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剣神と黙示録 ~農村の少年が一柱の神になるまで~  作者: わたあめとは哲学である
約束をした日

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第7話 一年の重み

 少年はとにかく走り出す。終了時刻まで、アバウトに言って3時間ほど。多少の休憩は必要だが、それでも走り続けられるだろう。


 (三体の水人形が持っていたのは、それぞれ剣と槍、そして弓だった。最初の2つは良いぜ? でも最後のは……! くそ、どう対策しよう)


 少年は、1年間みっちり訓練したきた。白兵戦には自信がある。それに相手は自身より弱いと明言されている。ならば、恐れる必要は無い。


 その分、剣で打ち落とす以外にマトモな対策を教わっていない弓矢というのは意識を捉えるものだった。


 (そもそも、弱いつったって、どうなんだ? 技において俺より弱くても、身体能力は? 無理にでも聞いとくべきだっ……)


「わっぁ!!」


 少年の視界の隅には、既に剣と槍の影が。彼の予想は当たったようだ。


 (弓使いはどこだ……? 悠長に振り向いてる余裕ねぇみたいだな)


 両側から挟むようにして、二体の水人形は迫って来る。どうにかして距離を離せないかと、脚に力を入れても、それは変わらない。

 そもそも、少年の動きを全て知る少女が操る人形が相手なのだ。足が速くて追い付けないという落ちになる訳が無かった。


 

「1……2……3……ここ!!」


 間も無く、人形に追い付かれるというところで、少年は急停止。木を背にして、暗い影に身を隠す。こんな森の中で1m近い剣を普段通りに振れる訳が無い。


 それに気づいた少年は、近付いてくる二体を一撃二撃で倒す事にした。


 (速く……! 速く来い!)


 土と葉の上を走り抜けて来る音だけが鳴る。


 何時飛び出すのか、自分が上手く動くためのタイミングを掴む駆け引きなんだ。これは、自分の自信との駆け引きなんだ。


 少年は、上手く自分を落ち着かせるために、そんなことを考えていた。


 

 (今? 今だ! ……うぇっ?!)


 ここぞのタイミングが少年は、回り込むようにして転がる。そして、良い意味で驚いた。槍使いが、ばか正直に構えながら走っているからだ。


 一般的と言える程には木が生えている森の中、唯でさえ不利で、槍の利点を完全に潰してこちらを追いかけているのだ。せめて刃の部分を体に近付けておくことで、急な対応も出来るようにすれば良いものを……、少女が操る槍使いはそれをしていなかった。


「弱すぎんだよっ!!」


 少年は大きく叫びながら、1年で慣れてしまった到底水とは思えない感触を剣先に感じる。


 水人形は、向きを変える事すら間に合わずに息絶える。その瞬間の剣を支えに、だらんと全身から力が抜ける姿は、あまりにも人間らしかった。


「どけぇっ!」


 そんなことを気にしない少年は、前蹴りをすると同時に腰を捻り、上向きに刺した剣を引っこ抜いた。


「……!」


 そして、振り向くと、音は無くとも気迫だけは伝わってくる剣士がすぐ横まで迫っていた。


 既に振り上げられた剣、瞬きを何度かすれば、それは彼に突き刺さっているだろう。もちろん、少年はそれを良しとしない。

 受け止めてからの回し蹴りで隙を作ろうとするが……、その時、少年達から十数メートル離れた林から、サササという葉の音が。


「あ……!」


 少女の言うハンデのお陰で何とか勘づけた。弓使いがすぐ側にいる。剣を凪ぎ払って、飛んでくるであろう矢を落とさなければ、そうして動きを変える少年。しかし、想定外のことが起こる。


「……っ! 重い!」


 技は無くとも身体能力は高い。それを失念していた。想定外に剣と剣が競り合う。その間にも、矢が放たれそうな気配。即座に重心をずらしながら、体に染み付いた動きをなぞる。


「っこらっっせ!!」


 相手からの重さ、お互いに密着し、こちら下という位置関係。後は、根気とパワーによって、少年は背から倒れそうになるほど仰け反りながら地を滑っていた。


 この時、水人形に感情があれば、さぞかし驚いた事だろう。なんせ、普通の剣士同士の競り合いをしてると思ったら、急に弧を描くように僅かながら、自身の体が浮いているのだから。


 戦況の変化は、二人の位置関係が変わっただけでは終わらない。寸前に放たれた少年を仕留めるための矢。だったはずなのに、当たり前のように真っ直ぐ飛んで行く矢は、そのまま、剣士の水人形に刺さる。


「くらえっ!!」


 完全に隙だらけの水人形に少年はトドメを刺す。そして、既に放たれていた二射目を凪ぎ払う。


 (早く行きたいが、ま、仕留めとくか)


 木を壁にしながら、チクチクと射ってくる弓使いに近寄る。


「またな。……さて、行くか」


 とりあえず三体とも殺した。すぐ、追い付かれてしまうだろうが。残り数時間のことも考えて、距離を離しておいて損は無いだろう。再度、少年は走り始める。

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