第19話 冒険の始まり
「本当に討伐報酬だけで良いのかい? 少し待てばもっともっと、そりゃたんまりとお金が貰えるんだよ?」
「少しって、売れるの待ってたら1か月は掛かるんだろう? もうすぐ冬だ。それまでにもう少し西へ進んでおきたい」
ギルドで雇って来た男達総員で、魔狼王を運んだ次の日、少年とリークは、報酬について話していた。
「そんなに急がなきゃいけない旅なのか……。なら、仕方ない」
リークは最低限納得した表情を見せる。
「でも、これだけは言っておく。少なくとも君は、僕らの慣習によるならば、50%の報酬を受け取る権利がある。……それ以前に、僕らは何もせずに戦いを見てただけ、君が100%受け取るべきだと思うけどね」
「だから、そんなに受け取っても、金貨の重みで旅が出来なくなる。何処かに置いておく宛も無いしな。受け取ってくれ、金欠なんだろう?」
上位種を討伐したことによる謝礼、金貨30枚。これだけあれば、数ヶ月から一年は旅ができる。素材の売却金が無くとも、少年にとっては十分だった。
「ハハ……そうか。分かったよ。その代わりと言ってはなんだけど、コレ。休息期間中に作ってみた魔法のペンダント」
少年は、渡された物を見てみる。独特な彫りが入った銅色の金属部分の中心に、色んな色の絵の具が溶け合ったような水晶が入っている。
確かにこれは、ペンダントと言われればペンダントだが、何か違うような気がする。やはり魔法の品だからだろうか。
「もしかして、これ留め具か?」
「お、正解! よく分かったね。最初に会った日に、腰袋を買ってたからね。そこなら良いかと思って、昨日の夜、外枠を付けてみたんだ」
少年は、ペンダント留め具を腰にある小さなカバンに付けてみる。少し手間取ったが、見た目は綺麗だった。
「おぉ、良い感じ。しっかり留まってるし、これを作るって凄いな」
「細かい事は昔からやっててね。サイズ調整でちょっと迷ったんだけど……うん、ぴったりみたいで良かったよ!」
そこで少年は、リークが最初に渡してきた時の言葉を思い出す。
「俺の聞き間違いじゃなきゃ、魔法の品って言ってたよな? なんか効果があったりするのか?」
これからも戦い続ける予定の少年。少しでも戦闘に有利な効果があるならば、聞いておかなきゃならない。
「うん。真ん中についてる玉を触りながら、壁よ出ろ。って念じれば、基本四属性を打ち消す魔法を、それぞれ一回ずつ出せるよ」
今のところ魔法を使う魔物にはあったこと無いが、地域によっては多くいるらしいし、少年の最終的な相手は人。嬉しい効果だった。
「そりゃ凄い。効果は頭の片隅にでも覚えておくよ。ありがとう」
「何度も言うけど、素材の代わりだからね。1ヶ月待って買う魔法の品の方が効果高いからね!」
今になっても、確認を取るように押してくるリーク。話が進まないので、ある話題を出すことにした。
「わ、分かってるよ。あと、出発日の事なんだけど」
「そっか、いつ出発するんだい?」
少年は、日程通り進むために決めた事を話す。
「明日の朝の予定だな。だから、今日は早めに寝て長歩きに備えとくよ。悪いけど、ここ借りるぞ?」
「それは良いけど、本当に急だね。昨日会ったばかりなのに、もうお別れか。なんか君が一番冒険者らしいね」
「なったばかりだけどな」
二人の間にちょっとした笑いが起こる。
「でも本当に、リークからは色々教えて貰った。とても感謝してる」
少年は、街を歩き、多くを聞いた一昨日の出来事を思い出しながら言った。
「後輩にモノを教えるのが先輩の役目だからね。役に立てれたなら光栄だよ」
「こんな朝早くから見送りなんかしなくても良いのに」
少年は、わざわざ街の城壁までついてきたジャガン達に向かって言う。
「そんなこと言うなよなー、少年。短い付き合いだったけど、家でお別れなんて寂しいじゃねーか」
「ホントにそうだよー、それに、大金の種だけ置いていくような人を雑には扱えないよ」
「それはそれで、失礼ですよ。ですが、魔狼王の件、ありがとうございました。挙げることは色々ありますが、特に毛皮。あんなに綺麗な毛皮なんて僕、初めて見ました」
今もギルドで飾るように置かれている魔狼の毛皮。一切の傷がないこれは、安くても謝礼の数倍の値がつく見込みだった。
「ホントにそうだぜ。あんな離れ業、この槍じゃあ厳しいけど、俺もしてみたいもんだ」
このままだと討伐当日のように、何件もの店を回ることになりそうだったので、少年はささっと切り上げることにした。
「それじゃ、俺は行く。リーク達のおかげで、冒険者としてこれからもやってけそうだし、こちらも感謝している。また会う機会があればな」
ジャガン達と細かい挨拶を交わして、歩き出す。すると、何歩目かのところでリークが呼び止めてくる。
「……まあ、何て言うか、良き冒険者ライフを。西へ向かって頑張ってね」
「ああ、頑張るよ」
少女の言葉通りなら、魔王が生まれれば、こんなに離れた場所でも被害を受けるらしい。それだけは、なんとしても止めなければ。
自分にとって、社会の先生とも言えるリーク達の顔をチラリと見て、進み始める。




