第21話 領都への道
「へぇ、だからあんな状況に」
結果的に二人は、少年と同じ冒険者だった。今回は、冒険者に擬態した盗賊が、商人の護衛についている可能性が高いため、同乗して捕まえて欲しいという依頼を受けたのだとか。
「本来は騎士団が受け持つ仕事なのですが、上位種の相手に忙しいらしく私達に回ってきたのですよ」
「やっぱり、ここら辺じゃ多いんだな」
少年が、西からやや外れて、この領都アウルンスベンへやって来たのもこれが理由だった。
「私達はそっちに回りたかったのだけど、こう指名依頼としてお願いされちゃうとね。断れなくて」
「てことは高ランクってことか、あ」
(ランクが信頼度ってそういう事だったのか……)
「どうしたのよ?」
「いや、何でもない」
少年は一人、冒険者に擬態しているのを暴く指名依頼ということから、ギルドのランク制度について納得していた。
「ではミュンジョーと手伝ってくれた男の方、そろそろ着きますから、騎士団への説明の方、考えておいてくださいね」
「そんなの貴方だけが考えれば良いじゃないと思ったけど、難しそうね」
「外野からだけど、俺もそう思う」
少年としても、説明し難い複雑な状況に困惑しているのだ。
荷車の持ち主である商人は最初に殺されているけれど、御者や盗賊は全員生きている。それに加えて、謎の少年もいる。
アジトにあるという財も合わせれば、全員の処遇を決めるのは中々に大変だろう。
「まあそこら辺は私がどうにかします」
「するのね」
「ええ、ミュンジョーがメンドクサイと言うならば。それで、男の方は何処まで報酬を望みますか? ギルドからの報酬半分? 騎士団からの礼金? 何れにせよ、名誉だけはミュンジョーに取っておいて貰えると嬉しいのですが」
「名誉なんて話しなくて良いわよ。お金なんていっぱいあるんだし、あげれば良いんじゃない? その方が貴方も嬉しいでしょ」
ミュンジョーと呼ばれる女がこちらを向きながら言ってくる。
少年としては村を出てから1ヶ月、稼ぎ方というのを分かってきていたので大量に貰う必要は無かった。事実としても、冒険者として路銀や贅沢費を賄えていたし。
「にーしーろ、俺は2人倒したし、全部のお金を足して、それを五分の一したのを貰えれば十分だ」
「欲が無いのね」
「旅をしてては運ぶのに重いだけだよ」
ずっと使っている理由であり、事実でもあった。
「ふーん、まあ貴方が良いならそれで良いのだけど。とりあえず説明、頑張りましょ?」
少年は女の視線を追って、前を見る。すると、目に入るのは石レンガの壁に、何台かの荷車の列。少年の産まれ育った領、その都だった。
「こちらでーす」
黒服の男が、黄色い旗を振りながら声を張っている。盗賊を抱えているし、優先的に対応して貰うためだろう。すぐに騎士団と思わしき人員がやって来た。
「では男の方、五分の一の金貨13枚です。これで解散となりますが、何も無いですね?」
「ああ、大丈夫だ。ありがとう」
「では、失礼します」
取り調べというのは、意外に早く終わった。そもそもが騎士団の依頼というのもあるが、黒服の男とミュンジョーが、何やら良い身分でもあるらしくそれで信用させていた。
「まあ、もう関係無いか」
歩いていく二人を見て、少年は報酬を貰うために来ていた、ギルドへと入っていく。
「おっ、ツイてる。丁度あるとは」
荒野に現れたタイタン上位種の討伐補助依頼。
差出人は領主及び騎士団。報酬は貢献度によって領主より与えられる(金貨15~)。戦闘に関与しなかったと判断された場合の報酬は無し。高難易度注意。
「実施日は……一週間後か」
これこそ少年が、この都市へ来た理由。その情報は一ヶ月前、リークから教えて貰っていた。
「もし、領を抜けるために身分が欲しいのなら、領都へ行ってみると良い」
それをリークが告げたのは、少年が街を出る日の朝早く、道具の点検をしてる時だった。
「何でだ?」
「僕も人伝に聞いた話なんだけど、領都では最近、上位種の出現頻度が上がっているらしいんだ。それも強力な魔物のね。それと戦ってる騎士団の損害が激しいからって、人員を募集してるんだって」
そこで止めて、リークは伝えるのを少し躊躇う様子を見せた。
「まあ、その人員ってのが言い換えると肉壁みたいな物で、殆どの場合死ぬか逃げるっぽいんだ」
「そんなんで受ける奴がいるのか?」
言いきってから、少年は最初の言葉に思い当たる。
「そう、危険な分、報酬が凄いんだ。貢献度によって選べるらしいんだけど、その一つが、君の求めてる身分なのさ」
「それは……俺とっては凄い魅力的だな。うん、教えてくれてありがとう。西に行くためには必要だろうし、受けれたら受けてみるよ」
「ああ。でも、これを教えたのは君の実力を信頼してのことだからね。本当に危険らしいから、受けるにしてもよく考えて受けてね」
そんなリークの言葉を思い出しながら、周りのより少し大きな依頼書を剥がそうとする。その瞬間、背後から野太い声が聞こえてきた。
「おい坊主! 字が読めねぇのか? そいつぁ危険だ。お前にゃ向いてねぇよ」




