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剣神と黙示録 ~農村の少年が一柱の神になるまで~  作者: わたあめとは哲学である
約束をした日

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第4話 訓練と才能

「もっと真っ直ぐ、腰曲げない。細かい反復で体に馴染ませる」


「はいっ!」


 水人形による例を見ては真似る。直される。見ては真似る。直される。

 

 こうして、少女による剣術の指導は始まった。


 


「ふぅーはぁふぅー……、腕が、腕が辛い」


 少年は、構えなどの練習も一度終わり、剣術のための筋力をつけるトレーニング(素振り)を行っていた。

 振った回数は数百回、中々の疲労が貯まる頃合いだった。


「本当なら、これを準備運動としてちゃんと練習したかった。でも、しょうがない。最初からケガでもされて、やる気を無くして来なくなったら、どうしようも無い。もちろん、治すのは可能」


 この時、少年が使っていた剣は、先ほど渡された実践用の物で、危険がいっぱい。そのようになったのは、少女の一周回った判断によるものだった。 


 練習の剣とは重さも違うし、これが良いことなのかは今は分からない。


「今日は終わり。腕は疲れても足は動くはず。頑張って帰って」 


「はい、あざした。じゃあまた明日」


 練習中、丁寧な口調になっていたことに、少年は今ごろ気づく。それは無意味な切り替えだと思ったが、口調が変わってから全身の重い感覚が抜けていってる気がして、帰ることへの億劫さも無くなっていた。


「水人形もありがとな」


 最低限の礼は忘れずに、少年は駆け始める。



 次の日。

 少年は昨日と同様に洞窟へと向かった。


「あれ、いない」


 入った直後、いつもと同じ場所に少女が居なかったため、不安でつい声が漏れてしまったが、練習場所は奥であることを思いだし、安堵する。




「今日は、昨日やったこと半分と新しい技、相手の動きに対する決まった返しをやって貰う」


「お願いします!」


「うん、じゃあ始め」


「昨日のだよな……? はい!」

 

 反復と改善、普通ならば基礎をここまで安定して上達させていく事は不可能に近い。必ず、どこかで思考と体の動きに摩擦が生まれる。

 だが、それをさせないのが、少女の助言。少年が一度剣を振る度に、意識から失われるハズの動きを思い出させていく。


「あと15回で下段に変えて」


「ふぅぐ、! はい!」


 少年も辛さの中で、確実に上達を感じていた。それでも、だからこそ、なぜ自分が魔王をどうこうしなければいけないんだ? この少女ならば、きっと剣も巧いだろうし彼女が魔王の誕生を防げば良い。そんな邪念も浮かんでしまった。


「私は此処()から出られない。それに、魔法のような力はあっても、剣を実際に振るう力は無い。だから君がいる。人形に実践させる」


 まるで、思考を読み取られているようだった。いや、実際に魔法か何かで読み取られているのかも知れない。少年は、その事もあって、少女が何者なのか余計に気になった。

 もちろん、それを問いかける余裕を、少女が与えてくれる訳もなく、


「下段」


 その一言に従うしか無かった。


 (そもそも、これは俺の使命であり、少女への礼なんだ。今だけは真面目にやんなきゃな)  


 そう思うことで、少年は無心を保つ事にした。




 がむしゃらに練習をして、数日がたった。 

 

「今日は、君から攻める方法を学んで貰う」


「いよいよ、水人形に斬りかかるってことなのか?」


 少年は、最低限でも覚えた技を使ってみたく、少女の言葉にウズウズしていた。


「それに近い。主には間合い、距離の詰め方をやる。人形から7mくらいに立って」


 逸る心を抑えながら指示通りに動き、習った通りに構える。人形は動かない。


「それじゃあ始める。上手い具合に人形を動かすから、それに合わせて今までの技を叩き込んで、行くよ」


 少女のその言葉に、少年は視線を固定し、水人形は手に持った剣を構える。そして、それだけでは終わらず、左右縦横、剣は上下に動き始める。


 少年は、踊りみたいだと、ほんの少しそれを眺めるが、あることに気付き、集中する。


 (あの体勢、一昨日やった技を掛ける時のだ……!)


 そう、人形は、それぞれの技にある程度想定されている状況。それを流れるように変えながら再現しているのだ。


「とりあえず攻めてみて」


「はい!」


 声を出し、技を出すために一歩踏み出しながら、人形を見る。そこで、技を決定し、繰り出そうとするが……

水人形も待ってくれる訳ではない。あくまでも想定されている動きだが、体勢が変わる。


「ぐぅっ!!」


 技の通りに剣を押し込むが、距離を取った人形の持つ剣がそれを遮る。 


「その角度だと、私がその気なら上から圧して君の体勢を崩し、斬ることも可能。無理ならすぐに下がるべき」


 どう考えても無理なので、競り合う剣をバネのようにして下がる少年。さて、どうしようかと頭を捻るが、根本的に違う攻め方というのは案外思い付かない。


「今回想定されている状況は25種類程度、あくまでも人間という想定の人形だから、ある状況の次の状況というのはかなり絞ることができる」


 言われてみれば確かにと思う少年。改めて、自分の使える技、つまり人形がする可能性のある体勢を考える。


「よしっ」


 動きの繋がりも読めてきた。後は攻めるだけ、少年は足を進めながら剣を上段に構える。


 それに対して人形も、上段からの攻撃を耐えようと動く。しかしそれは、少年の読み通りである。


 直前に最下段で構えていた人形は、無理やり急に上段まで剣を振り上げたため、様々な力がのり、必要以上に剣が上がっていた。


 そこを少年は突く。


「うりゃぁっ!」


 元から流れるように振り上げた剣を、弧を描くように腹辺りまで下げる。そして、再度振り上げる。相手の腹から胸にかけて。


「素晴らしい」

 

 少年は、そんな少女の声と、血とも思えるような、水飛沫を感じながら数歩進む。


 たった今少年が使ったこの技は、基礎的な動きが多い技の中で、唯一と言っても良い、威力の高い技、必殺技とも言える技だった。

 

 その技の能力を、まだ剣を持った二十歳程度の男にも負けるであろう技量の少年が見抜き、一度上段で攻めるという当てる為の一工夫までこなして使うなど、少女に取ってもやや想定外なのだ。



「攻めるって、こういうことで良いんだよな?」


 既に修復が完了している人形を見ながら、少年は元の位置に戻って来る。


「そう、そうやって技と技とを組み合わせて、また技を作る。こうして、相手の予想外を突くためのレパートリーを増やす。それが攻めるというのと。……では、もう一度、また同じように。頑張ってね」 

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