もちろん! 叔父さんはあっさりと了解してくれたし」


 そもそも、元から疎遠だったしな。その事は伝えず、結果だけを言葉にする。


「分かった。なら今日は、最終確認したらこのカバンと剣を持って早めに帰るといい」


 少女の言葉も、端的にお別れを伝えるものだった。

 

「ああ、そうするよ」


「じゃあ、まずは君が最初に行くところ……」


 そこからは、3年間で教えたことの総復習。旅の目的や魔王、カルツァインのこと、簡単な社会の常識など、少年の知恵、その全てがこの会話に詰まっていた。


「それと……言ってなかったけど、その剣、特別製」


「えっ? そうなのか!?」


 少女の言葉に少年は衝撃を受ける。


「……でも確かに。剣は錆びるし劣化するって聞いてたけど、この剣はずっと使えてるしな」


 続けて、完全な相棒となったそれの鞘を撫でながら少年は言う。


「特別なのら、それだけではない。前に言ったこと、覚えてる? それが…………………」

  


 

「本当に色々と、ありがとな」


「うん。こちらからはまだ、それは言えないが、君が約束を果たしてくれることを期待している。……では、全てが終わったら」 

  

「ここまでして貰ったんだ。どうにかしてくるよ。……じゃあな!」


 少年は帰るのではなく、行ってくるかのように、滝を抜ける。その証拠かどうか、滝のすぐ裏には少女が透けていた。


 しかし、光の屈折だろうか? 少女の口元が少し歪んでいる。そう疑問に思うが、真実を知る術など、少年には無い。


……だから、この3年間を信じることにした。

第一章終わり。

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