第34話 タイタン戦
「やっぱり、俺らも行くしかねぇよなぁ!!」
少年が予備として持ってきていた短剣を一振抜いた頃に、鋼の鉄鎚と名乗っていたパーティーも参戦してきた。まだ、他の冒険者や騎士団が初期位置にいる中での参戦というのは少年よりは遅いとは言え、蛮勇と呼ばれるものだった。
「ぐがぁっ!!」
こうして、ジャイアントタイタンの左足には少年が、右足には一つの冒険者パーティーが集る事によって戦いは始まった。
(凄い臭いだな……)
ジャイアントタイタンの固い体へと出来る限りのダメージを与えるため、短剣を突き刺しては、跳ね飛ばそうとしてくる腕や脚から逃れていた。
そこで香る、今も動いているのか分からない、爛れた腕の焦げた匂いに面を食らっていた。
「これでラストぉ!!」
ピラミッド状に刺していくこと4回、最後には短剣に蹴りを入れるようにして数十センチ四方の肉塊をえぐり出す。ドボッと、肉が落ちる音は聞こえたが、傷口を見てもあまり出血などは見られない。これだけえぐっても大した血管までは届かないらしい。
「これは長くなりそうだな……」
回避行動だけで精一杯の、右足にいる冒険者パーティーに視線を向けながらこれからの段取りについて考える少年。そこでまた小さな竜巻のような火が現れ、同じ場所を目指すようにして色々な物が飛んでくる。
(ふぅ、大型兵器……さすがだな)
指揮官としてはとりあえず四肢の一つを落としたいらしい。その全ては最初に傷痕が残された右腕へと向いていた。
「ガァァァ!!」
その痛みで怒りの限界に達したのか、ジャイアントタイタンは拳をグーにして足元にいる冒険者へと殴りかかる。
「っわぁあ!」
それは、最初の犠牲者を生んだ。
(あれは……キツいな)
脚と手に潰されるような形、少年が剣を盾にすることで防いでいた事が逆の足にて起きた。
「レノアぁぁ!!」
「リ、リーダー頼むから落ち着けよ!」
そんな感じで何かが狂ってしまった鋼の鉄鎚の三人では、一人殺しただけでは止まらないジャイアントタイタンの狂乱は避けられない。援護か何かをしなければ全滅してしまう。
少年は、中々終わらない攻撃の連続を避けながらも考えてしまった事実に体が動く。
「よっと!」
何かをミスれば自分が潰されてしまう。そんな可能性のためにやっていなかったが、刺さり続ける長剣へジャイアントタイタンの攻撃を誘導する。
「ギィグゥーー!」
そうして、長剣を側面から殴ってしまったジャイアントタイタンは遠吠えをあげるようにして悲鳴を撒き散らす。何十センチも刺さる剣が横に跳ねるというのはさぞかし痛いのだろう。
「一旦下がれ!!」
すぐさま怒るだろうが数秒の時間は稼いだ。その間に鋼の鉄鎚を後ろへと押し出す。
「た、助かった……!」
その安心する顔を見て、安全第一のために主力である剣を盾として使うことの有用性を実感できた。
「じゃあ次は私達かしらねっ!」
無言の内に決められた順番によってか、鋼の鉄鎚の代わりとして今度は別の冒険者パーティーが右足を取り囲む。
最初は順調に戦うその冒険者パーティーも、些細な油断によって先ほどのような危険が冒険者を襲う。そんな危険も少年が攻撃を誘導したり、大きな魔法によって打ち消される。
「助かっあ」
しかし、そんな事が毎回起こるとは限らない。あっさりと一人が同じように死ぬ。
「おっ、やっとか」
そうやって犠牲者をチビチビと出しながらも、足を突き刺してはえぐる事一周。もう何度目かの魔法によってジャイアントタイタンの片腕はブラリとしか動かなくなった。
片足も少年の根気によって引きずるようになっているし、決着は近い。騎士も含めた全員が誉れか報奨のためか、少しずつジリ寄ってくる。
それらの姿を少年は一瞥しながら、あることに気づく。
(フィーリーの奴……逃げやがったのか? ふっ、まあ良いか)
冒険者が代わっていくルーティンに彼女はいなかった。あそこまで死を告げていたのにも関わらず、結局はこの結果だ。少年は少しだけ嬉しくなった。
「フェルトハエリア!!」
そんな事を考えていると、戦闘を最終盤へと持ち込むであろう魔法が顕現する。今度は腕だけではなく上半身全てを包み込むような炎。
戦闘前にミュンジョーは燃やし尽くすと豪語していた。さすがに威勢の通り、数度のそれで倒しきることは無かったが、最も活躍している。
さて、MVPではない自分がどれ程の報酬を望めるのか、それをくれる領主か誰かの太っ腹さを信じるのみだった。
「騎士ども! 最後ぐらいはやっちまうぞー!」
ジャイアントタイタンに戦闘能力はよほど残っていない。あとは、棍棒と体の下敷きにならないようする注意するだけ。そんな状況なので、全員が戦闘に参戦しようと集ってくる。
「これは……抜いとくか」
ずっと自分を守り続けてくれた長剣、戦闘終了によって、それが下敷きになるのは控えたい。筋肉が収縮していて、非常に固いが無理やり抜く。
と、その時に空を見上げた事で目に映る。
(矢……?)
タイタンの頭上へと、矢が突き刺さったように見えた。少年は即座に思考を回して考える。
(タイタンに対しては矢は殆ど効かないから使わないハズだったが……いや、少しでも褒賞金を貰うためか?)
そんな理由を考えるも、そもそもの前提に気づく。
(矢が飛んできたのはタイタンの背の方、誰もいないハズだ! 矢の高度も高すぎる)
少年は、最後の足掻きとして暴れるジャイアントタイタンの攻撃を転がるようにして避ける。そして、矢の角度や高さから簡単に求めた位置へと視線を向ける。
「あれは……!?」
遥か遠くの崖の上に、点のような人影が見えた。すぐさま下がるようにして消えてしまったが、確かにいた。
(何をしに来た? 野良の冒険者か何か?)
わずかな時間で、あり得る可能性をほぼ全て検討してみたが、どれも納得できるものではない。少年はここにして混乱の渦に巻き込まれる。
(でも……)
剣を持つ右手が震える。
疲れか? 恐怖か? 何にせよ、今の自分は戦いには向いていない。周囲の人と逆走する形で、一度自陣の方へ走っていく。
「グルガ? ガァァァー!」
何か、後ろからボコッボコッというような嫌な音がする。それらに構う余裕は少年には無かった。




