第3話 剣
「君には、おおよそ3年後、カルツァインという組織を探すため遥か西まで行ってほしいの。その組織が、魔王誕生のために必要なある物品を持っている。それを破壊するのが君にお願いすること」
少女は、言いきったことを振り返るように頷いた後、続ける。
「君が何もしなければ、カルツァインは今後、10年20年以内に人類に多くの厄災をもたらす魔王をこの世に誕生させてしまう。それは私も君も、殆どの人が望んでいない。だから、それを止めてほしい」
「ずいぶんと大変そうだな」
村と森しか知らない少年は、遥か西というのを想像してみた。それも、この森を手中に納めていそうな少女の言う遥かだ。きっと、自分の知らない距離だろう。
そう考えると、自分には荷が重いとしか思えなかった。
「その大変さを力で和らげるために、長く薄い棒で人を動物を制すための技術、剣を学んで貰うわ」
少年はおよその検討も付けながら聞く。
「そのケンってのは、要するに弓とか罠の仲間だろ? それをお前……? から学べば良いんだよな」
「私が見ながら教示したり、魔法のくくり人形を相手に戦って貰う。時には森の中で訓練することもあるだろうけど」
そうして、二人が見つめ合う時間、沈黙が生まれる。少年は、少女を見る中で綺麗だなと思いつつも、自分は女、それも少女の顔なんて比べるほど見たことなんぞ、元から無かったなと思い返す。
(でも、やっぱ綺麗だ……)
「どうした? 説明は終わり。何も無いなら、早速剣の指導に入るけど」
「あ、ははい!」
不意を突かれた少年は肯定するしかなかった。
「はい、持って」
立ち上がった少女が、何処からか出した剣を少年に手渡す。
「これが、剣?」
少年が急に振り回したりしないことを確認した少女は質問に頷きながら解説を加える。
「鉄でできているのだけど、案外、持てるでしょ。その先端で相手を刺したり、横の刃でなぞるように。って、そこを触ってはだめ、切れるよ」
少年は不思議がって、利き手とは逆の手で刃の部分を触ったが、ギリギリ剣の腹だったので危害が加わる前に、少女の忠告が間に合った。
「私も……迂闊。君が無知であることは事実だけど、それを解決するのは私の役目。剣の構造を先に言うべきだった」
少女の俯くような反省の表情に驚きつつも、それほどまでに切れるのかと、自身の持つ物の殺傷力に自分の人生で見てきた物との異質さを感じ、握る力が強まる少年。
「……それで、これをどう使えば良いんだ?」
「こっちに来て」
少女はそう振り向きながら、少年の、そのさらに奥へ向かって腕を向けて、人差し指クイクイと動かす。それは何らかの合図だったようで後ろの方で何かが動く。
「え……あ、えぇ?」
この時見たものを彼は忘れないだろう。今まで起こった事は、所詮は目に写らない、少年の知覚外の奇跡だったが、今は違う。
少年の視界に見えるのは、滝から塊の水が跳ね、地面に着地しては形を形成していく……
「水人間……?」
「さっき言ったでしょ? 魔法で作ったくくり人形。これが君に例として技を見せ、その技の相手になってくれる」
魔法というのは少年も知っていたし、火種を作る程度だが、村の老人が実際に使ったのも見たことはある。でも、幾らなんでもこれは何だ? 説明は出来ないけど可笑しい。知っているものとは違う。
少年は認識との違いから来る気持ち悪さで硬直していた。
「これが、この世界の普通。いいから行くよ」
そうして少年は歩き出す。少女と完全に人形となった水に挟まれて。
少年は、元から広かった入り口よりもさらに広い、滝の奥の空間を見回しながら少女の声に耳を傾ける。
「君にはとりあえず、剣の基礎を養って貰う。そのために、まずは見て、真似して? 改善点は私が伝える」
そう言われ、視点を水人形に固定する。少年から見て、先ほどまでは目立っていなかったが、片手に彼の持つものと似た水の剣を持っているようだ。
「最初は持ち方から入って立ち方、構え方。人形には同時にやらせるけど、君は順番にね」




